【色彩救道】魔物棲む真珠白の地
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月27日〜02月01日
リプレイ公開日:2008年02月01日
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●オープニング
絵画に使用される顔料には一般的に手に入りやすい色から、なかなか手に入りづらく高級な高級色までが存在する。高級色には緑青、パールホワイト、群青などが上げられるのだが。
実は今、宮廷絵師たちの間で緑青の原料となる孔雀石、パールホワイトの原料となる白雲母、群青の原料となる瑠璃、これら高級顔料の在庫が不足してしまっている。当然、鉱山に採掘状況の確認をしたのだが、その3つの鉱山はカオス戦争の余波を受けて暫くの間採掘を中止していたのだという。そしてその間に――困った出来事が起こった。1つは解決されたので、現在2つの鉱山がそれぞれの理由で採掘再開がままならぬ状況にある。
今回冒険者達に依頼されるのは、パールホワイトの原料となる白雲母がとれる鉱山だ。この鉱山の何が問題かというと――いざ発掘再開と意気込んで鉱山に行った鉱夫たちが人影を見つけたのだ。ふらふらと鉱山内を歩く、腐敗した人影を――。
幸い鉱夫たちはその光景の異常さに気がつき、素早く逃げたために相手に見つかることはなかった。故に腐敗した人影――死体による被害はいまだ出ていない。
チラッと見ただけだが格好は冒険者や騎士などのそれに近かったため、もしかしたら戦争に参加して戦場で傷を負い、鉱山まで来て事切れてしまった人物かもしれない。勿論これは推測に過ぎないのだが。
ちなみに死体の動く様を見た鉱夫たちは大層怯え、戸惑った。今までそんなものを間近に見る機会はなかったからである。動く死体――カオスの魔物の一種など、そうそう見ようとして見られるものではない。
何故突然カオスの魔物がこんなところに現れるようになったのかは分からないが、このままにしておいては採掘が進まないばかりか近隣の村や町にいつ被害が及ばないとも限らない。動く死体を殲滅し、安心して鉱夫たちが働ける環境に戻してほしい。
ちなみにこの鉱山は採掘早期に戦争の余波で一時閉鎖されたため、山に掘られた横穴は一つしかない。工具や土嚢、荷車が置かれている広場とその横穴をチェックすれば終わりといえる。だが敵の正確な数は不明だ。心してかかってほしい。
「カオスの魔物が‥‥!?」
その報を聞いて宮廷絵師のファルテ・スーフィードは戦慄した。非戦闘員の彼女の知識ではカオスの魔物が――その『動く死体』がどれほどの力を持つものなのかは分からないが、今までこんな身近にその存在を感じる事はなかったものだ。
「それでも、この依頼を引き受けてくださいますか?」
ファルテは苦しそうに冒険者達を見つめた。
●簡易イメージ図
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洞‥洞窟入り口
◆‥土嚢
他に荷車や工具などの障害物がありますが、基本的には広い広場です。
洞窟の中は、あまり採掘が進んでいないため一本道です。それほど長くはありません。
●リプレイ本文
●出発
一行は不足していた保存食などを購入し(急いでいたため多少高くついたが仕方あるまい)、王宮裏口に止められた馬車へと乗り込みを始める。馬で行くものは馬に乗った。
「マスコバイト、石言葉は『自由な発想』。絵師には守護石みたいなものよね」
裏口まで一行を見送りに出てきたファルテに月下部有里(eb4494)が笑いかける。
「道中危険はないかのう。それと現地の様子で情報は入っておらぬか?」
トシナミ・ヨル(eb6729)の言葉にファルテは困ったように頭を下げた。道中の危険はないだろうが、現地の情報は入ってきていないという。
「ご心配なさらず、ファルテさんの為に頑張りますよ」
微笑んで意気揚々と告げるのはエル・カルデア(eb8542)。天然ボケな面があるファルテは彼のその言葉にも「はい、白雲母を待つ皆さんの為にどうぞ宜しくお願いします」とにっこり笑顔で返した。
「さて、そろそろ出発するかのう」
「はい」
御多々良岩鉄斎(eb4598)の言葉に、めいめい準備を終えた冒険者達は各々返事を返す。
「では行って来ます」
アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)の挨拶に、カオスの魔物の相手をさせるという危険に対する不安を持っていたファルテは、それを払拭するような笑顔を浮かべて「いってらっしゃいませ」と答えた。この冒険者達ならばきっと無事に帰ってきてくれる、そう信じたからである。
「つい先日受けた依頼でも、鉱山でアンデッド退治したなぁ。あ、でもこの世界だと、アンデッドって言わないんだっけ」
「はい、ここでは全て『カオスの魔物』といいます」
しみじみと前の依頼を思い出したフェリーナ・フェタ(ea5066)に、メイ人のエルが答える。
「死んで尚動き回るとは随分と元気なものですね。まあ本人にしてみれば不本意なんでしょうけど」
愛馬に跨ったラフィリンス・ヴィアド(ea9026)が冷たく言い放つ。別に怒っているわけではなく、他人と距離を置こうとしてしまう癖から出た態度である。
「ちなみにただの『動く死体』とは別格のモンスターもいます。ジ・アースでは『グール』と言うのですが、敵の中で牙が生え揃い、腐ってないのがいたらそれがグールです。非常に素早く、既に死んでますから恐ろしく打たれ強いので、これに対しては必ず複数で対峙して下さい」
皆の安全を守るため、とペガサスを檻に入れた導蛍石(eb9949)はその折の横で『動く死体』についての知識を皆に与える。こちらの世界で動く死体やグールが何と呼ばれているのかは分からないが、彼には僧侶ならではのアンデッドの知識があった。
「それにしてもなぜこれまたいきなりアンデットの巣になったのかしら、ジ・アースというところのデビルみたいなのがメイにいるのかしらね」
有里の言葉に答えられる者はいない。彼女とて答えを期待して呟いた言葉ではなかったが、その疑問は他の者にとっても疑問である事は確かだ。
「『動く死体』達ですが魔物の中では、知力が低い為、誘き出しは比較的容易だと思います。横穴の敵は広い所へ誘き出してから倒しましょう。蛍石さんの言うとおり、素早い死体には注意をしてください」
エルには沢山のモンスター知識がある。その中から今回の敵だと思われるものをピックアップして、その特性を皆に伝えた。
「オーラパワーの付与はどうするかのう。まあ目的のないアンデッドであれば急速に近寄る事もないはずじゃけえ、事前で間に合うと思うんじゃが」
岩鉄斎は誰にオーラパワーを付与するか、メンバーを見回して考える。魔法使いが多い今回の編成の中では、おのずとその対象は限られる。
「終ったら、二度と迷い出ないように、ファルテさんから教わったメイ式の葬法で弔ってやるかのう」
トシナミの言葉に、愛馬のしゅてるんが小さく鳴いた。
●多数の‥‥
「数が多いですね‥‥」
ペガサスに騎乗し、上空からディテクトアンデッドで調査をした蛍石の感想がこれだ。バイブレーションセンサーを使用したエルも同じ感想を漏らす。
「各個撃破していくしかありません。全部倒すだけです。そこに別段これといった思い入れもないんですから」
岩鉄斎にオーラパワーを、トシナミにレジストデビルを付与してもらいながらラフィリンスが冷たく言い放つ。彼にとっての危惧は戦闘中に狂化してしまう事だけだ。同じくオーラパワーとレジストデビルの付与を受けながら、アルトリアも前衛として戦う覚悟を決める。
「まずは魔法で敵を牽制してからにしましょう」
有里の言葉で最初の一手が決まった。魔法使い達は広場入り口で詠唱、もしくはスクロールを手に念じ始める。広場にいた死体達はその姿を見つけたのだろう、人を見つけると襲う習性なのか、よろよろと入り口へと近づいて来ていた。
エルが淡い茶色の光に包まれ、高速詠唱でアグラベイションを発動させる。その効果は、一番近づいてきている5体の動きを鈍らせる事に成功したようだ。と、死体三体が一瞬にして上空に舞い上がり、落下を始める。フェリーナが使用したスクロール、ローリンググラビティーの効果だ。同時に詠唱の完成した有里のライトニングサンダーボルトが広場の奥に向かって4体の敵を貫いた。エルがもう一度高速詠唱を用い、今度はグラビティーキャノンで敵を転倒させる。十字架のネックレスを手に祈りを捧げたトシナミは、術者たちを守るべくホーリーフィールドを展開させていく。
「‥‥‥」
無言のまま一番に飛び出たのはラフィリンスだ。スマッシュを使って槍を振り下ろし、近い敵にニ撃を加える。オーラパワーの付与されたその攻撃は絶大で、途端に死体の動きが鈍くなった。
「ラフィリンスさん、一人で飛び込んでは危険です!」
自分の身など省みずに敵の真ん中に駆け込んだラフィリンスを、アルトリアが追う。そして彼女はラフィリンスの近くの敵に斬りかかる。
「がつんといくぞい」
岩鉄斎もオーラパワーの付与されたラージハンマーを振り回し、近くの敵に叩きつけた。
「少林寺流、絶地!」
ブレイクアウト+トリッピングの合成技で近くの敵を転倒させていくのは蛍石。同時に怪我人が出ていないか気を配るのも忘れない。
魔法使い達は前衛の仲間を巻き込まぬように使用魔法を変え、使用方向を調整し、彼らの援護を続ける。何よりオーラパワーを付与された者達の一撃は死体達に対しては絶大だった。中でも戦闘時の緊迫感を体験する事によって狂化してしまったラフィリンスはサディスティックなまでに敵を倒し続け、自らの身を省みることなく死体をいたぶり続けた。敵の数も減った頃にトシナミのコアギュレイトで拘束され、落ち着いたラフィリンスだったが、敵の中にまじっていた『グール』の牙により傷を受けていた。彼は狂化を止めてもらった礼を述べ、一人自身の傷をリカバーで癒す。
「すまんのう」
同じく『グール』の牙を受けた岩鉄斎とアルトリアは蛍石のリカバーを受け、その治療を済ませる。
「あとは横穴の中でしょうか?」
「ディテクトアンデッドで調べてみましょう」
治療を終えた蛍石が、フェリーナの言葉に落ち着いた様子で答えた。
「む?」
「どうかした?」
「いえ、横穴の中にアンデッドの気配がないのです」
おかしいわね、と有里は首をかしげ、今度はエルがバイブレーションセンサーを使って探知を試みる。
「そうですね‥‥振動も探知できませんね」
結果、やはり横穴の中は空、ということらしい。
「いち、にぃ、さん、し‥‥‥‥あ、死体の数、蛍石さんが最初に広場にいるって報告してくれた数より多いよ」
「もしかして戦闘中に横穴から出てきたのでしょうか」
数えるフェリーナ。恐らくアルトリアの推論が正しいのだろう。乱戦だったために気がつかなかったが、物音を感知した横穴内の死体が冒険者達を見つけ、襲いに出てきたのだろうと考えるのが無難かもしれない。
「誘き出す手間は省けたということじゃのう」
それならばこれで任務完了。岩鉄斎はどすんと地面に座り、趣味の絵描きを始める。
「一応横穴も見てきます」
「私も一緒に行くわ」
ラフィリンスと有里は、念の為横穴の中の探索に回った。
「それでは死体を弔いましょうか」
「そうするかのう。メイでは普通は棺などに入れて、きちんと精霊界へと上がれるように体裁を整えてやるそうじゃ。まぁ棺はこの際しかたないが、手足をきちんと整えて体裁を整えてやる事くらいはできるじゃろう」
蛍石とトシナミは話しながら死体の弔いを始める。ちなみに墓標は石版らしいが、今回の様な場合木切れで代用する事もあるという。
「死してカオスの魔物になるなど‥‥。二度とそんなことはなく、無事に精霊界へ上がってほしいです」
死体の弔いを手伝いながら、エルが呟いた。依頼を受けた中で唯一のメイ人である彼は、やはり他の者とは感じる所が違うのかもしれない。
「今度こそ、迷わず精霊界へ上がれると思うよ」
フェリーナの呟きが願いと思いを込めて、祈りのように真珠白の地へと響き渡った。