あなたを護りたいから
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月17日〜10月23日
リプレイ公開日:2007年10月25日
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●オープニング
●想い込めて
西方で大きな戦いがあったという。その情報は港町ナイアドの男爵令嬢、セルシアの耳にも入っていた。
「‥‥一体どれだけの人が大切な人の安否を気にしていることでしょう」
セルシア自身、最愛の乳兄弟が現在王都の貴族の悪事を突き止める、という危険な仕事をしていて、彼のことを心配しない日はない状況だ。戦地へ最愛の人を送り出した者達の心労はいかほどだろうか、と他人事に思えず心を痛める。
心配なのは大きな戦いだけではない。各地での盗賊や悪漢達の被害(中にはカオスニアンたちもいるという!)、それに町や村、街道を襲うモンスター達の被害。世の中は絶えず危険に脅かされている。
「せめて、少しだけでも皆さんの心を軽くすることが出来れば‥‥」
銀色の豊かな髪を風に靡かせ、セルシアは屋敷の窓から外を眺めた。
ふと、その脳裏に浮かんだのはある花。
小さな小さな花が肩を寄せ合うようにして纏まって咲くのだ。
花びらは茎に近いほどピンク色をしており、茎から離れるほどに白い色となる。
6枚の花びらのついた一輪を見ると、まるで白がピンクを抱いて守っているように見える。
その上小花は密集して咲く。まるで互いを護りあうように。
その姿から、この花はメイでは『あなたを護る』という意味を持つ。
この花を詰めた香り袋を作り、愛しい人、大切な家族に上げるというのはどうだろうか。
気休めに過ぎないかもしれない。けれども戦から、普段の生活に潜む危機から大切な人を護りたいという者は沢山いるはずだ。
戦うことの出来ぬ非戦闘員だからこそ、思いだけは、祈りだけは強いはずだ。
セルシアはナイアドだけでなく、近隣の村の女性達にも声をかけた。
『大切な人を護る、想いと祈りを込めた香り袋を作成しませんか』
すると数人の若い娘を中心とした参加希望者が集まった。これからも増えるかもしれない。
だが、問題がある。その花はセルシアの知る限り、ナイアド付近ではある森の奥にしか自生していない。その森とはかつて彼女の思い人が留まった森。ゴブリンが住み着いていた森。現在は冒険者達によりゴブリンは退治されているが、あれから随分と時間が経つ。もしかしたら他に何かモンスターやならずものが住み着いている可能性がないとは言い切れない。
その上セルシアを始めとし、集まった少女達は殆どが森歩きになれていない。集まった全員が森へ同行するわけではないとしても、不安は残る。
これで果たして花を採取し、無事に戻ってくることが出来るのだろうか?
それ以前に、花の咲く森の最奥に辿り着けるのだろうか。
彼女のその不安に執事は答えた。
護衛を雇えばいいのです、と。
●森
該当の森はナイアドから徒歩で往復できる距離です。街道沿いに有ります。
香り袋作成に集まった者のうち、「やはり自分の手で摘み取ったものを」と森行きを希望しているのはセルシアを含め6名の若い女性です。
年齢はバラバラですが、女性達は皆森歩きに慣れていませんのでフォローをお願いします。
以前はゴブリンが住み着いていましたが「暗き森に安全を」でゴブリンは全て退治されました。
ゴブリンの巣穴になっていた洞窟には、現在ならず者が何人か住み着いているようです。
また、虫モンスターなどが住み着いている可能性もあります。
最奥へ最短ルートをとる場合は洞窟付近を通過しなければなりません。
洞窟を避けるようにして最奥へ進むルートもありますが、そちらは最短ルートの2倍近い時間が掛かる上、虫モンスターとの遭遇確率が高めです。
●リプレイ本文
●冒険者達の知識
ウェルコンス男爵家の一間に集められた女性達は一様に不安そうな顔をしていたが、入室してきた冒険者達を見ると安心したようにほっと胸をなでおろした。
集まってきた女性達はまだあどけない少女から、少女と呼ぶのが躊躇われる年嵩の女性まで様々だ。故に彼女らの呼称は色々と考えた末『女性』に固定しようかと思う。
さて肝心の森歩きだが、すぐに出発というわけにはいかない。まずは何事も準備が肝要だ。お嬢様も村娘も身分分け隔てなくイェーガー・ラタイン(ea6382)のチェックで動きやすい服装に着替えさせられる。
「履き物のこの辺りに布を当てておくと随分楽になりますよ‥‥俺もこの世界に来たばかりの頃は、色々苦労したから。足がマメだらけになったり。あっ、それでも辛いようなら無理せず言ってくださいね」
女性達の足元のケアをするのは音無 響(eb4482)。その優しい笑顔に、足に触れられた女性は思わず赤面した。
「一応虫除けになりそうな草を探してきたわ。分けておくので皆さん携帯してくださいね」
テーブルの上に広げた草を人数分に分けながら告げるのは月下部 有里(eb4494)。シルビア・オルテーンシア(eb8174)もそれを手伝う。
「セルシアさん? 実はこういうアイテムがあるんですど、ちょっと見てくれません?」
着々と準備が進む中、セルシアを呼び止めたのはモニカ・ベイリー(ea6917)。ハーブティを詰めた魔法瓶をテーブルに置き、代わりにその手にしているのは空飛ぶ絨毯だ。
「これに乗れば歩く必要なく目的地まで送り届ける事が出来るけど、どうします?」
「そんな便利なものがあるのですか‥‥」
セルシアは感心したように呟くが、すぐにそれに飛びつこうとはしない。それが彼女の決心の表れなのだろう。
「どうしても自らの足で行きたいというならばそれは貴殿達の選択だ。その場合でも、無理と感じたらすぐに申し出られよ。誰も非難したりはしない。むしろそれまで自分の足で歩こうとした事を称えるだろう」
その魅力的な道具に心が揺らいでいたのか、はたまた自身が森歩きを完遂できる体力を持ち合わせていないと解っていたのだろう。マリア・タクーヌス(ec2412)の言葉に安心したように彼女は頷いた。
「それではもし足を痛めた方が出たり、歩けない状況になりましたらお願いいたします」
「あたしもこの世界に漸く慣れてきたところで‥‥森の中も慣れた場所ではないので皆さんと一緒に頑張りますからね」
結城 梢(eb7900)の言葉にシェリー・フォレール(ea8427)も思いを重ねる。
「大切な人の為に己の危険を顧みず一生懸命な貴女達の為に多少なりともお手伝いができればと思います」
「そそ、これだけの旅慣れた冒険者がついているんだから安心して。緊張してたら出発前にへばっちゃうよ?」
明るいフォーレ・ネーヴ(eb2093)の言葉に女性達もつられるように笑顔を浮かべ、緊張を解いていく。そんな中、シルビアはすっとセルシアへと近づいていた。
「セルシアさん、私は以前あの森でレシウスさんに会っているんです」
「えっ‥‥!?」
「あの時彼は『生きてみせる』と約束してくれましたから、必ず戻ってくると思います。待つだけなのは辛いかもしれませんが、貴女が待っててくれるだけでも彼には心強いでしょう。今回は貴女の想いが届くようにお力になれればと思います」
「はい、有難うございます」
思わぬ繋がりを聞いて涙ぐむも微笑むセルシア。
「セルシアさん元気になったみたいで良かった。頑張って皆で護衛するからどーんと任せて!」
以前より元気になった彼女の様子に安心して微笑むレフェツィア・セヴェナ(ea0356)に、セルシアも笑顔を返した。
準備を終えたら早速出発。作業場となる部屋に道具や材料を並べるのは残った女性に任せて、冒険者と6名の女性は森へと向かう――。
●初めて目にする戦い
それは戦闘を目にすることなど殆どない彼女達から見れば、神業に近いもので。普段自分達はこうした力強い存在に守られて生きているのだと実感する瞬間でもあった。
最奥への最短ルートを取るという事で洞窟付近を通過しかけた所、人の気配を感じたのか洞窟からはがたいはいいが粗暴な感じのする男達が数名出てきた。だが冒険者達は全く焦る事はなかった。梢のブレスセンサーで予めその出現を予想していたからである。
下卑た笑みを浮かべて襲い来る男達の恐ろしさに腰を抜かした女性の側に他の五人を集め、イェーガーは天馬のふうに高速詠唱ホーリーフィールドを唱えさせた。
「俺が貴女達を守る盾となりますから安心してください!」
その言葉の、何と心強いことだろう。
「こめられる願いと思いの為にも、彼女達には指一本触れさせないから!」
剣を構えて前衛に立つ響が、なんと大きく見えるのだろう。
「しろ、ちょっと脅かしてやって頂戴」
モニカの命でフロストウルフのしろが男達に唸り声を上げて脅しをかける。有里の手から脅しの為の雷光が発せられる。マリアの魔法で浮かび上がった男達はかと思うと突然落下し、悲鳴を上げる。
シルビアとフォーレは縄ひょうで敵の足元を狙い、相手の隙をついて戦意を削ぐように動く。
「大丈夫ですから、安心してくださいね」
シェリーに柔らかく声を掛けられ、そして冒険者達の雄姿を見せられて、怯えていた女性達は次第に落ち着きを取り戻していった。
実力の違いがわかったのだろう、男達数人は賢明にも洞窟へと逃げ帰ったが、中には勇猛果敢にも‥‥いや、無謀にもまだ向かってくる敵がいる。そうした敵は、丁度詠唱の完成したレフェツィアのコアギュレイトで動きを止められた。
●花園
男達の出現時に驚いて転んで足を挫いた女性を絨毯に乗せ、途中の休憩ではモニカの用意したハーブティで喉を潤し疲れを癒す。勿論、追ってくるかもしれない男達への警戒も怠らなかった。
そして一行はとうとう最奥の花畑に到着する事が出来た。メンバーの中で一番長距離の徒歩に慣れていないだろうセルシアが無事に歩き続けられたのは、ひとえに冒険者達の心遣いのおかげだろう。
森の最奥というのに光差し込むその空間。陽精霊の輝きをたっぷり受けて、赤を抱き込んだ白い小花はそれこそ絨毯のように辺り一面に敷き詰められていた。その意味の由来になったように、互いに互いを守るように身体寄せ合って。
「俺は辺りを警戒しているので皆さんは花を摘んできてください」
イェーガーの申し出をありがたく受ける事にして、一同は花畑に散り散りになる。
「ふむ、小さい花だ。注意しないと花自体を壊してしまいそうだ」
「小さな花の下に手を入れて上手く摘まないと、折角の花びらがバラバラになってしまいそうですね〜」
思ったより花自体が小さいので摘むのに少々難儀しているマリアと梢。
「こちらの世界にも花言葉ってあるのね。花言葉の文化は女性中心に広まったのかしら?」
花摘みに夢中になっている女性達の疲労や靴擦れの状態をチェックしながら有里が呟く。それに答えたのはセルシアだった。
「天界からいらした方によると、そちらの花言葉とこの国で意味する花言葉は必ずしも合致しないそうです」
「なるほどね。メイの国での意味と天界での意味は異なることもあるわけね」
既に一人で籠いっぱいに花を摘んだモニカ。
「籠いっぱいになったけど‥‥結構かさばるかも」
「そうですね‥‥どうしましょうか」
大きな籠いっぱいになった花を眺めて困ったように呟くのはレフェツィアとシェリーを含めた女性数人。と、それをひょいと横から持ち上げたのは
「俺が背負って行きます。みんなの願いをしっかりと」
響だった。男らしく軽々と籠を背負う姿に見惚れる女性もいるようで。
「このくらいで足りるでしょうか。それではそろそろ帰途につきましょうか‥‥‥あら?」
シルビアが女性達を振り返ると、花を摘んで気が抜けてしまったのか慣れない事が重なって疲労の限界なのか、彼女達は座り込んで一歩も立ち上がれない様子。
「ここまで頑張ったんだ、乗ってもご利益がなくなったりはしないだろう」
マリアの言葉に頷き、女性達は空飛ぶ絨毯に乗せてもらって帰途へつくのだった。
●大切な誰かの為に
「大切な人っていうよりも、いつも危ない事ばかりしてて気になる人がいるから」
レフェツィアは自らの不器用さと格闘しながらも一針一針ゆっくりと縫い進めていく。
「(‥‥この想いがしっかり届きます様に)」
フォーレはほつれない様に重ね縫いをし、更に強度を確かめつつ作業を進めた。
「‥‥えっと、もし分けて貰えたらだけど、俺も香り袋を贈りたい人がいて」
真っ赤になりつつ申し出た響に、セルシアは快諾して材料を差し出した。
「慣れないから上手く出来るかしらねぇ」
少々不安げに呟くモニカには、最初に足を挫いて絨毯に乗せてもらった女性が丁寧に教えている。
「香り袋ね、あまりこういうのは作ったことないけど」
有里は、遠くセルナー領での依頼を思い出しながら縫い続けた。
「ふむふむ‥‥なるほど」
女性の一人に教わりながら慣れぬ手を進める者がここにも一人。
「(俺達冒険者は彼女達の様な方々を護る為にいる‥‥その事を忘れないために)」
教えてもらうことに感謝しつつ、何度か針で指を刺したがイェーガーも袋を完成させた。
「私はこの香りにしましょう」
「あたしはこっちにします〜」
花の香り充満する室内で、シルビアと梢は既に中に詰める香源の選別を楽しんでいる。
「大切な人の為に何かをする。気持ちだけでも届くと良いな」
袋の口をきゅ、と紐で縛り、マリアは呟く。
「そうですね。皆様に精霊とセーラ様のご加護がありますように」
シェリーは完成した香り袋を胸に抱くようにして祈りを込めた。
想い、それは尊きもの。
それぞれの想いは花の香りと共に――あなたを護る為にある。