悪意の残滓〜王子様と音楽喫茶〜

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月24日〜02月29日

リプレイ公開日:2008年02月28日

●オープニング

 年末年始辺りにメイとバとの戦争の停戦調停の為に、ジェトよりマクシミリアン王子がメイへと訪れたのを知る者は多いだろう。冒険者の中には彼と酒場で言葉を交わした者もいるかもしれない。
 彼は未だメイに滞在している。ほうぼうの貴族から家に招かれたりして、多忙な日々を送っているようだ。

「こんな感じでいいでしょうかね‥‥」
 支倉純也はギルドの掲示板に張り出す書面と格闘していた。何せ国賓からの依頼である。
 そして出来上がった書面には大きく『マクシミリアン王子の護衛募集』の文字が。
「王子様ならお国から連れて来た護衛やお城からの護衛とか、十分についているんじゃないの?」
 ひやかす女冒険者に、純也は笑顔を作って答える。
「メイの街の様子を見てみたいので詳しい者に案内をしてほしいとのことです。個人のわがままなので、城の方々の手を煩わせるのは気兼ねだと仰って‥‥」
「へぇ、王子様ってもっとこう、家来を顎で使うようなイメージがあったけれど、違うのねぇ」
「とてもしっかりとした、いい意味で『王子様らしい』少年でいらっしゃいます。清廉潔白で、少し固い感じの」
 後者は褒め言葉なのだろうか‥‥それはともかく、マクシミリアン王子が息抜きに街中を見物したいと言うのだ。そして個人のわがままなので冒険者から護衛を募りたいという。
「ふぅん、一度お目にかかってみたいわね」
「貴女はこの依頼をお受けになりますか?」
「詳しい話を聞いてみてからね?」
「‥‥‥‥‥」
 さすが冒険者。なかなかに鋭い。この女冒険者はこの依頼がただの街中散策ではないと読んだのだ。
「‥‥‥わかりました。本来ならば依頼を受けてくださると決めてくださった方にのみお話するつもりでしたが‥‥内密にしてくださるなら。こちらへどうぞ」
 純也はその女冒険者の他、護衛希望者を別室へと案内した。

 わざわざ希望者を別室に案内したのは他でもない。あまり他人に聞かれたくない事情があるからだ。
「まず先に言っておきます。マクシミリアン王子は何者かに狙われています。おそらくメイとバの停戦を快く思わない者の仕業でしょうが、メイ、バ、ジェト、どの国の手の者かは一切不明です」
「なんと‥‥」
「実際、既にお出かけになった先で何度か襲撃を受けていらっしゃるとか。そこで今回はその襲撃者を炙り出すために、王子は街を出歩かれます。その護衛兼襲撃があった場合の相手の撃破をお願いしたいと思います」
 純也の言葉に集まった冒険者の一人が手を上げる。
「何故自らのお抱えの護衛やメイの城からの護衛を利用しない?」
「中立の立場での護衛を頼みたいからです。例えばジェトの護衛を使用しますともしも相手がメイだった場合にややこしい事になります。つまり、相手の素性と背後関係がわからない以上、中立の立場で動ける護衛が必要なのです」
「なるほどな‥‥」
 冒険者は納得して上げた手を下げる。純也は言葉を続けた。
「表向きは街の様子の視察。本来の目的は襲撃を受けてその相手を確かめる事です」
「王子様自ら囮になるってこと? それって随分危険なんじゃないの?」
「何のために冒険者を雇うと思うのですか。その危険からの護衛としてあなた方を雇うのですよ」
 純也の言葉も最もである。王子とて、この囮作戦が危険である事は重々承知だろう。それでもあえてこの手段を取ることにしたのだ。
「今回は視察のルートを簡単にですが設定してみました。王子は音楽を聴くのがお好きだという情報を手に入れましたので、音楽を聞かせてくれる喫茶を2軒回ってもらいます。ただしこの2軒の距離は離れており、移動にはわざと人気の少ない裏道を使用してもらいます。表向きは『お忍びなのでなるべく人一目に触れるのを避ける為』ですが」
 白皙の美少年であるマクシミリアン王子は、その立ち居振る舞いや服装からも常人ならざるオーラを放っていることだろう。王子という身分を知らない者も、思わず彼に目を奪われてしまうに違いない。
「まずは貴族街近くの『ヴァイスベルク』という食堂へ。そこではハープシコードという珍しい天界の楽器があり、その演奏を聴きながら食事を楽しめるとの事です」
 ハープシコードは別名をチェンバロとも言い、ピアノの前身となる楽器で、メイではまだ珍しい楽器の一つである。
「その後、裏道を通って下町の方へと向かっていただきます。目的地は下町にある『シークレットガーデン』という食堂です。こちらはいわゆる『隠れ家』的な食堂ですね。チキュウ人のヴァイオリン奏者がいるということで、チキュウの音楽を聞かせてくれるとの事です。下町にあるのですが上品さは貴族街近くの店に引けを取らないので王子をお連れしても失礼には当たらないかと思われます。ある意味下町では浮いたお店ですね」
 最初の店、裏道、2軒目、どこで襲撃があってもおかしくないと純也は言う。だが問題は裏道だ。
「貴族街付近から下町まで結構な距離を裏道で移動する事になりますが、この裏道の道幅が問題です。大体幅は3.5メートルほどでしょうか。大人が3人並んで歩く事は出来ても、三人並んで武器を振り回すことは難しいと思われます」
 裏道を通過する際の隊列が鍵になるだろう。
「また、人通りはかなり少ないですが皆無というわけでは有りません。もしも一般人が襲撃の際に近くにいた場合は、そちらの保護もお願いします。一般人に関してはお店で襲撃にあった場合も同様です」
「相手の特徴も、襲撃場所もわからない。王子だけでなく一般人も守れ――結構無茶な事を言う」
「その無茶を何とかしてやってのけるのが、あなた達のお仕事でしょう?」
 冒険者のぼやきに微笑を湛える純也。
「もちろん、あなた方だけに困難な任務を負わせたりはしません。今回は私も同行しましょう」
「ちなみに支倉、お前だったらどこで襲撃する?」
「そうですね‥‥‥」
 顎に手を当てて考えるようなポーズを見せた彼は、程なく一つの結論を導き出した。
「やはり裏道でしょうか。相手が何か分からないのでなんともいえませんが店の中では入りやすくとも逃げにくいです。裏道の方が襲いやすく、逃げやすいでしょうし」
 裏道には大通りにでる枝道もあることだろう。確かにその意見は一理ある。
「あ、でも参考程度にしておいてくださいね。全面的に信用されて、お店での警戒を緩められては困りますから」
「分かってる。店での警戒も怠らない」
「襲撃者の所属国も、姿形も、能力も分かりません。カオスの魔物である可能性も考慮しておいた方が良いでしょう。何が襲ってきてもいいように、準備はしっかりと整えてくださいね」
 純也の言葉に、集まった冒険者達は緊張した面持ちで頷いた。

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6917 モニカ・ベイリー(45歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb3446 久遠院 透夜(35歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6729 トシナミ・ヨル(63歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

シュタール・アイゼナッハ(ea9387

●リプレイ本文

●警戒
 街中は至って平和で、夕食時より少し早い時間のせいか、飲食店内よりも道行く人の方が多いように見えた。
「天界の楽器、なんとも興味惹かれますが。護衛の任、気を抜けませんね」
 マクシミリアン王子を含む直衛班よりも先行し、場の安全を確かめる遊撃班のルイス・マリスカル(ea3063)は1軒目のヴァイスベルクへ向かいながら呟いた。同じく呟くのはスレイン・イルーザ(eb7880)。
「俺も音楽を聴くのは好きなので密かに楽しみの面もあるんだが‥‥きちんと注意はしておく事にする」
 王子も音楽を聴けるのを楽しみにしているだろうに。それがゆっくり聞くこともままならないとは。
「停戦の為に頑張っているマクシミリアン様を狙うとは、許し難い不届き者です」
 憤るのはイリア・アドミナル(ea2564)。それは皆も同じ気持ちだろう。王子にはこの国の未来が掛かっているともいえるのだから。
「今のところ反応はないですね‥‥」
 仲間のそんな会話を耳にしながらも指輪をじっと見つめているのはシュバルツ・バルト(eb4155)だ。彼女が見つめているのはただの指輪ではない。「石の中の蝶」という、近くにいるカオスの魔物に反応するアイテムだ。
「このまま何事もなければよいのじゃが‥‥いや、何事もなかったら意味がないのぅ」
 十数メートル後ろをゆったりと歩く直衛班をたまに振り返りながら、トシナミ・ヨル(eb6729)が考え込むようにして呟いた。今回の目的は「襲撃を受ける事」なのだから、何事もなく終るわけにはいかないのだ。だが王子を「何事もない状態」でお帰しできるかは冒険者たちの腕に掛かっている。


 時は少しだけ遡る。
「陸奥勇人と申します。以後、お見知りおきを」
「モニカ・ベイリーです」
「久遠院透夜です」
 陸奥勇人(ea3329)、モニカ・ベイリー(ea6917)、久遠院透夜(eb3446)の三人が挨拶を終えると、純也は先に挨拶した五人が先行して安全を確認し、この三人に加えて自分が王子の直衛に付くのだと告げた。
「マクシミリアン・ルイドだ。今回はよろしく頼む」
 王子の服装は「お忍び」ということから華美すぎないものに変更されていたが、目利きのものが見ればその素材や縫製が一流品だとすぐに分かるだろう。加えてその整った顔立ちからも品位がにじみ出ている。
「マクシミリアン王子、視察の間互いをどう呼び合うか決めておきませんか?」
 一応お忍びだ。襲撃者はともかく一般人に王子と知られては町中がパニックになる恐れもある。ここは呼び名を決めておくべきか。勇人の提案に王子はしばし考える様子を見せると、
「それでは私のことは『マックス』と呼んでくれ」
「分かりました、マックス様。ならば俺の事は勇人、で構いません」
 ニッと笑った勇人に、王子は頷き返す。
「(ジェトのマクシミリアン王子か‥‥見るからに一角な人物だが、暗殺騒ぎとはまた頂けないな。今の状況で王子に何かあったら最悪、バとジェドとカオスニアンを全て引き受けて大戦争、と言う事になりかねない)」
 王子と勇人のやり取りを見ていた透夜は、メイの国運が掛かっているという緊張からか、いつの間にか拳を強く握っていた。それに気づき、深呼吸をして緊張をほぐす。
「それではマックス様、そろそろ参りましょうか。ロー、上空からの警戒をお願い」
 モニカは愛鳥のホークに上空からの警戒を命じ、空へと放つ。
 まずは一軒目、ヴァイスベルクへ。


●襲い来る敵
 ハープシコードの不思議な音色が、今でも耳に残っている。
 遊撃班は表から店に入り、王子の入る予定の個室の側で不審者がいないか見張りを行った。夕食には少し早い時刻という事で客自体は少なかったが、誰もがハープシコードの奏でる滑らかなメロディーに耳を傾けながら料理に舌鼓を打っているように見えた。
 王子と直衛班は店の裏にある、個室へ直行できる入り口から入り、個室へと通された。その個室には上部に小窓が取り付けられており、窓を塞いでいる木戸を開ければ店内に響くハープシコードの音色が個室にも流れ込んでくるという趣向だ。楽器の間近で聴くよりは多少音の質が落ちるかもしれないが、これも安全の為だ、仕方がない。だが音楽好きの王子には、間近で天界の楽器を見ることが出来ないのが少しばかり残念でもあった。
 食事に毒が混入されている可能性も考えて勇人が毒見をしたが、料理は安全だった。貴族街近くの店ともあって、高級な食材が使われたその上等な料理の味が僅かに勇人の舌に残った。

「異常は有りませんか?」
「今のところは何とも」
 ルイスの問いに、裏道を先行して歩くシュバルツが指輪を見つめながら答える。遊撃班は何かあったらすぐに引き返せるような距離を保ちながら直衛班より先行していた。
「来たわ!」
 遊撃班が裏道を半分ほど行った頃だろうか、後方からモニカの声が上がった。モニカの所持する石の中の蝶がゆっくりと羽ばたき始めたのだ。ついで、シュバルツの石の中の蝶にもゆっくりとした動きが現れる。
 ――敵は後方から来たり。
 そう判断した遊撃班は急ぎ、直衛班の元へと走る。
「――まだわからない‥‥」
 モニカが高速詠唱でディテクトアンテッドを唱えたが、その探査に引っかかるものはまだない。石の中の蝶の効果範囲が30mなのに対して、モニカのディテクトアンテッドの探査範囲は15mだ。もう暫く敵が近づかないと分からないだろう。
「蝶の羽ばたきがだんだん強くなってきています」
 シュバルツの言葉に遊撃班が進行方向を、直衛班が後方を、王子を真ん中に守るようにして固める。
「マクシミリアン様の身には停戦の行方と、この国の未来が掛かっています。必ず守り抜きましょう」
 イリアは念の為、他に襲撃者がいないかリヴィールエネミーのスクロールを使用して確かめる。幸い視認できる範囲にいるのは一般人のようで、一同の動きに怯えて場を離れる者もいれば、何事かと遠巻きに眺めている者もいた。
「来るわ。距離は10m程、敵は1体。マックス様、失礼します」
 モニカは断りを入れると王子の肩に触れ、高速詠唱でレジストデビルを掛ける。そして次に直衛班の透夜にも。
「わしもレジストデビルを付与するのう」
 トシナミも、高速詠唱でルイス、シュバルツ、スレインにレジストデビルを掛けて回る。
「そろそろ敵の姿が見えてもいい頃だが‥‥何故見えない?」
 警戒を強める透夜。確かに先ほどの距離報告からすれば、そろそろ敵の姿を目視出来てもいい頃だ。
「ぎゃあっ!」
 と、敵が現れると思われる方角――この場合は元来た方角だ――の通路で一同とは距離を置いて何事かと様子を窺っていた一般人の男が、突然背中から血を噴き出して倒れた。
「「!?」」
 同時にその場に突如姿を現したのは、青白い馬に乗った人型のカオスの魔物。その乗り手は怒りの表情を浮かべ、抜き身の剣を手にしている。側に付き従っている三匹の猫は何故かホルンを抱えており、そのホルンの音色が場の空気を埋め尽くしていく。
「姿を消していたのか‥‥」
 スレインの呟きと共に、そのカオスの魔物も何事かを唱え始めた。
「魔法か! そう簡単に使わせるものか!」
 透夜は素早くスタッキングで敵の懐に入り、スタックポイントアタックで一番装甲が薄そうな場所を狙う。詠唱を中断された敵は続けて勇人の日本刀に斬りつけられる。
「前途有望な若い命を狙おうってんだ。報いは覚悟出来てるよな?」
「水精霊よ、その力を示せ」
 続けてイリアが、高速詠唱でウォーターボムを浴びせる。モニカやトシナミはその間に怪我をした一般人の治療に向かいたかったが、一般人が倒れているのは敵の後方だ。まだ迂闊に近づくことは出来ない。
 道幅が狭いせいもあってか、全員で攻撃を仕掛けられないのがもどかしい。だがこの他に敵が潜んでいる可能性がないとはいえない。シュバルツやルイスはカオスの魔物と仲間との戦いを注視しながらも、王子を狙う他の動きがないか注意していた。トシナミは残りの仲間にレジストデビルを付与し、モニカは王子を中心としてホーリーフィールドを張る。純也は自らの武器にオーラパワーを付与し、敵が近づいてきたらいつでも応戦できる態勢を整えていた。スレインは前方に移動し、いつでも今戦っているメンバーと入れ替われるようにと武器を握り締める。
「くっ‥‥」
 と、馬に乗ったまま敵は剣を振り下ろした。敵近くにいた透夜はそれを避けきれず、その刃を身に受けてふらつく。その隙を見逃さずに敵は王子との距離を詰めに掛かった。だが前に出たスレインが、その道を封鎖する。
「全力で行かせてもらう」
 魔力を帯びた鉄の棒で、彼は敵を叩きつけた。と同時に敵の背後から勇人が斬りかかる。シュバルツもこれ以上王子には接近させまいと、スレインの隣に出て魔法の薙刀を叩きつけた。そこにもう一発、イリアのウォーターボムが飛ぶ。
「! ここは今危ないですから、下がってください!」
 周辺警戒をしていたルイスの目に映ったのは、横道から裏道へと入ってきた少女。先ほど敵は無関係な一般人を切り捨てている。それを見ているしか出来なかったせいもあってか、今度こそは守って見せると多少強引にだが少女を横道へと押し戻した。
「やられっぱなしじゃいられない‥‥」
 先ほど敵の攻撃を受けた透夜だったが、事前に掛けてもらったレジストデビルのおかげでその傷は思ったよりも軽く、再び体勢を立て直して敵後方からスタッキングを使用する。
 敵は再び剣を振り回し、今度はスレインに斬り付けようとしたが、彼はギリギリそれを回避。
 前衛を突破し王子に近づこうとした敵だったが、図らずもその行動がこの狭い道では前後を挟まれる形になってしまった。前方と後方からの攻撃、加えて魔法による援護。これ以上前衛を突破できない敵には、勝ち目がないことは明らかだった。


●もう一軒の
「これで大丈夫なはずじゃ」
「こちらもこれでOK」
 カオスの魔物は力尽きて消えた。危惧していた他からの襲撃もひとまずないようだったので、トシナミとモニカはそれぞれ傷を負った一般人と透夜の治療に当たっていた。リカバーでその傷はみるみる治ってゆく。
「一応襲撃は退けましたが‥‥相手がカオスの魔物となると背後関係の特定には至りませんね」
「マックス様、どうします? 予定通りシークレットガーデンに向かいますか? それともご帰城なさいますか?」
 ルイスと勇人の言葉を受け、王子は一同を見渡す。
「怪我人が無事なようならば、予定通り2軒目にも足を運びたいと思うのだがどうだろうか?」
「大丈夫です」
「この人ももう平気なようじゃ」
 答えたのは透夜と、一般人の治療をしていたトシナミ。治療を受けていた一般人はお礼を言うと、そそくさとその場を去っていった。恐ろしい目にあったこんな場所に長居はしたくないという心情だろう。
「今のところもうカオスの魔物の反応はありませんが、注意しながら行きましょう」
 シュバルツは石の中の蝶の反応に再び注意を払いながら告げる。
「念の為、再び先行して怪しい者がいないか確かめておきましょう」
 申し出たのはイリア。シークレットガーデンは貴賓用ブースの確保が出来なければ貸切になるはずだ。見慣れない従業員や怪しい者がいないか事前に調べておきたい。

 結果的にシークレットガーデンは貸切になっており、王子たちは思う存分天界のヴァイオリン奏者によるチキュウの音楽を楽しみながらデザートを戴く事が出来た。
 念の為に王子が食事をしている間も警戒を怠らなかった一同だが、懸念していた襲撃はなく、無事に食事を終えることが出来た。
 もちろん、帰路も警戒は怠らない。しかし襲撃があったのはあの一回だけで、他にはカオスの魔物も人間の襲撃者もいなかった。
 姿を見せた敵はカオスの魔物。それがどの国の手のものかまでは分からなかったが、王子の護衛という任務は無事に果たすことが出来た冒険者達であった。