窮する民に光を与えよ

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月10日〜07月16日

リプレイ公開日:2007年07月15日

●オープニング

 青ざめた顔のひょろりとした男が、ぶるぶると震えながら冒険者ギルドのカウンターに手を突いた。肩で息をしているところから見るに、どうやらここまで走ってきたらしい。それほど急を要する内容なのだろうか。
「たすけ‥‥て、くだ、さい‥‥」
「大丈夫ですか? 落ち着いてください」
 ぜーぜーと呼吸激しい男に職員はカップに入った水を差し出した。男はそれを一気に飲み干し、人心地つく。
「ありがとうございます。馬車を降ろしてもらってから、ここまで走ってきたもので」
「で‥‥何かお困りのようで?」
 男が最初に口にした「助けてください」という台詞が気になっていた職員が訊ねると、男は顔色を変えて口を開いた。
「村に盗賊が‥‥カオスニアンが居座ってしまったのです!」
 男の言葉に今度は職員が顔色を変える番だった。

 *―*―*

 ステライド領の端にある小さな村、男はそこから商人の馬車を乗り継いで王都まで助けを求めに来たという。
 カオスニアンの盗賊たちは騎乗恐獣を数体と大きな恐獣を連れて村で一番大きな村長の家を襲い、村長一家を惨殺した。それだけでは飽き足らずに村長宅に居座り、自らが村長になったつもりなのか、村人達を脅して金銭や食料などを巻き上げているという。
 このままでは村人達は、いつ殺されるかもしれないという不安と生活が破綻するという不安を抱えたまま過ごしていかねばならない。
 村長たちの遺体は見せしめのように放置されており、弔う事も許されていない。
 男は村人達の手引きでなんとか村を抜け出して、ギルドへと助けを求めに来たというわけらしい。

 村人達の為にも――そして惨殺された村長一家の為にも、カオスニアン盗賊を退治して欲しい。

●貸与されるゴーレム
・モルナコス1騎
(輸送については大型馬車で行う)

●今回の参加者

 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1911 カイ・ミスト(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6109 ティファル・ゲフェーリッヒ(30歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea8773 ケヴィン・グレイヴ(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8306 カーラ・アショーリカ(37歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●作戦にかける思い
 決行は陽精霊輝き始める頃。敵の寝込みを襲う。そのためにはまだ村が寝静まっているうちから準備を始める必要があった。
 助けを求めに来た村人に書いてもらった地図を参考に、モルナコスを載せた馬車は付近の林の影に止めた。まだ辺りが暗いせいも有り、村からはその巨体を視認できないはずだ。仲間が村へ偵察に出ている間、音無響(eb4482)はモルナコスの側についていた。この後彼はモルナコスと一体となって、大型恐獣と対峙しなくてはならない。
「村の幸せを取り戻す為にも、俺に力を貸して‥‥」
 切なる願いを込めて、響はその装甲を優しく撫でた。
「状況がわからないことには行動も起こせませんからね」
 カイ・ミスト(ea1911)は偵察の帰還を待つ間も林と村の距離を確認、戦闘の邪魔になる遮蔽物がないかなど冷静に地形の判断に勤める。
「大技ぶちかます為の布石は打っておかなね」
 ティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)はウェザーコントロールのスクロールを開いて念じ、雨雲を引き寄せようと試みる。辺りが暗いせいもありはっきりとは解らなかったが、どうやら天候はどんよりとした曇りへと変わったようだった。
「今、戻った」
 隠密行動に長けたケヴィン・グレイヴ(ea8773)が村から帰還し、手にしていた村の地図を広げる。村人直筆のそれには何箇所か印がつけられていた。
「敵は特に歩哨を立てている様子はない。村長宅から盛大ないびきが聞こえたほどだ。騎乗恐獣は村長宅の裏手に二体。大型は村長宅に向かって右手の村はずれにいた」
 ちなみに現在皆が待機している林は村の右手――村長宅を正面から見て右手延長上に位置している。つまり距離はあるものの、大型恐獣と一番近い位置だ。
「見せしめに惨殺して、大型恐獣も待機。恐獣の強さを思い知らされる典型的な侵略行動だねえ」
 腕を組んで地図を見下ろしていたパトリアンナ・ケイジ(ea0353)が呟く。だからといって恐れ慄いているわけではない。民を敵に回した奴がどんな目に合うか、思い知らせてやるとしよう。
「特に警戒している様子もなさそうだな」
 ペットのイーグルドラゴンパピーにテレスコープで遠視をさせたランディ・マクファーレン(ea1702)。
「うん、恐獣はケヴィンさんの調査の通りの位置やね。村長さんちには5人しかおらんようやから、人質は取ってないようやで」
「ならば、人質をとられる前に村長宅を制圧しよう。位置的に、村内を通らなくても敵はモルナコスに向かうことが出来る。敵の意識がモルナコスに向いているうちに反対側から攻める」
 ブレスセンサーを用いたティファルの報告に、村長宅制圧に向かう風烈(ea1587)が方針を再確認する。
「ボクは村長宅に近い家の人から救出して、大型恐獣とは反対側の村外れまで誘導するのら」
 敵に近い位置に住む人達の方が人質にされる危険、戦闘に巻き込まれる危険が高い。村人全員を救うことは出来なくても、少しでもその恐怖を和らげて上げたいとカーラ・アショーリカ(eb8306) は村人救出に名乗りを上げた。

 そして冒険者達はそれぞれの役目を果たす為に散る。役目は違えどもカオスニアンと恐獣の恐怖から村を助けたいという思いは一つだった。

●強襲
 雨雲の隙間から薄く光が差し込む頃、村中に恐獣の叫び声が響き渡った。
 村長宅裏手へ向かったランディと烈はまず敵の足を潰す事にした。賊たちにとって村は死守する対象ではない以上、劣勢と解ったら逃げ出される恐れがある。
 オーラパワーの付与されたランディの剣が、稲妻の様な軌跡を描いて振り下ろされる。後足にその重い一撃を受けたヴェロキラプトルは立ち上がろうとするが出来ず、痛みの為か頭を振るようにして叫び声を上げた。ランディは素早く前足にもその一撃を叩き込む。前後の足を使えなくなった恐獣は、残された攻撃手段である口に生えた牙を素早くランディの肩口に突き刺した。
「ちっ‥‥」
 血の流れる肩を抑え、ランディは恐獣から距離を取る。足を使い物にならなくした以上、ある程度離れればその牙の脅威からは逃れられる。止めを刺すのは後でもいい。今は乗り物として使い物にならなくしただけで十分だ。
 同時に烈ももう1体のヴェロキラプトルに攻撃を仕掛けていた。威力よりも確実に当てることを重視し、素早い動きで何度も攻撃を叩き込む戦法はランディとは対照的だ。一撃の威力が低い分恐獣の動きをすぐに封じる事は出来ない。だが烈は、何度も振り下ろされる爪や牙を素早い身のこなしで避け続け、確実に攻撃を当ててダメージを蓄積させていく。

「何があった!?」
「わからない!」
 そんな大声のやり取りが屋敷の中から聞こえる。恐獣の叫び声で目覚めた盗賊たちがどたばたと屋敷の玄関へと殺到しているようだ。
「敵だ!」
「でかいぞ!」
「へへ、何のためにあれを連れてきたと思う、あんなのすぐに倒してやる!」
「俺達は先に行く、お前とお前は裏に繋いであるのに乗ってから来い!」
 どうやら屋敷から出た盗賊達は予定通りモルナコスの巨体に目を奪われたようだ。一人が仲間に指示の様な真似をして暫くすると、村外れで待機をしていた大型恐獣の巨躯が立ち上がる。

 ランディと烈のいる屋敷裏手方面にも走り来る足音が近づいてきた。
「村人の、期待と信頼に答えるために全力を尽くす」
 烈は既に騎乗恐獣としては役に立たなくなった恐獣達を一瞥し、間もなく角を曲がって姿を現すだろう賊たちに備える。賊たちは恐獣がまだ無事だと思い込んでいるはずだ。モルナコスの出現に気を取られ、己たちの目を覚ました叫び声が何の声なのか考えるのを失念しているだろう。
「‥‥では、小悪党には相応の報いを受けて貰うとしようか」
 回復を済ませたランディの鋭い一閃が、屋敷の裏手に飛び込んできた賊の胸を容赦なく切り裂いた。

●希望に縋る
「きゃああぁっ!」
「大丈夫です、落ち着いて避難しましょう」
 まずは村長宅に近い家の住人達を起こして助けに来た事を告げたカーラは、村人達の一部を誘導していた。突如響いた恐獣の叫び声を聞いて怯える少女を軽く抱きしめ、落ち着かせようとする。
「じきに村も解放します、今は少しでも安全な所へ」
 礼儀正しい口調の方が緊急時には安心してもらえるだろう、と騎士口調で告げる。不安げな母親に抱かれた赤ん坊が、火がついたように泣き出した。母親が懸命に泣き止ませようとするが、母親の不安な心境が伝わるのだろう、赤ん坊はなかなか泣き止まない。
 この村の人たちは、恐怖に支配されてきたのだ。女子供はもとより、大の男ですら耐えられない恐怖。未だ村に残っている村人達も、突然響いた恐獣の叫び声に怯えているだろう。
 一人でも多く、一刻も早くそんな恐怖から救ってあげたい――カーラは振り返り、今出てきた村の向こう側に見える巨体を指した。
「ほら、見てください。あそこにいる仲間達が村を救います」
 迷うことなく断定する彼女の口調に、遠くに見える巨体を眺める村人達のざわめきが和らいでいった。

●取り戻すために
 恐獣の叫び声に始まり、村内が騒がしくなった事は離れていても感じ取れた。そして前方に大型恐獣の巨躯が立ち上がり、モルナコス目掛けて移動を開始する。
 響はモルナコスを通して、自分を目指して進んでくる恐獣を見ていた。その大きさ、モルナコスのおよそ三倍。だが恐れ、逃げ出するわけにはいかない。絶対に村の皆を助けると、約束したのだから。
「三人乗ってるようだね」
 林を背にしたモルナコスの横に立ったパトリアンナ。大型恐獣を操っているのは一人だろうが、その背中には他に二人のカオスニアン盗賊が相乗りしていた。戦場に到着したら降りるつもりなのだろう。だが相手が到着するまで待ってやる義理は無い。
「さ、外す訳にはいかないぞ、と‥‥」
 彼女の手から放たれた矢が相乗りしていた盗賊の横腹に刺さり、突然の痛みにバランスを崩した盗賊は「ぐあっ!」と声を上げてそのまま恐獣から落下した。恐獣は落下した男の事など構わず、モルナコスへの接近を続ける。
「さて、反撃といきましょう」
 愛馬プロヴィデンスに騎乗したカイが、その機動力を生かして落下した盗賊との距離を一気に詰める。騎乗恐獣がこちらに来ていない以上、モルナコスが大型恐獣をひきつけているうちに賊の数を減らすのが良いとの判断だ。賊が落下の衝撃で体勢を整える事がままならぬうちに偃月刀を振るう。血飛沫を上げて蹲った賊に追い討ちをかけるように、数本の矢が突き刺さった。林を利用して身を隠しながら敵を狙い続けているケヴィンの攻撃だ。
「命を弄んだ者に相応しい末路だな」
 男が動かなくなったのを遠目から見て、ケヴィンが呟く。腐った連中だ、この末路も自業自得だろう。そんな連中に塵ほども同情心など沸かない。
 と、突然恐獣が大きく嘶いた。何事かと目をやると、パトリアンナの矢とティファルのライトニングサンダーボルトを受けた残り二人の賊が落下している。先ほどの叫びは操者落下によりカオスニアンの制御を外れた恐獣が、混乱して上げた叫びのようだ。その上恐獣はモルナコスへの接近中に響からのテレパシーによる思念を受けていた。『止まれ!』と。言葉は通じずとも「意思」自体はなんとなく恐獣にも伝わっていたようで。
「ぐぁっ!」
 恐獣の牙が味方であるはずの賊に突き刺さる。太い尾が賊をなぎ払う。混乱状態に陥った恐獣は敵味方の見境をなくしていた。それを隙と取るか危機と取るか――
「他の村人さんたちと、その笑顔は絶対に護るんだ!」
 響の操るモルナコスは迷わずゴーレム剣を振るった。その重い攻撃は、賊に噛み付いていた恐獣の背を深々と切り裂く。恐獣の瞳がモルナコスを――響を捉えた。自らに傷を与えた者を次の標的と認識する。賊を捨てた恐獣の牙が、モルナコスを襲う。
「いくら多少の魔法や攻撃は効きそうも無いからといって、ただ見ているだけなんてうちの性に合わん!」
 人の手に余る巨大な敵だからといって、傷を負っても尚戦い続けるゴーレムに全てを任せてただ見ている事なんて出来ない。思わず叫び、ティファルは詠唱を始める。
「(村の子供達の未来はうちらが守るんや)」
 この大技の為に予め布石は打っておいた。後は詠唱が完成するのを待つのみ。
 その間も必死にモルナコスを操り続ける響に、次々と仲間の援護攻撃が飛ぶ。
「残念ながら、食われてやるわけにはいかないんでね‥‥」
「腐った連中は絶対に生かして帰さない」
 接近戦に切り替えたパトリアンナと、死角を狙うケヴィン。
「村長さん一家の為にも、村の解放を!」
 カイは恐獣の足元に斬り込む。
「いでよ、天雷! ヘヴンリィライトニング!!」
 ティファルの叫びと共に上空の雨雲から、雷が恐獣の脳天に落ちる。
「負けられない、俺、約束したから、絶対村の人を助けるって!」
 仲間の援護を受けた響は水晶球に置いた手に力を籠め、剣を振り下ろした。
 村人達を救いたい――その強い思いの籠った一撃は恐獣の首筋に食い込む。

 後を引く、長い断末魔の悲鳴が、辺りに響き渡った。

●光の抱擁
「あ、光‥‥」
 そう呟いたのは誰だっただろうか。

 念の為に村長宅に入り他に敵がいないか確かめていた烈は、村長の妻と娘と思われる遺体を発見した。絶命する瞬間まで恐怖で見開かれていたその瞳をそっと手で閉じてやり、窓越しにそれを見た。
 足を傷つけ身動きを取れなくした騎乗恐獣に止めを刺したランディは、村長宅の裏手で。村人達を保護したカーラは村外れで。
 戦場にいたパトリアンナ、カイ、ケヴィン、ティファルは戦場で。響は――モルナコスの目で。
 大型恐獣の悲鳴は戦いが終結した事を皆に知らせることとなった。
 安堵した一同を、雲間から差し込む一筋の光が照らす。
 雨雲は次第にはけて行き、光は村とその周辺を暖かく包み込む。
 まるで村長一家を精霊界へと導くような、村の為に尽力した一同を労うような、そんな陽精霊の輝き。

 取り戻された未来への希望という光の下、村の機能は次第に回復していくだろう。
 冒険者達にとってはよくある、小さな依頼だったかもしれない。
 だが救われた者たちにとっては生涯深く記憶に残る事件となったのは間違いない。

 冒険者達が村人達の笑顔をも取り戻したのは、まごう事なき事実だ――。