食欲の秋――食べ歩きツアー&予想バトル!

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月25日〜11月30日

リプレイ公開日:2010年06月22日

●オープニング

●秤が見つかったので
「これは、何?」
 ある日、メイディアのゴーレム工房。テーブルの上に置かれた見慣れぬ物体に、ユリディス・ジルベールはその傍に腰をかけていた門見雨霧(eb4637)へと訊ねる。
 その物体とは丸い台座がついた四角くて薄い箱であり、台座後方にプレートのようなものが何枚か、そして台座前方にも別の種類のプレートがすえつけられていた。
「これ? 地球から落ちてきた道具だよ。こうやって使うんだ」
 雨霧はユリディスを窓の近くへとつれて行き、その窓枠へとその物体を置いて窓を開け放つ。外からは陽精霊の光がさし込み、物体を照らす。すると――
「‥‥あら。突然数字が浮かび上がったわ」
 前面のプレートに浮かび上がったのは『0g』という文字。
「これはソーラー式の秤で、こっちのプレートが光を感知するとそれを動力としてこっちのプレートに数字が出る仕組みなんだ。
「秤という事は、重さが測れるわけ?」
「そう。この台座に乗せるだけでいいんだ」
 ユリディスの疑問に答えるようにして、雨霧は近くの机にあったインク壷を載せてみた。ピッという電子音を発して、数字は『216g』と表示される。
「一瞬で解ってしまうのね、凄いわ」
「ユリディスさん、これを使って少し遊んでみない?」
 悪戯っぽく笑んだ雨霧は、ユリディスを伴ってメイディアの市場へと向かった。そしてその後向かった先は――冒険者ギルドである。


●それじゃあ、食べ歩きでも
「『天高く馬肥ゆる候』とも言いますし、食欲の秋らしく、食べ歩きツアーをしませんか?
 色々なお店の新作や季節限定品は勿論の事、旬の味覚を皆で楽しみましょ〜!」


 冒険者ギルドに張り出された依頼書は、そんな陽気な文句で始まっていた。内容を読んでみるとこれまた楽しそうな内容である。
 特別なメニューを用意した飲食店の屋台の食べ歩き、勿論それがメインである。
 だがそれだけでなく、食べ歩きをしたら自分の飲食した分の「重さ」と「値段」を予想しようというのだ。勿論、同じものを複数食べるのも全種類制覇するのも自由だ。
 予想と実測の誤差が少ない者から上位三名ほどには賞品が出るという。
 ただし、金額の部、総重量の部で誤差が一番大きかった各一名ずつは罰ゲームが課せられるので覚悟も必要だ。
 ちなみに罰ゲームの内容はゲーム開始前に参加者全員の案を集めておき、その中からくじで決定をする。しかしそれがあまりにも無茶な内容や周りに迷惑がかかる内容の罰ゲームだった場合は、その罰ゲームを考案した者自身にその罰ゲームをしてもらう事になるので注意されたし。この場合はくじの引きなおしとなる。

 純粋に勝ちを狙って価格と重量を計算するもよし、味や交流を楽しんで食べ歩くのも良い。
 昼過ぎから夕方までの時間で食べ歩き、終わった後はゴーレムニスト学園の寮に集合だ。普段は部外者は入れないが、現在は丁度利用者がいないということでユリディスが職権を利用して場所を確保したのだという。
 集まった後は予想をしながらどれだけ食べたか、どれが美味しかったかなど和気藹々と話しながら過ごすのも良いだろう。


●提供されるメニュー
(・名前…提供単位)
()内はプレイングの文字数削減のための短縮名称です。
 記述例)スープ×2、サーモン×1、クッキー×3、エール×1…など

・きのこと野菜のスープ(スープ)
 …旬のキノコと野菜たっぷりのあっさりスープカップ1杯
・かぶと鶏肉の香草焼き(香草)
 …焼いた輪切りのかぶで焼いた鶏肉をサンドしたもので1個
・季節の魚と野菜のマリネ(マリネ)
 …から揚げにした魚半身1枚と野菜を酢に漬けたもので1皿
・羊肉の串焼き(串焼き)
 …角切りにした羊肉を4つ、串に刺して焼いたもので1本
・フィッシュサンド(サンド)
 …白身魚のフライを天界人の手作りマヨネーズと共にパンに挟んだもの2切れ
・スモークサーモン(サーモン)
 …薄くスライスされたサーモン8枚
・キノコスパゲティ(スパ)
 …旬のキノコを使用した、クリームソース系のスパゲティ。小皿一皿
・マロンプリン(プリン)
 …栗のペーストを使ったプリン。砂糖の代わりに蜂蜜を使っている。小さなカップ1つ
・オレンジクッキー(クッキー)
 …オレンジの果肉を練りこんだ、甘酸っぱいクッキー。直径3cm程のものが5枚1袋
・グレープジュース(グレープ)
 …新鮮なぶどうを搾ってそののままジュースにしたもの、コップ一杯
・エール(エール)
 …おなじみのエール。ゴブレット一杯
・貴腐ワイン(ワイン)
 …ちょっと高級なワイン。グラス1杯

●今回の参加者

 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec4666 水無月 茜(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec5159 村雨 紫狼(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5196 鷹栖 冴子(40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec7136 ビ・ニュウ(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文

 天高く馬肥ゆる以下略と言うのは、ここアトランティスでも聞かれる事だ。そんな、食べ物の美味しくなるシーズン、門見雨霧(eb4637)に誘われた面々は、冒険者ギルドに集まっていた。
「と言うわけで、 食欲の秋を食べ尽くせ! ダイエットって何? という言葉と共に食べ歩きツアー開催! 皆で楽しく秋を胃で感じましょ〜!」
 主催の門見が、そんな面々に、改めてルールを説明している。ようするに、料理の重さと値段をあてまSHOWと言う奴だ。
「いや〜久しぶりだねぇ門見さん、布津さん!!」
 そう言いながら手を振る鷹栖冴子(ec5196)さん。主催の門見は、テーブルの準備をしつつ、駆け抜ける風に身をゆだねてみたり。
「秋だねー。晩秋だねー。ついつい食べ過ぎて無駄な肉がついたりする季節だねー」
「ついつい食べ過ぎて、ステージ衣装がきつくなっちゃうんですよね。昔よく、スタイリストさんに怒られましたよ〜」
 布津香哉(eb8378)の感慨深げなセリフに、水無月茜(ec4666)も以前の仕事を思い出しながら、そう言っている。昔、地方のTV番組で食べ歩きリポートとかやったっけ‥‥と思い出しながら。
「いや、今だって細いじゃんアンタ‥‥」
「そうですか? 最近ちょっと太ったかなぁと思ったんですけど」
 何しろ平和になって久しい。油断していると、体型維持にも困難になってしまいそうだが、冴子サンが見る限り、茜はまだまだ大丈夫だ。むしろ細いかも‥‥と思う。
「秋はスポーツの秋とも言うし、食べたら動けば良い事さね。ゴーレムのって暴れたら、5kgなんてすぐ消費出来るだろうしね」
 確かに、少し盛大にゴーレムを弄り倒せば、それくらいは減る。あっという間に減る。が、ここでちょっと気にかかる事が1つ。
「でも最近使いませんよ?」
 そう、ゴーレムの出番がない事なのである。世の中平和になって、ゴーレムニストにお呼びが掛からない。
「まあ良いことなんだけどねぇ、ゴーレムの平和利用にゃあたいも実績欲しいとこなんだよ。さてこれからって時に、ゴーレムがらみの依頼がないときたもんだ!」
「我々で、課題を考えなきゃいけないのかもしれませんね〜」
 嘆く冴子さんに、茜はのほほんと答えていた。まぁそんなわけで、ギルドからしばらく足が遠のいていたのだが、知り合いが面白い依頼を出していると聞いてすっとんできたらしい。
「ジルベールの姐さんにも久しぶりに会えるからねぇ、楽しみだよ」
「それはありがたい。食べ過ぎや胃のもたれによく効く薬草も持ってきましたから、今日は楽しんでくださいね」
 奥方とも言える人にも、交流を深めようって腹らしい。そんな腹が具合を悪くしないように、主催の門見は、独特の匂いを放つ薬草を用意してきた。なんとなく見覚えのある匂いは、気合いと根性があればガンも虫歯も治りそうな匂いだ。
「それにしても天界人多いね。しかもゴーレムニストゆかりの人間が多かったりするし」
 布津がそう言って周囲を見回している。あろう事か、報告官まで天界人だ。
「まぁ今日は食べ歩きですし。私なんてゴーレムに全然関係ないですけど、よろしくお願いします」
「ここに来るまでは、私もそんな事、考えた事もなかったさ。お互い様って奴だぁね」
 茜の弁にそう答える冴子さん。しかし、彼女は周囲にいる面々を見て、首をかしげている。
「うーん、私にもロボットに乗れる素質…あるのかなァ? アミューズメントのロボットシュミレーターなら、一回乗ったことありますよ」
「あはは、最近は進化してんだねェ‥‥」
 軽くジェネレーションギャップを覚えつつ、苦笑する冴子さん。そんな光景に、主催の門見が微笑んだ。
「ふふ。平和でよきかな。これなら、第2の計画も滞りなく実行に移せそうだ」
 実は、秋の食べ歩き以外に、裏目的があったりするのだが、それは皆には内緒である。

 シーズン的には火霊祭の時期と言う事もあって、結構な人がいた。秋のお祭を楽しむ余裕が出てきた人々の姿に、茜が嬉しそうに呟く。
「でもこんな依頼って素敵ですよね」
 本当は戦うとか倒すとか、当たり前みたいに相談する依頼は嫌だった。それが必要だと、頭では分かってるつもりでも、やはり嫌な感情がぬぐいきれなかったから。
「今は平和だと思うから。うん、ありがとうございます。門見さん」
「本当は、チュールさんも来て欲しかったんだけどね‥‥」
 ぼそっとそう答える門見。誘ったが、来れない面々も多かった。村雨紫狼(ec5159)が聞いていたゴーレムもその1人? だ。
「アレ借りて、飾り付けてやりたかったなぁ」
 何しろ、今年の聖夜祭で激戦を潜り抜けた『仲間』である。出来れば祭に参加させてあげたいと思うのが、人情と言うもの。
「まぁ。堅い事はナシさ。あたいもジルベール姐さんと一献酌み交わしたいたァ思ってたんだ。野暮たァ思うけど、ちょいと姐さんと離れてもあたいに焼きもち焼くんじゃないよっ!!」
 そんな1人、ユリディスとゆっくり話したい冴子姉さん、一応旦那に話を通そうとしたら、既にその姿が会場になかった。
「門見さん達なら、飾り付けに行きましたけど‥‥」
 なんでも、宴会用に加工した蝋燭をセッティングしに行ったらしい。寄宿舎も飾ろうと言うつもりなのだが、冴子姉さんはほっとかれて不満顔。
「なんだってぇ。ああもう。おやじさんっ。まずはビール…じゃないエールをおくれよ!! あとはつまみになる串焼きに鮭の切り身だね」
「あいよー。ちょっと待ってなー。門見の旦那から頼まれたのが、もうすぐ出来上がるから、持って行ってやってくれ」
 店のおやじさんが、注文通りの品を揃え‥‥ついでに出前まで頼んでいる。それを受け取りつつ、冴子さんはちょちょっと懐かしそうにこう言った。
「あ〜枝豆とかほっけ焼きとか、キムチも欲しいさねぇ。地元の居酒屋が恋しいよ」
 和モノが恋しいお年頃のようである。

 さて、ひと通り偵察も終わったところで、本題に入る事になった。
「門見先輩主催! 目方でドン!! 秋の味覚でゴチになりますスペシャ〜ルァッ!!!」
 どどんっと、手元の太鼓を鳴らす村雨。まるでどこぞの深夜番組のノリである。しかも、参加者はその手のネタには一応の知識があるだろう日本人ばかりだ。
「いやー、飲食費が依頼人持ちとは心置きなく食べてしまうじゃないか。さって、何食べよ?」
「えーと…食べるのはプリンとプリンとプリンとプリンと、あとプリンですね♪」
 物色を始める布津。既に茜は食べる物を決めていたらしく、並んだプディングを、山と持って来ている。その細い体のどこに入るのかは知らないが、他の人が食事に突っ込む分が、全てプリンに消えている。
「おぉっと、ここでプリン魔人が現れたぞぉ!」
「甘いものって素敵ですよね!! あとはクッキーとジュースぐらいかなァ?」
 村雨の実況に、にこっと笑顔で答える茜。左手には焼きたてクッキーと、絞りたてジュースが盆に乗っている。いわゆるスィーツ好きの女子そのまんまの姿に、彼女は不思議そうに首をかしげた。
「えー。だって、お肉とかはあんまり食べられないので、どうしても甘いものばっかりになっちゃうんですよう」
 お肉はもたれるから量が食えない女子と言うのは多い。が、同じ女性でも、冴子さんはのんびりとイカの干したモンをツマミながら、ぼそりと言った。
「辛いモンが恋しい」
「じゃあ頼んでみましょうか? 私のお友達にも、すっごくお菓子作りが上手な子がいるんですよ。たまにお菓子の試食させてくれるんだけど、ダイエットが大変ですー」
 きっと、ジンジャークッキーとか作ってくれますよ? と言い出す茜に、彼女は首を横に振っていた。
「そんなに甘いもんばっかじゃ、頭が痛くなるよな。さて、こっちは何にしようかな。思っていた以上に難しいかもしれん」
 一方、言いだしっぺの門見も、目方当てにチャレンジしているが、全く持って自信がなさそうだ。一応、香草にサンド、スパゲティにプリン。ワイン3杯と、ひと通り持ってきており、それぞれだいたいの金額を規定の場所に描いていた。内訳は、以下の通りである。

・香草 0.03G 211g
・サンド 0.05G 187g
・スパ 0.05G 243g
・プリン 0.10G 89g 
・ワイン 0.10G 120g 

 しめて金額0.53G。重量1090g。それを見て、茜もプリンの重さを書き込む。
「とりあえず50Cで300gぐらいでいきます」
 胸焼けしそうなプリンの量だが、彼女に取っては何も問題ない量らしい。
「俺はこれくらいにしておこう。プリンは1個で良いや」
 もっとも、プリンが外せないのは、布津も同じだったらしい。都合4品を書いていた。それには、こう値段と重さが振られている。

・スープ 0.02G 300g
・串焼き 0.09G 450g
・スパ 0.08G 300g 
・プリン 1.5G 100g

 総額は1.69G、総重量1150gと言ったところだ。とりあえずこの4品で頑張ってみようと思ったらしく、あとはまぐまぐと胃の中へ消えていく。
 ところが。
「2人とも、量少ないっすよ。やっぱり全メニュー制覇しないと! なぁ?」
 そう言って、両脇に、二体の『嫁』を抱え込んだ村雨。彼のテーブルには、他の面々の倍以上の品数が並んでいた。いや、特に規定がなかったので、精霊の分も持ってきたらしく、『嫁』達もきゃっきゃと美味しそうに料理をつついている。
「うんうん。やっぱり可愛い嫁と一緒に飲む酒は最高だな。ゴチになります、門見先輩〜〜!」
 満足そうにそう言いながら、酒を飲む村雨。どうやら、全メニュー制覇をやらかしているらしく。それに香草焼きとプリンを追加して、しめて1.18Gの1600gってのが、彼の予想。内訳は以下の通り。

・スープ 0.02G 150g 
・香草焼き 0.3G 300g
・マリネ 0.05G 200g
・串焼き 0.03G 150g
・サンド 0.03G 200g
・サーモン 0.05G 140g
・スパ 0.04G 150g 
・プリン 0.02G 20g
・クッキー 0.01G 50g
・グレープ 0.03G 80g
・エール 0.1G 80g 
・ワイン 0.5G 80g

「やっぱ、俺の可愛いマイ嫁ズと一緒に食べ歩くのは良いよねェ」
 精霊は本来物を食わなくても平気らしいのだが、やっぱ一緒に喰った方がうめーじゃん♪ と村雨の弁。それは妖精達も同じ様で、時折『あーん』とかやっている。
「やっぱり欠食児童がいると、飯ががしがし減るねェ。ああ、日本酒が恋しい‥‥。北の酒が飲みたい」
 そんな気持ちのいい食べっぷりを肴に、エールを傾ける冴子さん。報告官さんも和酒党だったらしく、やたら大きく頷いている。
「って、全然目盛ってないじゃないですか」
「ああそうそう、ゲームだったね。だいたい飲み食いしても2Gもいかないだろ。量だってざっと1kgもあるってこってね」
 冴子さん、サーモンや香草焼き等をチョイスしていた。エールに合うモンが大半だが、妙に偏っているので、茜さん心配そうに「いいのかなぁ」呟いていた。
「いいんだよぉ、細かいこたァ気にしなさんなって!! あたしゃ下町、神田の生まれだよ!」
 豪快に笑う冴子さん。ばしばしと背中を叩いて、すっかり酔っ払いである。

 ひと通り食べ終わった彼らに待ち受けていたのは、ドキドキの罰ゲーム決定戦だった。
「さーて。それじゃあ罰ゲームのくじ引きをしてもらいましょうか」
 冒険者以外のゲスト、つまりは自分の婚約者に、そう言ってくじ引きをお願いする門見。まさか自分達が落ちるとは思っていない村雨が用意したのは、男の子にはちょっと遠慮したい丈の短いアレだった。
「ふふ、こんな事あろうかと、コスプレセットを用意しておいた! 何で自前で持っているかは、ツッコミ無用に願います!」
 そう言って、村雨の持ってきたのは、メイド服にチョーカー、チャイナ服に羽扇子の宴会芸御用達コスプレセットだ。
「何故持っているんだい」
「もちろん俺の可愛いマイ嫁ズに着せようとして、サイズが合わなかっただけだ!」
 明後日の方向に咆哮する村雨。見えない顔にはきっと滝涙が浮かんでいる事だろう。よく見れば、地球の某有名ディスカウントショップのタグに、サイズ『LL』と描いてあった。
「よし、じゃあ負けた奴は、これ来て繁華街で買い物な」
 悪乗りした布津が、化粧品を持ってくる。酒場の踊り子さんから借りたものなので、もっそい派手だった。
「女はどうすんだよ」
「ふりひらとか着ぐるみとかだな。普段しない格好で」
 即答する布津。これまた芸人的な職業以外の女性には、ちょっとご遠慮したい衣装が並んでいた。平たく言うと振りひらと男装と着ぐるみである。
「じゃ、それ来て皆の前で酒の一気のみも付けておこうか。苦手な人には、炭酸水の一気のみで良いさね」
 ニヤリと笑った冴子がカップを置いた。と、茜も何か言いたい事があるようで、おててをあげる。
「はいはーい。カラオケで一曲歌うのどうかな。日本の方ばかりですから、持ち歌くらいありますよね?」
 機械はないし、下手でもいいから歌わせようと言う魂胆らしい。いや、自分が歌いたいだけなのかもしれない。
「無難に食器洗いでいいと思うんがな。さて、正解は‥‥えい」
 ぺり、と門見が予め用意していたらしい答え合わせの表を立てかけた。どうやら、布津が真っ先に落ちた模様。
「うわぁぁん、世の中なんてだいっ嫌いだぁぁぁ!!」
 潔く玩具にはなっているが、鏡に映されて、羞恥心に耐え切れず、泣きながら失踪したのは、その直後だ。
「それにほら、細かい事は気にしない、でいいんですよね? 鷹栖さん」
「あ、ああ。そうだね‥‥。この年で振りひら着せられても、気にしないほうがいいんだよね‥‥」
 だが、その下町の心意気を教えた冴子さん、やっぱり外しちゃったらしく、LLサイズのふりひらメイド服を着せられて、顔を引きつらせているのだった。
 村雨と茜には指輪などが贈られたが、素敵なアイテムだったかどうかはかなり謎めいていた。

(代筆:姫野里美)