たとえ道は遠くとも
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月01日〜07月06日
リプレイ公開日:2007年07月03日
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●オープニング
●白き宝の真相
「レシウス‥‥!」
勢いよく扉を開けて入室してきたウェルコンス男爵に、レシウスは思わず居住まいを正した――が、彼に与えられたのは抱擁。
「素晴らしい‥‥! アレがあれば借金の完済も出来るし、我が家の財政も立て直し可能だ!」
「あのレリーフは‥‥そんなに価値のあるものだったのですか?」
「価値があるも何も! 素材自体がっ、ブランだよ、ブラン! しかも精緻な細工のおかげで芸術品としての付加価値もついているという‥‥!」
「‥‥!」
先日レシウスは一攫千金を狙い、今は「ただの噂」と一笑に付される洞窟への宝探しを冒険者達に依頼した。謎を解いて辿り着いた先には自称元王宮の鍛冶師だというドワーフの老人が住み着いており、そのレリーフをくれたのだ。
レシウスは弱りきったセルシアの為に彼を迎えに来た冒険者達に連れられてナイアドに帰還したため、そのレリーフの鑑定を元主に頼んだのだが‥‥
「いや、私も驚いた。信頼できる者に鑑定させたから間違いない! レシウス、本当に良くやってくれた‥‥私はあんな仕打ちをしたというのに」
男爵は酷く興奮していた。それもそうだろう、借金で首が回らなくなり、文字通り娘を売り渡さなくてはならないところだったのだから。
「もしお前が望むなら、元の地位への復帰を勿論許そう。いや、今まで以上に私の右腕として――」
「待ってください」
レシウスは男爵の肩に手を置き、冷静に告げる。
「借金を肩代わりしてもらう必要がなくなったから、といった理由で簡単にセルシアの婚約は解消できませんよね?」
「‥‥それは」
「ならば、俺に褒美を与えるのはもう暫く待ってください。王都に行き、援助を申し出た相手――ハリオット伯爵家について少し調べてみたのですが、どうやら‥‥裏でよからぬ事をしているようなのです」
レシウスの言葉に男爵の顔色が変わる。
「ですから、もう少し俺に調べさせてください。もしかしたら、婚約を破棄するよい口実を見つけることが出来るかもしれません」
ハリオット伯爵家は貿易を手がける貴族――もしかしたらウェルコンス男爵の借金についても裏で糸を引いているかもしれない、レシウスはそう考えてもいたが確証はないのでそれは口には出さなかった。
「わかった‥‥だが危険に身を晒しすぎるなよ。お前に何か会ったらセルシアが悲しむ」
「‥‥はい、それは重々承知です」
セルシア――ここ数日間共に過ごした彼女は、レシウスの側で花のように笑う。その花を摘み取りたくないからこそ、彼は彼女の為に出来る限りのことをする。
「何か必要なものが有れば用意をしよう。何でも言ってくれ」
「それでは‥‥俺の身分を証明する後ろ盾となっていただけますか?」
「何? まさか‥‥」
「‥‥はい、俺は冒険者になろうと思います」
●宴の為の荷
「‥‥それでは説明をさせてもらう、宜しく頼む」
王都メイディアの冒険者ギルド。その一室でレシウスは集まった冒険者達を見渡した。
「今回の依頼はある商人の妻と俺からの複合依頼だと思ってくれて構わない。まず言っておく。俺はハリオット伯爵家で秘密裏に開かれているという謎の宴『オフィーリア』について調べている。選ばれた貴族や商人だけが参加を許される宴という事以外、まだ何もわかっていない。ハリオット伯爵家内の誰が主催しているのかもわからない。ただその宴が『秘密裏』に行わなければならないものだということは確かだ」
レシウスは一度、言葉を切る。
「‥‥そして近々その『オフィーリア』に初めて招かれたある町の商人が、宴の為の貢物を王都まで運ばせるという。万が一の為に、何重にも人を経由して雇ったならず者達にその荷を積んだ馬車を運ばせるという念の入りようだ。ならず者達を命令どおり動かすためには、相当金を積んだのだろうな‥‥」
で、我々は何をすればいい、そう問う冒険者にレシウスは頷いて答えた。
「我々はその馬車から積荷を奪還する。その馬車には商人の実の娘も一人乗せられている。‥‥実の娘をも貢物にするつもりだったらしい」
その言葉に場の冒険者達がざわついた。
「商人の妻はやめてくれと夫に懇願したそうだ。だがそれは聞き届けられず‥‥思い悩んで冒険者ギルドへ依頼を持ち込んだのを俺が発見した。利害が一致したものでな、こういう形になった。幸い商人が『万が一の為に』色々工作してくれたおかげで『商人の娘を誘拐犯から助ける』という正当な理由で仕掛けることが出来る‥‥」
商人側の情報は、その妻がもたらしたものなのだろう。自分の娘さえ貢物にする商人。『オフィーリア』とはそんなに魅力のあるものなのだろうか?
「‥‥俺は、他の積荷――貢物を検分させてもらい、そこから少しでも『オフィーリア』について何かわかればと思っている」
レシウスは両手を机の上につき、一同を見つめた。
「‥‥どうだ、協力してもらえないか?」
●リプレイ本文
●奪還作戦
「おそらく奴らの馬車はこのルートを通り、今夜はこの辺りで野営していると思われる」
少し早めの野営準備を終えた一行は、シャルグ・ザーン(ea0827)が木切れで地面に描く略地図を見ながら明日の作戦の最終確認をしていた。
「馬車と言うことでルートはかなり絞れますね。そうそう森の中をつっきたりは出来ませんからね」
カイ・ミスト(ea1911)のルート予測もシャルグとほぼ同じだ。
「しかし‥‥貴族が裏でおこなうパーティー‥‥なんだか、内容の想像も出来てしまうんですが‥‥」
「しかも実の娘を貢物にとな。見下げた父親もいたものである!」
軽く溜息をついて眉を顰めるカイ。シャルグは自分も父親である事から、商人に対して人一倍憤慨していた。
「自分の娘を貢物にする‥‥その根性が気に入らんからな。後でその商人とやらには話をつけておく必要があるな」
憤りを覚えているのはリューグ・ランサー(ea0266)も同じだった。しかし自分の娘を貢物にしてまで参加してどうするつもりなのだろうか。
「『秘密裏』に行わなければならない宴『オフィーリア』ですか、なにやら善からぬ事が行われている様ですね」
ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)も興味というより嫌悪に近い心情で呟く。一体などんな宴なのだろうか――あまり想像したくは無いが。
「商人の娘の保護とか、荷物とかか‥‥」
スレイン・イルーザ(eb7880)は焚き火の炎を見つめ、一人ごちる。彼の中ですでに優先順位は決まっていた。
「『オフィーリア』、そしてハリオット伯爵家、また耳にすることになりましたね」
ルイス・マリスカル(ea3063)は先日王都で起こった少女誘拐事件で誘拐された少女達が監禁されていた倉庫がハリオット伯爵家のものであったこと、そして誘拐された少女が『自分達はオフィーリアの為に攫われたらしい』と耳にしていた事、そしてとある貴族令嬢の誕生日パーティでのハリオット伯爵家次男の話など、自らの持てる情報を全て話した。それを聞いたレシウスは、顎に手を当ててしばし黙考する。
「貴重な情報感謝する‥‥。もしやルイスは、商人の娘以外の『貢物』も少女だと考えているのか?」
「ええ、恐らくはかなりの確率で」
「娘達の命を考えると、馬車は安全に手に入れなくてはならないな。馬が暴走でもしたら危険だ」
ルイスのでリューグが浮かべた懸念事項はもっともな事だ。娘一人を助ければいいというわけではなくなる。
「でも、先手を打たれる前に、伯爵の秘密を探る機会が得られたのは僥倖です。出来る限りのお手伝いはさせてもらいますね」
レシウスとセルシアの乗り越えてきた道を聞き、二人の未来を守りたい、とイリア・アドミナル(ea2564)は思っていた。
「だけどさ‥‥」
それまで焚き火をじっと見つめて話に聞き入っていたリアレス・アルシェル(eb9700)が顔を上げた。
「オフィーリアの内容しだいだと、婚約御破算以前に命が狙われそうなんだけど、大丈夫?」
ここまで2人を手伝って来たのだから、幸せになってもらわないと! と思う反面二人の命が心配でならない。手に入れた武器は、なんか物凄い諸刃の剣のようで――。
「‥‥それでもやらなくてはならない事なんだ。心配、感謝する」
不安げに見つめるリアレスに、レシウスは真摯な瞳で頷いて見せた。
明日の朝は早い。今夜は早く休息を取ろう。本番は、明日だ――。
●強襲と強奪
まだ夜の開けきらぬうちから一行は行動を開始した。イリアのブレスセンサーのスクロールで馬車の位置を確認して、それが目視できる物陰に隠れる。
「‥‥‥予想通りです。馬車の中にあった小さな寝息は少女達のものでした」
エックスレイビジョンのスクロールを使用したイリアの目に映った馬車の中には、6人ばかりの少女が身を寄せ合うようにして眠りに落ちていた。どれも15歳以下の幼い少女達。泣き腫らした顔がなんとも痛々しい。
「なんと! 他にも少女を載せておったのか。その少女達も無事に親元へ帰してやらねばならぬな」
父親としての闘志を燃やすシャルグ。イリアの報告にルイスは「やはりそうでしたか」ときつい表情で目を細めた。
「それでは皆さん、作戦通りに」
今回は隠密技能に秀でた者がいないため、陽動と強襲という力業の作戦で行かざるを得ない。カイの言葉に全員が頷いた。
「おはようございます、少しよろしいですか?」
まだ夜も明けきらぬうち、陽動班のルイスは見張りを勤めている男に堂々と挨拶をして近づいた。彼の横にはレシウス、後ろにはリアレスとジャクリーンが控えている。
「一体なんだ?」
見張りの男は怪訝そうに四人を見上げたが、あからさまに攻撃的な様子は見せない。無事に荷を王都へ届ければ高額な後金が貰えるのだ。こんな所で揉め事を起こすのは避けたい。
「まだ夜明けじゃねーか‥‥水でも借りに来たのか?」
見張りの焚き火から少し離れた位置で寝袋に包まっていた男達が次々と目を覚ます。馬車内は少女でいっぱいなのだろう、男達は寝袋に包まって眠っていた。その数5人。
「いえ、とある情報があったので荷を検めさせていただきたく」
「俺達はただ王都へ旅をしているだけだぜ? 検められなきゃならねぇモンなんて積んでねーよ」
ルイスの言葉に見張りの男が立ち上がる。次いで寝袋から出てきた男達がにやにやと近寄ってきた。
「そうですか。ではあちらはお子さんですか?」
「「!?」」
ジャクリーンの静かな言葉に慌てて馬車を見たならず者達の目に映ったのは、幌から顔を出した怯えた少女達。ちらりと見えるのはその腕を拘束する縄。
「おめぇらおとなしく引っ込んでろ!!」
「随分と特殊な趣味なんだね、子供を縛るなんて」
男の一喝で怯えて馬車内に引っ込んだ少女達。リアレスはわざと揶揄するように言う。
「見られちまったら仕方ねぇな。おい、お前は馬車についてろ。いつでも走り出せるようにな!」
頭目と思しき男の言葉で一人が馬車へと駆け寄る。そしてならず者達は武器を振りかざして襲い掛かってきた。
予定通りじりじりと後退しつつ男達を煽るように矢を射るジャクリーンと、ダガーofリターンを投擲するリアレス。
「‥‥‥」
ルイスとレシウスはその2人を守るように位置取り、自ら攻撃を仕掛けることは無く攻適度に交わして4人の男と馬車の距離を開かせる。
「へへ、何だ、やる気なのは女だけか、だったら一気に片をつけさせてもらうぜ!」
自分達が誘き出されているとは気がつかない男達。馬車から十分に離れた、そう思ったその時、一人馬車の側に残った男の悲鳴が響いた。
「なにぃ!?」
「さて、それでは全力で反撃させていただきますね」
それまで防戦一方だったルイスとレシウスが一気に攻勢に転じる。男達を馬車へと戻らせぬよう、ジャクリーンはダブルシューティングEXで一番馬車に近い男を射る。馬車への帰還を諦めたのか、女の方が倒しやすいと思ったのか、リアレスに近寄ってきた男は彼女のダブルアタックの餌食となる。
「女だからって甘く見ないでね!」
「ちっ‥‥馬車へ‥‥」
男達はかすり傷程度も負わせることが出来ず、次々と膝を着いていく。長引くごとに有利になっていくどころか不利になっていく形勢に、頭目は諦めて馬車へと戻ろうと振り返った――その隙に、ルイスの鞭が男を捕縛した。
「うわぁっ!?」
御者台に上ろうとしていた男が自分の腕に傷をつけていった刃物に驚きの声を上げている隙に、強襲班は一気に馬車に近づいた。
リューグはダガーofリターンを受け取り、槍に持ち替える。
「命が惜しければ抵抗しないことだ」
剣を手に自分に迫るスレインに、男は怯えてはいるものの首を縦に振ろうとはしない。それでもまだ御者台に上ろうとしている。
「往生際が悪いですよ、仲間は誰も助けに来ません」
陽動班の戦闘を遠目に見つつ、カイは男の脚を打ち抜く。
「うわぁぁぁっ!」
痛みに悲鳴を上げる男。馬車の中から外の尋常ならぬ様子に怯える少女達のか細い悲鳴が聞こえた。
「どうしても馬車を動かそうとするならば、容赦はせぬ」
シャルグの槍によるチャージングが、男を容赦なく突き刺した。男はずるずると崩れ落ちる。御者台には鮮血が染み付いた。
「スリーナさん、中にいますね? 私達はあなたの母上から頼まれてあなたたちを助けに来ました。馬車を少し動かします、もう少し辛抱していてください」
カイは御者台に飛び乗り、事前に確認しておいた商人の娘の名を呼ぶ。中からは弱々しいが返事があった。それを確認して、予定通り馬に鞭をくれる。陽動班の方へいった男達が戻ってこないとも限らない。少しでも安全圏へ馬車を移動させる必要があった。
●少女達と謎の宴と
陽動班、強襲班共に合流した後、馬車の中を検めるとやはりそこには6人の少女と食料品の積荷のみ。どうやら『貢物』は少女達自身であったというのは間違いないらしい。
もう大丈夫だから、と安心させるようにしながらカイ、シャルグ、リューグは手分けして少女達の縄を解く。中にはシャルグの姿を見て父親を思い出したのか、「パパー!」と抱きついて泣く子もいた。
「ねぇねぇレシウスさん、例の商人さんって何を取り扱っている商人さんなの?」
「‥‥確か、陶器だったと思うが」
「でも、陶器乗ってないよね」
リアレスに問われて答えたレシウスも、頷く。
「これから連想することは‥‥」
「やはり少女達が貢物だったのでしょう」
スレインの言葉をルイスが引き継ぐ。前の少女誘拐事件を知っているルイスにとっては十分予想の範疇だ。
「少女達に聞き込みをして見ましたが、男達は『オフィーリア』については何も口にしなかったそうです。どうやら本当に知らされていなかったようですね。ただ‥‥」
情報収集をしていたイリアは一瞬口ごもった。
「商人の娘さん、スリーナさんは父親に『少し我慢して奉仕すればいいものを食べさせて貰える優雅な生活ができるんだ』と言われたそうです」
「‥‥‥‥‥」
だんだんと『オフィーリア』の目的が見えてきたような気がする。
「他の娘達は、殆どが誘拐されてきたようだな」
なつかれてしまったのだろうか、一人の少女にマントの裾を握られながらリューグが会話に加わった。
「‥‥中には『私がいなくなれば弟達に私の分もご飯を上げられるから』なんて健気なことをいう子もおりましたわ‥‥」
安心して眠ってしまったのだろう、小さな少女を抱いたジャクリーンは悲しげに目を細める。
「‥‥『オフィーリア』は『幼い少女達を集めて奉仕させる』宴‥‥なのか?」
レシウスの言葉を否定できる者は誰も居なかった。
少し離れた所でシャルグに父親の面影を見た少女達が彼と談笑している。
まるで幸せな家族の肖像。
それを脅かす『オフィーリア』。
民は貴族のモノであるとはいえ、このまま放置してはおけないと思うのが人の心だろう。
今回の6人の少女は一応は助かった。だがどこか別の場所でまた少女達が危険に晒されているかもしれない。
貴族の悪事に迫るという危険と不安は残る。だが、このまま宴を看過することが出来る者は――恐らくいないだろう。