陽、恵み捧ぐ。その手に受けよ
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月22日〜03月27日
リプレイ公開日:2008年03月28日
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●オープニング
●陽霊祭
寒さも過ぎ去って暖かい光が注ぐ3月。
「ねーねー、今月は何かお祭りないのー?」
先月の風霊祭で味をしめたのだろうか、碧色の羽根のシフール、チュールは冒険者ギルドの机の上で駄々をこねる。
「今月は陽霊祭がありますよ。陽光の恵みを祝うお祭りです」
作業の合間を縫って丁寧にチュールに応対するのは支倉純也。
「リンデン侯爵領内の村で小さなお祭りがあるみたいですけど、行ってみますか?」
「行く!」
がばっと跳ね起きて即答。
「ただ、そんなに派手なお祭りではありませんよ。陽光の恵みを感じるということで、乾物中心の保存食作りが行われたり、植物を育ててくれる陽光の恩恵にあずかるとして苗木を植樹したり‥‥あとは来月の種まきに向けてでしょうか、園芸用品を販売する人たちもいるみたいですね」
保存食作りや植樹に手を貸せば、喜ばれますよ、と告げる純也。
「保存食作りはともかく苗木植樹にはあたし、向いてないと思うなぁ」
大きさ的に。
「あとはジプシーの方々をお呼びして、踊っていただいたり占っていただいたりもするらしいですね」
「それって一緒に踊ったり演奏したり歌ったりしてもいいの?」
「ええ」
仮にも彼女はバードの端くれ。音楽に興味が無いわけではない。
「植樹と保存食作りが一段落着いたら、村のご婦人方の作った料理を皆で戴くそうです。そう大きくない村ですからね、それはまた和気藹々と」
陽光浴びながら、外で皆で食事を取る。その間に下準備した保存食用の食材も乾燥させるというわけだ。
「毎年植樹と保存食作りの手が足りないって聞いていますから、手伝いに行ったら喜ばれると思いますよ。勿論、踊りや占いを楽しんで祭りを盛り上げるのもね」
正式に村から手伝い要請の依頼が出たわけでは無いからお金での報酬は望めないが、手伝いをすれば現物支給があるだろうと純也は言う。
興味を持ったら、参加してみてはどうだろうか?
●小さなお祭りで出来ること
・植樹‥‥苗木を村から近くの丘に運び、植えます。かなりの数を植えることになるので肉体労働です。
・保存食作り‥‥食材を網に載せて乾燥させます。その下準備などのお手伝いです。
・踊り、演奏‥‥ジプシーやバードの皆さんと踊りや音楽で陽精霊に感謝を示します。
・占い‥‥ジプシーの占い師さんが占いをしてくれます。
・食事‥‥村のご婦人方の作った食事を、皆で食べます。
●報酬
金銭的な報酬は有りませんが、手伝いをすれば何か現物支給してもらえるようです。
●リプレイ本文
●小さな村で
暖かい空気が村内を包み込み、陽気な音楽が作業をする村人達の手を動かしていた。
村内の一方では植樹用の苗木が籠に詰められて、今か今かと出発を心待ちにしている。また一方では女達が中心となって肉や魚に塩を擦り込んだり切り身を作ったりして保存食作りの準備を始めていた。そんな彼らを鼓舞するのは旅のバードの奏でる音楽と、ジプシーの踊り子の踊るダンス。それだけで気分はウキウキ、そっぽむいてた機嫌もよくなってしまうのは何故だろうか。心地良い陽精霊の光が、人々の心も照らしているようだった。
「んー、いい天気。先月風の精霊にめいっぱいお願いしたら、ちゃーんと春を運んできてくれたのねー。日向ぼっこするに一番いい季節ね、オロ♪」
村に着くなり盛大に伸びをして愛犬に話しかけるのはラマーデ・エムイ(ec1984)。え、もう日向ぼっこでサボる予定?
「三月の陽の光ぽかぽかは、陽霊祭にぴったりですね。ヤーヴェるんとダーとりゅも、お祭りのうきうき気分に誘われて芽が出てくるといいんですけどね」
ドンキーに積んだ鉢植えに話しかけるソフィア・ファーリーフ(ea3972)。彼女がわざわざ持ってきた鉢植えは、何ヶ月も芽を出してくれないらしい。そんな鉢植えに陽の光の恵みがありますように。
「こんにちは〜。お祭りのお手伝いさせてくださーい!」
ラマーデが元気に声をかけると、顔を上げた村人達は笑顔で彼らを迎え入れてくれた。
「祭りといってもこんな小さい村での小さなお祭りだからね、気に入ってもらえるかわからないけども」
「依頼で色々な所に行ったが、アトランティスにどんな風習があるかといった事はあまり知らないので、勉強になります」
風烈(ea1587)は早速おじさんの隣に腰を下ろし、籠に苗木を詰めていく。
「俺の故郷の華国では森羅万象には神が宿っているといった多神教の教えがあるのだが、アトランティスの精霊信仰はどのようなものなのですか?」
「兄ちゃん、難しいこと聞くねぇ」
おじさんは一瞬作業の手を止め、笑って見せた。
「空の上には精霊界が広がっている。風や大地や陽や水、自然のもの全ての恵みに感謝するのが俺たちのやり方さ」
「陽霊祭も豊作を祈る神事の一種ですか?」
「陽霊祭は陽光の恵み感謝をする祭りさ。他にも春の種蒔きの時期に行う花祭りや大地の恵みを祝う地霊祭、水を称える水霊祭なんかもある。その他に秋の種蒔きの時も祭りがあるし、収穫祭だってある。ここの祭りは自然の力一つ一つに感謝をする、そんな感じさ」
ほら、手伝った手伝ったと烈は苗木の入った籠を押し付けられる。「兄ちゃん力がありそうだからな」と後2つ持たされてしまった。
「へぇ〜こんなお祭りがあるとは知らなかったな〜」
烈とおじさんのやり取りを後ろで聞いていたのは門見雨霧(eb4637)だ。体力にはちょっと自信がないけれどたまには身体を動かすのもいいなと出てきたのだが。
「そっちの兄ちゃんも、ぼーっとしてないで籠をもってくんな。そろそろ植えに行くからな」
おじさんに言われて慌てて籠を抱える。でも二つはちょっと無理そうだ。三つを楽々と抱えている烈とは鍛え方が違うのだから仕方あるまい。
「いや、無理です、一つで精一杯」
「雨霧さん、無理な分はうちのシナモンの背に乗せてくださいな」
烈と同じ様に三つの籠を押し付けられそうになって慌てる雨霧に助け舟を出したのはソフィア。彼女は鉢植えを陽のよくあたる場所に下ろし、雨霧が押し付けられそうになった籠を愛馬の背に積む。
「運ぶのには自信がないけど、植えるのなら手伝えそうだわ。スコップ運ぶわね。ほら、オロも」
ラマーデはスコップ数本を抱え、愛犬を促す。
「若いもんの手も借りられたし、こりゃ去年より早く飯にありつけそうだなぁ」
おじさんたちがそうだなぁと頷きあう。村人皆が家族の小さな村。突然やってきた冒険者達をも簡単に受け入れてくれる小さな村での時間。
●働かざるもの食うべからず
魚は開いて網に乗せる。木の実は乾燥させて蜂蜜につけたり蜂蜜酢に漬け込んだりする。お肉も適度な大きさに切って、塩を振って壷にしまったり、網に乗せて乾燥させたりする。物によっては蜂蜜漬けにしてちょっぴり甘い不思議な味に仕上げるのも一興。
「‥‥こう、でいいのかな、かな?」
フォーレ・ネーヴ(eb2093)は保存食作りの作業に混ぜてもらっていた。作業をする女性達に混じって見よう見まねで素材を調理していく。
「お嬢ちゃん、上手だねぇ」
にっこりと褒められればやる気が出るというもの。
「よし、じゃあどんどん頑張っちゃうよ〜♪」
果物を切って蜂蜜にくぐらせて。
「ん?」
流れ作業で今まで通りに蜂蜜壷に果物や木の実をくぐらせようとしたのだが、なんだか手ごたえがおかしい。良く見ると、それまであった場所に蜂蜜壷はなく――というか、あるのだが入り口が封じられてて。
「ちょっとチュールさん、だめだよ〜つまみ食いしたら」
なんとチュールが蜂蜜壷にしがみつくようにして指につけた蜂蜜を舐めていたのだ。
「んぐ、ばれちゃった〜ごめん〜」
きゃーにげろーとチュールはふよふよ飛んでいく。そんな光景も保存食作りに真剣になっていた女性達の笑顔を誘った。
「つかまえましたよ、食べた分はお手伝いしましょうね」
「ふぇっ」
逃げようとした所、襟首をつかまれ間抜けな声を上げてしまったチュール。彼女を捕まえたのはルイス・マリスカル(ea3063)だ。
「ルイス〜演奏はいいの?」
「植樹に行った皆さんが帰ってきてから、皆さんの前で披露させていただこうと思いましてね。もちろんその時もチュールさんの手をお借りいたしますよ」
話を反らそうとしたチュールを上手くとらえ、保存食作りの手伝いに加わるルイス。働かざるもの食うべからず――何処かのチキュウ人が言っていた。これはきっとそういうことなのだろう。チュールは諦めて保存食作りの手伝いをする事にした。
●植樹
「はい、そこはそのくらい間隔空けた方が育ちやすいです。あ、穴はもう少し深く」
手馴れたソフィアの指示で植樹に向かった者達は順調に苗木を植え――?
「ってオロ、無闇に土掘らないのってモグラなんか追いかけないで。掘るなら苗木を植えられるように掘ってよ〜」
一部、ラマーデの周りでアクシデントが起きているようだが、それもご愛嬌。村人達は笑いながら作業を続ける。暖かくなったばかりとはいえ身体を動かせば汗もかくというもの。額に浮かんだ玉の様な汗を拭いつつ、植樹は続けられる。
「いーっぱい陽の光を浴びて、大きく育つのよ〜」
「これら植えた木が立派になるには何十年もかかるんだろうな〜」
ラマーデの言葉に、雨霧は小さな苗木が大きく育つ所を想像する。エルフのラマーデやソフィアならばこの木が大きく育ったところを見ることが出来るだろうが、人間の自分はどうだろうか。
「(願わくば、誰もが笑って暮らせる平和な世の中になっていると良いな〜)」
その思いは口にするのは少し恥ずかしいから、心の中で呟いておく。
「自然がもたらすのは恵みだけではないが、風にも、雨にも負けず、天の恵みを感謝し、精霊と共に生きるか」
烈は先ほどおじさんから聞いた言葉を思い出し、土のついた手をひさしのように翳して天を仰ぐ。まばゆいほどの陽精霊の光が、彼らを祝福するかのように輝いていた。
●陽精霊の恵みを受けて
陽気な音楽が村中に染み渡っていく。今日ばかりは辛い事も悲しいことも忘れ、陽精霊の恵みに感謝しようと。
バードの演奏に混ざったルイスは、持参したリュートを使って巧みにバード達の演奏に合わせて音を紡いでいく。ジプシーたちはそれに合わせて鮮やかな色の布をはためかせて踊る。
その後、バード達の独奏の番になると、彼はリュートで故国イスパニアの音楽を奏でてみせた。それは村の人たちには珍しいもので、たくさんの拍手が彼に送られた。
「ねぇ、仕事運を見てもらえる? あたしはちゃんとゴーレムニストになる事が出来て、やっていけるかしら」
占いを行うというジプシーの前には列が出来ていた。自分の番が回ってきたラマーデが心配そうに訊ねる。占い師はカードを数枚めくるとにっこりと微笑んだ。
「自らを信じるということを忘れなければ、夢はいつか叶うでしょう」
「次は私! 仕事運と健康運かな。あ、あと‥‥恋愛運も気になる所だよね〜‥‥」
あれもこれも占ってほしいと思うのは人の常。フォーレは微笑する占い師に自分の希望を告げた。
「そうですね‥‥自分のペースで進むことを大切にすると良いでしょう。後は睡眠不足には注意をしてください。小さなミスに繋がると出ています」
「むむぅ、なるほど〜」
フォーレに代わって占い師の前に座ったのは烈。彼は師匠に教わり、自らが望んだいかなる状況でも自分の良心に従い、その結果どんな不利な状況になったとしても困難から逃げ出さない』という己の生き様を貫けるかどうかを気にしている。
すると占い師はくす、と笑って告げた。
「ここで占いで『貫けない』と出たら貴方は諦めてしまいますか?」
「いや」
「それならもう答えは出たも同然です。大丈夫、貴方が初心を忘れない限り、信じた道を歩み続ける事が出来るでしょう」
踊りや演奏が繰り広げられる傍ら、広場にはありったけの机と椅子が出され、村の女性達の手料理が並んでいた。
「あはー、やっぱりみんなでわいわい食べると、よりいっそう美味しいですね」
味つき豆のパンを頬張ってソフィアが微笑む。身体を動かした後の食事は至福だ。と、その時ソフィアは耳に入ってきた言葉を聞き逃さなかった。
「こういう時でないと踊りを見たり演奏を聞いたりする機会がないしね。家で寝ていたお酒を持ってきたんだ、一緒に飲みませんか?」
それは村の人達に向けられた雨霧の言葉。だがお酒好きの彼女がその機会を見逃すはずもなく。
「のみますとも〜!」
ソフィアのその勢いにちょっぴりびっくりした雨霧だったが、躊躇うことなくワインと魅酒「ロマンス」を開けていく。ちなみに横笛で演奏に加わっていたチュールが「私も飲みたい〜」という視線を送っていた事に気がついた者は誰もいなかった。
お腹もくちて暖かい日差しを浴びたとなれば、当然眠くなってくるというもの。それぞれが心地よい昼寝場所を見つけて、寄りかかったり横になったり。
気を利かせてか演奏もいつの間にやら終了となり、そこには冒険者達のゆったりとした休日が、日常から切り離されたようにあった。
ここには彼らを起こして用事を言いつける者も、彼らを害する者もいない。
まるでの陽精霊の光という暖かい揺り籠に包まれるように、彼らは心身ともにリフレッシュするべく、まどろみ、羽を伸ばした。