みだれそめにし
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月27日〜12月02日
リプレイ公開日:2007年12月03日
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●オープニング
「あら? いつもの職員さんは?」
冒険者ギルドに足を踏み入れた冒険者は見知った顔を捜して室内を見渡した。だがほぼいつもカウンターで見かけるぱっとしない顔の男性職員がいない。
ある時は依頼人に突っ込みを入れ、ある時は突っ込みすぎて睨まれたり、ある時は突っ込みを堪えたり。たまに面倒ごとを押し付けられたりもしているが、面倒だとわかっていてもついつい引き受けてしまうそんな人物。彼女いない暦=ほぼ年齢だというちょっとした悲しい噂があったりもするがそれはおいといて。
「彼に御用ですか? 彼は今‥‥その、席を外していて」
突然背後から声を掛けられた冒険者が驚いて振り返ると、そこには黒髪黒瞳の青年が立っていた。
「驚かせてしまいましたか? それは申し訳なく。自分は彼の友人で、支倉純也と申します」
「ハセクラ‥‥? この国の人じゃないのね?」
「ええ。天界のジャパンという所からやってきました。彼とはその時以来の付き合いになります。ところで彼を探していらしたということは、依頼をなさるか依頼を探していたかで?」
何処か神妙な表情で問う純也に、冒険者の女性は「ええ、何か依頼がないかと思って」と答えた。すると彼は「実はあまり大きな声ではいえないんですが」と声を潜めて前置きしてから口を開く。
「彼の行方がわからないんです。昨日から」
「え?」
「彼は昨日非番だったんです。なので今朝はいるはずと朝一にここへ来たのですが、無断欠勤しているそうです」
「病気で寝ているとか?」
冒険者の言葉に純也は首を振る。その可能性を考えて一人住まいの彼の部屋を訪ねたが、無人だったという。ただ、室内は大分散らかっていたらしいが。
「じゃあ、恋人の所とか――」
言いかけて冒険者はそれはありえないと自分の中で可能性を打ち消す。
「ないですね」
やっぱり即答。
「そうね。それじゃあ綺麗な女の人を見つけてついていったとか?」
「‥‥ありえないとは言い切れませんが、彼の性格からして仕事を無断欠勤してまで昨日今日出会った女性についていくとは思えません。自分は彼とかなり親しくしていましたが、それらしい兆候はありませんでしたし」
「部屋が散らかっていたというのが荒らされていたという感じなら、何かの事件に巻き込まれた可能性もあって心配ね」
彼曰く、職員はああみえて結構几帳面な性格で部屋はいつも綺麗に片付いていたという。それが今朝にいたっては大分散らかっていたままだというのだ。
「実は家が荒らされていたことと事件に巻き込まれた可能性を簡単に結び付けられないのが難しい所なのです」
「というと?」
「目撃者がいまして」
昨日の夜、職員はなじみの看板娘ミレイアのいる酒場で夕食を済ませ、宵の口に酒場を出たという。
「宵の口までの消息は確実、と」
「後は夜更けに彼と顔見知りのシフールが、大きめの鞄を持った彼らしき人が慌てて街から外へ出るのを見たと」
「夜更けに? 一般人が一人で? それって自殺行為じゃない?」
「夜更けに急いで街の外に行かねばならない理由があったのかもしれません」
――理由? 二人は一瞬沈黙して考える。
「夜逃げしないとならないことをしてしまったとか?」
その冒険者の言葉に純也は苦笑を返す。
「彼のおばあさんがここから徒歩で半日程度の所にある村に住んでいるんです。ですからそちらへ向かったのかと思い、馬を飛ばしておばあさんに会って来ましたが彼は来ていないと」
家族の事まで知っているということは、彼は職員と相当深い付き合いなのだろう。
「ただ‥‥おばあさんの病状があまり芳しくなく、それを王都に行く商人に言伝たらしいのです」
「ということは、それを聞いて慌てておばあさんの村へ向かったとか?」
「自分もそう思いました。ただ心配なのが、自分が村へ向かう道中彼に出会わなかったことと、彼が一人で夜更けに村を出たということです」
「いくらそんなに遠くはないとはいえ、夜更けに一人で出歩くのは危険よね」
王都に近いとはいえ、道中ならず者やモンスター達が出現しないとは言い切れない。それに夜更けだ、知らず知らずのうちに道を逸れてしまわないとも限らない。
「自分ひとりでは捜索にも限界があります。なので一度戻ってきたのですが‥‥彼の捜索に力を貸してもらえませんか?」
純也は縋るように冒険者を見た。
暗闇の中、道を逸れて林へ入ってしまったか崖下へ落ちてしまったか――事故としてはそれらの可能性が上げられると純也は言う。つまり村への道を逸れると林や崖などがあるというわけだ。
その他には一人で歩いている所をならず者達に狙われた可能性もある。勿論、彼と入れ違いに自力で村へ到着した可能性もないとは言い切れないが。
つまり村までの間にある林と崖下を捜索し、そこに彼がいれば救助なりなんなりして連れ帰ること。
その道程で彼を見つけられなければ村へ行き、彼が来ていないか確認すること。彼が村にいればそれでよし、どこにもいなければどこにもいないことを確認してきて欲しいのだ。
万が一彼がどこにも見当たらなければ、1から彼の行方の推理をし直すと純也はいう。
「自分としては彼は夜道で方向を見失い、負傷でもして林か崖下で動けなくなっているだけと思いたいです。彼が王都を出たのが夜更け‥‥今はもう夕方です。この時期大分外も冷え込みますので、もし彼が動けないのであれば早く助けてあげ欲しいのです。ならず者やモンスターが出ないとも限りませんし」
お願いします、といって彼は深く頭を下げた。
●今回の参加者
ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
ea6109 ティファル・ゲフェーリッヒ(30歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
ea8773 ケヴィン・グレイヴ(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
●リプレイ本文
●崖下の君に思いを寄せて
一般人の夜の外出、いくら王宮から近いとはいえこの夜の寒さも厳しくなる季節の外出となれば、夜更けに外に出て夕闇迫る時刻まで行方の知れぬ職員の身が心配される。
当初夜の出発は二次遭難の危険も考慮されたが、それよりも朝まで待つ事によって職員の身に危機が迫る事が危惧され、冒険者達は純也にいくつか質問を投げかけてすぐに王都を発った。
「深夜に外出するほど大事な用であったのなら、急ぎすぎて道を外れて迷ったり崖から落ちたりすることもあるだろうな」
崖下方面へ向かいながら冷静に言ったアリオス・エルスリード(ea0439)に、「出来れば崖下にいないといいのですが」とイェーガー・ラタイン(ea6382)が答える。職員を見つけたい気持ちはあれど、崖下に落ちて負傷して動けずに十数時間以上経過――そんな状態でなければいい、そんな気持ちもある。
「事件を多く扱うギルド員殿なら、夜更けに街を出る危険はすぐ思い至るでしょうが‥‥いったい何があったんでしょうか」
通りすがりに何か情報が得られれば、と外壁と街中を隔てる門に立つ門番に職員らしき者を見かけなかったかと尋ねたルイス・マリスカル(ea3063)だったが、職員が出かけたのは真夜中。どうやら真夜中を担当していた門番は交代して休息中らしい。
「今の所争った形跡やそれらしい足跡はないな」
ランタンを持ちながら崖へ至る道でもしっかりと注意して見渡す風烈(ea1587)に、
「跡は見つからないな。崖へ着いたらブレスセンサーとバイブレーションセンサーで調べてみるつもりだが、滑落跡がないかも注意して見たほうがいいだろう」
と静かに告げたのはケヴィン・グレイヴ(ea8773)だった。
「滑落跡らしきものはとくに見当たりませんね」
「そうだな」
ルイスの言葉にアリオスが答える。
崖に到着した一行はケヴィンがスクロールを使用している間に辺りの痕跡を調べていた。
「‥‥‥‥」
「何かわかりましたか?」
探査を終えたケヴィンが微妙な表情で黙り込むのを見て、天馬を撫でながらイェーガーが問う。
「成人男性の平均より少し小さめ位‥‥大体1.5m位の大きさの者の呼吸と振動を探知したが、複数だ。職員のものだという確証はないがどうする、降りてみるか?」
約150cm――成人男性としては小さい部類に入るが、職員ではないという確証はなく、それが別のものであり、万が一にも職員は既に呼吸が出来ない状態だなどとは考えたくない所だ。
「一応、注意して崖下に下りてみよう」
烈はランタンをイェーガーへと預け、オーラエリベーションを自身に付与した後、命綱をつけてクライミンクブーツに包まれた足を崖へと引っ掛ける。
「そうですね、何もなければそれに越した事は有りませんし」
ルイス、アリオス、ケヴィンも細心の注意を払いながら崖を降り始める。天馬に跨ったイェーガーの持つランタンが、彼らを支援する光源となっていた。
崖を下りるに従い、下から感じられるのは近づいてくる光と人の気配に対する警戒の唸りと殺気。明らかに職員のものではないとわかる。
「狼か」
灯りによって照らし出されたその姿を見、一行は素早く飛び降りて武器を構える。殲滅する必要はないかもしれないが、崖下を安全に探索する都合上追い払う必要はあった。
ヴァウッ!!!
飛び掛ってきた狼を、烈はさらりと避けて続けざまにその腹に拳を叩き込む。アリオスとケヴィンは矢を番え、少し離れた位置にいる狼へ威嚇射撃を行った。ルイスも飛び掛ってきた狼を避け、お返しにと剣で切り裂く。イェーガーは愛馬にホーリーフィールドを展開させ、短刀を投げつけて狼を牽制。
逃げてくれれば時間を無駄にせずにすむのだが――それは一行の感じている所だった。
●林の中の君を探して
グラン・バク(ea5229)は大きな仕事が片付いて一段落、という所だった。だが今回の仕事も急ぎの出発。以前アリオスから借りていたアイテムを返却する時間を取る事は出来たが、簡単に礼を述べることしか出来なかった。今度はもう少し時間に余裕を持とう、と少しだけ心に留めておく。
「それにしても職員さんはどこに行ったんやろな」
突っ込みのキレは今一だがそれなりに面白い人だった、とティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)は語る。
「とりあえず、大声で名前をお呼びすれば獣も逃げ出すでしょうし職員さんにも気づかれやすいでしょうから、呼んでみましょうか、せーの」
まるでチキュウのヒーローショーでヒーローを呼ぶような、あるいは歌のお姉さんがマスコットキャラクターを呼ぶような、そんな感じでフィリッパ・オーギュスト(eb1004)が指揮を取る。
「「「ラックさーん!!!」」」
がささささささっ!
うわぁぁああーー!
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
木々が葉を揺らす音と人間の叫び声。うん、誰かいるのは間違いなさそうだ。ティファルがテレスコープのスクロールでその様子を見る。
「あちゃあ。職員さん、なんか木に宙吊りになってるんやけど」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
何故宙吊り?
「と、とりあえず早く助けに行かなくては」
シュバルツ・バルト(eb4155)の言葉に、若干まだ職員の置かれた状況に疑問符を浮かべながらも一同は頷く。グランは事前に借り受けた職員の衣類の匂いを愛犬に嗅がせ、職員の匂いを追わせる。片手にはランプを持ち、女性ばかりの一同の一番前を行く。
「ラックさんー?」
「あ、人ですか? 助けてくださいー」
進みながらも続けたフィリッパの声掛けに、弱々しく返答が返ってくる。
「とりあえず他に獣とかの気配はなさそうや」
ブレスセンサーと、バイブレーションセンサーのスクロールを使用したティファルの言葉に安心して一行は職員のいると思われる場所へと急いだ。
「いましたね」
「ああ」
つい、冷静に見上げてしまうその姿は見事な吊るされた男。
「とりあえず下ろそう」
「私も手伝います」
元々獣獲りの罠か何かだったのだろう、ピンと張られたロープをシュバルツが切断すると職員の戒めは緩み、その身体は重力に従って落下――そしてグランに見事抱きとめられる。
「あたたたた‥‥助かりました」
ガタガタ震えつつそういう職員の唇は紫色で。グランは身体を温めるためにワインを飲ませ、毛布で身体を包んでやる。
「あら、足を怪我していらっしゃいますね」
フィリッパが目ざとく紫色に腫れ上がった職員の足を発見すると、痛むのだろう、彼は脂汗を浮かべながら情けない表情で事情を語り始めた。
曰く、食事を済ませて家へ帰る途中で祖母が危篤だと言伝られたため、取るものとりあえず王都を出たはいいが暗闇で方向を見失い、林へと入り込んでしまったらしい。その上無闇に歩き回ったものだから途中、蔓だか根だかに引っ掛かり派手に段差を滑り落ちたらしい。先ほどは人の声が聞こえたもので自分の位置を知らせようと慌てて動いた所、前から設置してあったような罠に引っかかってしまったのだという。
全く持って人騒がせな。しかし危篤とあっては急いで彼を村へと送り届けなくては。元より崖下へ向かっていた別働隊との合流場所も村と定めてある。
「この寒い林の中で一人で良く頑張った」
グランは職員を自分の馬に乗せ、励ましの言葉をかける。
「村まで行こか。暗くてもうちらの来た道を辿れば林から出れるさかい」
かくいうティファル自身は方向に自信がないため、皆とはぐれないように後ろをしっかりついていくのだが。
●合流
「無事に見つかったんですね、よかった」
「そちらは何かありましたか?」
先に到着していた林班と職員の姿を見つけ、ルイスが安堵の溜息を洩らす。シュバルツの問いにはケヴィンが答えた。
「狼の群れに出くわした。よかったな、崖下に落ちたのではなくて」
ケヴィンの言葉に足の手当てをしてもらって血色も良くなりつつある職員が「ひぃぃ」と悲鳴を上げる。確かに崖下に落ちて狼の群れに出くわしたら、彼には生き延びる術などなかった。
「親孝行したい時に親はなしとよく言い、親孝行は大切だが少し無茶が過ぎたな」
林での顛末を聞いた烈の呆れたような言葉に、職員はすいません、と小さくなる。
「出来るだけ安全確実な手段を取った方が、結局早く到着できるということがわかっただろう」
「事情はわかりますが、支倉さんやその他の方々に心配をかけたら意味がないです!」
アリオスの言葉は痛いほど職員の身に染みており、イェーガーの熱弁に返す言葉もない。
「ところでおばあさんのご容態は?」
ルイスの問いに、職員はこれ以上ないほど身を縮めて申し訳なさそうに口を開いた。
「危篤というのは僕の聞き違いで‥‥ただ昨日戸を修理する時に足を挫いただけらしいです‥‥踏み台から落ちて」
「‥‥‥‥」
お酒が入っていたのかもしれない、周りの雑踏のせいで聞きづらかったのかもしれない。だがどうしてそれが危篤になるのやら。
「まあまあ、おばあさまも職員さんも無事だった事ですし、終わりよければ全てよし、ですね」
フィリッパの笑顔と言葉に、軽い溜息交じりの笑が響き渡った。
ちなみに職員の怪我は軽い骨折と風邪であり、暫く祖母に看病されて過ごす事になったという。祖母の危篤の知らせ(勘違い)で村に向かった職員が看病される側に回るとは‥‥いかに心乱れていたとはいえ、なんとも情けないものである。