たとえ嘘が真だろうとも
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月17日〜09月22日
リプレイ公開日:2007年09月20日
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●オープニング
「力を貸してくれる冒険者を探している」
ギルドのカウンターで黒髪の青年、レシウスは告げた。
彼は、ある貴族が秘密裏に開いている謎の宴「オフィーリア」について調査をしているという。
現在解っている内容は「少女に奉仕させる宴」であること、「主催者直々に選ばれた貴族や商人しか参加できない」こと、「貢物として少女達を差し出す者がいる」こと、中には「自分の娘を差し出す者もいる」こと。また、少女達を誘拐してきているという話もある。
その宴を告発したい所だが、その貴族に繋がる確固たる証拠もなく、宴の件も裏に流れる噂に過ぎない。
実際に宴を知る者から情報を得、宴に潜入して調査が出来ればよいのだが、宴に招待されることで恐らく甘い汁を吸っている者達が、その貴族を裏切る協力などしてくれるはずもなく‥‥調査は行き詰ったかのように思えた。
「ところが条件付で、俺に手を貸してもいいという者が現れた」
その人物は30代初め位の男性占い師。宴の主催者に直々に雇われていて、宴に招かれた客に『都合のいい占い結果のみを告げ』て楽しませる役目をしているという。口止め料も含んでいるのだろう、相当額の見料を主催者から戴いているが、レシウスの様な者の口の端にオフィーリアの名が上がるようになって来たことでそろそろ引き際だと考えているらしい。
だがいきなり全面的に突然現れたレシウスを信用するはずもなく、彼は条件を突きつけてきた。
『貴方の「仲間」と私の護衛たちに戦ってもらい、貴方の「仲間」が私に「強いと認められれば」私はあなた方に全面的に協力しましょう』
宴の秘密を握った状態で足抜けしようとするのだから、自分の身を案じるのは当然のこと。だが、戦うのはレシウス自身では駄目だという。
『どんな方法を使ってもいいです。貴方が信頼できる者を好きなだけ集めてきてください』
不敵に微笑んで占い師はそう告げた後付け加えた。
『ただし、戦いの場に貴方は同席しないでいただきたい。金で雇われた者ならば雇い主が見ていれば、依頼を遂行させるためににわかでも忠誠心を出して全力で戦うでしょう。私が見たいのはそういうものではないのですよ』
占い師の護衛との模擬戦にでる人数は決められてはいない。
こちらが一人だったら相手も一人、二人だったら相手も二人と同じ数だけ増える。
『ああ、ペットの参戦はどうしましょうかねぇ‥‥人数の調整が難しい上殺し合いではないため不可としたいところですが‥‥。ペットと自分は一心同体だといわれればこちらも返す言葉が有りませんし。ではその分こちらが戦力を増やしたとしても文句はなしということで』
ペットの参戦については、結局各々の判断に任せるということらしい。ただしペットを参戦させることによって相手が増えても文句言うなと念を押された。
模擬戦で「強いと認められれば」、占い師は謎の宴オフィーリアへの潜入の手はずを整えてくれるだけでなく、宴に関して知っている事に答えてくれるという。
依頼を引き受けた全員が戦わずともいいわけだ。占い師へ質問をぶつける者も必要かもしれない。
「俺は同行できないから、代わりにいくつか聞いてきて欲しい事がある」
レシウスはすっと羊皮紙に書かれたメモを差し出した。
■宴の主催者はハリオット伯爵家内の誰なのか
■屋敷内の大まかな間取りと、少女達の監禁場所
メモに書かれているのは主に二つ。
だが他に聞いておきたいことがあれば、この機会に問うてみるのがいいだろう。
「見事占い師の信頼を勝ち取ってきてくれると信じている」
こちらも全面的に占い師を信用することは危険であると重々承知のはずだ。
だが藁をも縋る気持ちのレシウスは、冒険者達の瞳を見詰めて告げた。
●リプレイ本文
●模擬戦
「それでは模擬戦参加者は八名という事ですね」
男性占い師――その名から大抵が想像するであろう線の細い優男的な雰囲気は、その男性にはなかった。ゆったりとしたローブで隠してはいるが上背が高くがっしりとした身体つきをしている。だが何処かミステリアスな雰囲気を残しているのはやはりその職業故なのだろうか。
護衛との模擬戦に名乗りを挙げたのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)、リューグ・ランサー(ea0266)、トール・ウッド(ea1919)、オルステッド・ブライオン(ea2449)、ルイス・マリスカル(ea3063)、ギーン・コーイン(ea3443)、マグナ・アドミラル(ea4868)、シュバルツ・バルト(eb4155)の八人。それぞれがそれぞれの戦い方を駆使して模擬戦に挑む予定だ。
戦場に選ばれたのは郊外の開けた場所。昼間の今は陽精霊が照りつけている。
「その模擬戦をやる護衛は潰してしまって構わんのだな?」
「そうですね‥‥殺害だけは勘弁してください、後始末が面倒ですから」
リューグの質問に占い師はさらりと肯定の意を返す。
「あなた方八人に対し、護衛は七人しか用意できませんでしたが問題は有りません。一応団体戦となりますが、始めてよろしいですか?」
剣、斧、槍、弓‥‥様々な獲物を手にした男女が八人の向かいに進み出る。中には魔法使いもいるようだ。
八人が肯定の意を示した所で占い師の号令が掛かる。
「それでは、始め!」
「(まずは占い師の方に『実力』を見せねばなりませんね)」
始めに動いたのはルイス。一番近い斧を持った男へスマッシュを叩き込む。そこにアシュレーの縄ひょうが、男の手首を突いた。痛みに武器を取り落としかけた男の隙を狙ってルイスがもう一撃を加える。
「ふむ、情報提供の代わりに確実に自分を守らせるぐらいの強さが必要‥‥といったところかなあ」
のほほんと呟くが、アシュレーのその瞳だけは真剣そのものだ。
「(奴が欲しいのは自分の身の安全を守るための人間であり、切捨てても痛くない駒…詰まる所『強ければ』よいのだろう。‥‥面白い、ならばその挑戦を真っ向から受けてやろうじゃないか?)
愛馬に騎乗したリューグはその機動力を生かして後方に位置する魔法使いらしき女性を狙う。その槍は狙い過たず魔法使いを貫く。
「(クズ共を叩きのめす。その為に強さを見せる!)」
トールが狙うのは剣を持った男。大槌によるスマッシュEXとバーストアタックを男は剣で受け止めようとする。だがその威力に剣が耐え切れず、半ばからパキリと折れた。獲物を喪った男は戦意を喪失したかのように両手を挙げた。
「(まぁ、ヤバそうな相手を敵に回すつもりなら、「信頼」できるもんがいるかが肝要ってのは判るのぅ。金で忠義を売る連中は、金を上積みされりゃ寝返るからの。)」
ギーンは弓を持った女との間合いを詰め、メイスで殴りかかった。間合いを詰められて尚余裕があれば他の敵を狙おうとでもいうのか、矢を番えようとする女の手にアシュレーから縄ひょうの援護が飛んだ。女は矢を取り落とし、別の矢を矢筒から引き抜こうとするがその間に再びギーンの攻撃が来る。
(「占い師を信用させる為に、我等の力を見せよう」)
マグナは槌を振るう女の攻撃を盾で受け流し、カウンターアタックからのスマッシュで反撃を決める。
(「模擬戦に乗じてこちらを亡き者にするかもしれないし、我々が模擬戦を行っている間にレシウスを襲撃するかもしれん‥‥警戒しておくに越したことは無い‥‥」)
用心深く様々な可能性を思慮しつつ、オルステッドはナイフで槍を持った男を牽制していた。自らの一撃の威力が低い事を十分承知しているので、牽制役を買って出たのだ。そこにシュバルツのスマッシュEXが男を襲う。
「(少女に奉仕させる喜んでいるとは‥‥退廃極まりない! 悪事の証拠を必ずや掴んでみせる」)
同じ女性として感じる部分が有るとすれば、男性陣よりも怒り心頭なのは当たり前だろう。シュバルツの繰り出す攻撃には容赦がない。
「ふむ‥‥面白い事になってきましたね。あなた方お二人は、なぜ模擬戦への参加を辞退されたので?」
自ら用意した護衛と冒険者達のそれぞれ自分を生かした戦い方に感心したような呟きを洩らし、占い師は傍らで同じ様に戦況を見つめるフィリッパ・オーギュスト(eb1004)と雀尾 煉淡(ec0844)に尋ねた。
「投入人数が多ければよいという状況ではありませんでしょう? それに冒険者には担当というものがあります。勝利にこだわって情報提供者を危険に晒すわけにはいきませんでしょう?」
「なるほど。私が狙われる可能性を危惧しておられるわけですね」
「不測の事態に備えるため、バイブレーションセンサーやパッシブセンサーの使用許可をいただけませんか?」
フィリッパの答えにくす、と笑みを見せた上で占い師は煉淡の申し出に頷いた。
「私の身の安全まで考慮してくださったのですね。さすがですね。さぁ、そろそろ決着がつきそうですよ」
占い師に示されて二人が戦場を見やると、倒れ伏した者、武器を破壊されて降参した者、辛うじて立ってはいるが時間の問題だろうと思われる者‥‥それらは全て占い師の護衛の方だった。
とその時、光線が走った。
光線は丁度マグナとオルステッドの間の辺りを狙って放たれたようであり、二人は咄嗟にそれを避ける事が出来た。なぜならば――光線の飛んできた先、占い師に常に注意を払っていたからで。
魔法発動の瞬間の淡い金色の光を横目で捉えたフィリッパと煉淡は驚いた表情をしている。占い師は高速詠唱で魔法を完成させるために二人の目を戦場へと移したのだ。
「『護衛』は七人しか用意できませんでしたが『人数は合わせます』と言いましたしね‥‥。特にあなた方二人は私を疑い、きちんと注視していた。それを褒めるつもりであえて『当たらぬように』狙わせていただきました」
「まさかご自身が魔法を使われるとは‥‥」
「多少ですけれどね。それでも貴方の警戒対策は評価に値すると思いますよ」
驚きの声を上げる煉淡に占い師は微笑む。
「さて、模擬戦はそこまで。どう見てもあなた達の圧勝です。さすが、経験を積んだ冒険者という所でしょうか」
「‥‥‥‥‥」
まさか占い師自身が攻撃してくるとは思わなかった者もいるのだろう、多少不満げな者もいるが勝敗は既に決していた所での介入だ。これが本当にいいところでの横槍だとしたら怒りは収まらぬだろうが。
「最後に一つ質問をさせてください。あなた方はお金の為に今回この場へ現れたのですか?」
恐らく占い師が一番知りたいのはこの質問の答えなのだろう。オルステッドが一歩前に進み出て口を開いた。
「我々冒険者は冒険こそが報酬。義によって馳せ参じる者もいれば、『模擬戦』そのものが楽しみな者もいる…」
「わしはレシウス殿の心意気、気に入った。我が剣を、レシウス殿に預けようと思った次第だ」
マグナが続けて自らの参戦理由を語る。
「‥‥なるほど、合格です。あなた方だけでなくレシウスさんも。この模擬戦はあなた方の強さ、判断力、警戒心、その他諸々の他にレシウスさんが信頼に足る人物かを確かめる意味合いもあったのです。彼の為に戦える人がいる、ならば彼は信頼を得るに十分な人物なのでしょう」
「ということは、どういうことじゃ?」
ギーンの言葉に占い師はクスと笑顔を見せた。
「私はあなた方を信頼致しましょう。宴告発への協力、私にできる限り致します」
「「よしっ!」」
占い師の言葉に一同は沸き立つ。模擬戦での疲れは心地よい疲れとなっていた。
●質疑応答
「まずは何からにしましょうか?」
「レシウスから質問のメモを預かってきたのでそれからお願いかな」
場所を占い師の家に移し、煉淡の入れたハーブティを一口含んだ占い師にアシュレーがメモを手渡す。
「まず宴の主催者ですがハリオット伯爵家長男、クリュエール・ハリオット氏です。愚鈍では有りませんが噂の美女を手に入れるために裏から手を回し、美女の家に借金を作らせたりと目的の為には手段を選ばない所が有ります」
占い師の言葉は、煉淡がしっかりとメモを取っている。アプト語を筆記できる者がいないのでレシウスに渡す際は誰かに翻訳してもらおう。
「‥‥それはもしや‥‥」
「心当たりでもあるのか?」
占い師の言葉に引っかかる所があったのだろう、呟くルイスにリューグが尋ねる。
「レシウスさんの仕えていた御宅が借金の為、お嬢さんを婚約させざるを得なかった、という話を聞いた覚えがあります」
「なるほどな」
「間取りと監禁場所については言葉で説明するより図解した方が良いでしょう。後で記してお渡しします。さて、他に質問はありますか?」
「よろしいですか」
メモから目を上げた占い師に挙手して見せたのはフィリッパ。彼は頷いて許可を示す。
「その宴において少女達の一部を使って主催者が生贄にしたり、何かに捧げる儀式をしたりという遊びは存在しますか?」
「恐らくあなたがお考えになっている意味での生贄を使った儀式はありません。ある意味少女達は宴に放り込まれた時点で生贄の様なものですから」
「宴の目的はなんだ?」
マグナの問いかけに彼は少し思案して考えを纏めるような仕草を見せた。
「ハリオット家の後ろ盾を得るという裏の密約、そして宴参加者からクリュエールが利を得るという密約、そういった意味合いがありますね」
「宴の間は屋敷の注意は完全にそちらへ向くのでしょうかね?」
アシュレーの問いに占い師は「半分は」と答えて付け加えた。
「大体の男性使用人は地下へかかりきりになるようです。他のご家族に付き従っている方達は除きますが。女性使用人は基本的に宴へ関与はしていないようです」
女性は少し気分の悪くなる話かもしれませんが、と前置きをして占い師は続ける。
「少女達は一糸纏わぬ姿で宴の行われる地下広間へ放たれます。それから先、宴の間は少女達に何をしようと客の自由です。クリュエールの機嫌がよければ参加者の気に入った少女が『下賜』されることもあります‥‥‥‥虐待死、絶望の上の自殺、衰弱死など少女達の死亡があるのも事実です。ですから、定期的に少女達を補充しています」
「少女を利用とはな許し難い。本当なら二つ名に掛けて、潰してくれる」
憤るマグナの肩を「まぁ落ち着きましょう」とシュバルツが叩く。
「レシウスさんの目的は宴の告発のようですが、少し難しい部分がありますね」
「難しい、とは?」
トールの問いに占い師は再びハーブティで口内を潤してから口を開いた。
「ご存知の通り、貴族にとって自領の領民は自らの財産であり、どう扱っても問題ありません。故にクリュエールがハリオット伯爵領の少女をどう扱おうと、罪を問う事は出来ないわけです。ただ――他領の少女を誘拐して使用となると話は別です。他の貴族の財を侵していることになりますから、罰せられるでしょう」
「なるほどな‥‥この件に関し、カオスの関与と思われる点はあるだろうか‥‥?」
「いえ、それはありませんね。黒幕はクリュエールです」
それでは、とオルステッドは続けて問う。
「‥‥主催者側はこちらの動きをどこまで察知している‥‥?」
「私の動き、そしてレシウスさんの動きには気がついていないと思われます。現在は秘密を知ってしまった弟君への対処に気を取られているようですからね」
「弟君‥‥マルダスさんですね。彼の証言を得られれば切り札になるでしょうからね」
弟の名を挙げたルイスに占い師は「ご存知ですか」と一瞬驚きを見せた。
「そのマルダスさん‥‥軟禁状態から抜け出した彼を狙う動きはありそうですか?」
「さすがにそこまでは解りませんが‥‥放置しておくはずはない、と思いますね」
答えを貰い、ありがとうございます、とルイスは礼を言う。
「宴への侵入や少女達の救出を考える場合は、私が方法を考えて手引きいたしましょう。警備といっても地下ですからね、入り口で招待者かどうかを検める者がいるくらいです。こちらも私と一緒ならば何とかなるでしょう。レシウスさんにはそうお伝えください」
他に質問などないようなので、と占い師は切り上げに掛かる。
「模擬戦での皆さんの動き、素晴らしかったですよ」
締めくくりに、占い師はそう言って微笑んだ。