鬼隠しの里
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月23日〜01月28日
リプレイ公開日:2008年01月28日
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●オープニング
「いいじゃん、行こうぜ」
「でもさぁ、あそこは行っちゃ駄目だって‥‥」
「だからいいんじゃないか! 誰もこないからこそ秘密基地になるんだぜ?」
少年三人が、こそこそと村の隅で内緒話をしている。大人達はその姿を特に咎める様子はない。寒い中、外で遊んで元気だなぁと軽く感心するくらいで。
「でもでも、あそこは鬼が出るから行っちゃ駄目だって大人はみんないうじゃん?」
「そんなの、誰か見たやつがいるのかよ。きっと大人たちは何か凄いものを隠しているんだぜ。だから子供達は行くなってあんなにも言うんだ」
リーダー格の少年はどうしても村外れの茂みの向こうに行きたくて仕方がないらしい。
この村の外れには『絶対に行ってはならない』と大人が口を酸っぱくして言う場所があった。特に何か目立ったものがあるわけではないが、その茂みの向こう辺りに行くと『鬼に攫われる』というのだ。茂みの向こう側に行くと行方不明になるということらしい。
天界の言葉で言えば『神隠し』が一番しっくりと来るのだが、メイディアに『神隠し』という言葉はない。そういった霊や超常現象じみた事件は大体がオーガなどの鬼による仕業だと思われている。無理矢理言葉を当てれば『鬼隠し』だろうか。
いつ頃からその場所が『鬼に攫われる』といわれ始めたのか、覚えている者は誰も居ない。だが実際十年近く前にその茂みの向こうで遊んでいた子供が行方知れずになったことがあるという。大人たちはその茂みの向こうを除いて村付近を捜したが、子供は見つかることはなかった。実際に子供が行方不明になったとしても、茂みの向こうに近づこうとするものは誰も居なかったのである。それだけこの村に住む者にとっては『茂みの向こう』は『得体の知れない恐ろしい場所』なのだ。
そして大人に内緒で茂みの向こうへ行った子供三人は――帰ってこなかった。
十年近く前と同じ様に付近の捜索がなされたが、子供達は見つからなかった。十年前と違ったのは、子供の父親二人が茂みの向こうへ捜索に行ったということ。だが――彼らもまた帰っては来なかった。
村人達はやはり鬼に攫われたのだ、としきりに噂をした。あの茂みの向こうには鬼が棲んでいて、自分達の領域に立ち入った者達を攫って食べてしまうのだと。
十年近く前とは違い、今度は誰かが提案をした。冒険者に茂みの向こうを調査してもらえないかと。鬼を退治してもらえないかと。
子供達だけでなく大人をも食べてしまう恐ろしい鬼がいるなら、いつ村が襲われるかもしれない――そんな危惧を抱いた村人達はお金を出し合って冒険者ギルドへ依頼を出した。
鬼に攫われたとしたら、子供たち三人と父親二人の生存は絶望的だろう。村人たちとてそれは分かっている。これまでの被害は覆せずともこれからの被害を抑えられれば‥‥この依頼にはそういった願いが込められている。
●リプレイ本文
●鬼隠しの里
その村は一見普通の村だった。普通に牛馬を飼い、畑を耕して生計を成り立てているようなとりたてて見るところもないような村。
「言い伝えについてもう少し何か詳しく教えていただけませんか?」
シルビア・オルテーンシア(eb8174)の言葉に村長だという老人は首をかしげるようにして考え込む。
「何でもいいんです、お願いします。今後同じ様な被害がでるのを防ぐために‥‥」
村長の沈黙を黙秘と感じたのか、結城梢(eb7900)も必死に頼み込む。
「詳しくといってもワシももうよう覚えとらんのだ。最初は立地の面で危険じゃから行ってはならんと子供に言い聞かせるだけの方便だった気もするが。いつの頃からか、それが忘れ去られて、しかも本当に行方不明者が出る始末じゃ」
「という事は、最初から茂みの向こうに鬼が棲んでいたわけじゃなかったということですか?」
「そうだった気もするが‥‥何せ年を取ると記憶が曖昧でのぅ。じゃが、実際に行方不明者がでてしまったのは事実じゃ」
村長はシルビアの問いかけに溜息を漏らす。子供と大人、合わせて五人が行方不明となっているのだ。
「オーガ種には人喰鬼もいます。生存は‥‥」
言葉を濁したソフィア・ファーリーフ(ea3972)に、渋い顔をしたまま村長は頷く。既に覚悟は出来ているという事だろう。
「とにかく、気をつけて行ってみましょう」
梢の言葉に一同は力強く頷いた。
●茂みの向こう
「入り込んだら喰われるが、向こうからは出て来ない。どんな仕掛けなんだ?」
レフェツィア・セヴェナ(ea0356)のグッドラックを受けながら陸奥勇人(ea3329)が呟く。
「わからないけど、向こうから襲ってくるって事は危険だから注意してね」
茂みの向こう側に入れば鬼が襲ってくる――そんな言い伝えを信じて、勇人が囮となって敵を誘き寄せる算段だ。そしてある程度弱らせて、巣穴へと帰還するところを追跡する。
「近いところで1.5メートル程の大きさの振動を感知しました。その数3つ、距離は20メートルほど」
「茂み左手奥の、木々の向こう側からですね」
バイブレーションセンサーとブレスセンサーを使用したソフィアと梢からの報告。
「近いところで、という事は遠い所にも?」
周囲の物音に警戒していたフォーレ・ネーヴ(eb2093)が尋ねる。ソフィアと梢は同時に頷いた。
「100メートルギリギリのところに1つ。もしかしたら巣穴がその辺なのかもしれません」
「なるほど。それではとりあえず襲い来るとしたら、近くにいる3体でしょうね」
いつでも加勢できるようにとルーンソードの柄を握り締めてルイス・マリスカル(ea3063)が呟く。
「それではとりあえず作戦通りに」
「ああ」
フィリッパ・オーギュスト(eb1004)の言葉に頷き、勇人は茂みの向こう側へと足を踏み入れた。
「なるほど‥‥」
数歩踏み入ってみると、地形が良くわかる。左手側の木々は森、そして正面に数メートル行くと崖になっており、下には道が通っている。もしかしたらその道の先に村などあるのかもしれない。
「どうやら村長が言っていた通り、最初は『子供に対する戒め』だったようだぜ。ここ、茂みで見えにくいが先は崖になってる。落ちたら危険だからだろう」
「勇人さん、気をつけてください、どんどん近づいてきてます」
ぐいっと崖下を覗き込むようにしていた勇人に梢が注意を喚起する。大丈夫、わかってるって、と立ち上がって森の方へと視線を向けた彼の前の茂みが揺れる。
ガサガサッガサッ
「ん? ‥‥婆さん?」
出てきたモノが想像とあまり違ったものだったためにもれた勇人の言葉。だがそれは油断から出た言葉ではない。
その、ぼろを纏った人間の老婆の姿をしたモノは瞬時に白髪を逆立て、目を青く光らせて耳元まで裂けた口という本性を表した。そして3体の老婆のうち2体が山刀で勇人に斬りかかる。だが勇人はそれをひらりと回避する。残りの1体が勇人に斬りかかろうとしたその横合いから、飛び出したルイスが続けざまにスマッシュの重い一撃を打ち込む。
「さぁ、死にたい者から来たまえっ!!」
その叫び声に一瞬怯んだように、彼の攻撃を受けた1体がよろよろと森の中へと逃げ入ろうとする。その時ソフィアが茶色の淡い光に包まれた。高速詠唱で唱えられたアグラベイションが老婆達の動きを鈍くする。
「そのオーガは普段は老婆の姿をしていますが、人間一人くらいならぺろりと食べてしまう人喰鬼です」
ソフィアはオーガの特徴から種別を特定し、仲間に特徴を伝達する。
「逃げ帰ろうとしている1体は無視して、残りの2体を倒してしまって下さい」
後方から冷静に情報を分析しているフィリッパの声に従い、フォーレの縄ひょうが勇人の前にいる老婆の足へと命中する。老婆がバランスを崩した所に勇人が野太刀で斬りかかった。
「出やがったな‥‥そこのお前、1つ聞いとくぜ。この間ここに紛れ込んだ人間をどうした?」
だが問うても老婆は答えない。
「問答無用って訳か。いいぜ、相手になってやる!」
今度は野太刀を振り下ろし、スマッシュEXの重い一撃を与える勇人。老婆はぼろぼろになりながらもなおも動こうとする。
「これで終わりだよ」
レフェツィアが白く淡い光に包まれたかと思うと、その老婆までも白く淡い光に包まれた。詠唱の完成した、専門レベルのホーリーだ。それを追う様にシルビアの鳴弦の弓から矢が放たれる。その老婆はそのまま草地へと突っ伏し、動かなくなった。
「後一体ですね」
梢の掌からライトニングサンダーボルトが放たれる。続けて勇人とルイスが重い一撃を加え続けると、もう1体の老婆もじきに動かなくなった。
「さあ、追いかけるよ」
既に追跡体制に入っていたフォーレが森の入り口から声をかける。一同はソフィアのバイブレーションセンサーと梢のブレスセンサーを頼りに森の中へと分け入った。
●巣穴と‥‥
一同は追跡の為に弱らせた老婆を含め、8体の老婆を相手にしていた。そこは最初の茂みから150メートル近く歩いた所。そこに住処らしき洞穴が存在していた。
探査魔法で事前に数と位置が分かっていた分、冒険者たちが優勢だった。出てきた老婆の行動をソフィアのアグラベイションで鈍らせ、フィリッパのコアギュレイトで固め、シルビアが鳴弦の弓の補助効果で味方を支援する。
「まずは数を減らしていきましょうか」
道案内をさせた老婆を背後からスマッシュで斬り捨てたルイスが、同じく前衛たる勇人に声をかける。
「そんじゃまぁ、鬼退治と行きますか!」
勇人も野太刀によるスマッシュの連撃で老婆を弱らせていく。レフェツィアのコアギュレイトとフォーレの縄ひょう、梢のトルネードは前衛二人の手が及ばない敵たちへの牽制として役に立っていた。
鳴弦の弓の音で弱った老婆達はそれでも山刀を振り回すが、回避に自信のある前衛二人にはかすることすらせず‥‥次々と老婆たちは倒れていく。前衛をすり抜けた老婆もいたが、魔法使いを守るフォーレやシルビアに攻撃を回避されているうちにフィリッパのコアギュレイトで固められたり攻撃を受けて倒れ伏していった。
「ソフィア姉さん、敵の残りはいなそう?」
戦闘中もバイブレーションセンサーで探知していたソフィアに、戦闘があらかた片付いた頃フォーレが問うた、万が一近づいてくる敵があれば知らせてくれたであろうが、念のために問う。
「敵ではないと思うけれど、かなり大勢の人らしきものと家畜らしきものが感じられます」
「もしかしたら近くに村でもあるのでは?」
フィリッパの言葉にフォーレが背伸びをして木々の合間から向こう側を見る。その良い視力が捉えたのは村らしきものだった。
「あ、村があるみたい。この直ぐ外に道もあるみたいだよ」
「恐らくあの崖下にあった道だろうな」
勇人は先ほど見た崖下の光景を思い浮かべる。
「もしかしたらあのオーガたちは、この道を通る人たちを襲ったり、あの村から家畜を奪ったりして生存してきたのかもしれませんね」
だからわざわざ遠い所にある例の村に積極的に訪れる必要はなかったのか――シルビアの言葉は推論でしかないが、なんとなく納得できるものでもある。
「では、もしかしたら私達は二つの村を救った事になるのかもしれませんね‥‥」
梢が柔らかく微笑む。鬼の被害に苦しむ村人が、少しでも減ってくれれば幸い、と。
「骨‥‥と服らしきものや鋤が落ちていました。恐らく行方不明になっていた子供と、それを探しに出た父親のものでしょう」
巣穴の中で遺品を捜していたルイスがそれらを手に戻ってくる。父親達は鋤を手に、子供達を捜しすために恐ろしい言い伝えのある茂みの向こうへ飛び込んだのだろう。
「持ち帰りましょう。遺された母親の悲しみを少しでも癒す助けとなりますように」
ソフィアの言葉に皆頷き、黙祷を捧げるのだった。
今後、同じ様な被害に会う人が出ませんように。
今後、同じ様な悲しみを背負う人が出ませんように。