子供達に愛を〜オトシダマ?〜

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月31日〜01月05日

リプレイ公開日:2008年01月09日

●オープニング

「お館様、何をお悩みですか?」
「ああ、レディアさんですか。実は子供達に新年くらいは贅沢をさせてやりたいと考えているのですが‥‥」
 一人の貴族の女性が、館の窓辺で沈思黙考を続けていた一人の男に声をかけた。男は振り返り、苦笑を返す。
「ああ、別に寄付をねだっているわけではありませんので‥‥」
 焦って目の前で手を振る彼に、レディアはわかっています、と微笑んだ。
「物だけでなく、気持ちの上でも贅沢をさせてやりたいとお考えなのでしょう?」
「ええ、折角の新年ですからね。新しい年の始まりを、充実した思いで迎えさせてやりたくて」

 王都の下町近くに元冒険者である通称「お館様」が経営する孤児院がある。冒険者時代のお館様の貯金やレディアなど善意の者の寄付で経営は成り立っているが、決して贅沢が出来るというレベルではない。

「それでは『ぼらんてぃあ』とやらを募ったらどうです? チキュウ側の天界では、善意でのお手伝いの方を指すそうです」
「なるほど‥‥。しかしたいした報酬も出せないというのに引き受けてくれる方がいらっしゃるでしょうか」
「報酬を出して雇ったら『ぼらんてぃあ』の意味が有りません。無償で心からの奉仕を求めてこそ、『ぼらんてぃあ』になるそうですよ」
 レディアは「もし誰も手を貸してくれる人がいなくても、私はお手伝いします」とお館様に微笑んだ。

 お館様一人では普段行き届かない部分もあるだろう。
 レディアとて貴族の娘。毎日のように孤児院に足を運べるわけでもない。時折自分や弟妹の不用品を持ち寄ったり僅かながら寄付をすることくらいしか出来ない。

 不要な品を持ち寄るのでも良い。形の無いものを贈るのでも構わない。そう難しく考えずとも良い。子供達にとっては冒険者の訪れ、それが既に非日常なのだから。


●依頼内容
・子供達に何かプレゼントを(形の有る無しは問わない)

 たいした報酬は望めないだろう。それでも子供達と過ごす年越しのひと時を報酬だと思ってくれる者がいたら、是非手を貸してほしい。

 子供達は全部で十数人。年齢は0〜12歳迄の男女と幅広い。
 0〜3歳、4〜7歳、8〜12歳という区分で特定の年代の子供だけを相手にすることも可能。
 物をあげる、何かを教える、何かをしてあげる――なんでも構わない。
 『ぼらんてぃあ精神』に溢れた人を求む。

●今回の参加者

 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5066 フェリーナ・フェタ(24歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ロシア王国)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●ご奉仕初め
 孤児院は盛り上がっていた。冒険者の訪れにやたらとテンションの上がる子供、冒険者の後をついて回る子供、カーテンの裾をぎゅっと握り締めて遠くから様子を伺う子供と様々ではあるが。
「すみませんね、男手が足りなくて」
 以前の傷も癒えたお館様が棚の片方を支えてオルステッド・ブライオン(ea2449)に笑いかける。オルステッドは、壁際の天井から吊るようにしていた棚が落ちて来たというのでその修繕に手を貸していた。確かにこれはお館様一人では修理しきれないだろう。
「‥‥いや、元々力仕事を引き受けるつもりで来た‥‥かまわない‥‥‥が」
 ふと、踏み台の下に方に目を落とす。そこには4、5歳の少年達が目をキラキラさせてオルステッドを見上げていた。
「お兄ちゃん、お仕事終わったら遊んで!」
「肩車! 肩車!」
「だっこだっこー!」
 子供達は容赦ない。彼はふっと笑いを漏らし、もう少しで終るから離れて見ていろ、と言った。


「沢山買っちゃったね。でも皆が荷物を持ってくれたから助かったわ」
 柔らかく微笑むフェリーナ・フェタ(ea5066)に、荷物持ちとして一緒に市場へ買い物に出かけた十代の少年が顔を赤くする。
「あ、照れてる? おませさんー」
 フォーレ・ネーヴ(eb2093)のからかいに否定すらも出来ず、ただただ真っ赤になる少年。初々しい。
「身体が温まるものがいいよね。お肉の沢山入ったスープとかならみんな喜んでくれるかな。勿論野菜もしっかりと取らないとね」
 買ってきた材料を台に並べて検分するフェリーナ。フォーレも何を手伝ったらいいのか頭に思い描く。と、ふと視線を感じて振り返ると、台所の入り口に7、8歳くらいの少女2人が、まるで見えない壁でもあるかのように入り口から様子を伺っていた。
「う?」
 フォーレが振り返ると、さささっと陰に隠れてしまう。だが再びそーっと覗き見をしたりして。
「一緒に作る?」
「!?」
 優しい笑顔のフォーレに、少女達は驚いたような慌てたような格好で陰から飛び出してきた。そして「よろしくおねがいします」と丁寧に頭を下げる。
「フェリーナねーちゃん、いいよね?」
「もちろん。沢山作らなくちゃならないから是非手伝ってほしいな」
 フェリーナは少女2人に素早く指示を下し、自らも調理台へ向かう。フォーレは刃物を持つ少女達が怪我をしないようにと注意しながら、そして所々指導しながら調理を進めていた。
「ひゃんっ!」
「!? ど、どうしたの!?」
 流し台で調理をしていたフェリーナの奇声に台で子供達と作業をしていたフォーレが驚く。
「お、お尻を‥‥」
「へへーん、さわってやったぜ!」
 お尻を押さえて照れるフェリーナ。いつの間にやら入り込んだ7、8歳位の男の子が、料理に集中している彼女のお尻を触って逃げたのだ。
「こらー! 料理中にイタズラしちゃ危ないでしょー!」
 フォーレの怒声が飛ぶ。
「料理中でなくてもお尻を触るのはやめてほしいなぁ」
 その怒声をフェリーナの呟きが追った。


●教養と遊びと
「働きに出ると、今までとは全く違った世界で過ごすことになります」
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)は年上の子達を集めて、働きに出たときに役立つような知識を授けようとしていた。
「女性の年齢を尋ねないとか、呼ぶときは少し若い呼称を使うなどというのも一つのコツですね」
「はい、フィリッパお姉さん」
 まだまだお姉さんと呼ばれたい年頃のフィリッパらしいアドバイスだ。年長の少年少女は真剣に話を聞いている。その真摯さの出所は恐らく、自分たちが遠くない未来に働きに出なければならない事を知っているが故であろう。
「用事を頼まれた時は『何を、いつ、どのように』といった重要な事を確実に覚えるように。‥‥と、今日はここまでにしましょう。ソフィアさんが外で何かなさるようですし。明日は音楽や絵に興味のある子には少し教えてあげますね」
 ありがとうございました、と丁寧に礼をして年長の子供たちは足早に部屋を出て行く。フィリッパはその後姿を微笑んで見守った。


「みんな防寒具は着用しました? 足りない分は私のを貸してあげますからね」
 外は、深くはないがある程度雪が積もっていた。ソフィア・ファーリーフ(ea3972)は外で雪遊びが出来る年齢の子供達を庭に集める。まだ雪遊びが無理そうな年齢の子供たちはフェリーナやフィリッパが抱き上げたりフォーレと一緒に部屋の窓から外を眺めていた。
「はい、そこ、喧嘩しないで順番に着ようね。それが上げた時の約束でしたよ」
 自分の上げたまるごとやかんで喧嘩をしている少年達をなだめ、ソフィアは本題に入る。
「他の冒険者からもプレゼントを貰ったと思うけど、贈られて嬉しかった?」
「うれしかったー!!」
 問えば、揃って声が帰ってくる。ソフィアはまるごとやかんを、フィリッパは万華鏡を、フェリーナは蹴鞠をプレゼントしていた。皆で仲良く遊んでね、と。
「ぼらんてぃあのお兄さんお姉さん、いつもよくしてくれるレディアさん、そしてお館様にも同じ気持ちになってもらいたくない?」
 彼女の言葉に当然ながら「どうやってー?」という言葉が返る。ソフィアはふふ、と笑って人差し指を立てて提案した。
「みんなでスノーマンな、ぼらんてぃあのお兄さんお姉さん・レディアさん・お館様を作ってあげようよ」
 彼女の音頭で子供達はわーっと庭に散り散りになる。ソフィアも一番大きなお館様のスノーマン作りに励んだ。子供達と一緒に大きな雪玉を作る。だが
「大きくしすぎちゃったかしら。オルステッドさん、出番ですー」
 ここで唯一の男手を呼ぶ。
「‥‥まあ、こういうのも悪くはないか‥‥」
 オルステッドが力を入れると雪玉は持ち上がり、見事胴体の上に乗せられる。思わず周りの子供達や部屋の中から見ている子供達からの拍手喝采。
「‥‥いや、そこまで凄い事をしたわけでは‥‥」
 微妙に照れるが、こういうのも悪くはない。
 レディアのスノーマンには赤い木の実で飾りをつけて、ボランティアの冒険者達のスノーマンにも木の枝や木の実などでそれぞれ飾りをつけて。形様々なスノーマンが庭に立ち並ぶ。
「あれがきっとフィリッパねーちゃんだよ」
「いえ、あっちがフィリッパさんでは‥‥」
「そんな、きっとあれはフォーレさんですわ」
 室内組も自分がどのスノーマンだか当てるのを楽しんでいる。
「‥‥一応男だから、女性よりは大きくしてほしいんだが‥‥」
 おにーちゃんをつくってあげる、そう言って少女が作り出した雪玉が存外に小さかったのを見て、オルステッドが小声で主張を漏らした。


●美味しいごはん
「「いただきまーす」」
 大きな声が食堂全体に響き渡る。フェリーナとフォーレを中心に作成されたお肉の入ったスープとおかず数点。子供達は目を輝かせて我先にと食べ始める。
「おいしい!」
「おいしいね!」
 その言葉に目を細めるフェリーナとフォーレ。作り手としてはおいしい、その一言が嬉しい。
「‥‥そういえば、この国では年末年始はどう過ごすのがしきたりなんだ‥‥? きちんと勉強していれば、分かるよな?」
 オルステッドの言葉に視線が自然、年長組に集まる。年長組の彼らは顔を見合わせて口を開いた。
「えーとですね、月霊祭というお祭りがあります。月の満ち欠け、月道の恵みを祝うお祭り‥‥です」
「大晦日と元旦にお祝いをして、基本的にはその二日はお仕事をお休みしてお祝いをします」
 自信なさげに口にした一人の子供の後を、別の子供が引き継ぐ。
「‥‥それでは大晦日前に大掃除も済ませないといけないな‥‥」
「明日は大掃除を頑張っちゃおう!」
 フォーレは腕まくりをしてやる気満々といった体だ。
「そうだね。いつもお掃除しない所をほんのちょっとだけ頑張ってお掃除する、それだけでいいから」
 掃除と聞いて嫌な顔をする子供達をフェリーナがなだめる。
「皆でやれば、あっという間に終りますよ。終ったら何かゲームをして遊びましょう」
 フィリッパに言われ、掃除をするための目標が出来た子供達にもやる気が出てきたようだ。
「明日の為にもいっぱい食べておきませんと。おかわりする子はいるかな?」
 空の皿を持って立ち上がったソフィアの前に、元気にいくつもの皿が差し出された。


●再来を願う
「私や弟妹にまでプレゼントを戴いてしまって‥‥よろしかったのでしょうか」
「いいのですよ。私達も子供達からプレゼントを貰いましたし」
 恐縮するレディアにフィリッパは柔らかく微笑む。その手には錫の勲章と子供達が作ったというスノーマン人形が乗せられていた。
「本当に皆さん、ありがとうございました。子供達もきっと、色々な事を吸収する良い機会となったでしょう」
 玄関口まで出てきたお館様が頭を下げる。
「子供達の健やかな成長を祈っていますね」
 ソフィアが言い、お館様とレディアの後ろから覗いている子供達に手を振る。
「まだまだ寒いですから、お帰りもお気をつけて」
「だいじょうぶーっとぉ!?」
 安心させようとその場で一回転して見せたフォーレは凍った地面でバランスを崩し――た所をオルステッドに支えられる。
「‥‥子供達が笑っているぞ‥‥」
「えへへ」
 見れば部屋の窓に張り付くようにして玄関付近を覗いていた子供達が室内で笑っている。
「「またきてねー!!」」
「はい、機会があれば是非」
 子供達の声援にゆっくりと手を振り、フェリーナは答えた。
 後ろ髪引かれながらも一同は孤児院を後にする。時折振り返ると子供達はいつまでもいつまでも手を振り続けていた。