氷花〜遺された小さな種を探して〜
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月26日〜12月31日
リプレイ公開日:2007年12月30日
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●オープニング
「ねーねー、じいさん天涯孤独じゃないかもしれないんだって!」
「‥‥‥‥」
ギルドのカウンターに飛んでくるやいきなりそう言った碧の羽根のシフールに、ギルド職員の仕事の手伝いをしていた支倉純也は目をしばたかせた。そのシフール――チュールが言っているのが何のことだか解らなかったのだ。
「‥‥あぁ、この間のグライスさんのことですか」
暫く間を置いて漸く得心がいったとでもいうように、彼はぽん、と拳を掌に打ち付けた。
死期が近い元商人の老人がいた。彼は自分の死期を悟っている。その彼の財産を目当てに自称親族達が度々館を訪れていた。ボケてなどいない老人にはその自称親族達が偽者だという事など簡単にわかる。自称親族達のしつこさに飽き飽きした老人は爆弾発言をした――自分に面白い話を聞かせてくれた冒険者に財産を譲る、と。
チュールにより老人に家族の暖かさを教えてほしいと頼まれた冒険者達は、遺産目当てではないという事をまず説明し、老人と五日間の擬似家族生活をした。その間で老人には娘がいたこと、その娘が既に死亡している事、娘が駆け落ちした際に身籠っていた可能性があることを付き止めたのである。
「純也もさ、いってたじゃん? 遺産はやっぱり家族に譲るべきだって」
「‥‥ええ、言いましたね」
「とりあえず当時の事を知っていそうな人たちに聞き込みと、あとじいさんにそれとなく昔話を聞かせてもらったんだよ。冒険者達と過ごしたおかげか、じいさん少し柔らかくなってね、娘をよく連れて行った村の話もしてくれたんだ」
得意げに話すシフールに、純也は目を細めて微笑む。
「貴方はもしかしたらいるかもしれないというお孫さんを探してあげたいのですね? 今度はおじいさんから何かをもらったわけでもないでしょうに‥‥お優しいのですね」
「ばっ、馬鹿っ! 優しいとかじゃないってば! じいさん放って置けないだけ! だってここまで関わった以上、孤独なまま死んでくじいさんをただ見ているだけなんてすっきりしないじゃん?」
慌てて否定するチュール。
「そうですね。それで村が特定できたのですか?」
「ううん、3つにまで絞れたけど、そのうちどれかはわかんない。地図ある?」
それ以上追求をせず、純也は話を進めた。差し出された地図に、彼女は小さな指を置いていく。
「こことこことここ。3つの村が徒歩で半日の距離にあるらしいんだよね。そのうちのどれかに住んでる男の所に娘は家出したみたい」
老人の娘の名はフラウス。生きていれば30代半ばくらいだろうが、一年半ほど前に死去していることが老人と家政婦の話をあわせると解った。駆け落ち――というより家出といったほうが正しいか、その時期は16年ほど前。もしその時に身籠っていた子供が生きていれば15.6歳にはなっているはずだ。普通に考えれば、旦那となった村人も健在のはずである。娘の名前がわかっている以上、3箇所全ての村に順に当たっていけば良いように思えるのだが――
「――ああ、この3つの村は‥‥」
何故か純也の反応が、歯切れが悪い。
「何、どうしたの?」
「‥‥‥盗賊の被害にあっているらしいんですよ、断続的に。そこで退治の依頼が3つの村から出ているんです」
次はどの村が襲われるのだろう、何を差し出せばいいのだろう‥‥そんな恐怖に怯えながら村人達は過ごしているという事か。
「じゃあついでに盗賊退治も済ませちゃえば一石二鳥じゃない?」
「まぁ、それはそうなんですけれど‥‥ってもしかして、貴方も行く気ですか?」
「もちろん!」
腕まくりの真似をしてみせるチュールに、純也は「気をつけてくださいね」と苦笑を漏らした。
●依頼内容
・グライス老人の孫を探せ
○手がかり○
・老人の娘の名はフラウス
・1年半ほど前に死去
・15.6歳の子供がいる可能性がある
・16年前に王都から村へ嫁に入った
・盗賊を退治せよ
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┃∴∴∴∴村∴∴∴∴┃
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┃∴村∴∴∴∴∴村∴┃
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◎:盗賊のあじと
村:便宜上上は村1、左は村2、右は村3と呼ぶ
・村と村の間の距離は徒歩で半日。馬車や馬を使えば短縮できる
・王都から村1までの距離は馬車や馬で約1日
・あじとから各村への距離は徒歩で3.4時間。馬車や馬を使えば短縮できる
・盗賊は度々村を襲い、見せしめに小屋を焼いたりして食べ物や若い女などを差し出させている
・盗賊があじとにいるか、3つのうちどこの村を襲いに行っているかなどはわからない
・盗賊の足を掴むまでの被害は問われない。盗賊を見つけてからの被害は、出さぬ方が望ましい
・盗賊の数は男4の女1。使用武器などは不明
●リプレイ本文
●お姉ちゃんは盗賊に
「つまり昨夜のうちに、この村には盗賊が来たということですね」
風烈(ea1587)の言葉に冒険者三人を取り囲んだ村人達は頷く。
「盗賊達はどんな者達でどんな武器を使うかのぅ」
「リーダー格の斧を使う大男と、剣を使う若い男三人とあとは弓を使う女だねぇ」
「ふむふむ」
トシナミ・ヨル(eb6729)は村人の間をぱたぱたと文字通り飛び回って情報を集める。
「今回は何を差し出したんだ?」
その言葉に村人がさっと一箇所に視線を集中させる。アリオス・エルスリード(ea0439)はその視線の先に一人の中年男性と、その足にしがみつくようにしている3.4歳の男の子と女の子を発見した。
「食べ物と衣料と‥‥後はあそこのナーシュンの所の娘が‥‥」
「お姉ちゃんは盗賊やっつけにいったんだよ!」
村長らしき老人の言葉を遮り、恐らく父親であろうナーシェンという男の足にしがみついた少年が叫ぶ。
「やっつけてくるから安心しろっていってたもん‥‥」
その少年とそっくりな顔をした少女が遠慮がちに呟いた。
「いやぁさすがに年頃の娘が危ない事をって俺も止めたんですわぁ。だがうちの娘は誰に似たのかとても頑固で、一度言い出したことは撤回しない、やらないと気がすまない性質で‥‥」
ナーシェンが申し訳なさそうに冒険者三人を見つめる。
「つまり娘さんは盗賊に差し出される振りをして連れて行かれて、盗賊を退治してしまおうと?」
「へぇ。盗賊に怯える毎日を送る現状に我慢が出来ないと言い出して‥‥元々男勝りで喧嘩っ早いんだが、五人相手にそう簡単に勝てるとも思わねぇ」
それは尋ねた烈も同感だった。いくら男勝りで喧嘩が強かったとしても、大の男四人+女一人を相手にして無事に済むとは思えない。
「‥‥‥。下手に逆らって多勢に無勢のまま相手を刺激したら最悪の場合――」
アリオスはそこまで言って口を閉じる。
「この分じゃと、盗賊は他の村に行っているということはなさそうじゃのう。予定通り明日の夜明けに奇襲をかければよさそうじゃ。その娘さんの身も気になるしのう」
トシナミの言葉に2人とも頷く。その時ふと、思い出したように烈が尋ねた。
「その娘さんの名前は?」
「フレイアです。何の因果か母親には全く似ず俺に瓜二つなんで直ぐに分かると思いやす」
下の子たちのように母親に似てくれればなぁ、とナーシェンは呟いた。
●あじと急襲
「うわぁ、何だ!? 畜生、出ろ、お前は援護しろ!」
ケヴィン・グレイヴ(ea8773)の2矢が若い男の足を射抜く。男が体制を崩した所にレインフォルス・フォルナード(ea7641)がすかさず斬り込んだ。
「味を占めた盗賊は厄介だ、さっさと済ませよう」
「援護しますね」
ソフィア・ファーリーフ(ea3972)の身体が淡い茶色の光に包まれる。かと思うと盗賊達の動きが鈍くなった。高速詠唱のアグラベイションだ。矢を番えようとしていた女性など、番える事すら出来ずにいる。
「隙ありっ!」
動きの鈍くなった男に遠慮無しに斬りつけるのはフォーリィ・クライト(eb0754)。
「次はどこを斬り付けようか?」
狂化したフォーリィは躊躇いなくリーダー格の男に斬りつけていく。
「射らせはしないよっ」
弓使いの女の手元を狙って縄ひょうを投擲するフォーレ・ネーヴ(eb2093)。後方に位置していた女はそれをまともに掌に受けて矢を取り落とし、アリオスの矢を肩に受けて弓をも取り落とした。
ルシール・アッシュモア(eb9356)の高速詠唱マグナブローに包まれた2人の若い男は立て続けにフィリッパ・オーギュスト(eb1004)の高速詠唱コアギュレイトで動きを止められ、烈の拳を浴びる。
矢に射抜かれ、剣を浴びつつも反撃に転じた男の剣はトシナミの張ったホーリーフィールドに阻まれた上、キレのない太刀筋など簡単に避けられてしまう。
冒険者達に比べれば、多少武器が扱えるからといっても村人を脅して金品を巻き上げるしかできない者達。冒険者達が圧倒的に有利なのには変わりなく、盗賊達は一矢報いようとするがそれまでに負ったダメージが大きい。その武器さばきはお世辞にも上手いとは言えず次々と攻撃は回避され、そして反撃を食らう。どのくらいそんなやり取りを繰り返しただろうか。盗賊達を全て地べたに這わせるまでにそれほどの時間は要しなかった。
「さて、後は攫われた女の子とかフレイアさん探しかな?」
フォーレの明るい声に反応したかのように、あばら家の二階でがったんばったんと何かが暴れる音が響いた。
●お姉ちゃんは男勝りで
あばら家の二階には毛布に裸で包まって怯えたようにしている三人の少女が軟禁されている部屋と、もう一つ、ロープでぐるぐる巻きにされた上で猿轡を噛まされているショートカットの少女が入れられている部屋があった。
「あら、まぁ」
音がしたのは後者だ。フィリッパがその部屋の戸を開けたとき、尺取虫のようなポーズでその少女は暴れていた。恐らくロープを解こうとしたか、自分の居場所を知らせようとしたかだとは思うが。
「間違いありませんか?」
「ああ、間違いない」
その問いにアリオスが頷く。少女の顔はナーシェンに良く似ていた。
「無茶は良くないな」
「だって黙ってられなかったんだよ!」
娘達を各村へ帰した後、一行はフレイアを村へと送り届けた。彼女のその格好も男の子っぽかったが、レインフォルスの言葉に答えるそれもまるで男の子のようだ。
「己の力量をわきまえられぬ者は自身だけでなく周囲をも危険に晒す。覚えておけ」
「くっ‥‥」
ケヴィンの言葉に何も返せない彼女。
「フレイア、無事だったのか!」
「「お姉ちゃん!」」
冒険者たちが戻ったという騒ぎを聞き、ナーシェン一家も姿を現す。だがそこに母親の姿はない。
「もしかしてと思ったけど、お母さんは?」
「母さんなら死んだよ」
多少なりとも遠慮がちに問うたフォーリィの言葉にフレイアはあっさりと回答する。
「もしかしてお母様のお名前は『フラウスさん』と仰るのではないですか?」
「‥‥何故母さんの名前を?」
驚いたのはフレイアだけでなくナーシェン達も同じで。彼らを驚かせたフィリッパはにっこりと微笑んだ。先にまわって来た2つの村でフラウスについての情報を得られなかったものだから、カマをかけたのだ。いや、わずかばかりの確証がなかったといえば嘘になるか。
「フラウスさんのお父さん、つまりあなたのおじいちゃんにきいたんだよ」
フォーレの言葉にはっと息を呑んだのはナーシェンだった。彼にはグライスから娘を奪ってしまったという後ろ暗い部分もあるはずだ。
「グライス老はもう直ぐ死期を迎えようとしている。そこで俺たちは、孤独な余生を過ごしてきた彼の為に彼の親族を探していたわけだ」
「このちっこいのの発案でな」
アリオスに続いてケヴィンが、ふよふよ浮かんでいるチュールを指す。
「お母さんの事とか、爺さんに言いたい事、ない? 相手が死んだらそれすら言えなくなるよ」
「じいさんが‥‥」
「グライスさんは、もう家族と二度と会えぬ悲しみの内にいます。家族って、どのような事情があっても切り離せない大切な絆ですよね」
ルシールとソフィアの言葉に、フレイアは俯いてしまいその肩を震わせている。
「一度、会いに行ってみてはどうかのぅ?」
「俺の事は許しちゃくれねぇだろうが、フレイア、お前の事なら別だろう。この人たちの言う通り、家族を代表して会いに行ったらどうかねぇ」
トシナミの提案に乗るようにしてフレイアの肩に手を置くナーシェン。だが彼女はそれを思い切り振り払った。
「父さんは良くそんなこと言えるよ! どこも母さんに似てやしないこのあたしが『フラウスの娘です。あなたの孫です』なんて言ってはいそうですかって信じてもらえると思ってるのかよ!? あたしだったらぜってー信じねぇ」
「うーん、子供って父親に似た方が幸せになれるっていうよ?」
ふてくされるフレイアにチュールが言葉をかける。だがこの場合それは慰めにならない。彼女はきっと、ずっと母親に全く似ない自分の容姿をコンプレックスに思っていたのだろう。
「チューちゃん、それなんか違うよ」
「チュールさん、ファンタズムの魔法を」
ルシールの突っ込みにあれ、ちがった? と首をかしげつつチュールは烈の言葉に頷く。
チュールが魔法を唱え、その身体が銀色の淡い光に包まれると――そこには何かを思うようにベッドの上で窓の外を見つめるグライスの姿が出来上がった。
「お義父さん‥‥」
「これが、じいさん‥‥」
ナーシェンもフレイアも、しばし作り出されたその幻影に見入る。
「会いに行ってみない?」
幻影に見入ってたフレイアは、フォーレのその言葉にはっと我に返り、叫んだ。
「母ちゃんはじいさんは頑固じじいだって言ってた。頑固じじいが母さんに全く似てないあたしなんかを孫と認めるはずはない! あたしは会わない!」
そして、家へと走り去って行ってしまう。
「すまんなぁ、あいつは俺に似ちまったのが嫌らしくてなぁ。男っぽくしているのもそれが理由みたいでなぁ」
「少し、時間がかかりそうだな」
「そうだねー。とりあえず盗賊は退治したし、孫たちは見つかったことだし、一度王都へ戻らない?」
レインフォルスの言葉にチュールは頷いて一つの提案をした。当初の目的の盗賊退治と孫の発見は果たしたことだし、居場所がわかっている以上今無理強いする事もない。ただしあまりグライス老に時間が残されていないのは事実なのだが。
発見した種は思ったよりも硬く、芽吹くまではまだ手を掛けて世話をしてやらねばならぬようだ。