花婿の条件〜跋扈する魔物の塔〜
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月20日〜01月26日
リプレイ公開日:2008年01月24日
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●オープニング
●経緯
港町ナイアドの男爵令嬢セルシアは器量よしで気立ても良く、その噂は王都まで届いていました。方々から縁談の申し込みが多々あれども彼女の母は彼女に想う相手がいることを知っており、身分の違いから叶わぬ思いなれど少しでも長く彼と共にいさせてあげたいと、縁談を断り続けていました。
が、事態はその母親の死で急変したのです。愛妻の死に心痛めた男爵はそれまで無縁であった経済関連の取引に手を出し、セルシアを狙う王都の貴族の裏での糸引きもあり、多額の借金を背負ってしまったのです。王都の貴族はセルシアとの婚姻の代わりに経済援助を申し出ました。男爵家はその申し出を受けるしかなかったのです。
セルシアは自らの置かれた状況、身分を十分理解している聡い娘でした。自らが長年思いを寄せる乳兄弟とは結ばれぬ事はわかっていたのです。ですが想い続けるだけなら許されるだろう――そう思い、嫁ぐことも決意していました。が、男爵は怖かったのです。自ら目を掛けて特別に教育を受けさせて育て、立派な私兵として育ったセルシアの乳兄弟、レシウスが。彼に目を掛けているからこそ、彼の怖さがわかったのです。彼ならばセルシアをつれて逃げても最低限身を立てる才能と実力があると解っているから。
男爵はレシウスに偽の用事を言いつけて町外れに連れ出し、彼を殺そうとしました。ですが元同僚が殺し手であることを知り、レシウスは全てを察したのです――自分は捨てられたのだと。自暴自棄になり死を覚悟していた彼を救ったのは冒険者でした。冒険者達により彼は生まれ変わったのです。
王都に渡ったレシウスは、冒険者の力を借りて男爵家の借金を返済するに足る宝を手に入れました。その宝を献上すると男爵は大いに喜び、自らの行いを悔いました。そして彼に褒美を与えると言いました。ですがレシウスは、自分への褒美は全てが終わってからでといい、冒険者となる後ろ盾を求めました。それは男爵家に借金の肩代わりをすると申し出た貴族の悪い噂を聞いていたからです。
冒険者達の協力を受けてその貴族を探り、その裏に隠された悪事を暴き、相手側から男爵家への縁談を断らせる事に成功したレシウスは、愛しいセルシアの待つナイアドへと帰還したのでした。
+―+―+
「セルシアは試練をやり遂げたようだ。次は‥‥」
晴れてセルシアとの婚姻を申し出たレシウスに対し、ウェルコンス男爵は重々しく口を開いた。レシウスの現在の身分、そしてウェルコンス家に対する働きを鑑みるにセルシアとの婚姻を二つ返事するに足る状況ではあるのだが、男爵には一つだけ確かめたい事があった。
それは二人の気持ち。二人は幼い頃から側にいた、近すぎる存在。故にその感情が一種の家族愛と混同されているのではないかと危惧している。
確かに乳兄弟として育ち、レシウスはその聡明さを買われて息子のいない男爵に可愛がられ、特別に様々な教育を受けさせてもらってきた。彼の方ではきちんと分をわきまえており、臣下として接してきたつもりだが、兄妹のように育ったことに代わりはない。それ故男爵は危惧しているのだ。
「はい、俺の番でしょう」
ウェルコンス男爵邸内の一室、レシウスは緊張した面持ちで自分に課せられる試練が告げられるのを待っている。
先日セルシアは、自らの気持ちを証明するために冒険者達と共にならず者達の住むといわれる森へと分け入った。洞窟から染料となるイラクサを摘むためである。そして冒険者達の協力を受けて、1000枚のハンカチに花の刺繍を施して無事に試練を達成した。
そのセルシアは部屋の後方で、愛しい人に告げられる自分よりは遙かに過酷だろう試練を、緊張した面持ちで待っている。両の手を祈るように組み合わせて。
「この街近くの村に、今は使われていない物見の塔がある。そこで発生した怪事件の調査が、いまメイディアの冒険者ギルドに依頼されている。依頼を請け負う冒険者達と共に、その怪事件を解決せよ」
「怪事件‥‥ですか。どんなものなのでしょうか」
どんな内容であってもレシウスに躊躇う理由はなかった。だが内容は詳しく聞いておく必要があった。
「年末に塔の掃除に三人の男が向かった。が、生きて帰ってきたのはたった一人。その一人も『死体に襲われた』という謎の証言をしている」
「死体‥‥もしや、カオスの魔物が?」
「‥‥‥わからぬ」
「カオスの魔物‥‥!?」
レシウスが零した推論に、セルシアは悲鳴に似た声を上げた。実際に見たことはないが話しに聞いた事はある、カオスの魔物。カオスの魔物の中にも色々な種類がいるのかもしれないが、セルシアが知っているのは「恐ろしい魔物だ」というだけだ。
「そんな危険な所にレシウスを行かせるのですか‥‥!」
「セルシア、大丈夫だから」
大人しいセルシアが父親に食って掛かろうとしている。カオスの魔物の認知度の低さが即「=恐ろしいもの」につながりこのような反応を導き出すのだろう。
「まだカオスの魔物と決まったわけではない。それに、これが俺に与えられる試練ならば、俺は他の冒険者達と協力して、必ず解決して戻ってくるから」
冒険者となった時点である程度の危険と背中合わせなのは分かっていたはずだ。それなりに危険な橋を渡ってきたという自覚もある。何より一人ではないのだ。協力すれば一人では出来ない事もやってのけることが出来る――先日のセルシアのように。
「必ず生きて‥‥戻ってきてください」
「ああ」
セルシアの差し出した香り袋を、レシウスはしっかりと受け取った。
●依頼
冒険者ギルドに出された依頼内容は次の通り。
・ナイアドから徒歩一日の距離にある村外れに、使われていない物見の塔がある。年末にそこを訪れた者によれば『死体に襲われた』とのこと。塔に赴き、事の真偽を追求し、可能であれば『死体』を討伐されたし。
●リプレイ本文
●ナイアド到着
ゴーレムシップでの旅を終えた一行をナイアドで待っていたのは、黒髪の青年だった。一行は挨拶もそこそこに、問題の塔への情報収集を開始する。
「話を聞いた限りだと、動く死体はアンデッドのようだが、これまでにアトランティスで自然発生した話は聞いたことがない」
「天界ではあのカオスの魔物を『アンデッド』と呼ぶのか‥‥」
今回の発生が自然発生のものでなければ黒幕の存在を疑う、そういったジ・アース出身の風烈(ea1587)の言葉にレシウスはふむ、としばし考え込む。
「今回の死体、天界から落ちてきたものでなければ、カオス勢の力が増した事による自然発生という可能性もある‥‥カオスの穴の近くでは、ああいうモノが出ることもあったという話だ。‥‥全て可能生と伝聞に過ぎないのだが」
「先に犠牲になった二人が『動く死体』になっている可能性はあるのだろうか? なっていた場合、倒してしまっても大丈夫か?」
とはリオリート・オルロフ(ea9517)の疑問。対してレシウスは自然発生や黒幕がいるなら、可能性はゼロとはいえない、と答えた。メイ人らしく「死して精霊界にいけず、カオスの魔物となるなんて考えたくもない」といった嫌悪を隠そうとしない。もしも犠牲者二人がそうなっていた場合は、倒す事が救いだろう。
「ところで、塔の構造が気になるのう」
「塔の詳しい構造を知ることはできぬか?」
御多々良岩鉄斎(eb4598)にシャルグ・ザーン(ea0827)。加えて先ほど発言したリオリート。三人が並ぶと迫力がある。なにせ身長二メートルを越すジャイアントが三人集まったのだ。
「構造次第では動きづらいだけでなく、塔自体が崩れてしまいかねませんね」
今回唯一の女性参加者であるシュバルツ・バルト(eb4155)がふ、と笑みを浮かべた。
「一応皆が到着前に情報を少しばかり手に入れておいたが――」
とレシウスが塔の構造の説明を始めた。塔自体は円柱形に近い形をしており、最上階までは柱はあるもののほぼ吹き抜けの形になっているという。小部屋は元々見張りの寝泊り用として1階に1部屋小さいものがある。小部屋での戦闘となるとジャイアントでなくても少々武器の振り回しに苦労するだろうとレシウスは告げた。それともう一つ、階段についてなのだが壁に沿ってじゃばらに取り付けられているが、片側は壁があるのでいいのだが、もう片側は手すりさえないらしい。つまり階段を昇っている最中に敵襲にあってバランスを崩したとしたら、吹き抜けから地面へまっ逆さま‥‥という可能性もあるという。注意して掛からなければならない。
「それならやはり、誘き出せるなら外に誘き出して討伐がよさそうだな」
「ブレスセンサーとバイブレーションセンサーのスクロールを使っての警戒と、後方からの援護は任せろ」
烈の言葉にリオリートも頷き、ケヴィン・グレイヴ(ea8773)は援護を約束する。
「私は塔についたらまずペガサスに乗って上部の偵察をします。レシウスさん、よろしければこれをお使いください」
導蛍石(eb9949)が差し出したのは魔剣「ブルー・グリーン」+1。魔力を帯びた両刃の直刀である。
「これは‥‥」
「万が一相手が普通の武器が効かない魔物だった場合も安心ですから」
その武器は高価なものであることは一見しただけでも見て取れた。レシウスはありがたく受け取り、この依頼の間だけ借り受けることを約束したのだった。
●魔物の塔
塔の扉は硬く閉ざされていた。逃げた男も混乱の中で扉を閉めることは忘れなかったのかもしれない。もしかしたらこれが、近隣の村に被害が広がらなかった要因かもしれない。
「塔の最上部――物見台の部分に3体。こちらはペガサスに騎乗して目視してきましたが一見他の死体と同じ様でした。そして塔の下部――恐らく1階部分に5体のアンデッドを確認しました」
ディテクトアンデッドを使用した蛍石の報告だ。一行はその数と塔のサイズを比較して考える。
「全員が塔に入ってその数の敵と戦うのは難しそうですね」
「上手く誘き出されてくれるのを祈ろうか」
後方支援の蛍石やケヴィンは元よりジャイアントの三人とレシウスは塔の入り口で待機。身軽な烈とシュバルツが先行して塔に入り、敵を誘き寄せる――こんな作戦が組まれた。皆で分担してそれぞれの武器にオーラパワーを付与する。レシウスも岩鉄斎によって武器にオーラパワーを付与されていた。
「アンデッド以外のモノは感知できなかったが、念の為気をつけろ」
スクロールをしまうケヴィンの言葉にオーラエリベイションの付与を終えた烈と、シュバルツは頷く。烈がその木製の扉に手を掛けて勢いよく開いた。
入り口右手に上へと続く階段。正面に小部屋らしき扉――こちらは開いている――がある。そして真ん中辺りに衣服や髪の毛、血肉などの恐らく『食べ残し』が転がっており――その周囲にぬぼーっと立っていた死体3体が、烈とシュバルツを視界に捉えた。
「ヴグルァ‥‥グ‥‥」
言葉にならない呻き声の様なものを上げながら、半ば腐敗しかかった死体は入口に佇む二人に向かい、進んでくる。
「人を見かければ見境なく襲うのでしょうか?」
「わからないな。扉を開けておけば塔から出てくるかもしれない。ぎりぎりまで近づけて、引いてみよう」
シュバルツと烈の会話の間にも、死体達はどんどん二人との距離を詰めてくる。その爪が烈の身体を捉えようとしたその瞬間、彼は体を引いた。シュバルツも同じ様にして塔の外へ出る。死体達は手の届きかけた獲物が逃げてしまった事に対して不満を抱いているかのように、二人を追いかけて塔の外へと歩み出る。
「来たか!」
まだ烈とシュバルツしか見えていない死体を、シャルグが横合いからスマッシュEXをたたきつけて弾き飛ばす。オーラパワーの付与されたその一撃は絶大だ。起き上がった死体にもう1発スマッシュEXを加えれば、その死体は今度こそ本当に動かなくなる。
「ズゥンビ程度であれば、このように倒すのは難しくあるまい」
「天界ではこのような死体を『ズゥンビ』というのか‥‥」
2体目に借り受けた剣で斬り付けながら、レシウスが感心したように呟く。そこにケヴィンの矢が飛んだ。その矢は死体の目に深々と突き刺さる。
「喋っている暇はないぞ」
「ああ‥‥すまない」
レシウスが謝罪している隙に烈の拳とシュバルツの剣が2体目の動きを止めていた。
3体目にはリオリートの剣と岩鉄斎のラージハンマーが襲い掛かる。オーラパワーの付与されたその攻撃は効果覿面で、死体はがくりと崩れ落ちる。
物音を聞きつけて小部屋から出てきたのか、入り口から新たに顔を見せた1体には蛍石のペガサスがホーリーを打ち込み、後ろから出てきたもう1体には詠唱の完成した蛍石のコアギュレイトがその動きを拘束する。
後は先ほどの繰り返しだった。オーラパワーの付与された攻撃と援護により、残り二体の死体も動かぬものとなったのである。
●物見台の魔物
「たしかにぞっとしませんね‥‥」
手すりのない階段を昇りながらシュバルツが呟く。確かに階段を昇っている最中に上から攻撃を仕掛けられて落下したら――と思うと下をあまり見たくない。
「将棋倒しにならぬよう、気をつけねばならぬな」
烈を先頭に階段を昇っていく一行。ジャイアント三人を巻き込んだ将棋倒し‥‥想像してしまうとシャルグのその言葉、笑えない。
「人を見ると見境なく襲ってくるようだったから、注意しないと」
物見台へと上る直前にオーラ魔法を施術する者はそれを済ませ、一気に駆け上がることを決める。烈を先頭に、シュバルツ、レシウス、シャルグの順に物見台へと駆け上がる。
まず階段脇にいた一体へ烈とシュバルツが拳と剣を叩き込む。斜め奥にいた敵にレシウスが駆け寄る――それに続こうとしたシャルグは、最奥にいた死体が他とは違った鋭い牙でレシウスを狙っていることに気がついた。
「レシウス殿!」
その巨体で死体の鋭い牙を受け止める。そしてスマッシュEXを叩き込む。だが先ほどまでの他の死体とは、この死体は一味違うらしい。
「シャルグ殿!」
「こちらは任せて目の前の敵を撃破されよ!」
シャルグの声に、レシウスは迷わず目の前の死体に斬りかかる。入り口からケヴィンの矢による援護が飛んだ。
「助力いたそう」
階段付近の一体がリオリートの助力で倒されたのを見て、岩鉄斎がレシウスに助力する。その間にもシャルグは目の前の的にスマッシュEXを叩き込んでいた。
「シャルグさん、後でリカバーをかけますからもう暫く耐えてください!」
傷を負ったシャルグに階段から顔を出した蛍石の激励が飛ぶ。階段脇の一体を倒した三人がシャルグの援護に向かえば後は倒れるまで攻撃を与え続けるだけだ。標的を変えた敵の牙をリオリートが受けたが、後で癒してくれる仲間がいると分かっていれば安心して剣を振るえる。
程なく、敵は全て沈黙した。
●外の空
「黒幕などの存在は見当たりませんでしたね。今回のアンデッドの発生は、やはり天界から落ちてきたか自然発生なのでしょうか」
「どうしてこの塔が選ばれたのか分からなかったが‥‥そもそも偶然なのかもしれないしな」
蛍石に手当てを受けながらリオリートが呟く。
「しかしこれでレシウス殿も晴れて婚姻であるか」
「男爵の許しが出れば、そういうことになるな。これも皆のおかげだ」
同じく手当てを受けながらのシャルグの言葉に、レシウスはゆっくりと頷いた。
「‥‥‥‥‥。他に敵の存在は感知できないな」
ブレスセンサーのスクロールをしまいながら、ケヴィンはレシウスへと視線をやる。
「話を聞くに、レシウスは今まで試練と呼ぶに相応しい十分な事をしてきたように思えるがな」
それでも足りないと思う貴族の心が知れない、とケヴィンは心の中でだけ呟く。彼としては男爵に言ってやりたいことがいくつかあるのだが、ここでレシウスに言っても詮無いことなのでしまっておく。
「無事にカオスの魔物を倒すことが出来て、これ以上の被害を抑えることが出来た、結果的には人の為になることでしたし」
人の為になって更に婚姻を認めてもらえることになるなら良いことではないでしょうか、とシュバルツは言葉を結んだ。
「さて、犠牲者とアンデッド達を弔ってきます」
「俺も手伝おう。アンデッドは念の為に火葬した方がいいと思う」
立ち上がる蛍石に、烈が手伝いを申し出る。レシウスは未だに天界出身の彼らの使う『アンデッド』という単語に慣れないでいた。メイ人の彼にとってはあれも『カオスの魔物』なのである。
「そういえば‥‥これは返しておく。助かった、ありがとう」
レシウスが差し出したのは先に借り受けた魔剣。蛍石はお役に立てて光栄です、と言葉を残し、僧侶として死体の弔いに向かった。
「やはり狭い所より、こうした広々とした所がよいのう」
伸びをして空を見上げる岩鉄斎を見て、皆の表情が緩む。彼らジャイアントは普通より狭苦しい思いをしたのだろう。
「そうそう、レシウス殿にはこれを」
岩鉄斎が差し出したのは大きめの板と畑や施設などが書かれたプレートが数枚。どうやらその板にはめ込んで使うらしいが。
「婚姻が認められ、いずれ領主となる時の為に。どういった政を行いたいか、今何が起こっているのかを簡単に示す地図じゃ。こうして必要に応じて入れ替えて使えるので繰り返し使える」
パズル式の地図というわけだ。美術の得意な岩鉄斎作とあって精緻で色彩鮮やかなつくりになっている。
「ありがたく、使わせてもらう」
その心遣いと共にレシウスは木版を胸に抱いた。
こうして塔に蔓延る謎の死体事件は無事に解決した。死体型のカオスの魔物の発生原因こそはっきりとしないが、塔に魔物は残されていないし、村に被害が及ぶこともない。
余談となるが、冒険者と力を合わせて死体事件を解決したレシウスが、今度こそセルシア嬢との婚姻を認められたことを追記しておく。式などの予定は今は未定とのことだが、これで内部から二人の結婚を邪魔するものはいなくなったのは確かだ。
冒険者達の手によって一歩、二人は幸せに近づいたのである。