月下の杯に誓う

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月04日〜07月09日

リプレイ公開日:2007年07月10日

●オープニング

●月下の誓い
 月精霊の輝きの元、屋根裏部屋の窓から屋根に伝い出た少年二人はコップに満たした水に月を映し、誓い合った。
「ルフト、約束だぞ。いつか絶対一緒にこの国を守る騎士になるんだ!」
「わかってるって、ラキオス」
 ルフトと呼ばれた銀髪の少年は、隣の少年に半ば呆れた声を返す。もう何度も聞かされた彼の夢。しかしそれはルフト自身の夢でもあった。
「僕達は親友だ。約束は破らないよ」
 ルフトは、茶髪の少年ラキオスのコップに自分のコップを軽くぶつけた。コツ、と木製のコップのぶつかり合う音が夜のしじまに響く。
「今はただの水だけど、このコップの中身がワインになる頃には、俺達はきっと立派な騎士になっている!」
「‥‥うん。何があろうと僕らの絆は壊れない。僕はラキオスを一番信頼している」
「俺だってそうだ! ルフトを信頼している!」
 互いに顔を見合わせる。コップの中の液体に月の輝きを宿して飲み干す、簡素な――ただし2人の少年にとっては何よりも大切な儀式。

 数年後少年達は成長し、立派な騎士となった。

●事件
「そんなっ! ラキオスがそんなことをするなんてありえません!」
「だが最初に発見したメイドの話によると、ラキオスが亡くなった夫人の背に刺さった短剣に触れていたと」
「ラキオスは子供の頃から騎士になる事が夢だったんです! それが、主の夫人を殺害するなんて‥‥」
 ルフトは必死で上官にラキオスの無実を訴える。だが上官はそれを渋面で見つめていた。
「ルフト、ラキオスと付き合いの長いお前の気持ちも解らなくはない。だが奴は夫人の身体から凶器となった短剣を抜き取って逃げ出した。疚しい事がなければ逃げ出さず申し開けばいい話だ」
「それは‥‥」
 ルフトには彼が何故そこで逃げ出したのかは解らない。ただ彼は知っている。ラキオスは主君の夫人に恋心を抱いていたのだ――勿論それはプラトニックの域を出るようなことはなかったが。だからありえないのだ。彼が夫人を殺害するなんて。
「ラキオス捕縛の命令が出ている。ルフト、お前にだ」
「!?」
 上官の言葉にルフトは身体を硬くした。未だ騒動の動揺収まらぬ屋敷の喧騒が、不思議と遠くに聞こえる。
「抵抗するなら殺害もやむなし、とのことだ。‥‥解っているな? 騎士にとって主君の命令は『絶対』だ」

 *―*―*

「そこをなんとかっ!」
「‥‥‥」
 ギルドのカウンターに銀髪の青年が詰め寄る。
「僕の名前と身分は先ほどお話したとおりです。ただ、依頼書には匿名にしてほしいというだけです。依頼内容は一人の男性を逃がすこと、だめですか?」
「‥‥‥‥本来ならばね、僕が口を出す事じゃないと思うんだけど‥‥‥彼を逃がして本当に解決するのかな?」
「‥‥え?」
 職員の思わぬ言葉にルフトは驚愕した。
「いや、ね、うん‥‥実はラキオスさんから依頼が出ているんだ。彼は夫人を殺害した犯人を追っているそうだよ」
「じゃあ‥‥!」
「捕まえて、証拠を揃えて主君の前に連れ出すつもりらしいね。それでね、実は君に伝言を預かっているんだ」
「え?」
「『月下の誓いは決して破らない』これ、僕には何のことかわからないけど、君にはわかるんだろう?」
 職員の伝えてくれたラキオスの言葉。これはきっと「あの時のまま俺を信じろ」そういう意味。
 ルフトは床に膝を着き、ひっそりと涙した。

●依頼内容/状況
・銀髪の青年がルフト、茶髪の青年がラキオス
・依頼人はラキオス
・ラキオスが夫人の悲鳴を聞きつけて部屋に到着した時、布で鼻から口を覆った犯人は室内に散らばった矢を回収しているところだった。どうやら最初は弓での暗殺を試みたが失敗したため、窓から侵入して短剣での殺害に至った模様。
・ラキオスに発見された犯人は窓から逃走
・ラキオスは短剣に紋章が刻まれている事に気がつき、夫人の身体から短剣を抜いて犯人を追いかけた。
・犯人は小さな倉庫に潜伏中。中には3名居る模様。倉庫には入り口は一つ、裏手に窓が一つある。
・ラキオスはギルドに依頼後、すぐに倉庫の見張りに戻った。
・三人の犯人を生け捕る(殺さなければ傷を負わせても構わない)
・犯人には少なくとも弓の使い手、剣の使い手がいる。魔法使いの有無は不明。

◆簡易見取り図
┏━━━━━━━━━━┓
┃■■■■窓窓■■■■┃
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┃■■■■入口■■■■┃
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■‥壁
●‥木箱
入り口、窓に鍵はかかっていない。
内部の敵配置は不明

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8773 ケヴィン・グレイヴ(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0639 ジノ・ダヴィドフ(46歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec3080 レムリナ・レン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ec3228 ドッド・ドッド(37歳・♂・ファイター・人間・メイの国)

●サポート参加者

朝海 咲夜(eb9803)/ ランデル・ハミルトン(ec1284

●リプレイ本文

●突入前〜それぞれの思いは
 石造りの倉庫。中の音を聞き取る事は出来ない。だがその中には少なくとも三名の敵がいるはずだ。戦う術のない女性を殺めた者達が。
「(今でも思い出せる‥‥親友と楽しく過ごした日々を)」
 ソフィア・ファーリーフ(ea3972)はこみ上げてくる涙を堪え、バイブレーションセンサーの詠唱を始める。友を失うという気持ち、こんな気持ちを味わうのは自分だけで十分。だから――2人の友情を守ってあげたい。
「幼き日の誓いを守ってお互いに信頼に答え合うというのはなかなか難しいものだ。だがラキオス達はそれを通そうとしている。それに答えてこちらも最高の仕事をしよう――だがその前に訊いておきたい事がある」
 ケヴィン・グレイヴ(ea8773)が、今にも倉庫へと飛び込みかねない茶髪の青年に問う。
「矢は鏃や矢羽の素材や作り方で癖が出るものだ。それである程度、射手の身元に近づくことが出来る。だからこそ犯人達は室内の矢を回収したのだろう。そんな犯人が凶器の回収を後回しにするのはおかしい気がする」
「短剣に紋章が付いていたって事は、暗殺者は偶々依頼されたフリーランスでは無く、どこかの貴族の子飼って事が考えられるが」
 腕を組んで会話に加わるジノ・ダヴィドフ(eb0639)。だがそうだとしたら尚更凶器の始末を後回しにするのはおかしい。
「その凶器にされていたの、もしかしてルフトさんの短剣だったり‥‥?」
 友に容疑が掛かると思い、起こした行動ならば納得がいく、とレムリナ・レン(ec3080)が口にした推測。それにラキオスはぴくりと反応を示した。
「ルフトは最近短剣が見当たらないと言ってたけど‥‥確証はない。どこから手に入れたのか、凶器は俺達と同じ主君に仕える者なら皆持ってる短剣だったからな」
 犯人は元々騎士達に罪を着せるつもりだったのだろう。矢での殺害が成功していたら室内に短剣を置いておくつもりだったのかもしれない。
「敵の配置がわかりました。窓付近に一人、入り口付近に一人、入り口右手の壁近くに一人。右手の壁から突入する風さんとジノさんは特に気をつけてくださいね」
 ソフィアの言葉に、オーラエリベイションを付与し終えた風烈(ea1587)は頷き、同じ箇所から突入するジノを伴って移動する。
「窓付近にもいるということは、逃亡に注意しよう」
 窓近くで敵の逃亡を阻止する役目のドッド・ドッド(ec3228)とケヴィン。
「私達は入り口で待機して見張りだね。あ、そうだ」
 レムリナと組むフォーレ・ネーヴ(eb2093)は配置につく前にバックパックから卵大の壷を取り出し、ラキオスに差し出した。
「これ、お守り♪怪我したら使ってね。‥‥焦って無理しちゃ駄目だよ? 焦ると何事もいい結果を生まないし」
 笑顔でヒーリングポーションを預けられ、強張った表情のラキオスはわかった、と頷く。彼の何か生真面目で友人の為に事を焦りそうな所が、フォーレの目には自分の叔母に重なって見えていた。
「僕達は左側からウォーホールで突入か。魔法使いがいると厄介だから、いたら早く押さえておきたいところだね」
 ソフィアと共に左側の壁から突入する龍堂光太(eb4257)。右側の壁を破壊する大きな音で注意を引き寄せておいて、その間に反対側から静かに突入したい。
 それぞれの思いを胸に、隙無く倉庫の4方向を固める冒険者達。
 そして、突入が始まる。

●突入〜捕縛を
 どっごーんっ!!! ‥‥パラパラパラ‥‥。
 ジノと烈の、バーストアタックを中心としたCOで、石壁にぽっかり開けられた穴。パラパラと欠片が落ちるその向こうで、男が一人振り返ったまま固まっている。その隙をみすみす逃す2人ではない。
 敵が手にした剣を構える前にジノがフェイントアタックで男の足元を狙う。開けた穴から逃げ出されないように位置取りに注意しつつ、烈も男を殺さぬように拳を振るった。
 離れた位置から「何があった!?」という声が聞こえてきたが、目の前の男はそれに答える余裕すら与えられなかった。
「死なれるわけにはいかないんでな」
 ジノとの連携であっさり男を押さえ込んだ烈が男に猿轡を噛ます。
「この男が‥‥婦人をっ」
 烈が目を上げると、そこには怒りに身体を震わせるラキオスの姿があった。男は剣使いのようだ。という事は実際に婦人に手を下したのはこの男である可能性が高い。そしてラキオスは握り締めた剣を振り上げ――
「おっと」
 その腕を背後からジノががっしりと掴む。烈は、己を止めたジノに文句を言いかけるラキオスを鋭い瞳で見つめた。
「止めておけ、暗殺を命じた黒幕が喜ぶだけだ。この程度の事で終わらす気はないだろう」
「ルフトとの誓いが本物ならば自分が何を為すべきか分かるな。血気は若さの特権だが、短慮には走るなよ」
 ジノはラキオスの腕を押さえたまま敵の他二人を探すべく、素早く倉庫内に視線を走らせた。どうやら方々に散った他の仲間達の所でもそれぞれ戦闘となっているようだ。


「何があった!?」
 ソフィアが高速詠唱ウォーホールで開けた穴から盾を構えた光太が侵入した時、恐らく入り口付近にいたであろう男が派手な音を立てて開いた壁の様子を窺おうとしていた――つまり静かに侵入したこちらには気づかず、背を向けてくれているわけで。
 光太がその背中に斬りかかろうとするのとほぼ同時にソフィアの高速詠唱アグラベイションがその男の動きを鈍らせる。
「うあぁぁっ!」
 斬撃の痛みに崩れ落ちた男を捕縛すべく押さえ込もうとしたその時、光太の脇を何かが掠め飛んで行った。
「あ、あそこに弓使いがいます!」
 それは窓側の木箱越しに放たれた矢だった。射手は自分の攻撃が外れ、仲間が押さえ込まれた事を知ると手近にある脱出口――つまり窓へと走り寄った。
「という事は、こいつは弓使い以外か」
 男に猿轡を噛ませながら光太が男を観察する。目立った武器を携帯していないという事は謎の三人目かもしれない。
「窓から逃げ出そうとしています!」
 ウォーホールで開けた穴から逃げ出されないように穴の中に立ちはだかるソフィアが注意を喚起する。だが光太は落ち着いて窓側に視線を移した。
「大丈夫だよ。窓の外にも2人いるから」
 そう、そこには頼もしい仲間が待ち構えているのだ。


「突入班が交戦したようだな。窓際にいた奴が逃げてくるかもしれない」
「わかった、注意しよう」
 ケヴィンがバイブレーションセンサーのスクロールを閉じて、側で待機しているドッドに告げた。ドッドは剣を、ケヴィンは弓を持ち窓が開くのを待つ。
 程なく窓が勢いよく開かれ、男が姿を見せた。背後を気にしているのか、窓枠に手を掛けたものの視線は倉庫内に向けられたままだ。
「暗殺者にしては注意力散漫だな」
 ケヴィンがすかさず窓枠に掛けられた男の手を射る。
「!?」
 それで漸く窓の外にも敵がいることに気がついたのだろう、男は瞠目したがそれも一瞬の事。自分だけでも逃亡しなければと思ったのだろうか、再び窓枠を乗り越えようと動く。今度はその肩を狙い、ケヴィンはニ矢を射った。殺してしまっては黒幕の思う壺だ、ここは殺さず捕える事を考える。
「逃がすと思うか?」
 射られて態勢を崩した男をドットが倉庫内へと突き落とす。そしてそのまま窓枠を飛び越えて男を押さえ込んだ。
 どうやらこれで倉庫内の戦闘は落ち着いたようで、他の二箇所でも男たちは取り押さえられていた。

●見張り〜連絡役が
「何があっても、絶対に逃がさない。簡単に人を殺せるのも許せないし、ボクもラキオスさんとルフトさんの友情、素敵だなって思うから!」
「気合入ってるね〜」
 気合を入れて倉庫入り口に立つレムリナ。その両手にはしっかり武器が握られている。同じように見張りを勤めるフォーレの手にもしっかりと縄ひょうが握られていた。
 どうやら中では現在男達を取り押さえている真っ最中らしい。風通しの良くなった倉庫内の騒音が良く聞こえてくる。最初の騒音のせいで一体何が起こったのかと不安そうに一般人が集まってきていた。そして遠巻きに入り口に立つ2人を見ている。
「あれ‥‥?」
 男達は仲間と連絡を取るために倉庫内に待機していたのかもしれない――そんな仲間の言葉を思い出して周囲を警戒していたフォーレの視界の端になんだか不審な者が映った。
「レム嬢、そいつを逃がすな!」
 不審人物の反対側の人ごみから声が上がる。レムリナに協力して事件の裏を探っていた朝海咲夜の声だ。人垣の後ろから無表情で倉庫の様子を伺っていたその男は声を聞いて踵を返す。だが咄嗟に反応したレムリナは既に男に向けて走り出していた。レムリナに道を譲るべく人垣が割れる。
「逃がさないよ♪」
 割れた人垣を幸いとばかりにフォーレが縄ひょうを投擲した。
「!?」
 脚に傷を受けてバランスを崩した男に、追いついたレムリナは体当たりを食らわせ、そして全体重をかけて押さえ込んだ。

●数日後〜感謝と
 多少痛めつけ具合に差はあるものの、合計四人の暗殺者達を無事に捕縛した一同は、彼らをルフトへ引き渡した。
 ぐっと唇を噛み締めて怒りに耐えるラキオスに、それぞれが思い思いの言葉をかける。諭されたラキオスは、犯人達を殺すような真似はしなかった。心から安心したようなルフトと一度硬く抱き合い、礼はまた後日、と屋敷への帰路に着いた。

 後日、一同は自分達の働きによりラキオスの疑いが晴れた事を知る。暗殺の黒幕については、上司達が未だ調査中らしい。
 何度も何度も礼を言うルフト。感謝の言葉を述べつつも亡き婦人への、行き先の無くなった思いを抱くラキオス。
 年を経ても揺らがぬ友情を持つ二人の後姿を見送り、光太はぽつりと呟いた。
「月下での誓い‥‥そんな親友が欲しいなぁ」
「そうだな、羨ましいもんだ、そこまで信頼できるダチがいるのは」
 ジノも隠さずに羨望を口にする。
「心から信じられる友というものは得がたく、何物にも変えがたい素晴らしいものだ。彼らの友情を守れてよかった」
 満足気に空を仰いだ烈。
 同じ気持ちの一同の横を、爽やかな風がゆっくりと吹き過ぎていった。