自称・美少女と犬と

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2007年12月13日

●オープニング

 冒険者街の入り口の隅に、一頭の犬が座り込んでいる。大人しく、じっと街の入り口の方角を見つめて、まるで誰かを待つように‥‥。
「わんちゃん、ご飯だよ」
 きゅ〜んと鼻を鳴らして少女を見上げる犬。
「ご主人様、まだ帰ってこないのかな?」
 くぅん‥‥頭を撫でられ切なげに鳴いた犬と共に、少女は遠くを見つめた。


「それはおそらく‥‥」
 ギルドのカウンターを訪れた酒場の娘ミレイアの話を聞き、ギルド職員手伝い中の支倉純也は少し考え込むような仕草をして見せた。そして口にするべきか迷った挙句、一つの推測を口にした。
「予定日を過ぎても戻って来ていない冒険者の飼い犬かと思われます」
「‥‥どういうこと?」
 その常ではない言葉を耳にして、ミレイアはあからさまに眉を顰める。
「先日、洞窟に巣食うモンスター退治の依頼に出発したパーティが、帰還予定日を過ぎても戻って来ていないのです。なので現場で何かあったのかと心配していたところだったのですが‥‥」
「その現場ってそんなに危険な所なの?」
「いえ、王都からそれなりに離れてはいますが、その洞窟に巣食うモンスター自体はそれほどでも有りません。退治に向かった四人であれば簡単に倒せるはずです。なので‥‥恐らく何か想定外のことが起こったのだと思われます」
 厳しい表情で告げる純也に、ミレイアも事の重大さを理解したのか青ざめて口を挟む。
「想定外って‥‥例えばどんな?」
「‥‥‥‥‥」
 彼は自身の想像を口にしてこの少女に伝えていいものかと迷ったが、「冒険者」の仕事について色々と学んでいる少女だ、口にしても大丈夫だろうと最終的には判断した。
「まず、洞窟の側には崖がありますのでそこからの滑落が考えられます。が‥‥四人全員が滑落したとは考えづらいです。むしろ全員が滑落して登ってこられないのだとしたら、冒険者として注意力散漫だと自分は思います」
「なるほど」
「もう1つ、彼らよりも強い敵と遭遇してしまったという事態が考えられます。先日、戦場から逃げ出したカオスニアンが馬車を襲っていたと聞きました。カオスニアンとは少し突飛過ぎかもしれませんが、彼ら四人より強いモンスターが彼らを襲ったという事も考えられます」
「‥‥‥」
 その場合、彼らの生存はかなり絶望的だ。
「どちらにせよ、もう一度洞窟へ冒険者達を送らなくてはなりません。洞窟付近で何が起こったのか、洞窟に住み着いたモンスターは退治されたのか、洞窟へ向かった冒険者達四人はどうなったのかを確かめるために」
 少女の為に皆まで言わず、純也はこれから取るべき行動を纏める。
「ただ単に、道中の簡単なトラブルで予定通り帰還できていないのならいいのですが‥‥」
 純也の不安げな呟きが、何か不吉な予感を伴ってミレイアの耳に届いた。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea8773 ケヴィン・グレイヴ(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●ご主人様を探して
 外の寒さはだんだんと厳しさを増し、野営においてはことさらその寒さが身に染みる季節になっていた。自然、焚き火の周りに冒険者達は集う。
 ご主人様を待ち続けている犬を捜索に連れて行ければ、捜索が楽になるかもしれない――そう考えた彼らは音無響(eb4482)のテレパシーに頼り、その犬にご主人様を探しに行く旨伝えた。すると犬はすっくと立ち上がり、わん、と一声吠えたのである。まるで連れて行ってくれとでもいうように。
 その犬は、焚き火に照らされ主人の側に侍って寛いでいる響の愛犬ハルや、フォーリィ・クライト(eb0754)の愛犬アリアらをじっと見つめていた。何を思っているのかは、推して知ることができるだろう。
「よしよし‥‥心配だろうけど、一緒にご主人様見つけようね。まさかお前、名前をハチ公とか言ったりしないよね?」
「くぅん?」
 響に頭をわしゃわしゃと撫でられた犬は『ハチ公』という言葉に不思議そうに声を上げたが、どうやらというかやはりというべきか、違うらしい。が、このまま名前がないのも不便なのでその犬の事は『ハチ』と呼ぶことにした。
「ほら、私も女の子のわんこさんです☆」
 哀愁漂わせるハチの前にぴょんと顔を出したのは、獣耳ヘアバンドをつけたベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。その姿は可愛らしいものだったが、ハチには何のことだかわからないようで。
「‥‥主人を健気に待つわんこ、か‥‥冒険者達にも帰るところがあるということだな‥‥」
「うーん、ワタシもペットをお留守番させている事が多いけど‥‥こういう事になっちゃうと可哀想だね。君のご主人様、無事だといいねぇ‥‥」
 焚き火の向こう側からハチを見つめたオルステッド・ブライオン(ea2449)。フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)はいつも自分が待たせている側なので思うところがあるのだろう、ゆっくりとハチの頭を撫でた。
「帰ってこないご主人様か‥‥最悪の可能性もあるし心しないとね。明日は我が身にならないように」
 愛犬の背を撫でながら零されたフォーリィの呟きに、フォーレ・ネーヴ(eb2093)も頷く。最悪の可能性は十分覚悟しているが、できればそうならないでほしいのは誰でも同じ。
「わんちゃんの為にもミレイアさんの笑顔の為にも、無事に帰還していただきたいものですけれど‥‥」
「現地までに合流できればいいのですが」
 だがこの場で野営をしているということは、夜が明けて暫く進めば目的の洞窟まで着くということ。フィリッパ・オーギュスト(eb1004)の言葉に希望を述べたルイス・マリスカル(ea3063)だったが、ここまで来れば道中に出会うということは少ないだろうと感じている。
「依頼において想定外の事が起こるというのは良くあることだ。何が起こっても対応できるように準備しておくのが冒険者というものだが、果たして今回の四人はどうであったのだろうな」
「少なくとも俺達は何が起こっても対応できるようにしておこう。もしも戦場から逃げてきたカオスニアンや恐獣がでてきたとしても、焦らぬように皆、心構えを」
 鋭いケヴィン・グレイヴ(ea8773)の言葉に返事をしたのは風烈(ea1587)だ。中にはそこまで考えていなかった者もいるだろう。だが、烈のこの言葉で一同の心に新たな覚悟が加わる。何が出てきても初動で遅れを取ることはないだろう。
「依頼を受けないという選択肢もあった、職業柄上仕方がないというのもあるが、同業者の死は見たくはないな。できれば無事であって欲しいが」
 四人の冒険者達の無事は皆が願うところで。烈が続けた言葉にハチがくぅんと鼻を鳴らした。


●洞窟に巣食いしモノは
 左手に崖、右手に木々と岩壁。そんな道を一同は進んでいた。道幅は優に5メートルはある為、道幅のせいで滑落を気にしながら歩く必要のある場所ではなかった。
「あ、あそこが洞窟の入り口みたいだよ‥‥ん?」
 漸く右側に続いていた岩壁がぽっかり穴を開けている部分が見え、フォーレが思わず声を上げた。だがその良い視力は同時に別のものも捉えていて。
「血の跡だな」
 洞窟入り口に到達する数メートル前、土が赤黒く変色しているのに烈も気がつく。だがフォーレが目を留めたのはそれではなかった。
「足‥‥ね」
 彼女の視線の先を追ったフォーリィが、目にしたものをそのまま口にする。血痕と、洞窟入り口を挟んで10メートル程先の茂みから、人間の足と思えるものが何本も覗いていたのである。
「あんなところで寝ているなんてことはないですよね」
 ベアトリーセは思わず希望的な言葉を発したが、それに同意できるものは誰も居ない。
「そんなっ!」
「‥‥あれが探している冒険者達のものとは限らない‥‥何人位倒れていそうだ?」
 響の叫びに似た言葉を押しとどめるようにして、オルステッドが視力の良い二人に尋ねる。
「茂みが邪魔してちょっと数えにくいんだけど‥‥」
「洞窟内に四つの呼吸を探知した」
「血痕付近に滑落跡らしきものを発見しました。それと洞窟前に焚き火の跡らしきものがありますね」
 順にフォーレ、ブレスセンサーのスクロールを使用したケヴィン、洞窟入り口まではまだ近づいていないが付近を探索していたルイスの言葉。

 一体、どれが『本物』なのだ?

 茂みに倒れている遺体? 洞窟内の呼吸? 崖下に滑落したと思われる何か?
「あ、ちょっとまって、ハチ!」
 と、その時ハチが一団を飛び出して滑落跡に駆け寄った。フィオレンティナが慌ててそれを追いかけるも、ハチは滑落跡からがけ下に向かってわんわんわんわんと激しく吠え立てる。
「洞窟内の何かが出てくる。気をつけろ」
 スクロールをブレスセンサーに変更していたケヴィンの言葉。それを受けてフィリッパがハチとそれを追ったフィオレンティナを庇うように高速詠唱でホーリーフィールドを発動させた。直径3メートルの球体が彼女達を覆ったかと思うと洞窟内から飛んできた矢が目に見えぬ結界を破壊し、フィリッパの頬を掠めていく。
「ぎりぎり間に合ったようですね」
 彼女のホーリーフィールドが間に合わなければ、洞窟内から不意に射られた矢でフィオレンティナやハチは傷を負っていただろう。
「フィリッパ、ありがとう。さぁハチ、崖下は後で探してあげるからこっちに‥‥」
 フィオレンティナはハチを安全な所まで下げようとするが、ハチは吠え続けて一向にその場を動こうとはしない。そうこうしている間にもハチの声を聞きつけた洞窟内にいた者達が姿を現していた。
「お、また冒険者か。食料が向こうから歩いて来たぜ」
「この前の奴らは食料は持っていたが手ごたえがなくてつまらなかったからなぁ」
 洞窟から出てきたのは大柄で色黒の男4人。その風体から一目でカオスニアンとわかる。
「やっぱりカオスニアンだったか」
 烈を初めとした直接攻撃を得意とするする面々が、ハチとカオスニアン達の間に立つように陣取る。
「ほー、やるらしいぜ、こいつら」
 かっかっと笑ったカオスニアンは、咥えていた焼いた獣の足の様なものを放り投げ、斧を構えた。どうやら洞窟に棲み付いていた猿達はこのカオスニアン達が倒し、食料としていたようで。
 ハチが動こうとしないせいで、ハチを庇うように出た冒険者達はある意味背水の陣でカオスニアン達を迎え撃つしかなくなった。ハチの後ろは崖だ、下手に後退する事は出来ない。ハチとフィオレンティナ、フィリッパの前に数人、元来た道を塞ぐように数人が布陣し、順に攻撃を仕掛ける。
「あなた達が彼らを殺したんですね?」
 問いの返事を期待しているわけではない。だがベアトリーセは問いではなく確認の意味を持ってその言葉を口にしていた。右腕の剣を迷うことなく振るい、カオスニアンに斬りつける。
「手加減してなんてあげないわよ」
 フォーリィのスマッシュが、横合いから弓を持ったカオスニアンへと命中する。
「‥‥全てはこいつらを退治してから、だな‥‥」
 オルステッドもフォーリィの攻撃に続いてまずは弓使いを狙った。
 一同がそれぞれの役割を持ってカオスニアン達と対峙している間にも、ハチは崖下に向かって吠え続けていた。

●行方
 4人のカオスニアンを退治した一行は、崖下に下りてみるルイス、烈とその他に別れていた。ケヴィンが再びブレスセンサーを使用したところ、崖下に細くではあるが呼吸反応があったからである。
「ハチ、今下に見に行ってくれているから、落ち着いてね」
 フィオレンティナに優しく背を撫でられ、ハチは漸く吠えるのを辞めて崖下へと降りていく二人をじっと見つめていた。
「三人‥‥だね」
 一方、フォーレやフィリッパは茂みに倒れている遺体を確認するという作業に移っていた。最悪の事態を予想していたとはいえ、辛い作業だ。
「聞いていた特徴からして、四人のうちの三人に間違いなさそうですね」
 フィリッパもフォーレも表情は暗い。
「すいません、ロープと毛布が余っていたら落としていただけませんか?」
 後一人は――? そう考えた時、崖下へ降りたルイスが声を上げた。それに反応してベアトリーセとフォーリィ、オルステッドがロープを、響が毛布を崖下へ投げ落とす。
「ゆっくり引き上げてくれ」
 烈の声に従って、二人が命綱としてつけていた2本のロープが崖上に残った男性陣の手によって引き上げられる。ハチが再び吠え始めた。崖上に残った者にも毛布に包まれたそれが人だということがわかる。それは小柄な女性だった。
「‥‥生きて、る?」
 響がロープと毛布を解いてその鼓動を確かめる。体温はかなり下がっていたが、心臓は確かにとくんとくんと動いていた。
「きゅーん、きゅーん‥‥」
 ハチが必死にその顔を舐める。その様子から見てこの人物がハチの主人であることに間違いないだろう。
「一人でも生き残っていて良かった」
 フォーレのその言葉は、皆の心を代弁していた。


 彼らは応急手当をし、毛布で包まれた意識不明の主人と3体の遺体を王都へと連れ帰った。王都で更なる手当てを受けて意識を取り戻した彼女の話によると、彼女達が洞窟に到着した時には既に猿モンスターはカオスニアンに退治されて捕食された後であり、彼女達は突然のカオスニアンとの出会いに戸惑ったという。彼女は矢による攻撃を辛うじて避けた際にぬかるんだ崖の淵から滑落してしまい、その後の事は殆どわからないらしい。だが茂みに放置されていた遺体から見て、その後何がが起こったのかは明らかだろう。
 三人の犠牲が出てしまったのはとても残念なことだが、一人でも助けられたことは僥倖だ。もう少し発見と手当てが遅れていれば、彼女の命でさえ危なかっただろう。
 一同の働きにより、主人を待ち続ける一匹の犬が無事に主人と再会することが出来た。
 ちなみに、犬の名前はやっぱり『ハチ』ではなかったことを付け加えておく。