センセイのお・ね・が・い
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月11日〜01月16日
リプレイ公開日:2008年01月18日
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●オープニング
ユリディス・ジルベールはゴーレムニストである。ゴーレム一辺倒の研究者というわけではないが、3.4年前に工房を説得して王都を出た理由を考えると、最終的にはゴーレム研究に帰結するのかもしれない。彼女は自分の、ゴーレムや魔法に偏った知識ではいつか研究に行き詰ると考え、様々な知識を吸収するために旅に出たのだという。
そんな彼女が先日、工房からの要請で王都へと帰還した。ゴーレム工房近くに建設中のゴーレムニスト養成施設、その講師として呼び戻されたのだ。
彼女は早速講師として様々な準備を始めた。今度の依頼もその一つである。
「教材にする石を受け取りに行ってほしいの」
曰く、採掘場から中継地点となる村まで石は運ばれているが、そこから王都まで石を運ぶのが仕事だという。その石も結構な大きさで、長さは三メートル近いとか。荷馬車に乗せた石を村から王都まで運ぶ。
「ただ運ぶだけだったらもっと簡単に済むのだけれどね」
ユリディスは少し首を傾げるようにして冒険者達を見つめた。すると長いストレートの金髪がさらりと音を立てて流れる。
「村付近にコボルトだかゴブリンだかが棲みついていて、荷馬車を襲うらしいの。だから襲われることを念頭に入れておいて欲しいわ」
巣穴まで追跡して全滅させる必要はないけれど、と彼女は付け加える。最もそんな大荷物を持って追跡も難しいだろうが。
「あと、御者は村までの約束だから石を引き渡したら帰ってしまうわ。村から王都までの間は誰かが御者を勤めてくれると助かるわね。最悪、誰も候補がいなかった場合は私がやってもいいけれど」
「‥‥ちょっと待った」
さらりと言って艶然と微笑んだユリディスに、冒険者の一人は言葉を選ぶようにして問いかける。
「その、貴女も同行するんですか?」
「いけない?」
にっこり微笑むユリディス。彼女曰く「新たな知識を吸収できそうな機会を逃したくはないの」だそうで。
知識欲旺盛というか好奇心旺盛というか、自らが要人であるという自覚がないのか。
「よろしくね」
思い立ったが吉日。冒険者達に依頼をする前から彼女は同行を決めていたのだろう。ちょっとの事では決意を改めるようなことはないだろう。
かくして冒険者達は石の他にユリディスという護衛対象を増やすことになった。
●リプレイ本文
●挨拶
ふぅ、と大きな溜息をついて戻ってきたシャルグ・ザーン(ea0827)の姿を見て、彼を待っていた一同はその説得が失敗に終ったのであろう事を察した。それを示すかのように彼の巨体の後ろからさらりと金色の長い髪が零れ、一人の女性が姿を現した。
「はい、こんにちは。あなた達が今回私の依頼を引き受けてくれた冒険者ね。ユリディスよ、よろしく」
金の髪に青い瞳。白い長い裾を裁きながら彼女は皆の前に進み出る。
「その様子では説得は失敗したようだのぅ」
シュタール・アイゼナッハ(ea9387)の言葉にシャルグは短く頷く。今回のメンバーに前衛が少ないため、石とユリディス双方を護りぬくのは困難だと判断したシャルグは、彼女に王都に残るように説得しようと試みたのだが「なら自分の身は自分で守るわ。これでも結構一人で旅をしてきたのだし、精霊魔法も多少は使えるから」と返されてしまったのである。
「何とかするしかあるまい」
仲間達と挨拶を交わすユリディスを見て、シャルグは苦笑をシュタールに返した。
「ヤ、どーもどーも。あたしはラマーデって言うのよ。よろしくね!」
一部の心配を知ってか知らでか、明るく元気にユリディスの手を握ってぶんぶんと握手するのはラマーデ・エムイ(ec1984)。その後ろでは初めての依頼に緊張を隠せないルナ・フィブラン(ec4388)がぺこりと頭を下げた。
「最近ゴーレムニストに転職したものだ、まだまだ未熟であるがよろしくお願いします」
丁寧に挨拶の言葉を述べるのはアリウス・ステライウス(eb7857)。同業者の存在は意外だったのだろう、ユリディスは少し驚いたような表情を作ってみせてから「こちらこそどうぞ宜しく」と告げる。
(「んー、この間一緒に第一期で受けた人たちはもうゴーレムニストか‥‥それに比べ俺はまだなれてもいない中途半端だな。うかうかしてられんな」)
そんな二人のやり取りを耳に挟んで自分に喝を入れたのは布津香哉(eb8378)。結城梢(eb7900)が「道中色々と話を聞かせてくださいね」と言っているのを聞いてユリディスの前に歩み出る。
「俺にも時間の空いている時でいいんで、色々と教えてください」
「あなたはゴーレムニストの卵さんなのね? 私でよければお相手するわ」
くすり、と微笑みで了承されて香哉はほっと胸を撫で下ろす。その笑い方も言葉にも軽そうな部分は少しあるが馬鹿にしたような雰囲気がないのが彼女の特徴のようだ。事実彼女は知識は何でも吸収したいという貪欲さと、誰でも仲間として受け入れる寛容さを併せ持っている。
「護衛を務めさせてもらうスレインだ、宜しく頼む」
御者も務めてくれるというスレイン・イルーザ(eb7880)の申し出に礼を言いながら、ユリディスは「私がやらなくてもいいのね、少し残念」などと軽口を叩く。最後に、スレインの後ろで背筋をピンと伸ばして挨拶をするアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)へ「またよろしくね」と彼女は微笑を振りまいた。
●野営
「キミ、本当に大丈夫?」
「大丈夫ですぅ〜」
村まで道程、野営の準備に入った頃、ラマーデがふらふらした足取りのルナへと声をかけた。傍から見ると大丈夫に見えないのだが本人曰く大丈夫、らしい。
「保存食も上手く加工すれば美味しくいただけるんですよ」
「お手伝いします」
夕食の調理をかって出た梢に、料理好きのアルトリアが手伝いを申し出る。二人は人数分の保存食を集め、火の側であれやこれやと調理にかかる。
「とりあえず現在の所異常はなさげだのぅ」
バイブレーションセンサーで辺りの様子を探査したシュタールが、野営の見張りについて論議していたアリウス、シャルグ、スレインに告げる。野営は3班で見張りを、という意見が出ていたが、この班分けが難航している。
「護衛の役には立たないかもしれないけど、夜番とか見張りならちゃんとやるわよ」
「わたくしも、足手纏いになるのは悪いので、見張りは一晩中でもします!」
集まった男達の後ろから、ラマーデとルナがひょいと顔を出す。
「いや、さすがに一晩中は頼めない」
「うむ。きちんと分担しなくてはいざという時に困るからな」
スレインとシャルグはルナの心意気だけを受け取って、一晩中見張りなどという無茶を丁重にお断りする。危険云々以前に、大の男が何人も揃っているのに女性に一晩中見張りを頼むなんて、ねぇ?
「そこがいまいち分からないんだ」
「なるほどね。確かに少し分かりづらいかもしれないわね」
と、ユリディスの手が空いている隙を見計らって香哉は早速質問を浴びせていた。彼としては他の同期が次々とゴーレムニストになっているという焦りがあるのだろう。一刻も早く一人前になりたいに違いない。
「――こんなかんじの説明で分かるかしら?」
「あー、なるほど」
ユリディスは道中、梢に聞かれたことを思い出して噛み砕いた説明を試みる。梢が尋ねてきたのはゴーレムのエネルギー源や操作方法など基本的なことが多かったが、元々こちらの世界で生まれ育った者の常識と天界人の常識では異なる事が多い。それを踏まえて万人に通じる説明を考えなくてはならない、とユリディスは梢と香哉、二人の質問から感じていた。
「ありがとう、ユリディスさん」
「いえいえ。実際にこうして質問をしてもらうと、どこをどう説明したらいいか分かるから、私も助かるわ」
無理を言って同行してよかった、得るものがあったと彼女が思った時、横から声が掛かった。
「わしもいくつか伺って良いかのぅ」
「ええ、どうぞ。見張りの班編成は決まったのかしら?」
ユリディスは自分の隣を指し示し、シュタールに座るようにと示す。
「ああ、なんとかのぅ。今回は教材として石を運ぶという依頼じゃが、教材の石の材質は特別な物なのかのぅ?」
「それは教材に関わらず、ストーンゴーレムを作るのに使う石は特別な物かってことよね? 材質は特別な物ではないわ。けれども2メートル程の人型の彫像を作り出す必要があるから、サイズ的にはかなり大きい必要があるわね」
「ではストーンでの代用は不可能かのぅ?」
彼の問いにユリディスは一瞬きょとんとしたような表情を見せた。思いもよらぬ質問だったのかもしれない。
「ストーンって地魔法のよね? 多分‥‥試した事はないんじゃないかしら。ほら、ストーンって確か魔法を作用させる物体が必要でしょう? 石化させる対象、が。だから代用品にはならないと思うわ」
なるほど、とシュタールが頷いた時、梢とアルトリアの声が響いた。どうやら夕食の準備が出来たらしい。そういえば少し前から良い香りが辺りに漂っていた。
●会敵
はっきりいって今回は『幸運だった』、この一言に尽きる。
石を受けとって村を出た一行は、十分注意をしながら進んだ。フライングブルームに乗ったアリウスの上空からの偵察に加えてシュタールのバイブレーションセンサーでの警戒。それらで敵の早期発見に至った一行は、馬車を止めて敵を待ち構え、追い払う事にした。
何が幸運だったかというと、『敵の数が少なかった』のだ。
先に敵を発見していた一行は、アリウスのファイアーボム、シュタールのローリンググラビディ、梢のライトニングサンダーボルト――いずれも高速詠唱だ――で先手を取る。それに加えて馬車にくくりつけられた石の上に座ったユリディスの高速詠唱ウィンドスラッシュがコボルト三体の中でも一番強そうなコボルト戦士へと命中する。とりあえずこの際、教材にする大切な石に座っていいものかどうかという疑問は後回しにしよう。
そしてその間にオーラエリベイションを使用したシャルグが、敵が近づいてくるのを待ち構える。コボルト2体とコボルト戦士1体は魔法の乱舞に驚いた様子を見せつつも、こちらへと向かってくる。
ラマーデや、装備が重かったため、すっかり出遅れて見る側に回ってしまったルナは石の側で緊張して敵を見つめ――
「後ろまで通さないように頑張ります」
「同じく」
前衛の数が少ないので自分のできることを、と無理をせずに頑張るように心を決めたアルトリアと香哉はそんな二人の前に立つ。
「来た――」
ふらふらと敵が近づいてきたのを見てスレインが呟いた時、シャルグが日本刀を手に斬り込んだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
その叫びだけで敵だけでなく味方をも射すくめてしまいそうな雄叫び。彼が狙うのは他の2体を率いていると思えるコボルト戦士。敵の指揮官の頭さえ取ってしまえば、という狙いでスマッシュEXを三回叩き込む。魔法ダメージを負っていたコボルト戦士は二回目で崩れ落ちたため、三回目は馬車へと向かうコボルトの背中へと振り下ろして。
馬車に近づいて来るコボルトは、馬車とユリディスの護衛に当たっていたスレインが応戦し、魔法使い達は残りのコボルトや二人の支援に回っていた。
強力な敵がいなかったことと敵の数が少なかったことが幸いし、後衛戦力の多いこのパーティでも何とか今回は敵を撃退する事ができた。
「すごいですねぇ〜」
先輩冒険者達の動きに感心したルナは目を輝かせて彼らの動きを称える。
「なんとかなったが油断することなく警戒は引き続き、しておくとしよう」
怪我人や目立った被害がないのを確かめるとアリウスは再びフライングブルームに跨った。
「ねぇ、そこに座ったままだと石のバランスが悪くて馬車から落ちちゃうかも?」
少し石工の知識のあるラマーデが石の上に座るユリディスに声をかける。それも重要だが、指摘すべきところが少し違うような気もするが。まぁ気にしない。
「あらそう? それは困るわね。積みなおしのアドバイスお願いできる?」
優雅に石から降りたユリディスの要望を受け、ラマーデが位置の微調整とロープの結い直しを男性陣に指揮していった。
●到着
以降は襲撃らしい襲撃を受けることなく、石は無事に王都へと届けられた。
「石も貴方も無事に届けられてよかったです」
「敵が少なかったのが幸いしたな」
アルトリアの言葉に、御者台から降りたスレインが零す。
「今回は無事だから良かったものの、あまり無茶はなさらぬように」
言っても無駄かもしれないという気持ちをうっすらと抱きつつ、シャルグが告げる。案の定、ユリディスはくす、と微笑んだだけだった。絶対に懲りてはいない。
「また機会があったら沢山お話したいです」
「俺も、機会があったら教えてほしいと思う」
道中良く話をした梢と香哉、二人の天界人の言葉に「今度はチキュウの事を教えて頂戴」と彼女はせがむ。
「お疲れ様でした〜」
「ゴーレムニスト養成施設だっけ、頑張ってね」
ルナとラマーデの言葉に笑みを湛えて彼女は頷く。
「一人前のゴーレムニストになるまでまだ大変かもしれないけれど、貴方達の活躍が聞ける日を楽しみにしているわ」
アリウスとシュタール、二人の『後輩』に言葉を残し――彼女は皆に手を振った。
別れの挨拶ではなく、また何かあったらお願いするわね、というある意味ちょっと迷惑な意味を込めて。