暗き森に安全を

■ショートシナリオ&プロモート


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 47 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月08日〜05月14日

リプレイ公開日:2007年05月14日

●オープニング

 人の恐怖は不思議にも簡単に伝播するものだ。
 夜道で背後から見知らぬ足音につけられたら、大抵の者は不安に思うだろう。そして誰かが「きっと魔物がついてきているんだ!」と口にすれば、真偽を確かめるより早くその言葉に煽られた恐怖が広がっていく。


「ねぇあんた、今森の方で何か音が‥‥」
「あぁん? 風で木が揺れただけだろ」
 荷馬車で港町ナイアドを目指していた旅商人夫婦は、たった今その脇を通り過ぎたばかりの森を振り返る。
「でもね、なんだか人影みたいなのが見えた気がしたんだよ」
「なんでい、いくら街に近いからってこんな夕暮れから不気味な森に入る酔狂な奴はいねぇだろ。それとも何か? ゴブリンとかいう魔物でも棲み付いてるってか?」
 冗談めかして言った旦那。元々彼は妻の気のせいだろうとしか思っていない。
「ひぇっ!? きっとゴブリンよ、ゴブリンがいるのよ! 早く、早く町へ急いで頂戴!」
「ち、ちょっと待て‥‥」
 妻は旦那から手綱をむしりとると、彼女は恐怖に駆られるままに荷馬車を疾走させた。


 ナイアドに無事に到着した商人の妻は(ゴブリンの何たるかすらわかっているのか甚だ怪しいのだが)、まるで自分がしっかりとその魔物の姿を見かけたかのように人々に語って聞かせた。
 その話を聞いた天界(地球)人は
「そういうのを『幽霊の正体見たり枯れ尾花』というのさ」
 と得意気に言っていたらしい。
 それもあってか暫くの間はゴブリンの存在は『噂』としか捉えられていなかった。

 だが暫くして、それが『枯れ尾花』ではなかったことが判明した。
 先日その森へと入った冒険者達が数体のゴブリンと交戦したのだ。
 その事実は瞬く間に町内に広まり、この町までゴブリンが攻めてきたらどうしよう、などという不安を抱く一般市民も少なくないという。
 森は街道沿いにあるため、その街道を通るのを嫌がる人々まで出始める始末。
 このままでは商売に支障が出ることもありえると危惧したナイアドの商人たちは、王都メイディアの冒険者ギルドへ依頼をすることに決めた。

 ギルドへ提出された依頼内容は、街道沿いの森に住むゴブリンの殲滅。
 至ってシンプルで解りやすい内容だ。
 森の規模も大きくはない。
 しかも先の冒険者達の接触場所には交戦跡が残されている可能性が高い。
 そこからゴブリンたちの移動の痕跡を辿れば、巣穴を見つけることも出来るだろう。
 ただ、敵の数がはっきりと判明していないのが難点だ。
 いつの間に住み着いたのかは解らないが、森の広さからしてそう多くはないだろうと予想は出来るのだが。
 先の交戦で多少は数が減っているとはいえ、まだ数体は確実に残っている。
 用心するに越したことはないだろう。

●今回の参加者

 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb0432 マヤ・オ・リン(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb3445 アタナシウス・コムネノス(34歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb4099 レネウス・ロートリンゲン(33歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4372 レヴィア・アストライア(32歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec0568 トレント・アースガルト(59歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ミスト・エル・ライトス(ea0947)/ イリア・アドミナル(ea2564)/ ファング・ダイモス(ea7482)/ グレナム・ファルゲン(eb4322

●リプレイ本文

●暗き森
 その森は街道沿いにあるものの暗く、翳りを帯びていた。規模自体は大きいとはいえないが、高所や上空から森中を窺う事が出来ぬほど木々は茂っている。
「ここが、ゴブリン達との遭遇場所か、成る程」
 エル・カルデア(eb8542)は残されたゴブリンの死体を眺めてぽつりと呟いた。
「事前に聞き込んで置いてよかったな。目印のおかげでここまで楽に辿り着けた」
 事前にギルドで情報収集をしたレヴィア・アストライア(eb4372)は木々につけられた目印を見上げる。ゴブリンの数は「三匹以上は残っている」ということしか解らなかったが、森の入り口付近から先の冒険者達の交戦場所まで木に印がつけられているという情報を得られた。一行はそれを頼りに一体目の死体から二体目の死体のある場所――交戦場所まで辿り着くことができた。
 今回のメンバーはモンスター知識に長けた者が多く、その上メイディアを出る前にイリア・アドミナルによりゴブリンについて様々な知識を授けられてきた。索敵に適した者も多いのでこの場所から奴らの移動の痕跡を辿れば、巣穴へ辿り着くのは容易に思える。
「森に巣食う、ゴブリン退治ですか。基本中の基本、と言うヤツですね」
 初心に帰ってみるのも良いものです、とトリア・サテッレウス(ea1716)は笑顔を浮かべたまま辺りを見回す。
「力なき人々のために剣を振るうのは望むところ。それこそが俺の志したものです」
 ゴブリンが相手とはいえ油断は禁物、とレネウス・ロートリンゲン(eb4099)は気合を入れる。敵は己自身の中にこそある、慢心なきように、と改めて心した。
「手負いの相手を、そのままにして、何か有っては大変だ。此処は、可哀想だが彼らを完全に仕留めねば」
 トレント・アースガルト(ec0568)は敵を発見した際にはすぐにでも前衛として役に立てるように、と辺りに気を配る。
「前戦った事で気が立ってて、いきなり襲ってくる可能性も考えられるしね。罠とか仕掛けてるかもしれないから、私はそっちを注意してみるね」
 フォーレ・ネーヴ(eb2093)はゴブリン達の姑息な手段を警戒していた。落とし穴、宙吊りタイプ、更に罠+精神的に嫌なもののコンボ‥‥挙げてみたが特に最後のは余り想像したくない。
「私といたしましては、邪悪な存在であるゴブリンはしっかり殲滅させたい所です」
 アタナシウス・コムネノス(eb3445)はネックレスの十字架を握り締め、神よ、すべての方に祝福を、とぽつりと呟く。仲間達が無事に依頼を完遂できますように、と。
「こちらへ逃走したようですね。どうやらここが良く通る道のようです。このままこちらへ進み、他の生活の痕跡に注意して進んで行きましょう」
 草の踏み荒らされた痕跡などを注意深く観察していたマヤ・オ・リン(eb0432)が顔を上げた。
「それでは少し、捜索してみましょうか」
 エルが片手で印を結び、詠唱を開始する。詠唱が完成してバイブレーションセンサーが発動すると、彼の身体は淡い茶色身を帯びた光に包まれて見えた。
「‥‥どうやらマヤさんの指摘なさった方向に巣穴があるようで‥‥三体ほどでしょうか、同じ場所で活動しているようです。あと離れたところに一体、そちらはその三体の所へ向かっているようです」
 この先に巣穴になっている洞窟でもあるのでしょう、と感知を終えたエルは報告する。
「今から巣穴方向に向かってもしその一体と鉢合わせしたら、適度に傷を負わせてわざと逃がしましょう」
 レネウスの提案にアタナシウスも頷く。
「そうですね、わざと逃がして後を追う事にしましょう」
「そうすれば簡単に巣穴が割れそうだね、マヤさん」
「では、注意しながら進むとしましょうか」
 トリアから向けられた笑顔にやんわり距離をとりつつ、マヤは歩き始めた。
 一行は辺りに注意を払いつつ、暗き森の奥深くに足を踏み入れていく――。

●手負いの獣
「これくらいだろうか」
 聖者の槍を突きとして使い、スマッシュを打ち込んだトレントがふらついているゴブリンを見据える。
 先ほどの場所から進んでいくと程なくフォーレとトリアが自分達の足音以外の物音に気がついた。近づいてくるその音に警戒していると、予想通り一体のゴブリンが姿を見せたのである。
 木々を書き分けてでてきたら突然沢山の人間がいて驚いたゴブリンと反対に、待ち構えていた冒険者達は素早く反応した。
 今回はこの一体をある程度痛めつけてわざと逃がす作戦。魔法は巣穴攻略まで温存する事にして、トリア、レネウス、レヴィア、トレントが前を固めた。傷を負ったゴブリンは一行の予想通りキィーッと怯えた声を上げて敵に背を向けて走り出した。
「さて、後を追いましょうか」
 アタナシウスの言葉に頷き、一行はゴブリンを見失わぬように走り始めた。


「今のところ、罠とか仕掛けられた形跡は無いね」
 フォーレは手負いのゴブリンが逃げ込んだ小さな洞窟の入り口付近を隈なく調べた。
「そんなに広い洞窟ではないようですね。中で鳴いているような声が聞こえますから」
 優良聴覚を利用し、トリアは聞き耳を立てる。
「そろそろ敵の存在を知った奴らが出てくるかもしれません。隊列を整えて迎え撃ちましょう」
 エルは自らは後衛に下がり、人目に付かぬよう気を使って連れ出したケット・シーのクロとスモールシェルドラゴンのロードを側に置く。前衛後衛の妨げにならぬよう、彼らはゴブリンが近づいてきたら追い払う事のみに集中してもらい、ロードのブレスは禁止だ。
 後衛からの射撃を予定しているフォーレとマヤも洞窟の入り口から距離を置き、それぞれ武器を手にする。アタナシウスも下がり、十字架を握り締めた。
 レヴィアは躊躇いなく前に出る。前衛は危険にも晒されやすいが鎧騎士なら当たり前のこと。気にせず身に掛かる危険は払いのけるだけだ。
 レネウスも前衛を担当する。後衛側に向かうものを優先して攻撃する心積もりだ。
「さて‥‥出てくるでしょうか」
 トリアは前面に出て洞窟の中を見つめた。敵の攻撃から皆の盾となる気でいる。
「ゴブリン達とはいえ、手負いの相手だ。油断はしない方が良いだろう」
 槍を持ったトレントは、敵の間合い外から攻撃するつもりだ。
 前衛後衛のバランスの取れたこの八人ならば、余程の事が無い限りゴブリンに遅れを取る事はあるまい。
「グゥ‥‥キュル‥‥」
 それは怒りか怯えか、はたまた威嚇か。覚悟を決めたのかもしれない。飛び出してきたゴブリンは先ほど手傷を負わせた奴も含めて四体。うち一体は明らかに他のゴブリンと違い、装備を固めていた。アレがリーダーに違いない。
 だが待ち伏せされているとは思っていなかったのだろう。勢い良く飛び出してきた四体の配置はバラバラだ。
「いくね!」
 先手を取って敵の出鼻を挫く! フォーレが縄ひょうを投げると見事にそれを食らった無傷のゴブリンが悲鳴を上げた。すかさずマヤがシューティングPAEXで狙い打つ。倒れこんで動く事の出来ないゴブリンにレヴィアとレネウス、そして更に矢を番えたマヤが集中攻撃を浴びせた。まずは一体。
 近くではエルの高速詠唱グラビティーキャノンを連続して食らった手負いのゴブリンとリーダーが派手に転倒していた。手負いのゴブリンの方はかなり疲弊している。
「守りは任せてください」
 アタナシウスが十字架を握り祈りを捧げ、高速詠唱でホーリーフィールドを展開した。トリアはじっとして集中し、気を高めている。その間に出来るだけ数を減らしておきたい、とレネウスとレヴィアは疲弊したゴブリンに通常攻撃を仕掛ける。そこにトレントのスマッシュによる重い攻撃が決まる。二体目も動かなくなった。残るは無傷の一体と、リーダー。
 敵二体が前衛に攻撃を仕掛けようと斧を振りかぶる。うち一体はアタナシウスの作り出した目に見えない壁に場まれ、レヴィアを狙ったリーダーの攻撃は彼女に軽々と見切られてしまう。
「例え集団で攻めようとも纏まりが無ければ意味が無い。役割が守られてこその集団戦。その意味を思い知れ!」
 レヴィアが吼える。統率の取れた冒険者達と各々が本能的に攻め来るゴブリン達。その差は歴然としていた。
 フォーレが再び縄ひょうを放ち、マヤがこれで止めをと2本の矢を番えてシューティングPAEXを放つ。倒れ行くゴブリンには目もくれず、オーラパワーの淡いピンクの光に包まれたトリアはリーダーに剣を向ける。それを援護するようにアタナシウスの高速詠唱ホーリー、エルの高速詠唱グラビティーキャノンの連打がリーダーを襲う。
「カウンターできなかったのは少し残念ですが、これで終わりですね♪」
 トリアはスマッシュを放つ。彼の剣はリーダーの身体に深々と刺さり、その息の根を止めた。

●任務完了
「もうゴブリンは居ないようですね」
 バイブレーションセンサーを使用したエルが告げる。と同時に念のため巣穴の中を捜索していたレヴィアとフォーレ、トレントが戻ってきた。
「残念だ、特に何も巣穴にはなかった」
「武器とか宝とかあったらよかったんだけどね〜」
 洞窟内は本当にそう広くはなく、あったのはゴブリン達の食べ残し位だった。
「これで退治は終了だな」
「ええ、人々の安全は守られるでしょう」
 トレントの言葉に、レネウスも安心したように頷く。
「クロ、ロード、外出は楽しかったかい? 少し物足りなかったかな?」
 エルはペット達に話しかけながら、ゴブリンの死体を埋葬した。
「任務完了ですね」
 マヤは自分の仕事をきっちりと果たせた事に満足し、微笑を浮かべる。
「さて、ナイアドに戻ったら吟遊詩人として軽く今回の事を歌って回りましょうか」
 モンスターについては正しい知識を、自分達の冒険譚は面白おかしく。トリアは歌を考えつつ、ふとマヤを見る。
「ところでマヤさん、貴女は中々興味深い方ですね。貴女を題材に一篇のサーガが作れそうに思えますよ」
「‥‥それは、有難うございます」
 ニコニコとしたトリアに、マヤはいつも男性とやんわり距離をとるのと同じ様にして微笑み返した。褒められるのは嬉しい。
「神よ、すべての町の方々に祝福を。神よ、この森のすべてに祝福を」
 アタナシウスの祈りの言葉が、安全を取り戻した暗き森に朗々と響き渡った。