わたしたちにできること。

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月10日〜12月15日

リプレイ公開日:2007年12月14日

●オープニング

「ちょっともー聞いてよー」
 酒場の片隅で、小さなコップからエールをぐぐいとあおり、赤い髪のシフールが同じ卓でサラダをつまんでいる茶色い髪のシフールに声をかけた。
「小さいからって馬鹿にされたー!」
「荒れてるねぇ」
 とんっとテーブルに空のコップを叩くようにして置き、赤い髪のシフールはむぅと頬を膨らませる。どうやら相当頭にきているらしい。
「小さい私達にだってできることは沢山あるんだよー? なのに初めから人数外みたいな扱いされたら怒りたくならないー?」
「まぁ、それはなるねぇ。僕達だって普通に出来る事は多いのにね――確かに重いものや大きいものを持ち上げたりとかは無理だけどねぇ」
 むかむかとしたまま2杯目のエールをあおる赤い髪のシフールとは対照的に、茶色い髪のシフールは冷静なままだ。もしかしたら赤い髪のシフールのヒステリーには慣れているのかもしれない。
「どうにかして、小さい私達だって立派に色々な事が出来るって示してやりたいのよー!」
「それならいい考えがあるしふ!」
 二杯目のエールを空けた赤い髪のシフールの背後から、突然声が上がった。どうやら二人の会話をその人物は聞いていたらしい。その声の主、碧の羽のシフールは燕桂花(ea3501)と名乗り、自信満々に胸を張ってこう言った。
「お祭りをやるしふ!」

 +―+―+

「ふむ、なるほどね」
 冒険者ギルドの職員は話を聞いて頷き、依頼を持ち込んできた者達を見回す。
「小さい者達でお祭りを作り上げたいと」
「そうしふ! あたいは料理を担当したいしふ〜☆」
 桂花は職員の言葉を肯定し、小さくても何でも出来るんだということを示したいのだと告げる。
「あ、あの‥‥小さい者達‥‥って、パラでもいいですか?」
 怯えたような小さな声。その声に桂花や職員が振り返ると、そこにはパラの男性が立っていた。
「確かに、パラの人たちもシフールの人たちと近い悩みを抱えていそうね。どうかしら?」
「構わないしふ!」
 職員に問われ、桂花は「しふしふ〜」とよろしくの意味を込めてパラの男性に小さな手を差し出した。

 +―+―+

 会場はウィルの街角の空き地の一角となった。既にそこを借りる手続きは済ませてある。
 宣伝をして回ったことで、他にも十数人のシフールとパラが集まった。これだけいれば殆ど事に関して準備の手が足りないという事はないだろう。
 今回冒険者を募集する理由は二つある。
 一つはお祭りのホスト側の人員募集――つまりシフールやパラで他にも一緒に祭りを作り上げたいという人を募集しているのだ。
 もう一つは、祭りを盛り上げるために何かしたいのだが、自分達には特に得意というべきものがないという者達にアドバイスなり特訓なりをしてくれる人員の募集だ。他のシフールやパラ達は祭りの支度でてんてこ舞いで、はっきり言って他の者の面倒を見ている余裕がなかったりする。それ故他種族の冒険者に知恵と力を借りたいというわけだ。
 アドバイスをほしがっているのは次の三人。

■マーシャ/女/赤い髪のシフール‥‥素早さに優れ、細かい作業よりも身体を動かすことが得意

■ルチオ/男/茶色い髪のシフール‥‥器用で、身体を動かす事よりも作業の方が得意

■スイ/男/パラの青年…何をやっても並程度だが、綺麗な声をしている。ただし少し人見知り

 彼らに教える内容は祭りに役立ちそうなものならなんでもいい。皆をもてなす料理、華やかな見世物であるダンス、剣舞、歌、楽器、語り、会場を彩る飾りの為の裁縫‥‥本当に何でもいいのだ。
 そして他種族の冒険者には、祭り当日は存分に祭りを楽しんでほしい。彼らが主役となり、皆をもてなす姿を微笑ましく見守ってもらえればと思う。

●今回の参加者

 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3501 燕 桂花(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea6592 アミィ・エル(63歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6597 真 慧琉(22歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb4117 大曽根 瑞穂(30歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)

●リプレイ本文

●まずは何事も準備から
 ウィルの街の空き地に、十数人のシフールとパラ、そして今回の依頼を受けた冒険者達が集っていた。これからそれぞれ創意工夫を凝らし、この空き地をお祭り会場とするのだ。
「今回のお祭り! しっかりと完遂させるしふよ〜☆」
 お祭り発案者の燕桂花(ea3501)の号令に従い、一同が「オー!」と返事をする。めいめいが自分にできること、それを見極めて準備をし、小さくたって何でもできるんだということを知ってもらいたいというのが今回のお祭りの一番の趣旨だったりする。大丈夫、そのためにはお客さんに楽しんでもらわなくてはならないことくらい、彼女達も十分解っているから。


 ディーネ・ノート(ea1542)は用意された木材と空き地の広さ、そして集まったシフールやパラ達の希望を重視して、花形となる舞台の設計を考える。
「舞台は一番目立つ所で、そして多少激しい動きをしても壊れないようにするのは当然よね、丈夫な造りに仕上げないと」
 さすがに舞台や屋台用の木材の運搬となるとシフールには手に負えないので、その辺はディーネや大曽根瑞穂(eb4117)、キース・ファラン(eb4324)の出番だ。舞台は一つでいいが屋台は店を出したい者達それぞれの希望を取り入れて複数造らなくてはならないから、これが結構大変だ。
「こういう時にゴーレムに乗ってできれば楽なんだろうけど、こんな街中で使おうものなら大目玉が待っているよな」
 冬空の下でも身体を動かせば噴き出してくる汗を拭いながら思わず呟かれたキースの言葉に、屋台が出来上がるのを側で見ていたシフール達がくすくすと笑った。
「あら、これをここに嵌めればいいのですか?」
 瑞穂の組み立てた屋台はどうやら手作りの装飾品を並べたいシフールの少女達の物の様で、彼女達は案外細かい部分にうるさい。だが瑞穂は笑顔でそれらの注文を聞き、骨組みを微調整して彼女たちの気の済む屋台が作れるように努力していた。
「きっと、かっこいい男がいっぱい来るんすよねぇ。あたいの踊りで魅了して、その後は‥‥」
 準備している一同など目に入らない様子で凄い妄想をしているのは真慧琉(ea6597)。声を掛けられた彼女のご主人様であるアミィ・エル(ea6592)はそんな彼女の妄想を一蹴するが如くこう告げた。
「慧琉さん、今回はわたくし一人で楽しみたいので勝手にやってくださいます」
「え? アミィ様?」
 自分の言いたいことを告げるだけ告げてスタスタと歩いていってしまったアミィを、慧琉は暫くぼーっと眺めていた。が同じお祭り会場にいることは変わらないのだからと気を取り直してふわりふわりと目的の、赤い髪のシフールの元へ飛んでいく。確か彼女は特技が無いから何か教えてほしいと思っている一人のはずだ。
「マーシャって、あたいと同じタイプだよね。折角だから一緒に練習する?」
「ん? なんか教えてくれるの?」
「踊りを教えてあげるから、あたいの真似をしてみて」
 マーシャは最初こそかくかくとぎこちなかったが、慧琉の見本が良いのか徐々にその踊りはさまになっていく。
「よおし、今度は男を魅了する踊りを教えちゃうよ!」
 マーシャの上達に気分を良くした慧琉は、ちょっぴり方向性を間違えそうになったりして。
「ルチオさん、どうですか?」
 茶色い髪のシフール、ルチオに笛を教えていたケンイチ・ヤマモト(ea0760)は、なかなか上手く音が出せないという彼に、ゆっくりと丁寧に教えていく。
「技術も必要ですけれど、それよりも気持ちを出すという事が大事なんです。お祭りを楽しんでもらおうとする心、まずはそれが第一です」
「うーん、こんな感じかねぇ?」
 たどたどしくはあるが、彼の音はそれまでの弱いひょろひょろとしたものからはじけるような音に変わっていく。
「そうです、ほらあそこでマーシャさんが踊っています。彼女の踊りに合わせて演奏してあげるのもいいかもしれませんよ?」
 音が踊りに合わせているのか踊りが音にあわせているのか、両者の熟練段階ではどうとも言いがたいが、それなりに形にはなってきているようだ。
「(桂花も面白い事を考えるものだな)」
 飛天龍(eb0010)は自分の屋台で肉まんの生地をこねながら辺りを見渡す。ただの空き地だった場所が、舞台や屋台の並ぶお祭り会場へと様変わりしつつあった。あちこちでシフールやパラ達が屋台の支度や出し物の練習をしているのが見える。
「しっふしふ〜☆」
 隣の屋台では桂花が自らの生まれ故郷の料理を沢山作り始めていた。餃子に焼売、肉饅頭に餡饅頭、小龍包‥‥更にはラーメンまで。小さな身体をくるくるとせわしく動かして準備を続けている。
 天龍は自分が料理を始めたきっかけとなった彼女の動く様を見て、生地をこねる手にぐっと力を入れる。これは自分が彼女にどこまで近づけたか試す良い機会だ。種類を沢山作る桂花と、メニューを1種類に絞って下ごしらえに手間をかけて在庫の余裕を持たせるところまで徹底した天龍。スタイルこそは違うが、売り物として出す以上買ってくれた者に喜んで貰える様に精一杯頑張ろうとする気持ちは一緒だ。
「あたい特製のしふラーメンしふ☆ 出来るだけみんな低価格で提供するつもりしふ☆」
 休む間もなく動き回っていた桂花はふぅ、と一息ついて天龍ににこりと笑って見せた。
「うわぁぁ、ど、どこ投げてるんだ!」
「あ、ごめーん」
 ルチオの悲鳴が響いた。あっけらかんと舌を出すマーシャに、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)は苦笑を洩らす。彼女はマーシャにダーツ投げを教えていたのだが、何故かダーツは笛を練習していたルチオのほうへと飛んで――
「別に少々失敗しても笑って失敗をも楽しまれるといい、お祭りなのだし細かい事は皆それほど気にすまい」
「よし、気にしない!」
「いや、明らかに的と方向が違うからそれ位は気にしてほしい」
 ルチオの嘆願にも似た願いは明らかに無視され、シャリーアの指導の元ダーツが飛び交う。
「あら、何を緊張なさっているのかしら」
「うわぁぁぁ、ぁぁっ!」
 そんなダーツ投げの様子を屋台の陰から伺っている後姿。その人物に不意打ち気味に声をかけたのはアミィ。ただでさえ人見知りのスイは「あの、その」と二の句を繋げずに口をパクパクさせて後ずさる。
「あなた歌が得意なのなら、今、練習がてらわたくしの前で歌ってくださらない?」
「あ、は、はい‥‥」
 完全に怯えと人見知りによる緊張の混じった彼の声はか細く、自信なさげで。アミィは彼が歌い終わるのを待ち、目を細めて一箇所一箇所指摘を始めた。
「あそこと、あそこの所が声が出ていないですわね。後は楽しそうじゃないですわ。つまりは、その部分を直せば完璧と云ってるのがわかりません?」
「は、はぃ‥‥」
 スイは少々怯えつつもアミィの指摘通りに歌声を修正していく。彼女の、きつい言葉に隠された真意を彼は感じ取れているのかもしれない。


「みんな準備は上手く行っているしふね〜」
 桂花はお祭り提案者として一通り屋台や練習風景を見て回って安心したように微笑んだ。準備で多少疲れてはいたが、これからが本番。疲れたなんて言っていられない。
「宣伝をしてきたわよ」
「桂花さん、屋台の方でお手伝いありますか?」
 猫耳ヘアバンドを装着してお祭りの宣伝に街を回っていたディーネと、彼女が迷子にならないようにと一緒に宣伝についていった瑞穂が戻ってくる。
「大丈夫しふ。みんな準備万端しふ☆」
 笑顔で言う桂花の後ろでは、シャリーアに着付けを施されたマーシャ、ルチオ、スイの三人がいつもと違う服装に少し戸惑っている。マーシャは踊り子風、ルチオは楽士風、スイは礼儀作法を教わりウェイターとしても仕立て上げられたのでウェイター風の服を着ていた。
 宣伝によって徐々にお客が集まりつつある。
 さぁ、お祭りの始まりだ!


●楽しき祭り
「さぁ、次は可愛いシフール二人による踊りだ。楽士もシフールだぜ。是非見て行ってくれ」
 優雅な踊りと曲芸を組み合わせた芸を披露し終えたキースが、次の演目の紹介をする。次は慧琉とマーシャの舞だった。それに合わせて演奏するのはルチオ。ケンイチは客席から優しい眼差しで教え子を見守っている。シャリーアは肉まんを片手に、前演技者のキースへと賞賛を送った。勿論次の演目も見るつもりだ。
「スイさん、緊張しているのか? 舞台に立ってしまえば緊張なんて吹き飛ぶぜ?」
 キースに肩を叩かれ「は、はい」とスイは硬くなる。
「ところでさ、普段どんなことしてるんだ? 俺はゴーレムで空を飛んで戦うことを目指してるぜ」
 世間話で少しでもスイの緊張をほぐそうとしたキースの言葉に、同じパラであることも手伝ってか、スイの表情から緊張が消えていく。
「えと‥‥僕はウィザードなので、時々ギルドから依頼を受けたり…しています。それ以外は、い、一応‥‥時々代書を頼まれたり、とか」
「なるほどな。困ったこととかないか?」
「い、今のところは‥‥」
 あえて言うなら人見知り、だろうが周知の事実だからか、彼はそれを口にしない。キースはそうか、といってニッと笑った。
「何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ」

「慧琉さん」
「あ、アミィ様!」
「あら、楽しんでいらっしゃる様ですわね」
 演舞を終えて舞台から降りた慧琉に、アミィは鋭い視線を投げかける。
「あたいは生まれて直ぐにアミィ様に拾われて皆が大きい世界で過ごしてきたから、何かシフール同士で過ごすのは新鮮です」
「そう。でもわたくしの付き人の仕事があるのですから、ほどほどになさってくださいね。おっほっほっ!」
 言うだけ言って、アミィはすすっと慧琉の前から立ち去る。言い方はアレだが別に慧琉が楽しむことを咎めているわけではない。素直に言わないだけだ。自分がいると邪魔だと思い、さっと立ち去ったのがその証拠。
「むぐむぐ」
 桂花の店で買った春巻きや餃子を食べ歩きながら警備を兼ねているディーネは、全屋台食べ歩きを敢行するべく次の屋台に目をつける。前方に美味しそうな焼き菓子を売っているパラの屋台を発見。
「怪我人はいないようですね」
 お祭りとなると気分が高揚して怪我人も出やすいもの。瑞穂は万が一怪我人が出たら手当てをと思い待機していたが、やはり自分も楽しまないと損だと思い、会場散策を開始する。そういえば屋台作成を手伝ったシフールの二人は装飾品を出すのだといっていた。どんなものが出ているのか見にいってみるのもいいかもしれない。

「しっふしふ〜はい、どうぞしふ〜☆ あ、はいはいちょっと待ってほしいしふ〜」
 桂花と天龍の屋台は大繁盛で、次々とお客が押し寄せて休む暇もなかった。嬉しい悲鳴とはこのことである。
「シフールには半分な。人間にはこっちの大きい方だ。おっと、そっちはまだ蒸しているからちょっと待ってくれ」
 天龍の肉まんも蒸し上がりを待つ客が出る始末。販売価格は原価ギリギリまで絞ってあるから利益は出ないが、元々目的は利益ではない。
「ねぇ、あたいたち、ちゃんと社会貢献しているって証明できているしふよね?」
 隣の屋台からの桂花の声に、天龍は「ああ、そうだな」と頷き返した。

 祭りは大成功に終った。
 用意されたほとんどの物は売り切れとなり、ショーも大歓声のうちに幕を閉じた。
 中にはシフールやパラなどの小さい者達にこれほどの事が出来ると知らなかった者も多いだろう。そういった者達に小さい者達でも出来る事は沢山あるんだと教えたい、その桂花の希望は良い形で叶ったとも言える。
「これはあたいからのお礼しふ」
 桂花は今回協力してくれた仲間達に、報酬の入った袋を差し出した。その彼女の顔は、満足気に輝いていた。