血と略奪の臭いを追って

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月25日

リプレイ公開日:2007年09月25日

●オープニング

●帰郷を迎える蛮行
 男の足取りは軽かった。王都から乗せてもらった馬車を街道で降りてから歩く事少し。目的の村まではもうすぐだ。
 王都へ出稼ぎに出てから数ヶ月。漸く纏まった休みを貰えて久々の帰郷だ。
 家族は元気だろうか、村に変わりはないだろうか。
 逸る心を抑えて村へと歩を進める男。
 だがまるで男の帰還を邪魔するかのように吹きつける向かい風が運んでくるのは鉄にも似た生ぐさい臭い。
 どくん、と不安で心臓が跳ねた。
 嫌な予感を振り払うように村へと走る、走る。

 ――数ヶ月ぶりの帰郷を果たした男が見たものは、虐殺された村人達、蹂躙されつくした村、そして北へ向かって去り行く大型恐獣を連れたカオスニアンたちの姿だった。


●討伐依頼
 ステライド領端にある小さな村がカオスニアン盗賊に襲われた――。
 村人は出稼ぎに出ていた男一人を残して全滅、家屋も蹂躙され、盗難にあっている。
 殺せるだけ殺し、奪えるだけ奪って盗賊たちは村を後にしたという。

「カオスニアン盗賊たちの向かった方角は解っています。大分離れてはいますがその先にも小さな村がありますので、次に狙われるのはそこでしょう」
 ギルド職員は緊迫した表情で説明を続けた。
 カオスニアンたちは大型恐獣一体と騎乗恐獣数体を連れ、街道を避けるようにして北へと進んでいる。
「次の村が襲われる前に、奴らを殲滅していただきたいのです」
 今回貸し出されるゴーレムはモルナコスが一体。その輸送には小型フロートシップ「フォン・ブラウヒッチュ」が一隻貸与される。こちらは以前バの国から鹵獲したものだ。

 まっすぐ襲われる予定の村へ向かえば、カオスニアンたちが攻めてくるまでに約1日半、時間の余裕がある。待ち伏せが可能というわけだ。
 待ち伏せをせずにまっすぐカオスニアンたちを目指せば、村から一日の距離の場所で遭遇する事が出来る。ちなみに敵は街道を使用していないため、街道はずれでの戦いになると予想される。一般人を巻き込む可能性は低いだろう。
 どちらの方法をとっても、その他の方法とっても構わない。求められるのは次の村が被害に遭う前に敵を殲滅する事だ。
 たかが盗賊と侮らず、慎重に対応されたし。


◎敵戦力予想
カオスニアン盗賊・5人以上
騎乗恐獣・3体前後
大型恐獣・1体


◎貸与ゴーレム
モルナコス・1騎
小型フロートシップ「フォン・ブラウヒッチュ」・一隻

●今回の参加者

 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6109 ティファル・ゲフェーリッヒ(30歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb3446 久遠院 透夜(35歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 eb4598 御多々良 岩鉄斎(63歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8306 カーラ・アショーリカ(37歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●戦いに備えて
 冒険者達が取ったのは村で敵を待ち伏せする戦法だ。
「被害が及ばぬように勿論するつもりではあるが万一を考え、さらに北側の郊外へ避難してもらえんだろうか?」
 アリウス・ステライウス(eb7857)の言葉に村長は青い顔をしつつ、何度も頷いた。

 ――カオスニアンが恐獣をつれて村を襲いに来る。

 そんな事実を突きつけられて村人達が平静でいられるはずがない。
「わしらは感覚が麻痺しがちじゃが、住民には騎乗恐獣や大柄なカオスニアン一人でさえ脅威じゃからのう」
 御多々良 岩鉄斎(eb4598)の言葉にアリウスも頷く。カーラ・アショーリカ(eb8306)やリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)、シルビア・オルテーンシア(eb8174)という鎧騎士から事情の説明を受けて村人達は避難準備を始めているが、その顔は一様に不安で塗りたくられている。
 大切な生活の場が、財産が、そして命さえも危険に晒されようとしているのだ。不安になるなという方が無茶な話だ。
 まさか自分達が襲われるなんて、と南の村が滅んだという話をしてさえも他人事のように思う者もいただろう。だが実際に小型ではあれフロートシップが冒険者とゴーレムを乗せて到着し、そのゴーレムが対恐獣用に落とし穴を掘っている姿を見れば自然、危機感は植えつけられる。そのゴーレムには現在ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が搭乗し、作業に当たっている。

「カオスニアン盗賊達の撃退と村の防衛、承りました」
 最後に村を後にする村長一家に礼儀正しく頭を下げ、リュドミラは作業場へと戻る。村にある石材や木材を借り受けたのでフロートシップを隠す作業をしなくてはならない。
「久遠院さん、作業状況はどのようですか?」
 村にあるものと己の技術を駆使し、久遠院 透夜(eb3446)は遠目から見れば建物に見えるような張りぼてを制作していた。その出来はさすがというべきか、ありあわせのもので作業したにもかかわらずフロートシップ隠匿の為だけに使うには勿体無い程の出来だった。
「後は燃えぬように土を塗った板を配置すればいいだろう。それにしても殺戮、略奪。どこの国どこの世界でも、盗賊と呼ばれる連中のやることは変わらんな」
「‥‥そうですね」
 透夜の言葉にリュドミラは、少し悲しそうに同意した。


「深さはその位でいいと思うのら」
『了解です。じゃあ次の穴を掘りますね〜』
 村人の誘導を終らせたカーラはベアトリーセの様子を見に来ていた。モルナコスから彼女の声が聞こえてくる。
『村人さんたちを、必ずまたこの村で暮らせるようにしてあげないとなりませんね』
「そうらね、早く安心させてあげたいのら」
 カーラは敵が連れてくる大型恐獣と戦うためにモルナコスを操る。稼働時間の関係から今、モルナコスを動かして穴掘りの手伝いをするわけにはいかなかった。自分の仕事はこれからなのだから、と言い聞かせて他の作業を手伝うことにする。


「お、敵はそれなりに近づいて来とるで。ただまだブレスセンサーにはひっかからへん」
 テレスコープのスクロールを手に、ティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)が告げる。テレスコープで敵の数の確認は出来たが、まだ村が見える距離には来ていない。
「大型恐獣1体に騎乗恐獣が4体、カオスニアンは8人や。一部二人乗りしとったで」
「結構多いですね。それではもう暫くしたら私はレェオーネに乗って偵察に行こうと思います」
 シルビアが側に付いているグリフォンを撫でる。
「私もフライングブルームで共に偵察へ行こう」
「偵察は頼んだで。とりあえずうちは今のうちにちょこっと天気を変えさせてもらうわ。雨にはせぇへんから安心してな」
 偵察に名乗りを上げたアリウスとシルビアに手を振り、ティファルはウェザーコントロールのスクロールを開いた。


「何度聞いても無残な被害というモノは寂しいのう」
「そうだな」
 仲間の指示を受けて騎乗恐獣を嵌める用の穴を掘っている岩鉄斎に、掘り起こした土を目立たぬ所へ運びながら風 烈(ea1587)が答える。
「なんとしてでも、この村への被害は出さぬようにしなくてはなりませんね」
 同じ様に土を運ぶ手伝いをしながらアルカード・ガイスト(ea1135)も答えた。
「こういう被害全てを未然に防いで0にすることは無理じゃが、可能な範囲で0にしたいものじゃ」
「ああ。その為にもまずはここでの被害を0にしなくては」
 烈はカオスニアンが来るという方角をじっと鋭い瞳で見詰め、決意を新たにした。


●迫り来る悪夢達
 どっどっどっと地を揺るがすような音を立てて、そいつらは村に迫ってきた。
「目的の村はあそこだ、この間みたいに派手にやるぞ!」
 頭を気取っていると思われるアロサウルスに跨った男が他のカオスニアンたちを鼓舞する。だが、何かがおかしい。
「うわぁ!」
「がふっ!?」
 村へ真っ直ぐ攻め込もうと息巻いていた騎乗恐獣たちが次々とバランスを崩していくのだ。穴に足が嵌ってバランスを崩した騎乗恐獣2体と、それに騎乗していて振り落とされた盗賊4人。もんどりうって倒れる彼らだけでなく、残りの敵全てを巻き込んで突然爆発が起こった。転倒した仲間に気を取られていた敵たちは、それが村に前に立ちはだかる冒険者達、アルカードの手から放たれた火の玉だという事に気がつかなかった。
 続けざまにもう1発。こちらも敵が穴に嵌る前から詠唱を始めていたアリウスのファイヤーボムだ。敵は連続する爆発にさすがに自分達に危害を加える者の存在に気がついただろうが、混乱状態にあってなかなか反撃の態勢を整える事が出来ないでいる。
 そして三度目の爆発。
「自らの欲望の為に奪い殺し尽くす盗賊は許しておけへん」
 スクロールを使ったティファルのファイヤーボムだ。
 三度の爆発が終ったのを待ち、直接攻撃組が敵との間合いを詰める。
「略奪だけでなく、戻る場所さえ奪うあなた達を、メイの鎧騎士としてなんとしてでも止めて見せますよっ」
 ベアトリーセが弓矢を持つ敵に大きく孤を描く刃で斬りかかる。火矢を使ってフロートシップを燃やされるわけには行かない。偵察によると弓を持っているのはこの男だけだ。態勢を立て直される前に二度、斬りつける。
「く、待ち伏せか‥‥ならこいつらの力を見せて――」
 頭を気取った男がふらふらしつつもアロサウルスの上で怒鳴る。だがその声は突然現れた巨人の出現に驚き、途切れた。

「西方戦線に戦力を取られている今なら、好きに暴れられるとでも思ったのか」
 まだ乗り手の制御を受けている騎乗恐獣を烈は狙う。攻撃的に振り上げられた足の爪をひらりとかわし、オフシフト・カウンター・ダブルアタック・ストライクEXの連携で既に魔法でダメージを被っていた騎乗恐獣を一気に倒した。動かなくなった恐獣を乗り捨てた敵は魔法のダメージが響いているのだろう、ふらふらしながらも烈に攻撃を仕掛けてくるが、彼はそれを華麗に避ける。
 透夜はスタッキングで騎乗恐獣の懐に入り込み、サンショートソードでスタックポイントアタックを繰り出した。
「ウィルにもメイにも超近接攻撃を行う流派は無い様だが、こういう戦い方もある!」
 攻撃を受けた恐獣は息はあるようたがバタリと倒れ、乗り手を容赦なく振り落とした。
 騎乗恐獣から振り落とされた男の一人は魔法使いを狙おうと思ったのだろう、他の仲間と戦う敵を無視し、ふらつきながらも村方面へと近づいてくる。
「おっと、後衛を守るのがわしの役目なんでのう、ここを通すわけには行かぬ」
 容赦のない岩鉄斎のラージハンマーによる攻撃。オーラパワーの付与されたそれに殴りつけられた男は呻き声を上げて倒れ伏した。まだ息はあるようだが立ち上がる力が残っているかどうか。

 詠唱が完成し、魔法が飛ぶ。刃が翻る。爪が切り裂く。槌が打ちつける。
 対騎乗恐獣+カオスニアン戦は事前準備と最初の魔法連打のおかげで冒険者側に有利に進んでいた。


●血と略奪の終焉
 モルナコスをゆっくりと立ち上がらせる。カーラのその手は水晶球の上に置かれていた。そしてその視線は敵たちの奥――彼らにおける「退路」となる部分を確認する。
 そこにはフロートシップの姿があった。3度の爆発に敵が気を取られている間に起動し、その背後へと回ったのだ。
「大型恐獣、もしくはその騎乗者を狙い、射撃を!」
 フロートシップ上のリュドミラが乗務員に指示を飛ばす。その傍ら自らも弓を手に、地を這うカオスニアンを狙う。予期しなかった方角からの攻撃に、既に負傷していた敵たちは次々と倒れていった。
「乗り手はあらかた落ちている様なので、私も援護に回りますね」
 同じくフロートシップに搭乗しているシルビアも、矢を番え順次放っていく。
 フロートシップからも矢が放たれ、雨のようにアロサウルスと頭気取りの男を襲う。後ろから放たれた複数の矢に成す術もなく、男は力尽きてアロサウルスの背中から落ちた。 矢の雨が収まった瞬間、モルナコスがその剣を振るった。アロサウルスが雄叫びを上げる。それは操縦者を失った混乱からか、それとも痛みからか。
「ギャアアァァァァァァァ!!!」
 その鋭い爪が、モルナコスを襲う。負傷で多少動きが鈍っているとはいえその動きにはまだキレがある。激しい衝撃がモルナコスとカーラを襲った。
『負けるわけにはいかないのら』
 もう一度、剣を振るう。同時にフロートシップから、シルビアからの援護射撃が飛んでくる。
「出でよ天雷!天の怒りを以って魔を滅ぼせ! ヘヴンリィライトニング!!」
 加え、ティファルからの援護が。
 ふ、と仲間の顔がモルナコスの――カーラの視界に入った。自らの敵を相手にしながらも負傷したモルナコスに、時折心配そうに視線を向けている。

 心配――だが同時に信頼も感じられた。

『村人達を、安心させてあげるのら!』
 水晶球に置いた掌にうっすらと汗が滲む。
 引くことは許されない。
 カーラは自らの役目を果たすべく、モルナコスの剣を振り上げた。


●平和を手に
「これで最後ですね」
 全ての敵に止めを刺した事を確認し、アルカードと烈は頷き合った。
「終わりましたね」
「ええ」
 フロートシップの上から、リュドミラとシルビアも弓を下ろし、一息つく。
『これで村の人達に戻ってきてもらえるのら』
 安心したのだろう、倒れて動かなくなったアロサウルスの前にどすん、とモルナコスが膝を付いた。
「人の命を奪う事はたとえカオスニアンであっても気分の良いものではあらへん。しかし連中を生かしておいては泣く人々が増えるだけや。これで次の村にいる子供達を守ることが出来たはずやね」
「そうだな」
「村への被害を押さえられてよかったのう」
 ティファルの言葉に透夜と岩鉄斎が頷く。
「ゴーレムが一騎でも、連携次第で互角以上になるのです」
「そうだな、ファイヤーボムの三連携も良かった」
 胸を張ったベアトリーセ。アリウスは初手のファイヤーボムを思い出していた。
「さ、後片付けと村人を迎える仕事がまだ残っている。休んでいる暇はないぞ」
 烈の激に皆頷き、それぞれ動き始める。

 一つの村は消えてしまった。
 だが一つの村は護れた。
 護れる命は出来る限り護りたい、そんな冒険者達の願いが、心が一つになったからこそ護ることが出来たのだろう。
 雲間から射す陽精霊の光が、冒険者達を労っているようだった。