秋の味覚を届けたくて

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月15日〜09月20日

リプレイ公開日:2007年09月20日

●オープニング

 冒険者ギルドのカウンターに、みるからに垢抜けない壮年の男性が寄ってきた。
「何か御用ですか?」
 尋ねる職員に、男性は「急ぎでちょっとお願いしたい」と告げた。
「うちの息子が森に入ったまま帰ってこないんでな」
 急を要しそうな内容をほのめかす言葉の割には、元々の性分なのか男性はあまり焦っているように見えない。
「とりあえず事情を」
「あぁ‥‥。息子は熱を出した身重の嫁にな、秋の味覚を食べさせて元気付けようと考えたらしいんだ。たまに俺や村の者と一緒に狩りに行くこともある森だったからな、秋の味覚が収穫できるようになるにはまだ少し早いんじゃないかって以外は別段止めはしなかったんだがな。まぁ、帰って来ないわけだ」
「お嫁さんがいらっしゃるという事は息子さんは大人ですよね? 森へ行ったのはいつですか?」
 記録を取りつつ職員は男性に問う。
「昨日‥‥いや一昨日か。二晩帰ってきていない計算になるな。嫁が怒って『自分で探しに行く』と言い出し始めたから俺がここに来たんだが‥‥」
「それはお嫁さんもさぞかし心配で‥‥え? 『怒って』?」
 聞き間違いかと男性の顔を見つめる職員に、男性はうむ、と頷き返した。
「息子を心配する心から出る怒りなのは俺もわかっているんだがな。嫁は昔から気が強く、肝の据わった子供だったのに対してうちの息子は小柄で気も小さく、どちらかといえば苛められるタイプだからなぁ」
「そんな息子さんがお嫁さんの為に一人で森に入ったという事は‥‥相当お嫁さんのことを思っているのでしょうねぇ。で、貴方は息子さんがまだ森の中にいると?」
 内心の羨望を悟られぬように職員は先を促す。
「あぁ。気だけ先走って森へ入ったはいいが、大方崖から足を滑らせでもして動けなくなっているか、どこかで迷っているか‥‥」
「か?」
「最近チラッと森の中で、ちょっとでかい蛇だったか蛙だったかトカゲだったかわからねぇが見かけたって話を聞いたもんだから、そいつらに襲われて避難しているのかもしれねぇなぁ‥‥」
「ちょっ‥‥それを早く言ってくださいよ!」
 どこか危機感の薄い父親に気の弱い息子。これはお嫁さんも大変だ、と職員は内心同情を禁じえない。
「そうだなぁ‥‥数ヶ月前に結婚したばかりなのに未亡人になるかもしれねぇって事態に陥ったら、嫁も怒るわなぁ」
 なんだかずれた事を呟く男性を横目に、職員は超特急で書類を仕上げるのだった。



◎男性より聞き出した森の簡易見取り図
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┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲入口┃
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┃洞∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴▲▲▲▲▲▲∴▲┃
┃窟∴∴▲∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲∴▲▲▲▲▲▲∴▲┃
┃A∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲∴▲┃
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┃▲▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲∴∴∴∴▲┃
┃▲▲▲▲▲∴▲▲▲∴湿地∴▲▲▲▲▲▲∴▲▲∴▲┃
┃∴∴∴▲▲∴▲▲▲∴湿地∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲∴▲┃
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┃∴∴▲▲▲∴▲▲▲▲∴∴∴∴▲▲▲▲∴∴∴▲▲▲┃
┃∴∴∴▲▲∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲崖∴∴∴∴∴∴▲┃
┃∴∴∴▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲崖∴∴∴∴∴∴▲┃
┃∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴▲▲崖崖崖崖崖崖崖崖┃
┃湖湖∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲∴∴∴∴∴∴洞窟B∴∴┃
┃湖湖∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴┃
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▲・木々
∴・道

・洞窟A、洞窟B、湖付近の何処かに青年は避難しているようです。
・例年ならもう少し秋が深まれば崖上の広場では山菜が、崖ではキノコ類が、湖付近と洞窟A付近の木では果物がとれるようです。
・崖から真っ直ぐ洞窟Bへ降りる事は不可能では有りませんが、相応の準備と腕が必要になるでしょう。
・湿地、湖付近ではモンスターの姿が見受けられることがあります。それ以外の場所で遭遇しないというわけではありません。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec1370 フィーノ・ホークアイ(31歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec2412 マリア・タクーヌス(30歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 ec2869 メリル・スカルラッティ(24歳・♀・ウィザード・パラ・メイの国)
 ec3561 瑞樹 一太(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●行方不明の秋の味覚探し(?)
 例の旦那さんがいるであろう場所はある程度絞られるため、冒険者達は3つの班に分かれることにした。
 こちら、一番遠い湖へ向かう班は湿地帯を通らず目的地を目指すフィーノ・ホークアイ(ec1370)、音無 響(eb4482)、瑞樹 一太(ec3561)の三人である。
「ふむ‥‥この木の根にも美味そうな茸が‥‥まだ小さいがの」
 秋の味覚ある場所に夫有り、と考えるフィーノは持ち前の知識を生かしてちょくちょく茸やら果物やらを見つけていく――ただしその殆どがまだ収穫するには早い、若いものだが。
「‥‥まだ食べられないのか」
 フィーノの言葉に後ろを歩く一太がぼそりと独り言めいた呟きを洩らした。
「ふ、二人とも、行方不明の秋の味覚‥‥じゃない、旦那さんを探しましょうよ」
 事前に借りた旦那の私物を愛犬ハルに嗅がせていた響は、秋の味覚に意識が行ってる二人をたしなめようとしたが、何か、ちょっと混ざった。
「うむ、そうじゃったのう」
「あの父親には危機感がなかったが、行方不明の旦那さんはろくでなしなんだろうか」
 ブレスセンサーの詠唱を始めるフィーノ。一太は実は旦那探しにはあまり興味はなく、むしろ別のことが気に掛かって仕方がない。
「よろしく頼むね、ハル‥‥行方不明者救助の時は、やっぱり犬達にも力を貸して貰うのが基本だって思ったから」
 響の微笑みにハルはワゥンッと一声あげて辺りの匂いを嗅ぎ始めた。湖まで距離が大分あるが、もし旦那がその道を通ったなら匂いを追えるかもしれない。
「ふむ、おそらく他班の面子らしき団体のと、それより小さめのがいくつか。これはモンスターかの。残念ながらそれらしきものはまだひっかからぬのう」
「何もなければいいけれども」
 ブレスセンサーの結果を聞いて一太が心配そうに呟いた瞬間、風が木々や草木を揺らした。
「おぉ、あれはもしやプラムではないか?」
 風に揺らされた事でちらっとその実が見え隠れしたのだろう。それを目ざとく見つけたフィーノが駆けて行く。
「ハル、手がかり見つからないかな?」
 別の意味で心配になった響は懸命に捜索を続ける愛犬の隣にしゃがみこみ、縋るように尋ねた。

●愛妻家? 恐妻家?
 湿地付近を経由して洞窟Aへと向かうのはランディ・マクファーレン(ea1702)、メリル・スカルラッティ(ec2869)、操 群雷(ea7553)の三人。うち群雷は「足が短いドワーフにとっては沼や湿地は厳しいアル」と湿地を避けるルートを希望したので、湿地を抜けた先で合流することにしていた。
 そして残りの二人はというと――湿地で交戦中だった。
 ランディがエレメンタラーフェアリーのエルデにグリーンワード使用を頼もうとしたその時、湿地から数匹の蛙が姿を現した。毒々しい極彩色の皮膚はぬめぬめしており、約30cm程というその大きさもあいまって見ていて気持ちのいいものではない。
「援護しますね!」
「頼む」
 後方に下がったメリルがウインドスラッシュの詠唱に入る。その間にランディは高速詠唱で片腕にオーラシールドを作り出していた。そしてメリルの詠唱が完成する間に、とランディは手近な蛙に二度、斬りかかった。他の蛙が液体を飛ばして攻撃してくるが、彼はシールドで受け流し、あるいは回避して凌いでいく。そこにメリルの詠唱が完了し、真空の刃が蛙を切り裂く。加えてランディのスマッシュ。これで1体の蛙が動かなくなった。
「まだいるな‥‥どうする?」
「操さんが心配だし、逃げ切れるようならとりあえず洞窟へ向かうのを優先しよう」
「そうだな‥‥」
 二人は蛙が飛ばし続ける液体に注意しながらも、急いで湿地を後にすることにした。


「一昨日からだから‥‥旦那さんはちゃんと食べてるかな。心配」
「愛妻家なんだか恐妻家なんだかわからぬが、関心でも有り無謀でも有り‥‥。心配の余り激昂する奥方の為にも、さっさと連れ戻そう」
 蛙たちを振り切って洞窟A付近まで到着した三人。エルデにグリーンワードで質問をさせつつ、ランディがメリルの呟きに答えた。
「料理コソ愛情。息子サンは良クご存知アルな」
 付近の木に胡桃が生っているのを見上げながら群雷が呟いた時、エルデがランディに向かって首を振って見せた。
「どうやら男の人は見ていないそうだ」
「そうか〜。でも一応洞窟の中も確認してみよう? 中に入ったら私ステインエアーワードを使ってみるよ」
「そんなに深イ洞窟ではなさそうアルね。入ッテみるアル」
 念の為、と提案するメリルに二人も賛成し、明りを灯してその中へと足を踏み入れた。

●どこかで見たことあるような
 崖を降りて洞窟Bへと向かうのは風 烈(ea1587)、マリア・タクーヌス(ec2412)、結城 梢(eb7900)の三人。
 崖上の広場には情報通り食べられそうな草がいくつか生えており、崖から生えた木には白や茶色の茸が生えている。
「知り合い夫婦を彷彿とさせると思えば、まさか本人達とはな」
「マリアさんはローエンさんご夫婦と面識がおありなのですか?」
 森の詳細についての聞き込みと捜索に必要な旦那の名前を知るために村に立ち寄った冒険者達。会ってみれば夫の無謀な行動に激昂しているのはマリアの見知った顔で。
「ああ。二人の結婚パーティでちょっとした余興を手伝った縁でな」
「(まさかとは思いますけど、奥さんが怖くて逃げているとかいうのはないでしょうね‥‥)」
 村に寄った際に響になだめられていた奥さんを思い出し、梢は心の中でだけそう呟いた。
「ここから滑り落ちた可能性が高そうだな」
 その時ローエンが崖から滑り落ちた形跡がないか調べていた烈が二人を招いた。確かにそこには土が抉り取られたような跡があり、その下の木に生えた茸にはむしりとられたような跡があった。
「茸を取ろうとして無理をしたか」
 マリアはローエンの顔を思い描いてふぅ、と溜息をつく。
「俺が先に降りよう。途中食べれそうな茸があったら持ち帰ることにする」
 自身の身体と崖付近の木にロープを結びつけて命綱とした烈が、言ったかと思うと武器を岩の間に器用に刺しながらさくさくと崖を降りていく。
「私は烈さんの使ったロープを使わせてもらいましょう。本当はリトルフライとかの魔法が使えればいいんでしょうけれど‥‥」
「慣れないことをするのだ、十分に注意した方がいい」
「はい」
 烈が崖下に下りたのを確認し、今度は梢がロープを使って崖を折り始める。が
「きゃあっ!」
 岩肌を捉えきれなかった足が滑り、ぐん、と体重が両手に掛かる。態勢を立て直すまで梢の細腕は自重を支えきれず、手がロープから離れた。
「危ない!」
 すんでのところで烈が梢の身体を受け止める。命綱をつけていたとはいえそのまま落下していたら無傷ではすまなかっただろう。
「すいません‥‥ありがとうございます」
「いや、無事ならよかった」
「私達自身が怪我をしては元も子もないからな、無事で何より」
 レビテーションを利用してゆっくりと崖上から降りてきたマリアも、梢の無事な様子にほっとした表情だ。
「‥‥‥誰か、いるんですか‥‥?」
 と、そこにか細い声がかけられた。注意しなければ聞き逃してしまうかもしれない、そんな小さい声だ。声の出所を探して三人が辺りを見回すが洞窟外に人影はない。
「ローエンさん、もしかしてここにいらっしゃいますか〜?」
 梢がランタンに火を灯して近くの洞窟に翳す。入り口付近で雨露を凌いでいたのだろうその人物は急に明りに照らされて一瞬びくっとしたようだが、逃げようとはせずに自分の名を呼んだ人物達を不思議そうに見返した。
「ローエン、私だ、マリアだ」
「え‥‥マリアさん? 何故‥‥ここに‥‥」
 見覚えのある顔に安心したのか、ローエンの声からは緊張が消えた気がする。
「ローエンさんのお父さんに頼まれて貴方を探しにきたのですよ。奥さんもとても怒っ‥‥心配しているみたいですし、帰りましょう?」
「あ‥‥でも、まだタニスに食べさせるものが‥‥これ一つしか取れてなくて‥‥」
 ローエンが差し出したのは崖から落ちたときに掴んで離さなかったのだろう、少し萎れた茸だ。
「馬鹿者! 妻をこれ以上心配させる気か! ただでさえ崖から落ちて怪我をしておるのだろう!」
「‥‥はぃぃ‥‥っ」
 マリアの剣幕にびくりと震わせた彼の身体は良く見ると衣服は所々破けて、泥がこびりつき、少量だが血の固まった箇所もある。
「崖から落ちて動けないからここに留まっていたんだろう? 奥さんは怒ってそうだが、これを持っていけば許してくれるかもな」
 烈は崖から降りる途中で採取した茸の入った袋を差し出してみせる。まだ小さい物は取らないようにしたため、数は多いとはいえないが立派な茸だ。
「あ、ありがとうございます‥‥」
 烈の心遣いに感謝したローエンはこれ以上の無謀な自力での採取を諦めてくれたようだ。妻のためにという心意気は素晴らしいがどう考えても彼にこれ以上の探索は無理だ。マリアも梢も内心ほっとする。
「手当てをしたら、帰りましょうね」
 梢に応急手当を施されながら、ローエンは何度も何度も小声で「ありがとうございます」と繰り返していた。

●合流
「無事で良かった‥‥愛する人の為という気持ちはわかるけど、あんまり無茶は駄目ですよ」
 洞窟B班がローエンをつれて大回りルートを進んでいると、途中で湖班と合流することができた。響は無事に見つかったローエンの顔を見ると安心したように微笑む。
「まだ若いのもあったが、結構色々見つかったよ」
 一太の手にはプラム。
「トカゲとマムシがいたんでとりあえず逃げてきたが、ほれ、葡萄だ」
 ほい、と一粒口に運ぶフィーノ。湖付近でブレスセンサーによる探査をした際、洞窟B付近に四人ほど人がいることがわかったのでモンスターと交戦する前に美味しい所だけ持って引き返して来たという。
「あ、旦那さん見つかったんだ、よかったー!」
 出口へ向かう途中、自然と収穫のなかった洞窟A班とも合流する形になる――いや、別の意味で収穫はあったのだが。
「見つかったアルね、ヨカッタヨカッタ」
「村人に教わっておいたおかげか、これだけだが見つけることが出来た」
 メリル、群雷、ランディの手にはクランベリーや胡桃、へーゼルナッツが。やはりまだ少し時期が早いせいもあるのか、大量収穫とまではいかなかったが他班の収穫物とあわせると十分すぎるだろう。
「こ、こんなに沢山‥‥僕なんて、茸1つしか見つけられなかったのに‥‥」
 烈に背負われたまま、ローエンは感動で目を潤ませる。崖上にもいくつか食べられる草があったはずなのだが。恐らく良く見れば道中にも何かあるはずなのだが。彼には崖に生えた茸しか見えていなかったのだろう。
「無事で何よりだ。これで奥方の激昂も収まるだろう‥‥」
 烈の背から愛馬の背へと彼を移しつつ、ランディは呟く。
「これできっと奥さんも喜んでくれるよ! 赤ちゃん、奥さんみたいに元気でローエンさんみたいに心の優しい人になるといいね」
 メリルの笑顔にローエンは頷き、口を開いた。
「それに‥‥僕を助けてくれた皆さんのように、困っている人の為に動ける‥‥そんな子になって欲しいです‥‥本当に有難うございます」

 秋の味覚の本格的な収穫シーズンまであと少し。
 少し早めの、レアで愛情の篭った秋の味覚を口にすれば、奥さんもきっと元気に――怒りを静めてくれるだろう。
 あ、でも崖から落ちて怪我をした姿なんてみたら、心配でもっと怒るかもしれないけれども。