洋館と洋服とモンスターと

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月04日〜03月09日

リプレイ公開日:2008年03月09日

●オープニング

 ある日、冒険者ギルドに一人のエルフが立ち寄った。青年の様な外見をしているが、見た目どおりの年齢ではないだろうことはその尖った耳が表している。
「すまない、冒険者を雇いたいんだが」
 いささか上から目線のその言動は、普段から人を使い慣れているが故のものだろうか。だが職員は嫌な顔一つせずにどうぞ、と近くの椅子を勧めた。
「少し前、商人仲間が亡くなってね」
 男も商人らしい。その仲間は人間で、それなりにいい年だったという。ここの所続く寒さで心臓をやられて亡くなったとか。
「友がどんどん年老いて先に死んでいくのを見ると、切なくなるものだ」
 エルフの商人は溜息をつき、職員を見つめる。職員は「ご愁傷様です」と頭を下げ、話が本題に入るのを待った。
「その友人は服飾品中心の商売をしていてね、メイディア郊外に倉庫を兼ねた別邸を持っていたんだ。だが突然の主人の訃報にばたばたしているうちにね、その別邸は数ヶ月忘れられたままになってしまった。そこで先日、夫人から別邸にある服飾品をここまで搬送してほしいと頼まれて屋敷に向かったんだが‥‥モンスターが棲みついてしまっていたんだよ」
 男と部下はそれで慌てて王都へと引き返してきたのだという。
「ちなみにとどんなモンスターでしたか?」
「逃げるのに必死だったからね、あまりよくは見ていなかったが、コウモリと深い緑色のゲル状の気持ち悪いやつだったよ」
「なるほど。恐らくそれはラージバットとビリジアンスライムですね。どちらも攻撃的ですから、無傷で帰ってこれて何よりです」
 そこでだ、と男はカウンターに肘をついて職員を見る。「ここまで言えば分かるだろ?」という所だろうか。
「わかりました。その別邸に巣食っているモンスターの退治を依頼するのですね」
「そうだな。ついでに屋敷に残っている服飾品をここまで持ってきてほしい。そのための大型の馬車はこちらで用意しよう」
「ちなみに敵の数なんてわかるはず――」
「ないな」
「――ですよね」
 職員だって分かっている。とりあえず聞いてみただけだ。
 部屋数は1階は厨房を入れて4、2階は6だという。1階の2部屋に服類を。2階の2部屋に装飾品類が保管されているという。どちらも馬車に乗せて王都へ持ち帰らなければならないから、1階のモンスターだけ退治して終わりというわけにはいかない。
「ちなみに最後に館を訪れた時、服飾品の保管されている部屋の扉はしっかりと閉めてきたというから、よほどの事がなければモンスターが出入りしている事はないと思う。これが鍵だ」
 男は机の上に館入り口の鍵を含めて5本の鍵を置いた。
「だが他の部屋は空気がこもらないように入り口の扉を開け放ってあるというから、室内にモンスターが入り込んでいるかもしれない」
 そもそもどこからモンスターが出入りしたのかがわからない。もしかしたら御洒落にガラス窓などが設置されており、それを割って入ったのか、はたまた勝手口の扉でも閉め忘れたためにそこから入り込んだのか――。
「不意打ちに気をつけた方がよさそうですね」
「無事に服飾品を運んできてくれたら、少しばかり現物支給もしよう。その許可も取ってある」
 まぁ宜しく頼む、と男は告げてギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb4372 レヴィア・アストライア(32歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4494 月下部 有里(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9356 ルシール・アッシュモア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)
 eb9789 都古嶋 菊花(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

アーシア・アルシュタイト(eb3852

●リプレイ本文

●時の流れ
 大型馬車はガタゴト、街道を行く。目指すは服飾品の保管されている、商人の別邸。
「友がどんどん年老いて先に死んでいくか、仲間の最期を看取る経験が今までなかったのは幸せだったのかな」
 呟いた風烈(ea1587)。今回の依頼人はエルフ。そして依頼人の亡くなった友人は人間。互いの時間の流れが異なるのは仕方のないこと。それとは少し意味が違っているが、今まで共に戦う仲間の最期を看取るという経験は、彼には幸いにしてなかった。
「それぞれを取り巻く時の流れが異なるのは仕方ない。大切なのは同じ時代に出会えた奇跡に感謝するコト。良い想い出を共に築いてくれた故人に感謝するコト‥‥じゃない?」
 依頼人に描いてもらった屋敷内の見取り図を弄りながらぽつりと零したのはルシール・アッシュモア(eb9356)。彼女はエルフだ。外見と違って長い時間を過ごしてきた彼女にも、辛い別れがあったのかもしれない。
「大掃除って普通は年末年始にするものだけど、春先だからリフレッシュってのもありかな」
「メイに住み始めて慣れたとはいえ、服屋さんにモンスターが住み着いちゃうなんて、やっぱこの国って私にとって異世界なんだ! って改めて思う。」
 時の流れには逆らいようがない――話題を変えようと、これから行く洋館に思いを馳せた月下部有里(eb4494)。そして改めて自分が異世界にいるのだと実感したのは都古嶋菊花(eb9789)だ。
「依頼があったということは、もしかして館の主人の夫人さんがこの中に何か大事な衣類や装飾品があったんじゃないでしょうか?」
「それならば尚更服飾品には傷をつけぬようにしなくてはな。力仕事は任せろ。当然壊さないよう細心の注意を払うから安心しろ‥‥私が信じられぬのか!」
 ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の言葉にやる気を見せたレヴィア・アストライア(eb4372)。だがなんだかちょっと信用されていないような視線を感じたので、むきになってみる。すると「そんなことないですよ〜」と笑いが返ってきた。
「ただ退治するだけならさほど難しいものでもないが、できるだけ迅速にかつ残された服飾品も無事にとなると、そうも言っていられなくなる。結局楽な仕事などないということだな」
 溜息が混じりそうな、あるいは達観したような調子で空を見上げるのはアリオス・エルスリード(ea0439)。
「屋敷内でのビリジアンスライム退治は、きつい戦いになりそうだが、そんな危険な状況を放置する訳には行かない。服飾品を無事に確保し、魔物も全て退治する」
 ファング・ダイモス(ea7482)も今回の相手の厄介さを知っているからか、気合を入れる。
「見えてきた、あれかな?」
 それぞれ思うところを述べている間も馬車は歩みを止めることなく進み続ける。菊花の言葉に一同が視線を動かすと、森を背にした閑静な場所にその洋館は建っていた。


●室内での攻防
 部屋に投げ込んだ保存食を「動く物体」だと勘違いしたビリジアンスライムが天井から、ベッドの下から這い出して保存食に群がる。敵が群がっている間にルシールがフリーズフィールドのスクロールで空間の温度を下げた。部屋に足を踏み入れた烈は、部屋の上部でバサバサと飛んでいるラージバットにスピアを突き刺す。
「何匹いようと問題ない。全て串刺しにしてしまえばいいのだ」
 レヴィアもミストトライデントで天井付近の蝙蝠を突いていく。
 部屋の中では戦闘を行える人数に限りがある。アリオスは後方から他に潜伏している敵がいないか感覚を研ぎ澄ませつつ蝙蝠に矢を射掛けていった。その間に有里はライトニングサンダーボルトで、ルシールはムーンアローのスクロールでスライムの掃討にかかる。
「それにしてもどこから沸いたのかしらね」
 何度目かの魔法でスライムを倒した有里が呟く。一同は玄関ホールで数匹の敵と対峙した後、一階の部屋を探索していた。とりあえず一部屋綺麗にした後は、打ち合わせ通り扉を閉める。
「すいません、加勢お願いします」
 もう一部屋に先に足を踏み入れていたベアトリーセの声だ。全員で一部屋に入れないのだから仕方がない、廊下で警戒をしていたメンバーが今度は室内へと足を踏み入れていた。
 ファングが大斧でスライムをなぎ払い、ベアトリーセがローズホイップで蝙蝠達を打ち据える。菊花がショートソードでスライムを斬りつけていた。後衛にいたアリオスがいち早く反応して蝙蝠へ矢を射、ルシールがスクロールを持ち替えてフリーズフィールドを発動させる。有里が援護に加わったのを確認すると、ファングは攻撃対象を蝙蝠へと変えた。
「ここから侵入してきたのかな」
 部屋に入れない烈とレヴィアは注意をしながら廊下を進んだ。そこには裏口らしき扉があり、半開きにされている。その扉の向こうには森が見え隠れしていた。
「扉を閉めておこう。二階へ上がっている間に新手に背後をとられたくはない」
 レヴィアの言葉に烈は頷き、その扉をしっかりと閉めた。蝙蝠やスライムが扉を開けられるとは思えないので、一応これで応急処置になるはずだ。
「おわったー」
「戸締りはきちんと、しましょー♪」
 ルシールと菊花のそんな声が聞こえてきた。どうやら問題の部屋の掃除は終わったようである。扉を閉めるパタンという音が聞こえたので、烈とレヴィアも急いで合流した。
「この、最初から閉まっていた部屋が衣類のあるという部屋か」
「そうだと思うが、まずは二階の敵を退治してからだな」
 アリオスとファングの言葉に一同は無意識に天井の向こうの二階へと目をやる。

 廊下を除いて、あと4部屋も残っている、よ?

 ちょっとだけ、部屋数が多いのを恨めしく感じた。
 室内に全員が入って戦闘することが出来ない分、一人に対する負担が若干大きくなる。
 それに加えて退治が終ったら荷物の運び出しがまっているのだ。衣類って纏めて運ぶと結構重い。装飾品や小物などといっても量が多ければそれだけ階段の上り下りも多くなる。
 もしかするとモンスター退治より荷物運び出しの方が重労働かもしれなかった。


●すっかり片付けて
 モンスターの死骸は焼却処分し、新たなモンスターを呼び寄せないようにする。そして荷物の運び出し。だが気を抜く事は出来ない。まだ何処かにモンスターが残っているかもしれないので、逐一見張りを立てながら、気配を研ぎ澄ませながら作業に掛かる。中には「壊してしまわないように」と別の意味で気を使いながら作業に取り掛からなくてはならない者もいたようだが。

「忘れ物はないでしょうか?」
 ベアトリーセが再度服飾品の入っていた部屋、装飾品の入っていた部屋を見て周り、確認する。どうやらちゃんと全部運び出せたようだ。
 倉庫代わりにしていたというだけあって、結構な量の商品が馬車に積まれていた。大型の馬車だが行きとは違って多少狭苦しく感じるのは仕方あるまい。メイディアまで少しの間だ、我慢するしかない。

「やあやあ、ご苦労様、ありがとう」
 モンスター退治と荷物の運び出しでいささかぐったりした冒険者達を出迎えたのは、依頼人であるエルフの商人。彼は部下達に馬車からの荷物の運び出しを命じると、一同を自らの家の中へ招待した。そしてハーブティを出して労ってくれたのだ。
「品物を検める間、ここで休んでいてくれたまえ」
 そう言って彼は部屋を出て行く。恐らく冒険者達に「現物支給」する衣類を吟味しに行ったのだと思われる。
「何がもらえるのかなー」
 もうすぐ暖かくなってくるから、明るい色のワンピースなんていいかも、と菊花。
「ルシに似合う服だといいな」
 とルシール。
「お姉さんっぽい服だと嬉しいのだけれど」
 これは有里。
「ホワスト・プリンセスやクリスタルパンプスがあれば一番嬉しいのですけどね〜」
 とベアトリーセ。
「私の身体に似合うものがあるとも思えぬが‥‥」
 もらえればありがたくもらう、くらいの心持ちでいるレヴィア。
 やはり服飾品の事になると女性陣の話には花が咲く。対する男性三人は何処か身の置き所がないような。興味が無いというか、出来れば依頼で使えるような実用品を貰いたいと思ってしまうのが男性の本音。
「お待たせしたね」
 そこに現れたのは、部下数人に衣類や服飾品を持たせた、エルフの商人。部下達の持つドレスやアクセサリ、靴などに女性陣の目は釘付けになる。
「私の見立てでいいかな?」
 勿論、もらえるだけでありがたいのにそこに異議を申し立てる者はいない。
「女性向けの品が多くてね‥‥男性には女性向けのものが行ってしまうかもしれないが、その場合はプレゼントにするなりして使ってくれたまえ」
 商人は部下に指示させて、一人一人に報酬の衣類を配布させる。
「あ、これ可愛いー」
「とても似合うわよ」
 女性陣はというと、その場でファッションショーでも始めそうな勢いだ。
「ところで‥‥館内のモンスターは全部退治してくれたんだね?」
「一応隅々まで確認はしました」
「扉も閉めてきたから、新たに侵入される可能性は低いと思われる」
 ファングとアリオスの言葉に満足気に頷く商人。
「それならば、もうあの屋敷に行っても安全だという事だね、ありがとう。残りの衣類は追って夫人の所に届けておくから安心してくれ」
 商人の顔に浮かぶ笑顔。その笑顔を信用して一同は彼の屋敷を出た。
「ねぇ、何処かで皆でこれを試着してみない?」
 菊花の提案に女性陣は皆賛成する。プチファッションショーでも開くのだろうか。
 男性陣はさすがにその輪には入れず、微笑ましいような、疎外感を感じるような、不思議な気持ちで彼女達を見守った。