お嬢様の求めるもの
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月11日〜07月16日
リプレイ公開日:2007年07月21日
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●オープニング
●素直になれないお嬢様
あるところに貴族のお嬢様がいました。
お嬢様は素直になれない性格で、いつも敵を作ってばかり。
そんなお嬢様には毎日のように贈り物が届きます。
それはお嬢様のお父様がそれなりに良いお仕事をしていたからです。
お嬢様には毎日のように届く贈り物が、間接的にお父様の機嫌を取るためのものだとわかりきっていました。わかりきった上で何食わぬ顔で贈り物を受け取っていました。
けれどもとある貴族の男からの贈り物だけは、他の男からの贈り物と同じように受け取ることが出来なかったのです。
激しくアプローチをかけてくるその男が、家や他人の力を借りなければ何も出来ない事が許せなくて許せなくて、お嬢様はいつもその男に冷たく当たってしまうのです。
自分がその男から欲しいものは物ではないのに何故解ってくれないの、お嬢様はそう思っていました。
お嬢様は使用人が恋人と幸せになる事も許せず、二人を引き裂こうとします。
自分には、その幸せは手に入らない――そう思い込んでいたお嬢様に、ある日恋のキューピッドたちがアドバイスをしました。
自分から動かないと何も変わらない、と。
お嬢様は恋のキューピッドと出会い、自分がその男の事を好きなのかもしれないと自覚し始めました。
そしてキューピッドのアドバイス通り、男に直接言いたい事を言い、一度その頬を叩いてやろうと思ったのです。
しかしそれまで毎日のように続いていたその男からの贈り物が、ある日突然途絶えてしまいました。
それだけでなく男はどのパーティにも姿を見せなくなったのです。
しびれをきらしたお嬢様が直々に使いを送って家に誘っても「お坊ちゃまは体調不良で療養中です」との返事が返ってくるのみ。
折角の決心のやり場を無くしたお嬢様は使用人に命じたのです。
「私が一番欲しいものを持ってきなさい!」と。
●何を求める?
冒険者ギルドのカウンターに金髪の男と緑の羽根のシフールの姿があった。額に傷のある男は「金色のシリウス」。シフールの少女は思いの籠ったものが好きなチュール。
「‥‥毎度のようにうちのお嬢が厄介事を持ち込んですまない」
シリウスがのっけからそう謝るという事は今回も厄介ごとなのだろう。
「うちのお嬢が‥‥『私が一番欲しいものを持ってきなさい!』などと無茶を言い出したので協力してほしい‥‥」
「ルルディア嬢がですか? というか、そんな漠然とした無理難題‥‥心当たりはあるのですか?」
渋面のシリウスに問いかける職員。その問いに答えたのはカウンターに座したチュールだ。
「ルルディアが一番欲しいものと言ったら、マルダスしか思い浮かばないね!」
「‥‥こいつ曰く、そうらしい。確かに、しつこいくらい毎日続いていたハリオット家の次男マルダス殿からの贈り物が途絶え、パーティでも会えず、最後の手段とばかりに家へ招く使いを送ってもマルダス殿との連絡が付かなくなった事が原因だと、さすがに俺も思う」
さすがにそこまでは鈍くなかったか、と呟くチュールの頭をシリウスは小突いた。
「そのマルダス殿の居場所を突き止めるのが依頼ですか?」
「いや、違う‥‥なんと説明したらいいか」
「マルダス救出!」
「それも違う‥‥」
上手く説明できずに考え込むシリウスはチュールの言葉を一蹴。間違ってはいないが、それでは語弊がある。
「ハリオット家の使用人に古い知り合いがいてな‥‥そこから得た情報なんだがマルダス殿は病気でも何でもないのに別邸に軟禁されているらしいんだ‥‥」
「理由まではその人もしらなかったんだって〜」
「もしマルダス殿に軟禁状態から脱したい、お嬢に会いたいという気持ちがあれば、別邸からの脱出を手伝い、お嬢に会わせて欲しい。‥‥ただし別邸とはいえ貴族の家だ。そして相手は貴族だ」
シリウスの言葉に職員も「難しいですね」と呟く。
「‥‥さすがに『誘拐』と認識されるのはまずい。だから‥‥彼を脱出させる場合は『彼が自ら抜け出した』と屋敷の者に思わせるように細工をして欲しい」
「なるほど。誘拐だと大事になりますが、彼が自分で脱出したのならば事件にはならないでしょうね」
「罪人を捕えているわけではないから‥‥警備もあってないようなものらしい。ただ問題は、マルダス殿自身が冒険者達が自分を脱出させに来ると言うことを知らないことだ。下手に彼の部屋に侵入して騒がれでもしたら、捕まるだろう」
一応手に入れられるだけの情報は手に入れてきた、とシリウスは告げた。
「マルダスのことだから、きっとルルディアが会いたがっているって聞いたら喜ぶと思うんだよね!」
「‥‥‥よほどのことがない限りはな」
確かに手放しで喜びそうだ、と思ったシリウスはある一つのことに気が付く。
「チュール‥‥お前、マルダス殿の名前、ちゃんと覚えられるようになったんだな」
そこですか。
●情報
・別邸は二階建て
・マルダスの軟禁されている部屋は正面玄関に向かって二階右端の部屋
・正面玄関側と右側に窓がある
・部屋の入り口には外から鍵が掛けられている
・窓には鍵が掛けられていない(マルダスはバルコニーから1階に降りるなんて事出来ないだろうと思われている)
・現在別邸に在住しているのは執事、メイド数人、コック、警備の私兵2人
・マルダスは部屋から一歩も出ることは出来ず、トイレなども室内のものを使用
・部屋の前、2階に見張りはなし。ただし時間ごとに食事やお茶を執事やメイドが運んで来る。
・午前中はベッドメイクや部屋の掃除などで2階にも人が出入りする
・使用人と警備の私兵は殆ど1階で生活
・警備は昼間は特に外に立ったりすることもなく、使用人の手伝いをしたりするらしい
・夜間は数時間毎に一人ずつ、屋敷の外周を見回る程度の軽い警備
二階
←階下への階段
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┃∴∴∴∴∴∴∴廊下∴∴∴∴∴∴∴∴∴■┃
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┃∴∴∴∴∴∴∴∴■∴∴マルダス∴∴∴○┃
┃∴∴∴空室∴∴∴■∴∴∴軟禁部屋∴∴○┃
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┃∴バルコニー∴∴■∴∴∴バルコニー∴■┃
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■‥壁
▲‥扉
○‥窓
●リプレイ本文
●事前準備の積み重ね
今回はわからないこと、気をつけなくてはならないことが多い。だからこそ無事に目的を達成させるためには事前の準備が欠かせなかった。
フォーレ・ネーヴ(eb2093)はマルダスを連れ出した後の受け入れ準備を整えてもらいたい、とアルシア・セルナート(ec3124)と相談し、アルシアがその旨を記した手紙を作成した。
正面から「見舞いの使者」として赴く予定のルイス・マリスカル(ea3063)は、身の証が立つようにとシリウスを通して見舞いの依頼状を得ることにした。同時にアルシアの作成した「マルダス受け入れ要請」の手紙も預かる。
屋敷に侵入してマルダスと直接接触する予定のルシール・アッシュモア(eb9356)は、声を出さずに済むようにと質問状の作成に余念がない。
街の外に、屋敷侵入の事前練習に使えそうな場所を見つけた御多々良岩鉄斎(eb4598)は、一度試しにバルコニーまで侵入してみたフォーレにその構造を聞き、板と線とで簡単にだが練習場を作成する。細心の注意を払っての侵入で調査されたバルコニーまでの高さやその他構造は、有益な情報となった。
●状況証拠制作
「ルルディア様の命にて、見舞いに参りました。何卒、マルダス様にお目通りを!!」
日中、堂々と屋敷の正面で上げられた大音声に、扉が開かれる。見舞いの使者を装ったルイスは、二階にいるであろうマルダスに届くようにとわざと大声を張り上げたのだ。
ルルディアが心配していることをマルダス自身の耳に入れられれば、彼がいなくなった時に「ルルディアへの想いが高じて自ら脱出した」と認知されるだろう。彼に直接面会が叶えばその可能性は更に上がる。
「ぇ‥‥その、マルダス様はご病気で‥‥」
応対に出たメイドにルイスは道中の賊に備えて武装しているのを詫びると、メイドを怯えさせないように、だが意思は込めた丁寧な口調で告げた。
「重篤な病気ではないか確認するよう主人よりきつく言われております故、出来れば直接面会をさせていただきたいのですが」
「でも‥‥」
「使者様がこちらへいらしたってことは、本邸の方が許可を出してこの場所を教えたってことじゃない? だったらお通ししてもきっと大丈夫よ」
迷うメイドに、後ろから近寄ってきたもう一人のメイドが告げる。応対に出たメイドはそうね、と頷き「では、どうぞ」とルイスを邸内へ招きいれた。
「ル、ルルディアが僕のことを心配してるって!?」
挨拶と、以前ルルディアの誕生日パーティで彼の顔を潰してしまった非礼を詫びたルイスに、マルダスは食いつかんばかりに近寄って問う。恐らく挨拶なんてまともに聞いてはいないだろう。この元気、どう見ても病気には見えない。やはり病気というのはただの口実のようだ。
「ええ。ルルディア様はマルダス様のことを酷く心配しておられ、快癒したら是非お会いしたいと」
「で、でもここに閉じ込められてから贈り物の手配も出来なくなったし、ルルディアは怒ってるんじゃないか? 僕なんかよりあのシリウスの方がいいんだろうし」
彼の口から出た、どこかずれた質問。表面に出そうになる苦笑を懸命に心の内に抑え、ルイスは「僭越ながら」とあくまでもルルディア側の使いとしての態度を崩さずに告げる。
「ルルディア様が『金色のシリウス』を常に側においているのも貴方に彼を超える一流の男となって、自分を迎えに来て欲しいとの叱咤でありますまいか。それに」
ルイスはもう一つ、付け加える。
「ルルディア様がお会いしたいのは『貴方からの贈り物』ではなく『貴方自身』だとお見受けしますが」
●侵入
「ルルディアさんがマルダスさんと直接お会いになる決心をされたのに‥‥貴族のお家事情というのも難しいものですね」
「しかし性格の話を聞く限り恋の三角関係では無いとはっきり判るのが面白いのう」
辺りに闇が落ちて暫くした頃、屋敷周辺に集まった一同は侵入の為の準備を始めていた。ぽつり、呟いたアルシアの言葉に、岩鉄斎が答える。
「二人ともなんか厄介な性格してるしね〜上手くいくといいな〜」
岩鉄斎にオーラエリベイションを付与してもらったルシールは、マルダスの部屋に侵入するという最重要任務を担っている。バルコニーへの侵入に関しては、仮設置の練習場で何度も練習をした。よほどのことがない限り失敗はないだろう。
「まあ本人たちにとって直したくとも治せない性格だから、笑って良いところではないのかもしれんが」
「何とかお二人が直接お話して、上手く意思の疎通をしていただければよいのですが‥‥」
そんな会話をしていると、先行して屋敷の警戒をしていたフォーレが戻ってきた。
「そろそろ行けそうだよ。みんな準備はいい?」
その言葉に頷く一同。
念の為に毛布を抱え、侵入するルシール、警戒にあたるフォーレ、テレパシーを使用するアルシアがバルコニー下まで移動する。
「始めるね〜」
小さい声で呟き、ルシールがレビテーションのスクロールを広げる。フォーレとアルシアは万が一落下した時の為にと毛布を広げた。
ルシールの身体が浮かび上がる。丁度、バルコニーの手すりに手が届く高さだろうか。彼女は手すりにつかまり、それをよいしょと乗り越える。
「第一段階成功だね」
ルシールの姿が手すりの向こうに消えたのを見て、フォーレは安心して毛布を張るてを緩めた。
「そうです‥‥ね‥‥っ」
同じく手を緩めたアルシアの頭に何かが落ちてきた。かつん、と小さな音を立てて転がったそれは木の実。ブレスセンサーによる調査で部屋の中の反応が一人だった時のルシールからの合図だ。上を見るとルシールが両手を合わせて「ごめん」という表情を作っていた。アルシアは苦笑して「大丈夫ですよ」という表情を作り、テレパシーの準備に入った。
『マルダスさん、聞こえますか? 私はルルディアさんの使いの者です。声を出さないで聞いてください』
「!?」
室内でガタリと音が立てられたのが、バルコニーにいるルシールには聞こえた。だが声は聞こえない。
『今、バルコニーに仲間がいて、これから貴方をルルディアさんの元まで連れていきます。私の呼びかけが聞こえているならば、少しだけ窓のカーテンを開けてもらえませんか?』
しばしの間。
長かったのか短かったのか解らない。
が、少ししてカーテンが開かれ、中の灯りが少し漏れ出すのがどこからでも確認できた。
●脱出前に大切な確認
室内へ侵入したルシールは、予め用意しておいた羊皮紙のうち『はい』と『いいえ』と書かれたものをマルダスに手渡す。そして質問の紙を順に見せて行った。
『お尋ねします。ここから逃げたいですか?』
すかさず上げられた紙は『はい』。
『今でもルルディアさんと結ばれたいと思ってますか?』
これには首がもげる位の勢いで頷きつつ『はい』が上げられる。
『貴方が求めているのは彼女の血統ですか?』
『財産ですか?』
両方の質問に対する答えは『いいえ』。
伯爵家子息といっても次男。爵位を継ぐのは長男であるから、ルルディアと結婚して時期男爵位や財産を得たいという可能性もあったのだが、どうやら違うようで。
『彼女自身ですか?』
真剣な表情で『はい』の紙を上げるマルダス。
そして最後の質問。
『それを彼女に直接告げられますか?』
これには不思議そうに首をかしげたマルダス。部屋にあった羊皮紙にペンを走らせる。そして見せられた紙に書かれていた言葉は――
『僕はいつもいつも、何度も何度もルルディアを愛していると伝えている!』
これにはルシールは苦笑を浮かべざるを得なかった。
彼は自分の愛情表現方法が間違っている故、ルルディアに上手く伝わっていないことに気がついていないようだ。
●勘違い
「話を聞いたところによると、自分のやり方がまずいということに全く気がついていなかったようだのう」
岩鉄斎が言うと、マルダスは「彼女を愛しているから毎日珍しいものを贈っていたんだ」と胸を張った。
マルダス直筆の書置きを残し、服とシーツを繋ぎ合わせた即席縄をバルコニーに繋ぐ。それを伝って彼を下ろすのに多少苦労はしたが、下でフォーレとアルシアがもしもの時の為に毛布を広げて待っていたので安心したのかなんとか見張りが回り来る前に脱出を済ますことが出来た。
「ルルディアねーちゃんは物よりももっと別のものが欲しいんだと思うけどな〜」
「なにっ!?」
「人の心は物で買えるものではありませんしね‥‥」
フォーレの言葉に「それは初耳だ」という驚愕の表情を見せたマルダス。アリシアは苦笑を洩らした。
「男ならば金や物や家柄に頼らず、素直に気持ちをぶつける事をすすめるぞい」
「きっとその方がルルちゃんも喜ぶんじゃないかなぁ〜」
岩鉄斎とルシールの言葉にうむむと唸るマルダス。彼は物を贈ることが一番彼女を喜ばせると思っていたようだ。
「そういえば、マルダス様は何故別邸に軟禁されていたのですか?」
「それは‥‥」
ルイスの質問に突如顔を曇らせるマルダス。彼はそれまでの横柄な貴族然とした様子から一転して、不安な表情を見せた。
「兄上が行っている悪行を知ってしまったからだ。近いうち、もしかしたらうちの評判は落ちて今までみたいにルルディアに贈り物をすることが出来なくなるかもしれない‥‥それに逃げ出したから、勘当されるかもしれない」
「別に贈り物や家柄が重要ってわけじゃないと思うよ〜」
「贈り物が出来なくなっても、ルルディアは僕を好きになってくれるだろうか?」
フォーレの言葉にぽつりと呟くマルダス。岩鉄斎は元気付けるように彼の肩を叩いた。
「それは直接本人に聞いて見るのがいいぞい」
「そうですね、是非じっくりとルルディアさんと向き合ってください」
アルシアに微笑まれ、マルダスは素直に小さく頷いた。
●結びついた赤い糸
冒険者達により送り届けられたマルダスを見たルルディアは、駆け寄って彼の頬を一度叩いた。
もしかしたら勘当されて今までのように贈り物が出来るかもしれないというマルダスを、彼女は一蹴した。
貴方が私を好きなのなら、そんなこと関係ない、と。
もう二度と会えないかもしれない、会えない間にそう思ったのか、彼女は素直な気持ちを吐露した。
「おぬしも男らしく、はっきり気持ちを伝えるが良い」
岩鉄斎に促され、マルダスも気持ちを伝えるべく口を開いた――君を心から愛していると。