White Memory!

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:易しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:12人

サポート参加人数:5人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2007年12月26日

●オープニング

 クリスマス――天界では聖夜祭という催しが開かれるという。チキュウでは宗教関係なく全ての人々が友達、家族、恋人などと楽しくパーティをして過ごすのだという。
「そういえばここでは、聖夜を祝う催しはなかったですね」
「大晦日と元旦を祝う月霊祭ならあるけどね」
 12月は後何日だろうか‥‥ふとそんなことを思って指折り数えていた支倉純也がぽつりと呟いた。それに対して丁度ワインをテーブルに置きに来た酒場の娘ミレイアが答える。
「以前チキュウから来た方から話を伺ったことがあります。チキュウの聖夜はクリスマスといい、パーティを開いて友達や家族達と『闇鍋』なるものを食するとか」
「『闇鍋』? なんだか物騒な名前ね」
 だがしかし興味をそそられたのか、ミレイアはトレイをテーブルに置き、純也の隣の椅子を引いて腰をかける。
 この二人の会話をチキュウ人が聞いていたら全力で否定しただろう。恐らくかつて彼にこんな事を吹き込んだチキュウ人は、純也の生真面目さをからかうつもりで言ったのだろうが、それを冗談だと教えるのを忘れてしまったに違いない。
「色々な食材を持ち寄って、それを鍋に入れて、灯りを消して蝋燭の仄かな光の中で皿によそったものを食すとか‥‥しかも、一度よそったものは必ず食べないといけないそうです」
 食材に失礼ですからね、と純也は好き嫌いをいう子供に言うような声色で告げた。
「でも楽しそう。そのクリスマスパーティとやら、開いてみない? 場所はうちをつかっていいから!」
 ずいと身を乗り出したミレイアは既にやる気満々だ。そして場所の確保ができるとあれば、純也にその申し出を断る理由などない。
「お店をお借りできるならば、皆さんと楽しいひと時を過ごすのを厭う理由は有りませんね。私も賛成します」
「それじゃあ参加者を募集してみてくれる?」
「いいでしょう。私の知り合いも数人手伝いに寄越しますね」
 こうしてちょっと間違った天界式クリスマスパーティが決行されることになったのだ。

●パーティについて
・闇鍋に入れる食材を一人一品持ち寄る事。
・飾りつけ、会場セッティング、料理、一芸披露など何か一つ、パーティ作りに貢献する事。
・闇鍋決行時には場内の照明が落とされ、蝋燭が数本灯されるだけとなります。
・店の裏口から裏庭へエスケープする事が出来ます。裏口から裏庭までの道はスタッフによりランタンで道標のように彩られており、裏庭にある大きな木にはリボンやオーナメントが飾られていてロマンティックな雰囲気を醸し出しています。誰かと二人でパーティを抜け出して、ロマンティックな雰囲気に浸りたいという方はこちらへどうぞ。ただし抜け出すチャンスは闇鍋決行の為に灯りが落とされた時ですので、闇鍋を食すことは出来ません。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

シュタール・アイゼナッハ(ea9387)/ 李 双槍(eb0895)/ ガルム・ガラン(eb0977)/ ルヴィア・レヴィア(eb4263)/ リュボフィ・ブリューソフ(ec3695

●リプレイ本文

●準備は素早く
 これだけの人数がそろってやる気になれば準備なんてさくさく進んでしまうものだ。
 白金銀(eb8388)が可愛らしい布巾で拭き掃除をしていく側から風烈(ea1587)やルイス・マリスカル(ea3063)、レインフォルス・フォルナード(ea7641)、ランディ・マクファーレン(ea1702)ら男性陣が机を移動させたり高いところの飾り付けを手伝ったりと、きびきびと動く。
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)は絵と影絵の二重構造となる素敵な飾りを作成し、浮かれモードのフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)はクリスマスリースというらしい輪の飾りを飾り付けたりキャンドルを設置したりと活躍している。
 一方の厨房ではレフェツィア・セヴェナ(ea0356)やフォーレ・ネーヴ(eb2093)らがさっぱりとした味の料理を作る中、操群雷(ea7553)がお得意(?)のカエル料理を次々と作成していく。世界中を渡り歩いた事があるというクウェル・グッドウェザー(ea0447)は自前のエプロンを身につけてイギリスやノルマンの料理に挑戦だ。果たして飲みきれるのかというほど大量にお酒を持ち込んだソフィア・ファーリーフ(ea3972)は飲み物担当。自家製ハーブを使ったハーブティやかって来たばかりの果物を使ったフレッシュジュースを用意する。
 こうして瞬く間にパーティの日を迎えたのである。


●メリークリスマス♪
「皆さんお集まり戴き、有難うございます」
「後は闇鍋に具を入れて、煮えるまでは別の物を食べて待とう!」
 純也の簡単な挨拶を遮るようにしてミレイアが提案する。彼女としては魅力的な料理が並んだテーブルを無視できないようで。それもそのはず、冒険者達が作った料理のほかにレフェツィアが奈良漬「黒錦」、クウェルが干物「紀紅」などという珍しい食べ物まで提供したのだ。加えて大量の酒類の中に混じっている缶ジュースが、彼女の興味をそそっているらしい。
「落ち着いてください、ミレイアさん。まずは私達からのプレゼントをお配りしましょう」
「忘れてた!」
 純也が取り出したのはローズキャンドル。些細なものですが記念に、と一つ一つ手渡される。ミレイアは大きな籠に沢山入った毛糸の靴下を配って歩いた。
「チキュウでは枕元に靴下を吊るして置くんだって。だからみんなの分編んでみたんだよ!」
 多少不恰好かもしれないが、それは彼女の手作り故ということで目をつぶってほしい。
「では私からもミレイアさんに」
 すっと進み出たルイスの手にはドレスとパンプスとコサージュが。ずっとミレイアを見守ってきた彼からの、彼女の今後の成長を期待してのプレゼントという事だろうか。
「わぁ、ありがとう! じゃあ、お返しにこれあげるね!」
 ミレイアからルイスへ渡されたのは、猫の手の形をしたミトン。靴下を編んだ毛糸で編んだらしい。

「では皆さん大鍋に背中をお向けください。そしてお一人ずつそーっと鍋に具材投入を」
 純也の声掛けで皆が背を向ける。会場に置かれた大鍋に純也がまずは卵を落とした。生だ。鍋にはまだ火が掛けられていない。そのうち攪拌されて卵だけを取り出すことなど出来なくなってしまうのではないだろうか。続いてミレイアが入れる。‥‥‥焼き菓子だ。何もいうまい。レフェツィアがキノコ、フォーレが人参、レインフォルスがじゃが芋、素の素材はここまで。群雷は鶏の腹に香草を入れて腹を縫ったもの、烈はイカの腹に米を詰めたものとイカスミという少し手の込んだものを。銀は抹茶味の保存食に天護酒、缶ビール。クウェルは小豆味の保存食を。最初にペットの鶏を冗談で入れようとしてつつかれていたのだが、後ろを向いている一同には一体何が起こったのかわからない。きっと永遠の謎だ。
 そしてここからがある意味未知の物体の投入だ。フィリッパが聖なるパンを、フィオレンティナが何の豆か良くわからない緑の豆とオレンジを。ランディとルイスは宇宙食とカップやきそばというチキュウの食品を。そしてしめにソフィアが自家製のバラの花を。鍋に咲く花。イカスミで黒く染まった汁の上でその花は目立っていた。
 そして鍋が厨房に運ばれて火に掛けられている間は歓談とショータイム。
「おおー、すごいですともさー」
 自由行動になるや自分で大量に持ち込んだ酒類を片っ端から空け始めたソフィアは既に酔っ払いモードで。手刀で酒瓶を切って開けた烈に賛辞を送る。
「そうだ、ソフィアさん一緒に聖なる干し肉を食べてみませんか?」
 『聖なる』とつくからには何かあるのではないかと常々疑問に思っていた烈は、テーブルに干し肉を広げる。見た目は普通の干し肉だが。
「きっと進化した烈さん。つまりはセイント烈さんになるですともさー!」
 ソフィアと共にひとかけつまんで思い切って口に運ぶ。
 ‥‥
 ‥‥‥
 特に何も起こらない。味も普通と変わらない。
「意外と普通の味なんだな」
 ちょっとばかりがっかりして、烈は酒のつまみとして干し肉を再び口に運んだ。

「シークレット・サンタからミュージックのデリバリーです」
 突然30代貴族風の男性が現れたかと思うと優雅な音楽を演奏し始める。実はフィリッパが変装した姿だったりするがそれを指摘するのは無粋というもの。ルイスもそれに合わせるようにしてリュートを爪弾き始めた。
「‥‥パートナーを、頼む」
 礼服に着替えてオーラエリベイションを自身に付与したランディがフィオレンティナに手を差し出す。ランディから貰ったという天界風のドレスを着ておめかしをしたフィオレンティナがほころぶように笑ってその手を取った。2人の優雅なダンスが始まる。
「さすがだね〜息が合ってるよ」
「歌も音楽も上手だね」
 料理や飲み物をつまみながらフォーレとレフェツィアがその出し物をじっと見つめる。群雷は厨房付近から出し物を見つつ、鍋の〆に入れるうどんを打っていた。
「‥‥御粗末」
 曲が終わり、観客に頭を下げたランディとフィオレンティナ、そして演奏をした2人に拍手が降りかかる。
「それでは次は私が」
 銀がスプーンを手に前に出、右手の甲を観客に向ける。
「スプーンが‥‥ほら、落ちません!」
 まるで掌にスプーンがくっついたように――見えない。だって反対の手で押さえているのが見え見えなんだもん。
「銀さん、タネが見えてますよ」
「じゃあ、こ、これならっ!」
 クウェルの突っ込みに銀はスプーンを放り投げ、両手の親指と人差し指で二つの輪っかを作ってみせる。
「見ててください――ほら繋がった!」
 その手を頭の後ろに持って行き、再び前に出した時は輪っかが繋がって。
「あーすごいですともさー」
「いや、あれは頭の後ろで繋げたんだろう」
 酔っ払いのソフィアの声に烈が冷静に突っ込みを入れる。
「くそう、何でばれたんでしょう」
 ――バレバレです。


●闇の鍋
 そうこうしている間に鍋も出来上がったようで、大鍋が会場に運ばれてくる。だしと食材と御酒と薔薇の混ざった匂い。イカスミの混ざった色。食べる前からなんだかいやーな予感が。
 会場のランタンが消され、蝋燭数本で鍋が照らし出される。その間に姿を消した者達がいたようだが人々の関心は鍋に向いているので気がつかれる事はなかった。
 巨大な蝋燭――まるごとろうそくを着込んだクウェルがまず取り出したのはじゃが芋。しょっぱめのだしとお酒、甘さを含んでイカスミで黒く染まったそれは柔らかさは丁度良く。
「感謝の気持ちを込めて最後までいただきます」
 確実にまともな食材の方だろう、クウェルは頑張って取った分を完食。
 次に食材を取ったのは銀。取ったものは黒く変色しているが宇宙食。銀にとっては珍しい食材ではないが――フリーズドライされたいたそれが吸った汁の量が多く。
「ぐふ‥‥甘しょっぱい」
「コレはきっとキノコアルね!」
 やはり黒く染まった食材を取り出したのは群雷。カエル料理を得意とする彼の事だ、このくらいどうってことなくぺろりと平らげる。
「普通に美味いと思う」
 仄かに漂う甘ささえなければ。そう思うのはレインフォルス。取ったものは鶏の香草詰め。確かに甘ささえなければ意外と美味しいかもしれない。
「これ、汁だか食べ物だかわからなくなっちゃってるよ‥‥」
 レフェツィアはどろどろ溶けかかった焼き菓子を取ってしまった。汁のしょっぱさと菓子の仄かな甘さが頭にがんと響く。でも楽しむことは全力で楽しもう、と一気に食べてしまった。
「お、これなんだろう、不思議な味」
 抹茶味の保存食をとったフォーレは抹茶の独特の味に不思議そうに首をかしげる。ドキドキわくわくしながら食べたが、その味は口にあったのだろうか?
「これは‥‥口に入れると中に詰まった汁がじゅわっと」
 イカを取ったフィリッパはイカの味よりも中から出てくる汁の味に顔を顰める。
「食べられる薔薇、でいいんですよね?」
 ルイスは所々イカスミで黒く染まったバラの花を目の前にして誰にともなく尋ねる。「多分大丈夫ですともさー」とあてにならない返答のソフィアを横目に思い切って口に入れると、ふんわりと薔薇の香りが汁に混じって広がった。
「漢には負けると分かっていても戦わねばならぬ時がある」
 烈は黒く染まった汁を大量に吸い込みぶよぶよになった聖なるパンを目の前にして覚悟を決める。聖なる、とはいえ中身は普通のパン。汁を沢山吸ったパン。一気に口に入れる――南無三。
「おーこれはだし汁についた素材の濃厚な味と小豆の独特の仄かな甘さが、音楽隊になって不思議なハーモニーを醸し出しているともさー」
 とっくに出来上がったソフィアは詩酒「オーズレーリル」のせいもあるのだろう、小豆味の保存食の感想を延々と詩的表現で述べ続けた。
 ちなみに謎の豆を食べた純也は「そのうち胃の中で芽が出るかも」と脅され、汁を沢山吸ったカップやきそばを食べたミレイアは隅っこでぐったりとしていた。
 それでも長き夜はまだ続く――。

●今宵あなたと2人で
 そっと会場を抜け出したランディとフィオレンティナは裏口のランタンの道に沿って、飾り付けられた裏庭へと向かっていた。繋いだ手を引かれるまま、大木を見上げる。
「おお、ツリーが綺麗だねぇ」
 素直に感想を漏らすフィオレンティナを見つめ、ランディは考える。正直、どうやって間を持たそうかと。
「‥‥月並みな言い方だが、似合っている」
 出た言葉はプレゼントしたドレスを褒める言葉。それでも彼女にとっては、こうして彼と2人でいることが何よりも嬉いことで。
「依頼で大変な目に遭ったりもしたし、戦争もまだ続いているけど…来年もランディとこうして一緒に過ごせますよーに」
 祈りを込めるようにして、フィオレンティナはランディの頬にそっと口付けた。

 屋内からは闇鍋を食べているのだろう、喧騒が絶えない。だがここだけは静かな空間。2人だけの時間。


 こうして皆でわいわい、大切な人と2人で――それぞれの夜は更けていくのだった。