高所に留まりし恐怖
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月13日〜10月18日
リプレイ公開日:2007年10月20日
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●オープニング
ある町に住む領主が領内にある村の村人から報告を受けた。村近くにある小山に、カオスニアン数人と恐獣数体が登っていくのを目撃したのだという。
夜、月精霊の輝きの元、小山から村へと帰ろうとしていた村人は、小山から暫く離れた所で近づく地響きにも似た足音と人影に気がついた。急いで松明の明りを消して木陰になりを潜めたおかげで相手に気づかれずには済んだが、小山の頂上の小屋にはきこりの夫婦とその息子夫婦、そして生まれて間もない孫娘が住んでいる。
このままだとあの一家が――だが男一人が敵に向かったとて、一矢報いる事も出来ずに殺されるのは目に見えている。
「(無事でいてくれ――)」
絶対にその祈りが届かない事を男はわかっていた。カオスニアンたちは一家を惨殺し、そしてそこを拠点とした後は目と鼻の先にある村に攻めてくるだろう。ひょっとしたら村の後は領主様の住む町を狙うかもしれない。
だとしたら――。
男は村と町を救うためにきこり一家を見捨てるしかなかった。
仕方がないのだ、ここで男が敵に襲い掛かっても返り討ちにあう事は目に見えている。そうなったら誰が村と町に危機を伝えるのか。
どんなに急いで冒険者を派遣してもらっても、一家を助ける事は無理だ。
だとしたら――犠牲になったきこり一家の為にも、村と町だけは守らなければ。
男は走った。まずは領主様にお伝えせねばと。
●貸与戦力
・ウルリス級…1隻
・モルナコス級…3騎(最大)
●敵戦力予想
・カオスニアン…5〜12人程度
・騎乗恐獣…4〜7体程度
・大型恐獣…1体
●村、町、小山の位置関係(簡易図)
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┃∴∴∴∴∴∴∴∴約∴┃
┃∴∴∴∴∴∴∴∴500m┃
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┃町∴∴∴∴∴∴村∴∴┃
┃∴←約2キロ→∴∴∴┃
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▲…小山
●山頂へ続く道を正面から見たイメージ図
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◇…山小屋
□…道
▲…森
・山頂へと通じる道は1本です。他は樹が茂っていて道としては機能しがたいです。
・カオスニアン及び恐獣は山頂の小屋にいます。(恐獣は小屋の外に繋がれています)
・道幅は大型恐獣が通れる程度ですのでモルナコスも昇れる広さです。
・小山の麓から頂上の小屋までは、300m程の距離があります。
・小山の頂上、及び山腹にフロートシップを着陸させられる場所は有りません。
●リプレイ本文
●布陣
「一雨くるかもしれへんなぁ‥‥きこりさん一家の無念の涙雨やろか」
厚い雲に覆われた空を見上げて呟いたのはティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)。ウェザーコントロールで天気を曇りに変えておこうと考えていた彼女は、その必要はないと判断してスクロールをしまう。
「ではこれ以上被害を出させないように、連中を殲滅しましょう。徹底的に」
「そうやな、必ず仇とったるさかいな」
バイブレーションセンサーのスクロールを開いて警戒態勢の雀尾 煉淡(ec0844)の言葉にティファルもスクロールをテレスコープへと変える。
彼らの数メートル前には、3騎のモルナコスが槍を構えて屹立していた。これに搭乗するのは
「(カオスニアンめ、この様な場所まで迫ってくるとは)」
愛国心の強いグレナム・ファルゲン(eb4322)。
「(一家を助ける事は出来なかったか)」
冷静にきこりの住んでいた小屋のある山頂を見上げるスレイン・イルーザ(eb7880)。
『敵の数が多いので、モルナコスの脇をすり抜ける者が多いと予想されます。歩兵の皆さんも大変だと思いますが頑張りましょう〜』
紅一点のベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。
三人は麓へ至る一本道の出口で前・右・左の三方向から、降りてくる敵を攻撃する作戦だ。モルナコスを盾となるように布陣して、白兵戦力との連携で敵を倒す。
「またしても手遅れじゃったことが悔やまれるのう。はようこの界隈を平和に暮らせるようにしてやるため、頑張るぞい」
「素早い恐獣やカオスニアンは任せてください」
御多々良 岩鉄斎(eb4598)とシュバルツ・バルト(eb4155)がベアトリーセの言葉に答えた。
「しかし村人から領主へ話が行き、そこから冒険者ギルドへか、この迂遠さが歯がゆいな。ともかくこれ以上の犠牲者が出ないよう、一刻も早く殲滅を行おう」
久遠院 透夜(eb3446)が気合を入れたその時、テレスコープで山頂付近を伺っていたティファルの声が響いた。その声につられるように皆の視線が移る。そこにはフライングブルームに跨り急ぎこちらへ向かってくるイリア・アドミナル(ea2564)の姿があった。という事は、間もなくのはずだ。一堂に緊張が走る。
一気に山頂付近が騒がしくなったのが麓にいてもわかった。
「やつら、小屋からでてきおったで〜おお、フロートシップと精霊砲の砲身を見て慌てておるわ」
ティファルの実況中継を裏付けたのは、フロートシップから雨のように降り注ぐ大量の矢だ。
これが始まりの合図だった。
●混乱の交戦
イリアのフリーズフィールドによる突然の寒さに異変を感じたカオスニアンたちが見たものは、自分達に照準を合わせたフロートシップだった。
「(何故こんな所に!?)」
仲間を呼び出し、事態を説明する。理由を考える間は与えられなかった。
矢が、矢が、矢が、一同に降り注いだからである。
「逃げるぞ! こんな所に留まっていたらやられちまう!」
誰かのそんな号令がなくても皆考える事は同じだっただろう。それぞれが恐獣に跨り、我先にと今にも転げ落ちそうな速度で坂道を降りてゆく。
「山頂より12個の振動が接近中。うち1個は巨大、それに先行する形でやや大型が7個、人らしき振動は巨大な振動に遅れて4個」
バイブレーションセンサーで解った状況を、大声を上げて事細かに報告する煉淡。
「途中の罠に引っかかって何体か派手に転んだで」
坂道を駆け下りる加速もあいまってか、派手に吹き飛んだ騎乗恐獣の操縦者を目撃したティファルは、一番最初に麓へ到達するのは5体ほどだと告げた。
『来たな‥‥』
その頃にはもうモルナコスを通したスレインの視界にも、山道を駆け下りてくる群れが確認できるほどになっていた。大型恐獣より素早い騎乗恐獣が先に来たが倒さなければならない敵であることには変わりはない。
しっかりと準備を整えていた冒険者達に対して敵たちはどうだ、突然の事に半ば恐慌状態に陥ったまま山道を駆け下りてくる。麓に屹立するモルナコス達に気がついても、急に止まる事など出来ない。仮に止まっても後ろに逃げ場はないのだ。となれば――
モルナコス3騎が大型恐獣を相手取る前に少しでも数を、と槍を振るう。だが数でだけ言えば敵の方が勝っている。引く事が出来ぬならば進めば――槍を繰り出した態勢のモルナコスの脇をするりとすり抜けて逃げようとしたのは2体。だがその目論見は阻まれる。
シュバルツのスマッシュEXによる攻撃が、モルナコスを抜ける事にのみ注視していた騎乗恐獣に叩きつけられる。透夜が素早くその懐に入り込み、急所を狙いに掛かる。岩鉄斎のラージハンマーが騎乗者を容赦なく叩き落した。
「冬の到来、大いなる女王の息吹きを受けよ、アイスブリザード」
罠に掛かって遅れていた騎乗恐獣も追いついたのだろう、モルナコスの横をすり抜ける騎乗恐獣の数が増えた。逆にそれを機と見てイリアが高速詠唱アイスブリザードをお見舞いする。それに次ぐ様にしてティファルの手から雷撃が放たれた。高速詠唱ライトニングサンダーボルトだ。彼女が攻撃に移ったということはテレスコープが不要になったということ。
ふとイリアがモルナコス達を見やると、大型恐獣――アロサウルスがモルナコスに行く手を阻まれていた。
「この先には一歩も行かせん!」
モルナコスが大型恐獣との交戦に入ったということは、モルナコスの巨体をすり抜けてくる敵が増えるということ。透夜は裂帛の気合で騎乗恐獣を切り裂く。
シュバルツは騎乗恐獣の脚と尻尾を狙った。機動力を削ぎ、その鋭い爪や尻尾による一撃を防ぐためである。敵の数が多い以上、攻撃を喰らう可能性は出来る限り減らしておきたい。
煉淡はアグラベイションのスクロールを使用して敵の行動を鈍らせる。その間に岩鉄斎の振るったハンマーが一体の恐獣に止めを刺していた。
「少し移動します、ここは任せました」
イリアはモルナコスと大型恐獣の位置を良く見て、自分の位置を決める。
(「犠牲になった方々の為にも、これ以上カオスニアン達を進ませる訳には行かない。必ず此処で、奴らを倒す」)
「古き力、天変の魔術を見せましょう」
その手から放たれたのは超越レベルのアイスブリザード。出来る限り成功率を高められたそれは見事に扇型の吹雪を巻き起こし、アロサウルスと騎乗者を凍えさせる。
『各地にて跳梁するカオスニアン共、メイの国は我等が守る。貴様らの好きにはさせん』
『負けませんよ〜』
『男の意思を、無駄には出来ない』
グレナム、ベアトリーセ、スレインそれぞれが水晶球に乗せた手に力を込める。
三方向から突き出された槍は、ほぼ同時にアロサウルスを串刺しにした。
「シギャァァァァァァァァァァァァァァァ!」
痛みの為か、操縦者をイリアの魔法の段階で失っている為か、アロサウルスは身体に槍を刺したまま天に向かい、雄叫びを上げた。そしてその鉤爪が狙うはグレナムの搭乗しているモルナコス。負傷で動きが鈍っているとはいえ、素早いとはいえないモルナコスで避けることは難しい。
『グレナムさん、大丈夫ですか!』
『大丈夫だ、奴が私に気を取られている間に攻撃を!』
「援護するで! 天の鉄槌、出でよ天雷! ヘヴンリィライトニング!!」
ティファルの咄嗟の判断で雷撃がアロサウルスに落ちる。グレナムの言葉に、ベアトリーセとスレインが再び槍を突き刺すと、アロサウルスはグレナムのモルナコスに襲い掛かろうとした態勢のまま動きを止め、そのままその巨躯を森へと倒れこませた。壮大な地響きと共に木の折れる音が響き渡る。
『まだ騎乗恐獣とカオスニアンは残っている。そちらへの対応を』
アロサウルスを倒したからとはいえ安心してはいられないのだ。背後では村へ敵を進ませないために仲間達が奮戦している。
『よし、助力しよう』
『大物は倒しました。後はここに残っているだけです』
スレインとベアトリーセはモルナコスの向きを変え、残り少なくなった騎乗恐獣とカオスニアン達に相対している仲間達に声を掛けた。
●道標
「‥‥‥‥」
山頂の小屋で、シュバルツは無言できこり達の遺品となりそうなものを集めていた。放置されていた遺体は岩鉄斎ら男性が小屋の外へと運び、せめて墓をと穴を掘っている。
「やりきれないな‥‥せめてお悔やみ申し上げ、冥福を祈ろう」
同じく遺品を集めていた透夜は、先ほど目にした若夫婦の遺体を思い出し、呟く。若夫婦は生まれたばかりの娘を守るように息絶えていた。
「冒険者のやることの大半は事後処理とはいえ何度味わっても寂しいものじゃのう」
墓穴を掘りながら岩鉄斎が呟く。
「‥‥そうですね」
煉淡は同意しながらその穴へと遺体を丁重に降ろしていった。
「宗派は違いますが、お赦し下さい。尊き魂よ安らかに‥‥」
煉淡が僧侶としての作法に則った祈りを捧げ、皆で一家を順に埋葬していく。
「木こりさん達の未来は守れんかったけれど‥‥村や町の人たちの未来は守れたはずやね?」
「そうですね〜‥‥」
ティファルの呟きにベアトリーセが答えたその時、ぽつりと頬に水滴が落ちてきた。かと思うと瞬く間にその数は増え、通り雨によくあるバケツをひっくり返したような雨量となった。
一時避難した山頂の小屋の窓からイリアが空を見上げ、呟く。
「もしかしたら戦闘と埋葬が終るまで、泣くのを待っていてくれたのかもしれませんね」
通り雨が過ぎた後には虹が出るかもしれない。
それは彼らの守った未来への道標となるような、素敵なものになるだろう。