Break Crisis
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月27日〜07月01日
リプレイ公開日:2007年06月29日
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●オープニング
●始まりは
それはよくある出来事だと最初は思われていた。
「おままごとなんてつまんない! もう一緒に遊ばない!」
「え、なんでっ‥‥」
「面白くなくなったんだもん!」
それまで仲良くにこにこ遊んでいた子供達が急に仲違い。気まぐれな子供なら良くある事だろうと。
「‥‥不愉快になったわ」
「え?」
「あなたと一緒にいると、楽しくないの」
それまで仲良く語り合っていた彼女が急に席を立つ。男には自分が彼女の気に触るようなことを言った記憶は全くない。何が彼女の気に触ったのか、わからない。
まぁ喧嘩の1つや2つ、良くある事だろうと村人達は笑って見ていた。だがそうも言ってはいられなくなったのである。
新婚夫婦が――、村一番のおしどり夫婦が――、井戸端会議をしていた主婦達が――、最終的に村の殆どの人々が些細な事で喧嘩を始めてしまったのだ。
喧嘩の口火を切った人々が最初に感じた『不愉快な気持ち』とやらは暫くしたら嘘のように消えてしまったというのだが、人の心とは複雑なもので。すぐ「ごめんなさい」と言えればいいのだが、そう言える人の方が少数だったりする。
時間が経てば経つほど謝り難くなり、気まずい雰囲気のみが続く。
そのうち他にも仲良く話している人達がどんどん仲違いして行き、村の雰囲気は悪くなる一方。
さぁどうしようと思い悩んだ村長。ふと、気になることを耳にして。
不愉快になって喧嘩を始めた村人達をこっそり覗き見て、楽しそうに去っていく者たちを見かけたとか見かけないとか。
その大きさは子供程度、頭に角が生えて見えたとか。
これはもしかしてモンスターの仕業ではないか、と焦った村長。通りかかった商人の馬車に乗せてもらい、逃げるようにメイディアの冒険者ギルドへ。え? 何から逃げたって?
喧嘩して、怒り狂っている奥さんから‥‥。
●情報
以上の話から予測されるのは、敵モンスターは「人を不愉快にする能力を持っている」という事。
特にその村に現れるモンスター達は仲良くしている人達を狙い、その人が不愉快になって喧嘩をするのを見て、楽しんでいるという事。
見て楽しんだ後は、そそくさと逃げ出してしまう事。
このままでは、その「小さな不快感」をきっかけとして、村中大喧嘩に発展してしまうかもしれないという事――。
村長不在の間に、村中の人間関係はどう変わってしまっているだろうか…。
●リプレイ本文
●こじれた村
村に到着した一行は、そこがまるで廃村であるかのような錯覚を覚えた。いや、建物が壊れていたり放置され続けた様子というわけではなく、村全体を覆う雰囲気が、である。
普段はきっと和気藹々と村人達が助け合って暮らしている平和な村なのだろう。だが今は昼間だというのに皆家に閉じこもり、小さな広場にも人影は見えない。家の中から家族の仲の良い話し声が聞こえてくるというわけでもない。
きっかけは――些細な事だったのだろう。だがそれが積もり積もって村の雰囲気を重苦しいものにしている。
「仲の良い人達を仲違いさせてケンカさせちゃうなんて絶対ダメなんだよ。みんな元の仲良しになれるよう頑張らなくちゃね」
すれ違ったままじゃ寂しいもん、とレフェツィア・セヴェナ(ea0356)が言うと
「さてさて、大変なことになってますね〜。なにやら天界でいうところの悪魔というモンスターのような印象を受けたのです」
とベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が返した。彼女と同じように感じていたのはルイス・マリスカル(ea3063)。彼は念の為に『石の中の蝶』を用意してきていた。
「敵は『カオスの魔物』とやらですかねぇ? どうもデビルっぽいのですが、さてさて」
カオスの魔物に『石の中の蝶』が反応するのかはわからないが、デビルには反応する。‥‥役に立ってほしいような欲しくないような。相手がカオスの魔物やデビルでないに越した事はないのだ。
「些細な理由こそ、後の禍根となりやすいもの‥‥ましてや、それが意図的に起こされているものならば、看過する訳にはいかないな」
「人の心を弄ぶモンスター…。ああ、放っておくわけにはいかないかな」
ゼタル・マグスレード(ea1798)と龍堂光太(eb4257)は意見が合ったな、と頷き合う。
「さーて、じゃあその悪い奴らを退治に行こうか!」
明るく音頭を取るフォーレ・ネーヴ(eb2093)に同意し、一行は『偶然村を訪れた冒険者』を装って村へと入った。
「‥‥‥おかえりなさい」
「あ、ああ‥‥」
村には宿屋がないという建前を利用して村長の家に案内された一行。怒り狂っていたという奥さんはどうなっている事やらと思ったが、どうやら暫く村長と離れていた事でクールダウンしたようで。でもどこかぎこちなさは残っている。村長が事情を話したが奥さんは「そう」とだけ言って奥の部屋へと引っ込んでしまった。
「‥‥本当に人の心とは、難しいものですね」
「いやはやお恥ずかしい‥‥。私も別の部屋におりますので後はお任せしてもよろしいですか?」
この分だと村中殆どがこの調子なのだろう。苦笑するルイスに村長は尋ねた。敵を誘い込む為に玄関を入ってすぐの広めの部屋を借りることになっている。
「ゼタルにーちゃん、この辺りにお願いできるかな?」
「ああ」
フォーレに示され、囮役の三人を家の中に残してゼタルは敵の逃走経路になりそうな場所にライトニングトラップを仕掛ける。これで後は囮のいる部屋の中と出入り口を確認しやすい場所で、敵が現れるのを待つだけだ。
「それじゃ、囮お願いするね。コアギュレイトを使って一辺に捕縛するつもりだけど、失敗しちゃったら協力よろしく」
レフェツィアの言葉に室内に残ったルイス、光太、ベアトリーセが任せてとばかりに頷いた。
さてと、敵は一体‥‥?
●おびき出し作戦
そして幕は上がった。
ルイスは室内の椅子に腰掛け、光太、ベアトリーセと共に冒険談義を開始する。ナックルを装備した手は上手く隠しているため、他の人からは無手に見えるだろう。
三人の役柄はルイス>光太>ベアトリーセの順で冒険者の先輩と後輩。演技という事で多少口調を変えていたりする。
「僕のいた世界はこことももう一つの世界ともかなり違うんだ。武器を持って戦うなんて戦争をしている一部の国での遠い出来事という感じだし、服装もかなり違うしね」
「私にとってはこの格好が日常で、侵略を受けているメイの国の鎧騎士としては戦うのが当たり前ですからね、光太さんの話がとても不思議に聞こえるのです。それはそうと」
光太の言葉でベアトリーセが一番反応したのは「服装」。アクセサリーや身だしなみに興味のある彼女には、演技ではなく素で興味のある話題だ。
「このピアスとチョーカー、似合いますか?」
耳に嵌めた銀製のピアスと首につけたレースのチョーカーを嬉しそうに見せるベアトリーセ。アクセサリの話でふと思い出したのだろう、ルイスはバックパックを探っていくつかの装飾品を取り出した。
「装飾品なら、私はこんなものを持っていますね。でもベアトリーセさんの持っている腕時計は天界のもので珍しいものでしょう?」
「そうですね、これは光太さんの世界のものだと聞いています。天界といえば‥‥!」
普通に装飾品談義になりそうだったところをルイスのフォローで上手く予定の演技へと戻すベアトリーセ。
「メイの保存食はいまいち私の口に合いません。私の肥えた舌は天界の固形保存食や缶詰しか合いません!」
我侭な後輩冒険者を装うために保存食の入った袋を床に投げつけるベアトリーセ。ルイスは先輩冒険者としてそれを拾い上げ、注意する。
「食べ物を粗末にするのはいただけませんね。戦場に出ればそんな贅沢は言っていられないのですよ」
「そうだね‥‥。僕もこの世界に来て危うく死にそうな目にあったことがあるよ。戦場では贅沢を言ってられないね」
話はルイスや光太の冒険譚に移る。と、その時――
「(‥‥あれ、なんだかとっても不愉快になってきました〜)」
話の内容は特にベアトリーセにとって愉快でも不愉快でもない内容のはずなのに、どうしてだろう、なんだか胸の奥がむずむずもやもやする。
「どうせ私は未熟で経験が足りないですよ〜! そんなに自慢しないでもいいじゃないですか〜!!」
「「!?」」
ベアトリーセが椅子を蹴って立ち上がる。ルイスと光太は彼女が丁度背にしている窓に、二つの人影を認めた。
「演技始まったね」
「上手く掛かってくれればいいけど〜」
囮の部屋と村長の家付近が見渡せる位置に隠れたレフェツィアとフォーレが呟く。視力と聴覚の良い彼女達は辺りに注意をしながら時折囮の様子を眺めていた。今のところ特に変わった様子はない。
「ん? 村の外から何か近づいてくるな。子供くらいの大きさの者が3体。これか?」
時折ブレスセンサーで接近者を確認していたセダルが不審な動きをする者を発見した。「物陰に隠れているのかな、姿はまだ見えない‥‥‥‥」
不意にフォーレの言葉が途切れる。
「‥‥‥なんだかこんなことやっているの、面白くなくなってきちゃった。もうやめよ〜」
「「!?」」
突然物陰から出ようとするフォーレ。明らかに様子がおかしい。
「フォーレ!?」
「フォーレ?」
レフェツィアとセダルが慌てて彼女を引き戻そうとしたその時、村長宅でベアトリーセが椅子を蹴って立ち上がった。
「どこだ?」
セダルが辺りを見回す。村長宅の窓に張り付くようにして中を覗いている頭に一本角のモンスターが二体。そして――こちらを見て愉快そうにしている同じ種類のモンスターが一体。
どうやら纏まって会話をしているところを「仲良くしている」と取られたようだ。逆に言えばそんなに判断能力が高くないモンスターだという事。
「あ、あれはグリムリー‥‥天邪鬼って奴だね。たぶん村の人たちやフォーレ、恐らくベアトリーセも奴らの言霊の力にやられたんだよ!」
レフェツィアがモンスターの正体を暴きながら聖なるロザリオを握り締める。専門レベルでコアギュレイトを使用する事には多少の不安が残る。だが成功させられれば一気に片がつくはずだ。
レフェツィアは祈りを捧げてホーリーシンボルを掲げた――。
●仲直り大作戦
動きを止めて逃走を防止してしまえば後は楽なもので、言霊に掛かっていない4人を初めとし、グリムリー退治はすんなりと済んでしまった。もちろん言霊に掛かった2人も精神支配をされたわけではなく、ただ「不快感を覚えた」だけなので本来の目的は覚えている。退治にはきちんと参加したことを記載しておく。
「――つまり、あなた方がもめるきっかけとなった『不快感』は、グリムリーというモンスターの特殊攻撃だったのです」
三体の天邪鬼を退治後、村長に村人を全員集めてもらい、光太は全員に聞こえるように声を張った。
「人の心を弄ぶ悪いモンスターは我々が退治した、もう安心していい」
セダルが村の端に積み重ねたグリムリーの死体を指すと、人々はざわざわとざわめき始めた。
原因はモンスター。それがわかってもまだ、元のようにスムーズには行かない。簡単に修復は出来ないのだ。唯一つ、『魔法の言葉』を使わない限り。
「ね、君たち、喧嘩した後ってどうやって仲直りするのかな〜?」
ベアトリーセが男の子と女の子に視線を合わせるようにしてしゃがみこみ、首を傾げて見せた。すると子供2人は少し躊躇ったが、互いの顔をしっかり見て口を開く。
「「ごめんなさい」」
「!?」
その様子に驚いたのは村の大人達。そう、大人たちはその『魔法の言葉』をすっかり失念していたのだ。
「魔物のイタズラが原因です。誰が悪いというわけではないのです。少し、冷静になってみませんか?」
ルイスの言葉に大人たちは最初は躊躇ったが、次々に謝罪の言葉を述べ始めた。
あんなに言いにくかった言葉なのに、忘れてしまった言葉なのに、言ってしまえばおかしな位すっきりとしてしまった。
「仲直りできたかな? じゃあ仲直り記念にパーティでも開いたらどうかな?」
レフェツィアの言葉に村人から歓声が上がる。
「じゃあ私は料理を作ろうかな? 誰か手伝ってくれる人ー?」
フォーレの提案に数人の主婦が名乗りを上げる。
村中は暖かい笑い声に満ちつつあった。村が元通りになるのも時間の問題だろう。
「‥‥天邪鬼、か。こうしてモンスターとして現れるだけでなく、我々の心の中にも住み着く事がある――それを忘れないようにしなくてはな」
セダルは村の隅を見やり、誰にも聞こえぬ小さな声で呟いた。