誰そ彼
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月06日〜07月11日
リプレイ公開日:2007年07月10日
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●オープニング
「‥‥‥‥‥‥‥」
「仮にも依頼人にその顔は失礼だよ?」
冒険者ギルドに現れたその男を見て、思いきり嫌そうな顔を見せる職員。対するその男――天堂泪樹(てんどう るぎ)は裏に色々含んでいそうな、満面の笑顔を浮かべている。
「今度は何をやらかしたんですか」
「だからさぁ、そう決め付けるのも失礼だよ?」
やはり慣れっこなのか、またどこかと揉め事でも起こしたのだと思ったのだろう。問う職員に泪樹は「面白い事を考え付いたんだ」と子供のように笑う。
「ここの世界ってさ、宗教が広まっていないから、幽霊とかって恐怖の対象じゃないんだってね。それを聞いて初めは驚いたよ」
そう、彼は天界(地球)から来落してきた人。勿論幽霊とやらを素で信じているわけではないが、「ネタ」としてはアリだと思っているクチだ。それも人をからかうための。
「でもまぁ、幽霊がわからなくても、暗闇や何が有るかわからない場所、不意打ちに対する恐怖っていうのは人間誰しもあるものだよね」
だからなんだというのだろうか。
「『黄昏』って言葉、こっちでも使うのかな? 僕のいた世界で言わせると夕方、すれ違う相手の顔が見えないくらいの暗さになった時、向こうから来る相手に『誰(た)そ彼?』と尋ねたのが語源だって説があるね。その尋ねた相手が幽霊だった、って怪談もあった気がするよ」
まぁそれは置いといて、と泪樹は一方的に話を続ける。
「冒険者達にはお世話になったからね、僕の家でのちょっとした催しに招待しようかと思ってね」
「‥‥催し?」
絶対裏に何か隠している、そう思えるほど完璧な笑顔の泪樹に、職員は眉根を寄せずにはいられない。
「僕の世界で言う『肝試し』みたいなものさ。おあつらえ向きに、買い取ったあの屋敷の地下にも空間があってね」
泪樹は王都から少し離れた所に打ち捨てられた廃屋を買い取っていた。その廃屋、元は数十年前に何処かの貴族が子供や若者に魔法と武術をそれぞれ学ばせ、そして広間で戦わせて『武器と魔法のどちらが強いか』を競わせたらしいという噂のある施設だ。地下室があってもなんら不思議はない気がする。
「まずペアを組んで貰う。次に部屋番号1〜4から一つ選んで貰う。順番を決めて、その地下に灯りを持たずに二人一組で入ってもらうよ。ああ、装備とかはそのままでいい。ただ灯りを使っては駄目だってだけ」
泪樹の説明するルールを急いでメモする職員。
「それぞれの組には百合、カーネーション、スイトピー、ガーベラの花を2輪ずつ持っていってもらう。それを選んだ番号の部屋と最奥の部屋に置いてくればOK。後は1階に戻ってくるだけさ」
「なるほど」
「僕は予め通路とかに皆を驚かせる仕掛けを設置しておくからね。ああ――あと地下の小部屋は僕、一度も開けていないから」
「‥‥‥‥」
なんだか嫌な予感がする。
「まさか‥‥その扉の奥には『何か』いる‥‥とか」
その嫌な予感に当たる疑問を投げ掛けられ、泪樹は「いるかもね? いたら退治してね」と笑顔を見せた。
「誰が誰と組むかとかは任せるよ。足りなければ僕が組んでもいいし」
「‥‥‥‥‥‥要するに、怖がらせて遊びたい、かつ小部屋にいる『何か』を退治してほしいんですね?」
「ああ、遊びみたいなものだからお金での報酬は出せないよ。ただこの間片づけをしていたら、施設を使っていた人達の残したものなのかは解らないけど何だか色々出てきたから、そこから何かあげるよ。でもまぁ、あまり期待しないでね。何せ遊びだから」
職員の質問をスルーする泪樹。しかし最後にここ一番のいい笑顔でこう付け加えるのを忘れなかった。
「僕を一番『楽しませて』くれた人には、他にも何か景品を考えるけどね」
‥‥‥やっぱり怖がらせて遊びたいんじゃないか。
●リプレイ本文
●くじ引き
多少の修繕がなされているとはいえ、少し前までは廃屋だった館だ。暗くなった現在外から見上げれば、肝試しにはうってつけの雰囲気をかもし出している。
「や、いらっしゃい」
ランタンを手に皆を迎えたのは依頼人。集まった面子を見て、くすりと呟く。
「ふぅん‥‥意外。女性多いね」
「それは同感だ。肝試しというのに女性が多いけどこの世界の女性は幽霊とか信じてないのか‥‥?」
泪樹と同じ地球人のクロム・クロイツ(ec1807)が首を捻った。
「もう一つの天界はともかく、ここでは『幽霊』という概念が無いみたいだから、これも当然なのかもしれないね」
「あなたがこの屋敷の主? 泪樹さん? どうぞよろしく! 面白そうなので来てしまいました」
礼儀正しく元気に挨拶するメリル・スカルラッティ(ec2869)。泪樹は「ほらね」とクロムに頷いて見せた。
泪樹の案内で通されたのはごく普通の小部屋。以前の廃墟然とした様子から一転、この部屋はすっかり住環境が整えられている。
「泪樹様、今回の趣旨は‥‥本当に『肝試し』だけですか?」
勧められたソファに腰をかけるのを断り、ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が尋ねた。彼のことだから何か裏がありそうだと気になったのだ。
「うん、肝試しだね。ルールは事前に話した通り。小部屋にもし何かいたら退治するのも含まれているよ」
「『何か』いた場合、灯りをつけてもいいか?」
「まぁ、いいよ。ただし退治が終わったら消してね。仕掛けが見えたら面白くないだろう?」
わかった、と質問したクロムが頷くのを見て泪樹が付け加えたのは『先に行ったペアは、戻ってきてから小部屋の中の話は口にしても良いが、廊下や奥の部屋などの仕掛けについては全ペアが肝試しを終えるまで口にしないこと』。確かにネタをばらしてしまうのはつまらないだろう。
「じゃ、ペアを決めようか?」
六人はわくわくどきどきしつつ、彼の差し出したくじに手を伸ばした。
●2輪の花
ガーベラの花をそれぞれ手にし、ジャクリーンとレフェツィア・セヴェナ(ea0356)は地下への階段を一段一段降りていた。
「地下室の冒険っていうことなのかな。何だかよくわからないけどすっごくワクワクだね」
「そうですね‥‥仕掛け人があの方というのが少し気になりますが」
2人は壁に花を持っていない方の手を当てて、ゆっくりと階段を降りていく。2人とも視力は良い方だが暗闇に目が慣れるまではもう暫く掛かりそうだ。
「色々あるみたいだし何が出てくるのかすっごい楽しみだよ‥‥うわぁっ!?」
「レフェツィアさ‥‥きゃあっ!?」
どたどたばたんっ!
最初にバランスを崩したレフェツィアに続き、ジャクリーンも同じ箇所でバランスを崩し、階段の下まで滑り落ちてしまった。といっても2、3段。お尻を打ちつけた程度でたいした怪我は無いのだが‥‥。
「いたいなぁ」
「‥‥どうやら、階段に油が塗ってあったようですね」
たとえ足元に注視していたとて暗闇の中では解らなかっただろう。だが油が塗られたであろう事はつるんと滑ったときの感じと、よく注意すれば微かに香る油独特の匂いで解った。地下独特の匂いと混じって最初はわかりづらかったが。
「ジャクリーンさん、お花は大丈夫?」
「ええ、なくしては大変と思い、しっかり握り締めていましたわ」
「あはは、僕も」
漸く暗闇に目が慣れてきて、近い距離ならばお互いの顔がわかる。二人は軽く笑い合い、互いに手を貸し合って立ち上がった。
「ここが一番の扉ですね」
ジャクリーンが扉に向かい、開けようと手にかけたその時
「今何か動いたよ」
「え?」
思いもかけぬレフェツィアの言葉に、肩越しに彼女を振り返ろうとするジャクリーン。その頬を何か冷たいものがスッ‥‥と掠めていった。
「きゃっ!」
小さく悲鳴を上げて頬を押さえるジャクリーン。レフェツィアは興味津々の体でその飛来物を追いかけ、難なく手にとって戻ってきた。
「濡れた布にロープがついているみたいだよ。あっちから飛んできたね」
「という事はもしかして」
もしかしなくても多分、あのまま振り返らずに扉と見合っていたら、その濡れた布はジャクリーンの横顔にぺたりと張り付いていただろう。
「確かに暗闇で急に冷たい物体が張り付いてきたら、驚きますわね‥‥」
「泪樹さんって面白い事考える人だね」
溜息交じりのジャクリーンとは正反対に、レフェツィアはロープつきのその布が、ほいと投げれば振り子のように戻ってくるのを楽しんでいる。
「では気を取り直して、小部屋の扉を開けましょうか」
「うん、よろしくね」
ダガーofリターンを取り出すジャクリーン。レフェツィアは彼女の後ろに立つ。中に「何か」がいた場合レフェツィアのコアギュレイトので対処するが、その詠唱に掛かる時間はジャクリーンが何とか稼ぐという作戦だった。
「お花はなくさないように置いておきましょう‥‥」
念の為に廊下に花を置き、ジャクリーンはゆっくりと戸に手を掛けた。
●スリルを楽しむ
「きちんとお花置いてきたよ。あー面白かった」
「‥‥小部屋には、蜘蛛と蝶がおりましたね」
一番手のレフェツィアとジャクリーンが無事に帰還すると、二組目のクロムとメリル・スカルラッティ(ec2869)がカーネーションの花を持って出発した。
「ところで泪樹様、こちらの反応を楽しみにしていらっしゃいましたけど、どこから見ていらしたのですか?」
天界の品でそんなことが出来るものでもあるのだろうかと疑うジャクリーンに、泪樹は地下への階段を指して首を振る。
「いや、そんなもの無くても十分楽しめるよ」
彼のその言葉が終わるか終わらないかのうちに、地下からは「ひぃっ!」「うわぁ!」という叫び声が響いてきた。恐らく階段に油、のトラップに引っかかったのだろう。
‥‥なるほど。地下から声が十分響いてくるのだ。
「ったた‥‥まさか滑るとは」
「大丈夫か?」
先に立ち上がったクロムが、未だ尻をついたままのメリルに手を差し出す。
『伊達に工作(戦場)が専門レベルでは居ないということを(中略)だから簡単なトラップならすぐに見抜けるぜ』と口に出そうとしていた矢先に滑ってしまった。暗闇な上に薄く引かれた油は余りに地味すぎて。その代わりもう少し大きな仕掛けならば見破る自信はある。
「ある程度目も慣れてきて見通せますし、大丈夫だと思います」
「それは良かった。そういえば、チキュウには本当の死人が出るお化け屋敷があって賞金目当てで入った人を次々と殺して――」
「ひぃっ!」
暗闇に目が慣れてきた上に元々視力が良いせいで、クロムの作った『怖い顔』をしっかり見てしまったメリルは口の端から悲鳴を洩らす。
「お、あそこに何か仕掛けがありそうだ」
怖がらせるだけ怖がらせて先に行こうとするものだから、メリルは震えて半ば固まってしまう。スリルのあることは好きなのだが、こういう怖さとは多少違う気がしなくもない。
「メリル、大丈夫か? ここの先の仕掛けは見破ったから大丈夫だぞ」
ついて来ない彼女を心配してクロムが戻った時、メリルは「大丈夫大丈夫‥‥」と呟き続けていた。
「ああ、こんな時透視が出来たら」
目的の小部屋の壁に耳を当てて中を探りながらメリルが呟いた。クロムは濡れた布飛来のトラップを早々に発見し、悠々キャッチしていた。
「(『何か』が気になる‥‥もしかして、「『何か』の退治」にするとお金がかかるから肝試しという名目で‥‥)」
「カサカサって音がする」
中の音を窺っていたメリルが告げる。だが開けぬわけにはいかないのだ。何となく、クロムは自分の予感が当たっているような気がしてきた。
「開けるか‥‥」
覚悟を決め、扉を押すクロム。メリルは泪樹から借りた松明を灯し、その後ろでウィンドスラッシュの詠唱準備に入った。
ガチャ
押して開いた扉の先には松明に照らし出された蜘蛛の姿が。
「やっぱり居るんじゃねーか!!」
「でたな〜。古の魔王か! 再び闇に封じ込めてくれる!」
クロムの叫びに、メリルの叫びが重なる。彼女の手から放たれた真空の刃が蜘蛛に命中する。
「これは何か金目の物を貰わないと割にあわねぇな‥‥」
呟きつつ、クロムも蜘蛛を退治するべく剣を振るった。
●幻ではない抱擁
「亡霊やカオスの魔物より、生きてる者のほうが怖いような気も‥‥」
「た、確かにそうですね‥‥」
デティクトアンデットに引っかかるモノがいないことを確認した導 蛍石(eb9949)。その後ろを、彼の服の裾を掴ませて貰いながら歩くアルシア・セルナート(ec3124)。先ほど階段を降りるときに二人揃って油の塗られた階段で転んだばかりだ。
「随分前の依頼では、こう、角を曲がったとたんに全裸の変態に出くわしたことがあるが‥‥今回はいないよな。いませんように」
大分目が慣れてきてもうすぐ曲がり角に差し掛かることがわかった蛍石は、祈るように呟く。
「え、そ、そんな‥‥」
真っ暗闇が苦手なアルシアが蛍石の言葉に何かを問おうとしたその時
どんっ
角を曲がった蛍石の身体に正面から何かがぶつかった。ぶつかっただけではない。「それ」はそのまま蛍石にもたれかかるようにしている。
「ひゃっ‥‥ど、どうかしましたか?」
急に立ち止まった蛍石の背中にぶつかったアルシアが不思議そうに顔を上げると――彼の肩越しに彼女を見つめていたのは、焦点の合わぬ空ろな瞳で。
「ふえっ!?」
突然の事にアルシアがへなへな座り込む中、蛍石は自分の今置かれた状態は夢だ、と自らに言い聞かせでもするように頭を振る。そして、目を閉じ、再び開ける。
「‥‥ううむ、消えない」
消えてくれたらどれだけ良かっただろうか。自分にもたれかかる謎の物体。
「ええぃっ!」
蛍石は「それ」を思い切り突き飛ばし、月桂樹の木剣を振るってCOの合成技を発動させる。
「少林寺流、蛇絡!」
ぷつっ‥‥ぽすん。
その勢いをそのまま受けたためか、何かが切れ、倒れる音がした。
肩で息をしつつ、蛍石は祈るように叫ぶ。
「――何故に、俺のまわりには、俺を脅かさない連中は寄ってこないのか。セーラ神に回答を求む。制限時間、今すぐ!!」
その叫びは地下内に反響し、勿論1階の5人達にも届いた。
●宴の後
「随分時間が掛かったようだね」
戻ってきた蛍石とアルシアに、泪樹が笑いを堪えるようにして問う。
「ごめんなさい‥‥腰が抜けてしまいまして、立ち上がれるようになるまで時間が掛かってしまって‥‥」
クロムが見破った仕掛け、曲がり角でぶつかってくる人形(明るい所で見ると顔以外はかなり適当な、案山子に近い造りだった)と目が合い、腰を抜かしたアルシア。(人形は蛍石によって壊されてしまったが、泪樹は全く気にした様子を見せなかった)
小部屋の入り口に例によって仕掛けられていた濡れた布も見事に被弾し、叫ぶ二人。それでもきちんと小部屋に棲み付いていた蝶を退治し、アルシアに至っては花を置く際に小さく祈りを捧げた。
そんなこんなで2人が戻ってくるまでには、他のペアの倍以上の時間が掛かっていた。
「さて、少しは楽しんでもらえたかな?」
「びっくりしたけど、楽しかったよ」
「いや、中々楽しかった。この屋敷はまだ‥‥何かありそうね。是非また呼んでね」
レフィツィアとメリルの指す「楽しかった」が、肝試し自体なのか他のペアの反応なのかはあえて問わずにおくとして。
「怖かったですけれど‥‥こういうのも悪くはありませんでした」
「暫くは曲がり角にはこれでもかというほど注意したいと思います」
一番反応が激しかったアルシアと蛍石。
「君達のおかげで地下に棲み付いていたモンスターも減ったようだしね、助かったよ」
「なぁ、実はちょっと思っていたんだがもしかして――」
いいかけたクロムの肩にジャクリーンが手を置き、首を左右に振る。
「泪樹様はそういう方ですから恐らく、クロム様の思っていらっしゃる通りかと」
そう、恐らく泪樹にとっては肝試しも「何か」退治も重要度は同じで。
「くそーっ!」
悔しがるクロム。だが正確に言えば「騙された」わけでは無いので適切な言葉は見つからず。
「ちゃんと報酬は用意したよ。この施設に放置されていたものだから、本当にささやかだけとね」
これで何も無かったら文句の一つでも言いたくなるが、一応謝礼を受け取ってしまっては文句を言うこともない。泪樹の用意した中の見えない人数分の袋。各々好きな袋を受け取る。
その後、少し遅い夕食が供された。
夜も遅いから、と1階の部屋への宿泊を勧める泪樹の言葉に甘えた一同。
肝試しのわくわくとどきどきとちょっぴりの恐怖を抱きながら、心地よい眠気に包まれる。
翌日の朝食の後、地下の仕掛け撤去と掃除に一同が駆り出されたのは、余談ではあるが報告書にきちんと記しておくべき事項であるだろう。