パパがゆくえふめいなんです。

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月26日〜03月31日

リプレイ公開日:2008年03月29日

●オープニング

 冒険者ギルドに、長身にショートカットの女性が靴音を響かせるようにして入ってきた。その腕にはすやすや眠る赤子が抱かれている。
「何か御用ですか?」
 尋ねる職員に、女性はは「申し訳ないんだが、急ぎでちょっとお願いしたい」と男性の様な言葉遣いで告げた。
「うちの旦那が森に入ったまま帰ってこないんだ。実はこの内容で冒険者に助けを請うのは恥ずかしながら二度目になる」
 はて、二度目? 職員がこの女性とであったのは今回が初めてなのだが。
「とりあえず事情を」
「あぁ‥‥。旦那はこの冬生まれたこの娘に花をプレゼントするために森の中に花を取りに入ったんだ。たまに村の者と一緒に狩りに行くこともある森だったからな、別段誰も止めはしなかったんだが。半日もすれば帰ってくると思われてたんだが、帰って来ないわけだ」
「森へ行ったのはいつですか?」
 なんとなく秋あたりに似たようなことがあった気がすると思いながら職員は女性に問う。
「一昨日だな。二晩帰ってきていない計算になる。確か以前もこのくらい行方不明になったはずだ」
「それはさぞかし心配で‥‥」
「まあ心配といえば心配なんだが、それよりも情けなくて仕方がない。入りなれた森で二度も行方不明になるとは!」
 どんっと机を叩く女性。その音に驚いたのか、抱いていた赤ん坊が泣き声を上げる。
「ああ、驚かせたか‥‥すまない」
 赤子を見つめる表情は、先ほどと打って変わって母親の表情で。
「旦那は小柄で気も小さく、昔はいじめられっこだった。だが人一倍優しくて、そんな所に惹かれて結婚を‥‥ってそれはどうでもいい」
 こほん、と咳払いをして女性は何事もなかったかのように続ける。
「そろそろ暖かくなってきたから、森の中にはトカゲや蛙やマムシのモンスターが出ると思われる。大方崖から足を滑らせでもして動けなくなっているか、どこかで迷っているか‥‥だと思うんだが」
 よもやモンスターに襲われてやしないか、そんな思いが女性の頭の中をよぎったのが職員にも見て取れた。彼女は口調こそ男っぽいが、内心は夫のことを心配しているに違いない。
「すいません‥‥似たような話を以前引き受けたことがあるんですが、もしかして旦那さんって秋にもその森で行方不明になりませんでしたか?」
「ああ。その時は義父が依頼をしに来たはずだ。旦那は私の為に秋の味覚を取りにいき、怪我をして帰ってきた」
 ああ、やっぱり。
 あの時行方不明だった旦那さんは、熱を出した身重の奥さんの為に秋の味覚を届けたいといって出て行き、行方不明になった。その時の奥さんがこの人で、無事に生まれた赤ん坊が、泣き止んで目だけで辺りをきょろきょろ見回しているこの子なのだろう。
「そうですか、今回も絶対見つけ出さなくてはなりませんね。念の為に旦那さんのお名前をうかがってもよいですか?」
「旦那はローエンという。私はタニスだ」
 職員は女性の言葉を聞きながら、赤子をあやすつもりで面白い顔をして見せた。

 ――泣き出された。


◎森の簡易見取り図
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┃▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲入口┃
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┃洞∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴▲▲▲▲▲▲∴▲┃
┃窟∴∴▲∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲▲∴▲▲▲▲▲▲∴▲┃
┃A∴∴∴∴∴∴▲▲▲▲∴∴∴∴∴▲▲▲▲▲▲∴▲┃
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┃▲▲▲▲▲∴▲▲▲∴湿地∴▲▲▲▲▲▲∴▲▲∴▲┃
┃∴∴∴▲▲∴▲▲▲∴湿地∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲∴▲┃
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┃∴∴▲▲▲∴▲▲▲▲∴∴∴∴▲▲▲▲∴∴∴▲▲▲┃
┃∴∴∴▲▲∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲崖∴∴∴∴∴∴▲┃
┃∴∴∴▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲崖∴∴∴∴∴∴▲┃
┃∴∴∴▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲∴▲▲崖崖崖崖崖崖崖崖┃
┃湖湖∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲∴∴∴∴∴∴洞窟B∴∴┃
┃湖湖∴∴∴∴∴∴∴∴∴▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴┃
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▲・木々
∴・道

・洞窟A、洞窟B、湖付近の何処かに青年は避難しているようです。
・崖上の広場、湖付近と洞窟A付近に花は咲いています。男性がどこの花を目当てに出かけたのかは分かりません。
・崖から真っ直ぐ洞窟Bへ降りる事は不可能では有りませんが、相応の準備と腕が必要になるでしょう。
・秋に森のモンスター退治を行いましたが、再びモンスターが出始めたようです。
・はっきりと姿が確認されたのは30cm程の毒々しい極彩色の蛙で、液体を飛ばしてきます。恐らく毒を持つ液体でしょう。
・他に存在が確認されているのはトカゲとマムシ。
・湿地、湖付近では特にモンスターの姿が見受けられるようです。それ以外の場所で遭遇しないというわけではありません。

●今回の参加者

 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9517 リオリート・オルロフ(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

グリシーヌ・ファン・デルサリ(ea4626

●リプレイ本文

●新米パパ捜索隊
 行きなれた森で何故か何度も遭難する新米パパローエン氏の捜索に名乗りを上げてくれたのは5人の冒険者だった。
「生まれたばかりの子供の父親が行方不明とは、とても心配だと思います」
「さすがに前回と同じ様に崖から転落したという事は――二度もないと思いたいのですが」
 森に分け入りながら言葉を交わすのはルメリア・アドミナル(ea8594)とシルビア・オルテーンシア(eb8174)。その後ろをアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)が注意深くついていく。皆とはぐれてしまって自分が迷子になっては元も子もないのだし。
「森の地図があっても迷うのだな‥‥それだけ危険な森だということだろうか」
 雀尾煉淡(ec0844)の写した地図を覗き込みながら呟いたのはリオリート・オルロフ(ea9517)。
「まぁ、地図があっても迷う人は迷うようですしね。あ、ここの分岐はこっちです」
 地図を持ってナビゲートする煉淡の言葉。確かに地図があっても迷う人は迷う。今回の彼は地図があっても迷う人種なのか、それとも何か不測の事態に巻き込まれでもしたのか。とにかくいえることは、歩きなれた森でも油断してはいけないということ。
 一行はまず洞窟Aへの進路を取った。湿地の北にある道を通り、湿地を迂回する事で無駄な戦闘を省く案だ。
「道が狭くなっていますから、一人ずつ行きましょう。森林からのモンスターに注意して進んでください」
 シルビアの言葉に頷き返し、まずはリオリートが先頭となって道を進む。間に魔法使いのルメリアと煉淡、そして射撃手のシルビアを挟み、殿にアルトリアという順だ。
「近くに小さな呼吸を感じますね。湿地帯のモンスターでしょう。刺激しないように、なるべく音を立てないで歩いてください」
 ブレスセンサーで探査を行っているルメリアの言葉が出た途端、誰かがポキッと枝を踏んだ。

「‥‥‥‥‥‥」

 一瞬、一同の動きが止まる。だが幸い木々の向こうの湿地にいると思われるモンスターを刺激するには至らなかったようで。ほっと一息ついて、再び行軍を始める一同。

 ポキッ

「‥‥‥‥‥‥」

 ガサッ

「‥‥‥‥‥‥」

 セーフ。さすがに全く無音で通り抜ける事は出来なかったが、幸いにも木々の向こうからモンスターの襲撃を受ける事はなかった。
 ふー、と深く息を吐いて肩を撫で下ろす。
「今から行く洞窟にいてくれればいいんですけれど」
「雨風を避けて避難しているのなら、洞窟のどちらかにいるような気はするがな」
 湖は避難するのに適さないだろう、リオリートの言葉にアルトリアも頷いた。
「あ、少し小柄ですが、人と思しき反応がありますね」
「どの辺でしょうか」
 ブレスセンサーで探査を続けるルメリアに、書き写してきた地図を差し出す煉淡。ルメリアは上品な仕草で現在位置と思われる場所から西へ、つつーと指を走らせた。
「丁度西、洞窟A付近ですね。ただ、同時に何か小さな反応が一つ」
「もしかしたらモンスターでしょうか? だとしたら急いで向かった方がいいですね」
 洞窟のある方向を見やるシルビア。眼前を覆う木々の向こうに目的の洞窟はある。
 その間にバイブレーションセンサーのスクロールを取り出した煉淡は、念じて探査をはじめた。すると感じられたのは僅かに動いている、成人男性よりは若干小柄な振動と、それを追う様に動いている、その半分以下ほどの振動。
「シルビアさんの言うとおり、襲われている最中かもしれません。急ぎましょう」
 探査結果を告げた煉淡の提案に頷き、一同は洞窟に向かって走り出した。


●迷子さん救出
 リオリートの竜羽の剣が70cm程の大きなマムシを斬り裂く。シルビアの縄ひょうが二度その腹に突き刺さり、アルトリアの剣がマムシの頭を斬りつけた。仲間が青年を追っていたマムシの注意を引いている間に煉淡は青年とマムシの間に割って入り、高速詠唱でホーリーフィールドを展開する。そしてルメリアの高速詠唱ライトニングサンダーボルトが凄まじい音を立ててマムシを貫き、止めを刺した。
「大丈夫ですか?」
 戦闘が終ったのを確認し、煉淡が青年を振り向く。対する青年――ローエンは尻餅をつくようにしている。どうやら洞窟内にあとずさって入ろうとしていたようで、いきなりの冒険者達の登場に半ば放心状態だ。
「怪我はありませんか?」
 アルトリアの言葉にはっと正気を取り戻したローエンは、足を指した。
「最初に湖の近くに行ったときにモンスターが出てきたから驚いて逃げたら、足を挫いて痛めちゃって‥‥」
「マムシに噛まれてはいませんか?」
 念の為に荷物から解毒剤を取り出す。もし噛まれていたとしたら早く解毒しなければ命に関わる。
「あ、そういえばこっちの足を‥‥」
「それを早く言ってください!」
 シルビアはローエンの説明に若干もどかしさを感じつつ、解毒剤の封を切って一気に飲ませる。良く見ると彼の額には玉の様な汗が浮かんでいた。
「いや、その‥‥一度目に行った時は花をまだ取れていなかったんで、さっきもう一度行ったら、あのマムシに追いかけられて‥‥」
 疲労と足の怪我からだろうか、彼の声は大分弱弱しい。いや、元々こういう性格だったのかもしれないが。
「それではこちらも飲んでください」
 ルメリアが差し出したのはリカバーポーション。それを飲み干したローエンの顔色は当初より大分よくなった。
「ところで目的の花はとれたのか?」
 呆れたように声をかけたリオリートの言葉にローエンが差し出したのは、地面に手をついた拍子に潰してしまい、くたくたになった一輪の花。元は美しかったであろうピンク色のその花弁も、今は見る影もなく傷ついている。
「こ、こんなんじゃ喜んでもらえないですよね‥‥」
「それ以前に幾ら奥さんと可愛い子供の為とはいえ、無茶はいけません。しっかり奥さんにしかられて下さい」
 ぴしゃりと告げられたルメリアの言葉に「は、はい‥‥」と小さくなるローエン。
「でも、間に合ってよかったです」
 アルトリアの言葉に一同頷く。マムシに噛まれたままで動けなくなり、誰も見つけてくれる者がいなければ彼は毒で命を失っていたのだから。
「花は帰道、安全そうな崖上で取って帰りましょう。崖上の花はピンク色ですか?」
 良く見たらこの洞窟付近に咲いている花は白ばかりだ。彼が白色の花を求めていたのなら、危険が予想される湖まで行かずともここで摘んで帰ればよかったはずで。故に、彼が求めていたのはピンク色の花だと想像する事が出来た。地図を見ながら告げた煉淡の言葉にローエンは頷いてみせる。
「前に崖から落ちたことがあるので‥‥崖上には行かなかったんですが‥‥」
「今回は私達が、落ちないようにしっかり見張っていて上げますから大丈夫ですよ。さあ、乗ってください」
 シルビアが空飛ぶ絨毯を広げる。彼は恐縮しながらその上に乗った。
「それにしても、崖からの滑落を避けるために森の奥へ入って、怪我をして死にそうになってるんじゃ世話ないな」
「まったくです」
 リオリートの言葉に思わず笑顔を漏らす一同。この笑顔はローエンが無事だったからこそ浮かんでくるもので。
 一歩間違えば二度と愛する奥さんと子供に会えなくなっていたのだから、そうきつく叱りつつも花を取り、彼が帰宅するのに協力してくれた一行だった。