羽ばたけ!キューピッド
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月20日〜06月25日
リプレイ公開日:2007年06月25日
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●オープニング
●取引
「‥‥おい、そこの‥‥飛んでるの」
「ちょーっとまて、シリウス。私には『チュール』って名前があるの!」
「お前に頼みがあるんだが‥‥」
「人の話、聞いてる?」
街中で交わされる金髪の男性と碧の羽のシフールの会話。噛み合っているんだかいないんだか。
「ああ。‥‥お嬢の話し相手になって欲しいんだ」
「な、何で私が、ぎゅーって捕まえられて閉じ込められた相手の話し相手にならないといけないのよ!
「正直、お前くらいしか頼めそうな女を思いつかなかった。ここのところ‥‥なんだかいつも以上にお嬢の感情の起伏が激しくてな。怒るだけならいつもの事だからいいのだが‥‥何かに悩むように沈み込んでいる事が多い」
「あんたさー、ルルディアのことよりレーシアのことを考えたらどうよ? ルルディアを納得させて屋敷を出る方法を考えるって約束したんでしょ?」
先日レーシアと別れる際に交わした約束を持ち出され、シリウスは押し黙る。
「‥‥お嬢の機嫌のいい時に話を切り出そうと思ったんだが‥‥なかなかに難しくてな」
「むー。じゃあ、冒険者と一緒にならルルディアの話し相手になってもいいよ。いくら私でも、酷い目に合わされた相手のところに一人で行く気なんてしないもん。それにあのお嬢、冒険者好きでしょ?」
「ああ‥‥気分転換に、貴族相手ともまた違う茶会でも開くことを提案してみるのもいいかもしれ――」
「ただし、あんたに条件を飲んでもらいたい!」
言葉を遮って鼻先に突きつけられた小さな指。チュールは片手を腰に、片手でシリウスを指差した。
「あたしたちがルルディアの相手をしている間、あんたはレーシアとデートしな」
●心当たり
「ところでさ、ルルディアが沈んでいる理由に心当たり、ないの?」
「ない」
即答。
「‥‥。じゃあさ、どんな些細な事でもいいから『変だな〜』って思うことは?」
「‥‥変‥‥。ああ、前から気になっていたことはあるが」
「何さ?」
どうせシリウスのことだから、とチュールはあまり期待せずに問い返した。
「お嬢の元には様々な貴族や商人から贈り物が届く。だが‥‥なぜかお嬢はいつも、ハリオット伯爵家の次男からの贈り物だけ、送り返したり癇癪を起こして床に叩きつけたりしている。‥‥他はどんなに裏で贈り主を嫌っていても、一応受け取りはするというのに」
「ああ、誕生日パーティでルルディアのハートを奪おうとした馬鹿貴族だっけ? まさかとは思うんだけどさ、その贈り物が届いた時のルルディアってどんな表情してる?」
「む‥‥そうだな、怒りながらも何処か悲しそうな、寂しそうな様子に見えることもある」
顎に手を当てて考え込んだシリウス。その答えを聞いたチュールは、じとーっと彼を見つめた。
「あんた、それを毎回側で見てて気づかないの? 鈍っ!! 本人が自覚しているかはともかく、ルルディアはきっとそのマルバスが好きなんだよ!!」
ルルディアがそいつとくっつけば、あんたもお役御免になるんじゃない? と一人でキャーキャー盛り上がるチュールに、シリウスは冷静にぼそりと突っ込みを入れた。
「‥‥‥『マルバス』ではなく『マルダス』だ‥‥」
●気ままなお嬢
「そうね、いい考えかもしれないわね。貴族や商人の相手をするだけのパーティには疲れたわ。冒険者なら気楽に話できそうだし。久々に庭でのお茶会にしましょう」
「しかしお嬢様、お庭ですと以前のように外からお命を狙われることがっ‥‥!」
ルルディアの決定に慌てる執事。彼女は以前庭でのティータイム中に塀の外から矢を射掛けられたことがあった。
「冒険者が来るのでしょう? だったら話し相手だけでなく、護衛も頼めばいい話よ」
チュールの依頼により集められた冒険者達は、ルルディア邸へ到着してから彼女からの厄介な要求も呑まされることになるのだった。
●依頼内容纏め
<チュールからの依頼>
・自分の護衛(またぎゅーって捕まったり、逃げ出した事を責められた時の為)
・ルルディアに恋心を自覚させる!
・シリウスがいるとルルディアも話し辛いだろうから、彼を遠ざけるための口実を作る
・シリウスはその間レーシアとデートをしてもらいたい!
<ルルディアからの依頼>
・自分の話し相手(私を退屈させないで頂戴。性別は問いませんわ)
・自分の護衛(以前塀の隙間か塀付近の茂み辺りから、矢を射掛けられて狙われた事があるため)
●リプレイ本文
●お嬢様のご機嫌
ガーデンパーティはつづがなく開始された。
手土産にとルシール・アッシュモア(eb9356)が用意した籠いっぱいのレッドベリーと導蛍石(eb9949)の用意した日本酒・どぶろくにいたく感激したルルディアは、チュールを含めた冒険者たちを快く庭へと案内した。
以前むぎゅっと捕まえられた件もあってチュールは怯えたように、同じシフールであるクリスタル・ヤヴァ(ea0017)の後ろに隠れていたが、どうやらルルディアの方はチュールのことなど眼中にないようであった。土産物に気分を良くしたのか、彼女にとってチュールのことなど瑣末なことなのか、それ以上に物思いが重症なのかは解らないが。
「一応あなた達の為に用意いたしましたのよ」
庭に持ち出されたテーブルの上には、高級品の砂糖を使用したお菓子が何種類も並んでいた。中でも干した木の実や果物を中に入れたケーキは良い匂いを放っている。お茶の準備も万端のようで、ティーセットもしっかりと準備されていた。
「あら、シリウスはどこへ行ったのかしら?」
辺りを見回すルルディアの言葉に答えたのは、高級品のお菓子に目を奪われていたフィーノ・ホークアイ(ec1370)だ。
「目に見える範囲ならば魔法と眼で何とかなるのでな、奴には外を見回ってもらうことにした」
思い切り建前であるが、この面子で十分な警戒が出来る事は間違いない。ルルディアは「そう」と頷いて席に着いた。
「俺は護衛に専念させてもらう。自由に歩かせてもらうがいいか?」
「あ、私もお茶会の前にちょっと罠を設置してきてもいい?」
護衛に専念するケヴィン・グレイヴ(ea8773)と以前襲撃された事を考えて塀付近に軽い罠の設置を申し出るフォーレ・ネーヴ(eb2093)。ルルディアは2人の申し出を快く承諾し、給仕を申し出た蛍石の入れたハーブティを口に含んだ。
「あら‥‥美味しいじゃない」
ルルディアは味に満足したらしい。蛍石はほっとして他のメンバーの分もカップに注ぐ。
ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)は同じ弓使いという面からケヴィンと狙撃ポイントの想定を済ませた後、遠慮がちにルルディアに申し出る。その手には愛らしい子犬が抱かれていた。
「この広いお庭でこの子を遊ばせてもよろしいでしょうか? 勿論周辺警戒はさせますが、まだまだ遊びたい盛りですので‥‥」
彼女の申し出にルルディアは子犬、エリヴィレイト見やる。ふ、とその表情が一瞬優しくなった。
「可愛いわね。構わないわ」
広い庭に放たれた子犬は元気に走り回る。その様子を見守るルルディアの横顔は、少し曇って見えた。やはり何か悩んでいるのだろうか。
「(貴族のご令嬢とお茶会なんていう経験はほとんどないので、あまり自信がないのですよね‥‥恋に悩む乙女の歌でも披露できれば、少しはお嬢様も考えて下さるでしょうか?)」
「さーて、歌でも歌おうかな〜?」
どうしたものかと悩むアルシア・セルナート(ec3124)。その時手始めに甘いお菓子を頬張り、茶を一杯飲み終えたクリスタルが恋の歌を披露すると言い出した。アルシアはそれにあわせて演奏を始める。
「ルルディアちゃんのパパりんは人事系のお仕事をやっているんだってねー?」
「『ちゃん』‥‥『パパりん』‥‥」
お菓子をつまみつつ事前にシリウスから聞き込んだ情報を話題とするルシール。その口から漏れた単語に一同は一瞬固まり、思わずルルディアの顔色を伺う。
「まぁ、その中でもたいして重要な仕事を任されている訳ではないわ。それなのに皆私に色々贈ってくるのよ」
セーフ。
気づかなかったのか気にならなかったのかはわからないが、ルルディアは軽く溜息をついて答えてくれた。
「きっとお父様の地位だけが理由ではないでしょう。ルルディア様はお美しいですから、きっと毎日のように熱心にアプローチして来る方もいらっしゃるのではありませんか?」
投げた棒切れを子犬が取ってくるのを待ちながら、さり気なくジャクリーンが尋ねる。クリスタルの歌とアルシアの演奏が良いバックミュージックとなり、場を包む。
「あんなもの‥‥! 自分の力で手に入れた物でもないのに自信満々にっ‥‥いつも他人の手を借りてしか行動できない男っ‥‥。私が、他の女みたいに物で靡くと思っていて‥‥!」
ルルディアの表情は曇りを通り越して、悲しみを含んだ怒りが濃くなる。本人は気がついているのだろうか、その言葉が『特定の人物』を指しているように聞こえることを。ルルディアの指先で焼き菓子がぱきりと砕け散った。
「‥‥ぬるいの。あたるなら物でなく本人であろに」
「だからお嬢はマルバスが好‥‥むぐ」
やれやれ、とフィーノが呟く。チュールがずばっと核心を突こうとした(しかも相変わらず名前を間違えて覚えている)のを、歌い終えたクリスタルがその口に焼き菓子を押し込むことで阻止する。
グッジョブ。核心を突くにはまだ早い。
「ルルディアちゃんはシリウス君が羨ましいんだね。自分以外の人が持ってるものが、自分には手に入らないと思い込んでる」
「人の心は複雑です‥‥だからこそ、言葉に出さなければ伝わらないこともあると思いますよ」
「っ‥‥」
否定されることは承知の上のルシールの言葉を優しくアルシアがフォローする。
その言葉にルルディアはいつもの毒舌を発揮することが出来ず、言葉に詰まって視線を伏せてしまった。
「あ、そだ。『とらんぷ』ってある? 私少しだけど占いが出来るんだ。知り合いに教わったんだけど、これが結構あたるんだよ♪」
占いが出来るなんて嘘。少しでもきっかけになればと思ってフォーレの考えた策。執事により差し出されたトランプをそれらしく操り、フォーレは占っているふりをする。その姿をルルディアは不安げに見つめていた。傍から見れば恋占いをしてもらっている乙女そのものだ。
「んー‥‥。何か言いたいことがある相手がいるね? その相手には、はっきりと自分の口から伝えた方が道が開けるみたいだね。どうやら、悪い結果が待っているって事はないみたい。少し戸惑う事もあるだろうけど‥‥」
「え‥‥」
「皆、ルルディアとチュールを屋内へ避難させるのだ!」
占いの結果に嬉しそうにルルディアが顔を上げた時、フィーノのブレスセンサーに怪しげな動きを見せる者が引っかかった。
●刺客vs銀狼
隠密行動の得意なケヴィンはお茶会会場である庭付近だけでなく、屋敷の外周全体を警戒して歩いていた。正直、他人の恋愛には興味はない。その辺りは話が得意な者に任せるのが一番問題がない。自分の仕事は初めから警備のみだと決めていた。
ブレスセンサーとバイブレーションセンサーのスクロールを駆使して怪しげな者がいないか確かめる。地道な作業だが、早期に発見するためにはその努力を怠るわけにはいかない。
「(‥‥ん、会場へ近づく者がいるな)」
と、センサーに塀の辺りから会場付近へと移動をしている者の気配がかかった。ルルディアの意向により私兵は現在お茶会会場へは近づかぬことになっているはず。だとしたら――?
相手に気づかれないよう、ゆっくりと対象の元へ近づく。草陰から確認できた男は三人。うち弓を持っているのが2人、剣を帯びているのが一人。塀付近の茂みの影から会場方向を窺っている。
弓を持った男のうち一人が会場に向かって動いた。ケヴィンはプラントコントロールのスクロールを開いてその男の拘束を考えたが、男はぎりぎり射程外に出てしまっていた。臨機応変にもう一人の弓使いに対象を変更する。弓の射程は長い。剣持ちの男は彼に気がついても、近づいてくるのに時間が掛かるだろうからだ。会場に向かった男の対処はこの際仲間に任せる。
「わぁ!?」
突然茂みから蔦や枝が伸び、それが絡み付いてきたとあれば誰だって驚くだろう。剣持ちの男は仲間を拘束する植物を必死に剣で切ろうとしている。ケヴィンは勿論その隙を逃すことなどしない。素早く男達の脚を射抜いて動きを鈍らせ、生け捕りにするべく動いた。
「誰の指示で動いている? 苦しい思いをしたくなければ洗いざらい吐け」
その鋭い瞳と俊敏な動きはまるで狼のようで。
「毒を飲もうとしても無駄だ。解毒剤を持っているからな。喋らない様ならば拷問に掛けてでも聞き出す」
その厳しさも、狼のようだった。
●お嬢様のセンス
フィーノの警告を受けた一同の動きは素早かった。事前に屋敷内への誘導経路を把握しておいたことが功を奏した。クリスタルとフォーレ、ルシールがルルディアとチュールを屋敷内へ避難させ、アルシアは身を盾にしてでも、と避難班の殿を勤める。フィーノが高速詠唱トルネードで狙撃者を巻き上げて落下させたところにジャクリーンが駆け寄り、ダガーofリターンを男の首筋に当ててその動きを封じた。
「動かない方が身の為かと思いますわ」
「どうやらカオスの魔物はいないようですね」
念のためにデティクトアンデットで周囲を探索した蛍石が安心したように告げる。
「残りの一人も捕えたようだな」
そこへ戻ってきたのはケヴィン。彼はロープで拘束した男2人を引きずるようにして庭へ戻ってきた。
「どうやらこいつらは、依頼人の父親の仕事関連で恨みを持つ者に雇われたらしい。後の処分は任せる」
「あなた、一人でこの二人を捕えましたの?」
安全が確認されたということで屋敷から姿を現したルルディアは、ケヴィンの仕事に感激したように目を丸くした。
「ああ。それが俺の今回の仕事だ」
「素晴らしいですわ! 確かケヴィンといいましたね。貴方にもシリウスと同じように私から二つ名を授けますわ!」
「‥‥‥」
「そうですわね‥‥『銀狼のケヴィン』でどうかしら?」
自信満々、反論を許さぬが如くに告げるルルディアに、ケヴィンはどうしたものかと思案に落ちた。
●羽ばたけ! キューピッド
そしてお茶会は再開された。
フィーノの語る「おるごーる」の話、蛍石の天界での冒険譚に変態退治の話。片隅で開かれるシフール同士の悩み相談会。歌や演奏で楽しく過ぎていく時間。気がつけば夕刻。
シリウスがきちんと予定の時刻に戻って来ているのを確認して、パーティはお開きとなった。
「そうだ、ルルディア」
帰り際、フィーノがルルディアに声をかけた。
「話を蒸し返すようだが‥‥人間ナマで顔を付き合わせた方が色々伝わる物も多かろうて。ほれ、眼を閉じて想像してみぃ。こう、目の前に立って、じっくり顔を見て、溜めて溜めて頬をパーンと」
「パーン‥‥と」
ルルディアは素直に目を閉じる。そしてくすり、と可愛らしく笑みを洩らして瞳を開けた。
「好きな人が気づいてくれなかったら、こっちから行動起こすくらいじゃなきゃ伝わらないんだからね! 特に鈍い男にはね!」
チュールがはっきりきっぱり言う。最後の言葉はちらりとシリウスを見て言った。
「私は‥‥マルダスが好きなのかもしれないわね」
ぽつりと呟かれた言葉。
これまで認めたくても認められなかった彼女の本音。
恋する乙女に羽化しつつある少女。
今後彼女の恋がどんな方向に進むかは――今はまだ、誰にもわからない。