Handmade Theater

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月17日〜02月22日

リプレイ公開日:2008年02月23日

●オープニング

●子供達に、手作りの‥‥
 メイディアの街の下町に近い場所にある洋館の扉を叩こうとしたフィリッパ・オーギュスト(eb1004)は、その扉が勝手に内側に開かれた事に少しばかり驚き、動きを止めた。
「きゃっ」
 しかし驚いたのは扉を開けたその人物も同じ様で、予期していなかったのだろう、扉を開けた先に立つ人影をみて小さな悲鳴を上げた。
「驚かせてしまいましたか、ごめんなさいね」
 フィリッパはその人物に優しく微笑みかけ、謝罪の言葉を口にする。その人物、レディアという貴族の少女は聞きおぼえのある声、見覚えのある姿に安心したのか胸を撫で下ろし、こんにちはと挨拶をした。
「フィリッパさんお久しぶりです、どうかなさいましたか?」
「面白い企画を思いついたものですから、お館様の許可を頂きに来たのですわ」
 寒いから中へどうぞ、と玄関に通されフィリッパは素直にその言葉に甘えて邸内へと足を踏み入れた。

 ここは元冒険者である「お館様」が経営する孤児院である。0歳から12歳までの子供達がここで暮らしている。レディアはお館様の志に賛同して、善意で手伝いをしたり物資を提供したりしている貴族の娘だ。彼女の弟、エルファスも時折姉について館を訪れ、子供達と遊んでいるという。

「面白い企画とはなんでしょうか?」
 レディアはフィリッパを先導し、2階にあるお館様の私室へと案内をする。「あ、お姉ちゃんだ!」「また遊びに来てくれたの?」と耳ざとく客の来訪を察知した子供達に、「お館様とお話があるから後でね」と微笑んで告げ、フィリッパは2階へと昇っていく。子供達とは既に顔見知りだ。彼女は年越しも子供達と過ごしていた。
「子供達に劇を見せてあげようと思うのです」
「劇?」
「ええ。冒険者達から有志を募り、その他にも旅芸人の方や作家の卵さんなどあらゆる人たちに声をかけて舞台を作り上げたいと思いますの」
 まだどんな話になるのかは未定だが、舞台や衣装も自分達で作り、簡単ではあるが話を見せてあげるというのがフィリッパの案だ。
「まぁ素敵。子供達もきっと喜びます。もちろん、お館様も」
 レディアが扉をノックして来客を告げると、中から「お入りなさい」というお館様の優しい声が聞こえてきた。


●舞台製作者募集
・主役希望から裏方希望まで、幅広く募集。
・衣装と舞台の製作と簡単な劇を行います。
・劇の内容案も募集中!

 主役志望から裏方さん志望まで、難しいことは考えずにお気軽にご参加ください。

●今回の参加者

 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb9356 ルシール・アッシュモア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●準備も楽しく
 こういうことは準備する側もその段階を楽しむもので。
 孤児院の一番広い部屋――普段子供達が遊んでいるホールの様な場所は、今一種の戦場と化していた。協力をお願いした旅芸人一座の男衆が木材を運び入れて簡易舞台を造ったり、女達が手持ちの衣装の中から今回の劇に必要そうなものを探し出してくれている。
「おーほっほっほっほっ‥‥‥少し違うかしら」
 冒険者達はというと、その役作りの為に練習に励んでいた。
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)の突然の高笑いに、入り口からこっそり様子を見ていた子供達がびくり、と身体を震わせて怯えた。そっとレディアがやってきて、ここは人の出入りが激しくて危険だから、と子供達を外や二階へと誘導する。確かに雑然とした室内には子供達には危険な道具なども存在する。勿論、今見られてしまうと本番の楽しみがなくなるから、という理由もあるが。
「ぐがぁ、また性懲りもなく‥‥‥‥ここはもっとオーバーアクションの方がいいでしょうか」
 旅芸人の男性にアドバイスを受けながら練習しているのは、今回男役に挑戦するソフィア・ファーリーフ(ea3972)だ。その側で練習しているのはアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)。
「くっ‥‥これでは手も足も出せない」
 彼女は勇者役を演じる。
「チューちゃん、ルシが言葉に詰まったらフォローしてくれないかな」
「いいよー。任せてー」
 ルシール・アッシュモア(eb9356)はシフールのチュールを肩に乗せて打ち合わせ中だ。進行役のお姉さんは事態に臨機応変に対応しないといけないポジションだ。
「あの‥‥こんな感じでどうですかね?」
 青年が高笑い練習中のフィリッパに恐る恐る声をかけた。その手には木版が。
「あら、良いのではなくて?」
 フィリッパはその一つを手に取る。木版の真ん中は複雑な形の穴に切り取られており、それに類似した形から全く違う形まで、同じ素材でパーツが作られている。穴にぴったりはまる『答え』はその中の一つ、という具合だ。これは最後のお宝のシーンで使用する。
「そういえば『お宝』の制作は進んでいるでしょうか?」
 出来上がってきた簡易パズルと宝箱を見て、アルトリアが呟いた。


 一方、こちらは厨房である。少し前から甘い香りに包まれているところだ。ここではフォーレ・ネーヴ(eb2093)が存分に腕を振るっている。
 蜂蜜を混ぜたケーキを焼き、天界のものだという貴重なホワイトチョコレートを溶かして表面に塗る。旅の商人から買い入れた貴重な砂糖を煮詰めて飴状にし、油紙に包んだ後固まったそれを麺棒で叩いて砕く。きらきらと輝く飴色の宝石をケーキの上に振り掛ければ、宝物の出来上がり。
「う?」
 匂いにつられてか、厨房の入り口から様子を窺っている子供達数人を見つけたフォーレは笑顔で手を振る。
「やほー♪ 皆元気そうだね。これは後でのお楽しみだから、外で遊んでおいで〜」
「えー」
「劇が終ってからちゃんとあげるから安心してね」
 フォーレの言葉に子供達は渋々厨房を後にする。彼女はそれを見送ると、ケーキを焼いている間にしていた作業を再開した。果物の蜂蜜漬けを1つずつ油紙で包み、リボンで止めるのである。これも宝箱に入れる予定だ。

 喜んでくれるといいな。

 それは準備を行っているみんなの思い。


●幕が上がって
「ひゅーほほほ、お宝は目の前だねぇ」
「アクジョ様、大きい箱と小さい箱がありますぜ」
「勿論、大きい箱に決まっているだろうよ」
 フィリッパ演じる悪人三人組のリーダーアクジョ。お供にスニーキーとゴーリキーという男性二人を従えている。
「あ、このままじゃ宝がとられちゃう!」
 すかさず進行役のお姉さんシルルを演じるルシールが叫ぶ。ピンクを基調とした可愛い衣装に帽子をつけて、すっかりお姉さん役になりきっている――たまに相方のチュールにつっこまれていたりはするが。
「みんな、宝を守るために勇者様を呼ぼう。いい? せーの」
「ゆうしゃさまー」
「声が小さいよ、これじゃ勇者様に届かないよー。もっと大きい声で。いくよ、せーの」
「「「ゆうしゃさまー」」」
 子供達の声が館内に響きわたる。と、たたたっと舞台中央に走り出でてかっこよくポーズを決めたのはアルトリア。
「勇者アール参上。皆、呼んでくれて有難う」
「俺っちはお供の戦士ソフィア。今まで倒してきた悪者は数知れず」
 次いで登場したソフィアが観客席に向けてアピール。
「でも頭を使うのだけは勘弁な!」
 その言葉に子供達から笑いが漏れる。
「アール! 何でこんな所に!」
「宝は渡さない。アクジョ達、大人しく帰るというならこのまま見逃してやろう」
「帰るものか。スニーキー、ゴーリキー、アレを使うんだよ!」
「了解です、アクジョ様」
 勇者の言葉に従う様子を見せないアクジョ達。舞台袖に引っ込んだ男二人が次に出でてきた時には、そこには魔法使いに扮したフォーレが。
「助けてください、勇者様!」
「宝の番人であるこの娘が人質だよ! この娘を傷つけられたくなければ宝を渡しな!」
「くっ、このままでは手が出せない‥‥」
 人質を取られ、挫折の表情を見せる勇者。会場から子供達の「ゆうしゃさまぁ」という細い声が聞こえる。
「人質を取るなんて卑怯だぞ!」
「卑怯で結構さ。大きいお宝は戴いていくよ。ゴーリキー!」
 ソフィアの言葉をふっと鼻で笑って、大きな宝箱を運ぶようにゴーリキーに指示するアクジョ。
「どうしよう、アクジョ達の方が一枚上手だったみたい。勇者様を助けてあげなきゃ」
「うん、皆で勇者様を助けてあげようね!」
 シルルがポケットからスクロールを取り出そうともぞもぞ動く。と、その手が止まった。
「でもっでもっチューちゃん。一言だけ意見言わせてぇ? ‥‥あの黒いおねぇさん、おもいっきしオトコの趣味悪そうなのはどうしてー?」
 シルルの言葉に「ほっといてくれよ!」とアクジョ。チュールは大袈裟に考える振りをして、答える。
「悪い事ばっかりしてるからじゃないの?」
 返ってきたのはある意味正論だった。
「まぁいいや。宝の番人の娘さんを人質に取られている勇者様は今、手を出せないの。だから皆が助けてあげて。これはシルルの家に代々伝わる巻物なの! 勇気と元気を光の力に変換する魔法が書いてあるんだ!」
 取り出したのはライトのスクロール。
「お願いみんな! シルルとチュールに力を貸して! 勇者を励まして! 皆の元気と勇気、一纏めにして勇者様達に渡したいんだ!」
「ゆうしゃさまをたすけるんだー!」
「ゆうしゃさま、がんばれー!」
 会場から子供達の声が飛んできたのを確認すると、シルルはライトのスクロールを持って念じ、光球を作り出す。
「もっともっと勇者様を励ましてー!」
 チュールの言葉に、子供達は更に声を大きくする。出来上がった光球をチュールが受け取り、それを勇者まで運ぶ。
「ありがとう、みんな! これで勇気百倍だ! いくぞ、ソフィア」
 勇者は模造刀を天に掲げ、子供達に礼を述べると悪三人組の元へ素早く走り寄る。ソフィアがフォーレを捕らえているスニーキーを殴る仕草を見せ、その隙に勇者がフォーレを抱いて悪三人組から離れる。
「あーもう役に立たないねぇ。けれども大きい箱はもらっていくよ! ひゅーほほほほほ」
 ゴーリキーは大きな箱を持ち、アクジョは殴られて気絶した振りをしているスニーキーの襟首を掴んで舞台袖に下がる。
「大きな箱は取られてしまったけれど、箱よりもお嬢さんの命の方が大事ですから」
「勇者は宝よりも大事なものを守ったのだ!」
 勇者がフォーレに微笑み、ソフィアは勇者が真の意味で勝利した事を子供達に伝える。
「いいえ、大丈夫です。あの大きな箱は宝なんかじゃなくて‥‥」
「きゃー、なんだね、これはっ!?」
「た、たすけてくれー!」
 宝の番人のフォーレが大きな箱の中身を告げようとしたその時、舞台袖から悪三人組の叫び声が上がった。
「大きな箱は欲張りな盗賊達をお仕置きするためのこわーいモンスターが入っていたのです。本当の宝はこちらです」
 フォーレはにこにこと笑って小さな箱を勇者に差し出す。
「欲を張るとろくなことがないということですね。しかしこの、穴の開いた木の板は一体‥‥?」
「箱を開けるには、パズルを解く必要があります。この穴に合うパーツを、この中から見つけてください」
 勇者とソフィアに、フォーレは木のパーツをいくつか差し出す。
「うがぁー、子供の頃から先生の言う事聞かずに外で遊んでばかりいたせいか、オレっちにはちんぷんかんぷんだぁー」
 ソフィアは頭を抱えるようにしてオーバーアクション気味に、自分には難しくて分からない、と示してパーツを投げ捨ててしまった。
「仕方ないね。みんな、一緒にパズルを解いてくれるかい?」
「「いーよー」」
「ありがとう」
 勇者は優しく微笑み、まず一つ目のパーツを子供達に見せるようにする。
「この木枠に合うのはこのパーツかい?」
「「ちがうー」」
「じゃあ、こっちかい?」
「「ちがうよー、もっととんがってるやつー」」
 そんなやり取りが何度か続いた後、とうとう‥‥
「「それそれー!!!」」
 子供達が歓喜の声を上げた。それを聞いて勇者はパーツを木枠に嵌める。するとぴったりと合うではないか。
「おめでとうございます。宝はあなた達のものです」
 フォーレが宝箱を開けると、中からは甘いいい匂いが。ホワイトチョコレートでコーティングされた蜂蜜ケーキの上に、きらきらと輝く宝石の様な飴が。そしてケーキの周りには箱を埋め尽くすように沢山の果物入りの油紙の包みが並べられていた。
「「うわー、すごーい!」」
「この宝は皆で手に入れたものだよ」
「皆で山割けするぞー!」
 勇者とソフィアの言葉に子供達は大喜び。立ち上がってジャンプして喜びを表す子たちもいる。
「チューちゃん、悪い事をして欲張るといいことがないってわかったね」
「あと、きちんと先生の言う事を聞かないと駄目って事もね」
「みんなも、わかったかなー?」
 はーい、とシルルの言葉に良い返事が返ってきたところで劇はおしまい。
 カーテンコールはアクジョやお供の二人も加えて皆で手を繋いで舞台の上で。沢山の拍手と、沢山の歓声に沸き立つ会場。お館様やレディアも笑顔で惜しみない拍手を送っていた。

 この後は皆で宝の山分け。おやつタイム。普段あまりお目にかかれないあまーいお菓子とあまーい果物に、子供達は大喜び。冒険者も旅芸人たちも交えて楽しい時間を。

 子供の時の夢や憧れ、そういったものは大人になっても忘れないもの。
 感受性の豊かな時期に、良い経験をさせてあげる事が出来た事だろう。
 そして、何より皆が楽しんで劇を作り上げる事が出来た、それが一番大きい。
 普段と違った役に挑戦するのは難しくもあり、楽しくもある。
 楽しかった――演じるほうも見る方も、そう思えたのならば、この企画は大成功といえるだろう。