【色彩救道】瑠璃色の地を闊歩する混沌
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月21日〜03月26日
リプレイ公開日:2008年03月27日
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●オープニング
絵画に使用される顔料には一般的に手に入りやすい色から、なかなか手に入りづらく高級な高級色までが存在する。高級色には緑青、パールホワイト、群青などが上げられるのだが。
実は今、宮廷絵師たちの間で緑青の原料となる孔雀石、パールホワイトの原料となる白雲母、群青の原料となる瑠璃、これら高級顔料の在庫が不足してしまっている。当然、鉱山に採掘状況の確認をしたのだが、その3つの鉱山はカオス戦争の余波を受けて暫くの間採掘を中止していたのだという。そしてその間に――困った出来事が起こった。2つは解決されたので、現在1つの鉱山が以下の理由で採掘再開がままならぬ状況にある。
今回冒険者達に依頼されるのは、瑠璃色の原料となるラピスラズリがとれる鉱山だ。この鉱山の何が問題かというと――いざ発掘再開と意気込んで鉱山に行った鉱夫たちが人影を見つけたのだ。鉱山に見合わぬ、子供の姿を。
鉱夫がおかしく思い、子供に声をかけるとその子供はにやりと笑い、背中に蝙蝠の様な羽根を持った子鬼へと姿を変えるという。その尻尾は矢印のように尖がっているとか。
そしてその子鬼は何らかの魔法を唱え、声をかけた鉱夫から白い玉を取り出し、それを持ち去るのだという。これの被害を受けた者が数名。どうやら生気を奪われた様子で急いで王都に連れ帰り、治療を施したがどんな治療も効果が見られないのだという。
その容貌から、敵はカオスの魔物『邪気を振りまく者』ではないかという声が一部から上がっている。
何故突然カオスの魔物がこんなところに現れるようになったのかは分からないが、このままにしておいては採掘が進まないばかりか近隣の村や町にいつ被害が及ばないとも限らない。魔物を退治して、鉱夫たちが安心して働ける環境に戻してほしい。
ちなみに敵がうろついているのは採掘場入り口付近であり、採掘場内には入っていない模様だ。
「またしてもカオスの魔物が‥‥!? それも、子供の姿をとって人を誘き寄せる、と‥‥」
その報を聞いて宮廷絵師のファルテ・スーフィードは戦慄した。非戦闘員の彼女の知識ではカオスの魔物がどれほどの力を持つものなのかは分からないが、今までこんな身近にその存在を感じる事はなかったものだ。
「敵の正確な数は分からないそうです。この依頼、引き受けてくださいますか?」
ファルテは苦しそうに冒険者達を見つめた。
◎作業場入り口付近簡易マップ
※簡易なものの為、岩陰の配置などのイメージとしてお使いください。
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┃▲▲▲採掘場入口▲▲▲▲┃
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▲‥‥岩
●リプレイ本文
●上空にて
上空から見れば邪気を振りまく者達の居場所はたちどころに把握ができた。
「エルさん、探査の結果はどうですか?」
ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)は愛馬のペガサスの後ろにエル・カルデア(eb8542)を乗せ、上空から採掘場入り口を偵察していた。その手は携帯型風信器[地]の宝玉に触れられている。地上に残っている仲間にもう1つの風信器を渡してある。これを使って偵察結果を伝える予定だ。
(「三度、鉱山に魔物が‥‥見過ごせない状況です。でも鉱山に関することでファルテさんに関わるのはこれで最後になるのだろうか‥‥」)
「エルさん?」
再度声を掛けられ、エルは物思いから浮上した。心配そうに彼らを送り出した宮廷絵師の顔がその脳裏から霧散する。そうだ、今は彼女の為にも自分にできる事に集中しなければ。
「すいません。周辺の反応を探ります」
バイブレーションセンサーを発動させ、辺りの探査を始めるエル。仲間以外の、鉱山入り口付近の反応は6つ。いずれも子供ほどのサイズだ。位置はバラバラで、鉱山入り口付近に一つと、その他は岩陰など点在している。隠れて不意打ちでも狙おうとしているのか。
「反応は6つ。そのうち一つは採掘場入り口にいますね。私には子供の姿に見えますが、ルエラさんはどうですか?」
「ええ、私にも子供の姿に見えます」
ルエラはエルの探査結果と子供の姿が採掘場入り口に見える旨、風信器を使って地上にいるルメリア・アドミナル(ea8594)へと伝えた。今度は地上でルメリアがブレスセンサーを使用し「呼吸がない」事を確かめる。
『おかしいですね、丁度採掘場の入り口辺りでしょうか、一つ子供くらいの呼吸を感じます』
ルメリアからの通信を受け、ルエラも首をかしげる。という事はアレは本物の子供なのだろうか?
「いえ、アレもカオスの魔物でしょう」
それを否定したのは豊富なモンスター知識を持つエルだった。彼によれば変身したカオスの魔物は偽りの呼吸を持つことから、ブレスセンサーでは見破れなくなる事があるというのだ。それを聞き、一同は敵の数を6体と定める。
鉱夫が襲われる事件がおきてから採掘は中断されているはずだ。となれば答えは一つ。採掘場入り口の反応は全てカオスの魔物のものであるという事だ。
「少し数が多いです。囮をされる方に十分気をつけてくださいと伝えてください。私達も上空から援護します」
『わかりました』
ルエラとエルは一匹も逃がさないようにと、眼下の魔物達に鋭い視線を向けた。
●地上にて
「鉱山にカオスの魔物が現れ、鉱夫の方々が安心して仕事が出来ない状態‥‥この状況を見過ごす事は出来ませんね」
囮として準備を整える雀尾煉淡(ec0844)を見ながらルメリアが呟いた。
「まさかまたここでカオスの魔物と戦うことになるとは思わなかったな」
ウィルにいる時に戦ったのとはまた違う種類みたいだから気を抜かずに頑張らないと、と思いに耽りながら、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)は煉淡にレジストデビルとグッドラックを順に掛けていく。
「全て捕縛するにはちぃと数が多いかのう」
自身にレジストデビルを掛けながらトシナミ・ヨル(eb6729)が言う。彼は囮役の煉淡に追随して隠れながら子供の所まで行く予定だ。
「白い玉というのは本人の魂だという話ですから、取り戻して本人に飲み込ませなくてはなりません」
鉱夫っぽい衣装に着替え、ミミクリーでがたいの良い中年男性に変身した煉淡は、出立前に知人から聞いた知識を皆に伝える。
「ということは玉の在処を聞き出す為に全滅させるわけにはいかないが、数的に倒さないでいるわけにもいかないのう」
「カオスの魔物か‥‥厄介だな。とりあえず接触する子供以外の魔物は倒してしまっても良いだろうか?」
ううむと唸る御多々良岩鉄斎(eb4598)に、作戦を確認するレインフォルス・フォルナード(ea7641)。
「いくらなんでも6体全てに襲われるのは危険だと思います。子供の姿をしている者に煉淡さんが接触している間、残りの魔物は発見次第倒していくのはどうでしょうか」
アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)の言葉に一同は頷く。今回のカオスの魔物、上級の魔物とは考えづらいが数が多いと何が起こるかわからない。念には念を入れることに異を唱える者はいなかった。
「要は白い玉の在処がわかればいいわけですからね。みなさん、後は宜しくお願いします」
ではいってきます、とスコップを担いだ煉淡は鉱山入り口へと向かう。トシナミも隠れるようにしながらそれについて行った。
「ではわしらも、いつ戦闘に入っても良いように準備をしようかのう」
岩鉄斎は自らの武器にオーラパワーを付与する。魔物には通常武器が効かないことが多い。それに対する対策でもある。
「ルエラさん、囮が動き始めました」
ルメリアの声が風信器を伝って上空のルエラへと届く。了解の返事を得て、邪気を振りまく者討伐が始まった。
●接触
「こんな所で一人でどうしたんだい? 迷子かい?」
スコップを背負った煉淡が採掘場入り口に座り込んでいる子供に話しかけると、その子供は首を左右に振った。
「おじちゃん、こんな所でちまちま稼ぐよりももっと簡単にたくさんお金が手に入る方法があるんだけど」
「何?」
「知りたい? じゃあ魂と交換だよ」
そう言うと子供は背中に蝙蝠の様な羽根を持った小鬼へと姿を変え、何事か呪文の様なものを唱え始めた。それより少し前、子供の問いに返事を返した時点で煉淡はアグラベイションのスクロールを手にしていた。小鬼が魔法を完成させる前に、煉淡のアグラベイションが発動する。
「逃がしはしないぞ」
同時に煉淡の背中に隠れていたトシナミの高速詠唱コアギュレイトが小鬼を襲う。それを合図として、他の場所でも小鬼退治が始まっていた。
岩陰に隠れていた小鬼に走り寄ったレインフォルスがオーラパワーの付与された槍で小鬼を二度突く。
「貫け雷鳴、風の精霊よ我が声に応えよ。ライトニングサンダーボルト」
レインフォルスに貫かれた小鬼と、その奥に隠れていた小鬼をルメリアの達人レベルの雷撃が貫く。高速詠唱で唱えられたその雷は一匹目の小鬼を消し去り、二匹目を弱らせるのに十分だった。自らにオーラパワーを付与したアルトリアがその剣を持って斬りかかる。
「ルエラさん、あれを!」
エルが上空から指したのは一匹の小鬼。明らかに今までと状況が違う事を察知したのだろう、煉淡やトシナミがいるのとは反対側の岩を越えて、小鬼が採掘場に入ろうとしている。
「恐らく白い玉を保管してある場所に向かうのでしょう。持ち逃げさせるわけにはいきません。飛ばします、つかまっててくださいね」
ルエラは愛馬に命じ、その小鬼を追いかけて採掘場へ入る。小鬼は一番近い坑道目指して駆けて行った。
採掘場入り口付近ではレフェツィアのホーリーと岩鉄斎のラージハンマーが2匹目の小鬼を消し去り、レインフォルスとアルトリアが小鬼2匹の相手をしていた。二人の前衛に守られるようにして、ルメリアが二発、高速詠唱でライトニングサンダーボルトをお見舞いする。その間にトシナミはホーリーフィールドを張り、煉淡が高速詠唱メタボリズムで捕えた小鬼の魔力を奪う。小鬼を消し去って駆けつけた岩鉄斎とレフェツィアの援護もあり、畳み掛けるような攻撃を受けた小鬼たちは爪での攻撃空しく、たちまち消し去られていった。
「一匹足りないな‥‥」
「先ほどルエラさん達が採掘場内に追い駆けて行ったようじゃ」
辺りを注意深く見渡したレインフォルスにトシナミが答える。
「恐らく白い玉を保管してあるところへ向かったのでしょう」
「となるとこいつは用済みかのう?」
ルメリアと岩鉄斎はコアギュレイトで捕縛された小鬼を見やる。元々白い玉の在処を尋ねるために捕縛を試みたのだった。
「お前達の親玉は誰だ」
煉淡が訊ね、高速詠唱リードシンキングで小鬼の心の中を覗く。しかし確とした答えは得られなかった。どうやら命令されてここで鉱夫を襲っていたわけではなく、自分達の意思でここで魂集めをしていたようである。
「みなさん、白い玉を見つけてきました」
その時、羽ばたきと共に上空に影が出現した。ルエラがペガサスに跨り、採掘場入り口に戻ってきたのである。後部に跨ったエルの腕にはいくつかの白い玉が抱えられていた。
彼らは小鬼を追い、白い玉の在処を見つけると、逃亡しようとしていた小鬼を倒して白い玉を無事に奪還したのだった。
「あとはこれを倒れた鉱夫たちに飲ませれば元に戻るはずです」
エルは白い玉を落とさないように注意しながら、それを仲間達に見せる。
そして、自然視線が集まるのは、未だコアギュレイトを掛けられ続けている一匹の邪気を振りまく者であり――
「これ以上情報が得られないのならば、捕えておく必要もないでしょう」
ルメリアのその言葉に反対する者などいるはずもなく。
哀れ一匹残された小鬼は、瞬く間に討伐されてしまったのでした。
●絵師の部屋にて
「それでは鉱夫さん達は回復したのですね?」
その話を聞いて、ファルテは安堵して微笑んだ。
「誰かの命令で動いていたわけではないようなので、根本的な原因の解決になっているかは解りませんが」
苦笑する煉淡。それでも鉱夫たちの当座の安全が確保された事には間違いない。
「ちなみにこんなものを作ってみたのじゃが」
ファルテに差し出されたのはこれまで訪れた三箇所の鉱山の特徴を良く捉えた3枚の絵。オマケにデフォルメされた魔物人形つき。これは全て岩鉄斎の作品だという。宮廷を離れる事の出来ないファルテは「こういう場所で私達の使う絵の具の原料が採掘されているのですね」と興味深そうに眺めていた。
「これで困っていた三箇所の鉱山全てが無事に採掘を再開できるようになりました。顔料がこれまでどおりに流通するようになるのも、時間の問題でしょう」
そう言ってファルテは、テーブルに顔料一式を乗せた。
「これは?」
問うレフェツィアに、ファルテはお礼です、と告げる。
「少しずつですが、絵の具の原料のセットです。絵を描かない方は興味が薄いかもしれませんが‥‥少しずつですが、お礼として差し上げます」
そのセットには黒、白、赤、褐色、黄色などの基本色の他、緑青、群青、パールホワイトなどの珍しい色も少し入っている。少量ずつだが一通り揃っており、これ一つで15cm四方の肖像画一枚を描くのに十分な分量だ。
「これを機会に、少しでも絵に興味を持ってくださると嬉しく思います」
この度は本当に有難うございました、とファルテは微笑んで深々と頭を下げた。