自称・美少女はママ!?

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月02日〜04月07日

リプレイ公開日:2008年04月09日

●オープニング

●いつもと違う朝に
 その朝は、酒場の娘ミレイアにとって普通とちょっと違った朝になるはずだった。そう、ちょっとだけ。
 父親と母親が泊りがけでちょっとした旅行に出て行っている間、一人でお留守番。一人暮らし気分を味わえるのだ。
 朝好きなだけ寝ていても怒られないし、夜どれだけ夜更かししていても咎められない。両親がいない間酒場は休業なので贔屓にしてくれるお客さんに会えないのは寂しかったが、好きに時間を使える数少ない機会――のはずだった。

 ふぎゃ〜!

「え、何っ!?」
 突然階下から響いてきた謎の声に否応無しに覚醒させられる意識。ミレイアはベッドから飛び起きて辺りを見回した。だが謎の声は店である階下から響いてきている。どうやら泣き声のようだが‥‥。
 昨晩、店の入り口の鍵を閉め忘れたかもしれない。今になってそんな嫌なことを思い出してしまう。もしかしたら泥棒? いやいや、盗みに入った先で騒ぐ泥棒なんているはずはない。だとしたら、一体何の声だろう。
 彼女は恐る恐る階段を降り、厨房を通って店として使っているスペースを覗き込んだ。現在はテーブルに椅子が載せられ、閉店時の様子そのままになっている。そして店の入り口の扉は僅かにだが開かれ、隙間から日が差し込んでいた。

 ふぎゃ〜ふぎゃ〜!!

 まるで噂に聞く恐獣の様な鳴き声だ。そんなことを思いつつ彼女は慎重に店の入り口に歩みを進める。やっぱり昨日入り口の扉に鍵を掛け忘れたようだ。この店は冒険者街からそう遠くない所にある。もしかして冒険者のペットでも入り込んだのだろうか?

「え‥‥?」
 『それ』を見た彼女は、一目散に駆け寄り、『それ』を抱き起こした。
「だ、大丈夫?」
 それは正に母性本能が働いたというべきだろうか。その恐獣の如き泣き声を発していたのは生まれて一年程度の赤子だったのだから。綿入りの布団の入った大きな籠に寝かされていたらしく、布団は僅かにくぼんでいる。自分から這い出た拍子に転んでしまったのだろうか、彼女が発見した時はその赤ん坊は仰向けになって泣いていた。
「頭打ったりしてない?」
 後頭部をゆっくりさすってやると、その赤子は次第に泣き止み、ミレイアの髪を掴み、その瞳を見てこう言った。

「まぁま」


●絶望と希望と
「おやミレイアさん、いつの間に子供を生んだんですか」
「その冗談、11歳の乙女には通用しないと思う」
 冒険者ギルド。いつもの冴えない受付の男が暇そうにしているのを見つけて、早速カウンターに近づく。とりあえずどうしたら良いのかわからなかったので仕方なしにここまでつれてきたのだが、抱いている腕が痛い。赤子とはいえ結構重い。
「へぇ、夜が明ける前にお店においていかれた‥‥ということは捨て子? 何か親がわかるものとかなかったんですか」
「布団の入った大きな籠に寝かされていて、枕元に羊皮紙があったんだけど‥‥読めなくて」
 何か親の情報が書いてあるかもしれないが、あいにくミレイアはまだ文字を読むことが出来ない。そこで思い出したのがギルドで働くこの男だったわけだ。
「まぁま」
「だからママじゃないって言ってるのに‥‥」
「だいぶなつかれているようですね」
「うん。一度抱き上げたら、下ろそうとすると大泣き」
 赤子の髪はミレイアと同じ茶色だ。もしかしたら赤子の母親も茶色い髪をしているのかもしれない。
「どれどれ‥‥」
 職員は渡された羊皮紙に目を通す。そこにはこう書かれていた。

『私にはもうこの子を育てることが出来ません。
 この酒場の様な温かい場所でこの子を育ててやってください。
 私達は精霊界からこの子の成長を見守ることにします』

 音読した職員と、赤子をあやしていたミレイアの動きが止まる。
「ねぇこれってどういうこと? この子捨てられちゃったんだよね‥‥でも、それだけじゃなくて」
「‥‥‥この子の親は、自ら命を絶とうとしているようですね」
 ミレイアが避けた言葉を職員ははっきりと口にする。ここで事実をぼかしたとて、結果は変わらない。
「何、じゃあ、この子を育てていけなくなって、自分も生きていくのをやめちゃって、でもこの子を道連れにすることは出来なくて、だからうちに託したってこと!?」
「そう、なりますね」
「ねぇ、もう間に合わない? この子の親を止めることは出来ないの?」
 ミレイアは職員の胸倉を掴むようにして必死に問いかける。こんな、こんな無責任なことなんてない。
「落ち着いてください、それはミレイアさん次第です」
「え?」
「この子の両親はミレイアさんのお店があったかい雰囲気だと知っていて、この子を預けたことになります。となると酒場に来たことある可能性が高いでしょう」
「そんな‥‥毎日沢山のお客さんを相手にしているんだよ? 一度来たくらいじゃ覚えてなんて‥‥」
「加えて、母親はミレイアさんと同じ茶色い髪である可能性が高いです」
「茶色い髪なんていっぱいいるよぅ‥‥」
 あまりのプレッシャーに半ばパニックになるミレイア。その手を掴んだのは赤子の小さな手。
「‥‥そういえば結構前の事だけれど、一番安いメニューを頼んで酒場の隅っこで二人で分け合っている夫婦がいた。女の人の方はお腹がおっきくて、父さんが『そんなんじゃお腹の赤ちゃんに栄養が行き届かないぞ』って料理をサービスしてた気がする。その夫婦、両方茶色の髪だったような‥‥」
 確証はない。けれども有力な手がかりではある。
「その後全然姿を見せないから暫くは赤ちゃん無事に生まれたのかなぁって心配してたんだけど‥‥すっかり忘れてた」
「無事じゃなかったのかもしれません」
 この時代、出産には危険が伴う。恐らくその夫婦は貧しくて栄養状態もよくなかったのだろう。とすれば出産時に母親が死亡してしまった可能性も高い。職員がそう結論付けた理由は羊皮紙に書かれた文面にある。最初は「私」と書かれているのに「精霊界から見守る」部分は「私達」になっているのだ。
「‥‥旦那さんの方、少し文字の読み書きが出来るからそれを役立てた仕事を探しているって言ってた。だからこの手紙も書けたんだ‥‥」
「男手一つでここまで育てるのも大変だったでしょうに‥‥。ところでその旦那さんの家は知ってます?」
「ううん、そこまで聞いてない。貧しかったみたいだから、下町の方だとは思うけれど」
「それでは探し出すことは難しいですね‥‥」
 職員も渋面で赤子を見つめる。だがひょんなことから父親らしき男の行方は知れたのだ。
 冒険者ギルドに訪れた商人が、今朝早くに街の入り口で妙な男とすれ違ったのだという。荷物を何一つ持たず手ぶらで、疲れ果てたような顔をしたその男に商人が思わずどこまで行くのかと声を掛けると「精霊界まで」という声が返って来たのだとか。商人は新手の冗談かと思ったらしいが‥‥。
 その男は海の方、コーマ川の河口の方へと向かったのだという。もしかしたら入水するつもりかもしれない。
「よし、追いかけてみる!」
「ミレイアさん一人じゃ危険ですって」
「でも時間がないからっ」
 そう言うなりミレイアは赤子を抱いたまま冒険者ギルドを飛び出してしまった。
 何の準備もせずに。

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 冒険者一同は依頼を聞くとすぐさまギルドを出た。事は一刻を争うのである。赤子の世話の準備をするフォーレ・ネーヴ(eb2093)と父子のその後に対する根回しをするため街へ残るクリシュナ・パラハ(ea1850)と別れ、巴渓(ea0167)とルイス・マリスカル(ea3063)はセブンリーグブーツに履き替え、布津香哉(eb8378)はフライングブルームに跨る。
「(あー、まったくふざけた奴だな‥‥てめぇが育てられないから他人に押し付けて、先に旅立ったものの後を追うだなんて、逃げるのにも程があるってんもんだぜ‥‥)」
 街の入り口にいるであろうミレイアを目指しながら、香哉は胸中で悪態をついた。全くその通りであるのだが、この場合一概に男が悪いとも世間が悪いとも言えないところが難しい所である。
 そんな香哉が街の入り口に近づくにつれて、何がしかの泣き声が聞こえるようになってきた。良く耳を澄ますとそれは赤子の鳴き声で。
「お、いたいた、ミレイアちゃん?」
 フライングブルームから降りた香哉が人垣を押しのけて、地面に座り込んでいたミレイアに声をかける。彼女は赤子を抱いて走るのに疲れてしまった上に赤子に泣かれてしまい、困り果てていた。あやしても泣き止まないのだから、どうしていいのかわからないのだ。
「あら‥‥あれがパパ? あんなに小さい子を‥‥」
 手を貸そうかどうかと遠巻きに見ていたおばさん達がなにやらひそひそと言葉を交わすのが聞こえる。声を大にしてあらぬ誤解を解きたい所ではあるが、それどころではない。
「俺たちはギルドで話を聞いてきたんだ。今フォーレさんが赤ん坊の世話に必要なものを用意して持ってくるから、ミレイアちゃんはここで待ってて」
「ミレイアさん!」
 そこに遅れてルイスと渓も到着した。
「あら、もしかしてあっちがお父さんとお母さん‥‥? 何か複雑そうね」
 周囲のおばさんたちがまた何か興味津々の体で言葉を交し合っているが、さっきも言った通りこっちはそれどころではないため黙殺する。
「父親の事は俺達に任せとけ。おまえは後からフォーレと来な」
「私達が先に赤子の父親を探しに向かいますので、ミレイアさんにはここでフォーレさんを待って合流してから来ていただきたく」
「わ、わかった‥‥お願いね!」
 渓とルイスの言葉に、ミレイアは泣きじゃくる赤子をぎゅっと抱きしめて三人を見つめた。
「じゃあ、行こうぜ!」
 香哉が再びフライングブルームに跨る。三人は急いで街を出てコーマ川の河口の方へと向かった。



「(身体を包むのに必要な毛布、果物をすりつぶしたもの、ミルク‥‥)」
 フォーレは指折り数えるようにし、思いつく限りの赤ちゃんに必要な物品を集めていた。こちらものんびりしている暇などない。あと赤ちゃんに必要なものは――
「そうだ、おしめ!」
 急ぎ、バックパックにおしめがわりの布を押し込み、セブンリーグブーツに履き替える。とりあえず最低限は揃ったはずだ。ミレイアは街の入り口辺りで待機しているはずだが、もしかしたらもう既に困っているかもしれない。急ぎ、人を掻き分けるようにして歩く。
「フォーレ!」
 叫びにも似た声が聞こえた。重なるように、赤子の鳴き声。
「ミレイアねーちゃん!」
 駆け寄って来たフォーレにミレイアは泣きそうになりながら抱きついた。腕の中の赤子が押し潰されそうになってひときわ大きな泣き声を上げる。
「腕、痛いし‥‥急に泣き出して、どうしていいのかわからなくて‥‥」
「うん、解ったから。だいじょーぶだいじょーぶ」
 フォーレは涙を堪えているミレイアを優しく撫で、赤子の様子を見る。まずはそのお尻に手を当てて。
「おしめはぬれていないみたいだからおなかすいたのかなー?」
 毛糸の靴下を履かせて毛布でその身体を包んであげながら、フォーレは用意してきた果物のすりつぶしをスプーンですくって赤子の口に近づける。
「ふぎゃー‥‥‥ふにゅ、んく‥‥」
 すると赤子はその甘い香りに気がついたのか、口元に当てられたスプーンから果汁を吸い取り、果肉を口に含む。
「んあーんぁー」
 まるで「もっともっと」とでも言うようにフォーレに手を伸ばす赤子。とにかく食べてくれた事に一安心し、ミレイアは安堵の溜息を漏らした。
「はい、もう一口。あーん」
 いつかは母親になるんだし、予行練習とばかりにフォーレは赤子の世話を続けた。



 ギルドで先行隊三人にフレイムエリベイションを高速詠唱で付与した後、クリシュナはまだギルドにいた。別にこの緊急事態にサボっているわけではない。
「(いくら説得して自殺を思いとどまらせても、実際に生きる糧がなければお父さんをかえって追い詰めてしまうじゃないですか)」
 それだからこそ、彼女は今ここにいる。お父さんが助かった事を見越しての根回しをするためだ。
「多少なりとも文字が書ける人なんです。何か仕事が残っていませんか?」
 この、ちょっと情けない彼女いない暦=年齢だと噂のある男がギルドの受付係をやっていられるのだから、お父さんも助かったら何か仕事があるのではないか。
「あー‥‥さっきの話のお父さん? そうだよねー、仕事がないと折角助かってもねぇ」
「それが解っているなら、何か仕事があるのかないのか、教えてくださいっ!!」
 思わず職員の襟首を掴んでガクガクいわせてしまうクリシュナ。
「ちょっ‥‥まっ‥‥くるしっ‥‥」
 オチる、このままでは確実にオチる。そんな時振ってきたのは天の助けの声。
「事情は話の端々から推測できましたけれど‥‥私の代理というのはどうでしょうか?」
 そう声を掛けてきたのはこのギルド職員の友人であり、ギルド職員の仕事をしながらも自身も冒険者として旅に出ることの多い支倉純也。確かに彼が旅に出ている間、彼の分の仕事はギルドに残る事になる。
「まずは見習いという事で、少しずつ仕事に慣れていってもらえれば‥‥」
「有難うございます、感謝するっス!」
 手放しで喜ぶクリシュナ。これで少しは父親も救われるだろう。フォーレが提案したように、ミレイアの家に住み込みで、夜は酒場で働かせてもらえば尚いいかもしれない。

 ガンッ

「「?」」
 忘れてた。手放しで喜んだ事で急に離されたギルド職員の事を。
 職員はテーブルと熱烈な接吻を交わしていた。


「うわぁぁぁぁぁっ!」
 海辺には叫び声が響いていた。その叫び声の一番近くにいたのは香哉だ。男が大きなイソギンチャクの触手に狙われ、逃げようとしている。香哉は弓に矢を番え、イソギンチャクの注意を自分に向けるべく射った。それはまごうことなくイソギンチャクのぶよぶよとした身体に突き刺さる。
「香哉さん、何が‥‥!」
 駆けつけたルイスは一瞬で現場の状態を把握し、立ち止まらずに香哉を追い抜く。そして手持ちの槍でイソギンチャクを突いた。遅れて駆けつけた渓も素早く状況を飲み込み、まずは襲われている男を引きずってイソギンチャクから遠ざける。そして自身はイソギンチャクを殴りつけた。渓、香哉、ルイスの活躍で程なくイソギンチャクは動かなくなる。
「‥‥」
 戦闘が終わり、他の者が一息ついている間に渓はくるっと腰を抜かしている男へと駆け寄った。
「テメェ、歯ァ食いしばれぇぇぇぇっ!!!!」
 その怒気籠った叫び声に驚いたのは当の男だけに留まらず。香哉とルイスが目を丸くしている間に渓の拳は男の左頬に吸い込まれていった。
「うわぁ、な、何事?」
 やっと追いついたフォーレとミレイアは突然そんな光景を目にし、呆気に取られて立ち止まる。
「これから死ぬってヤツが、偉そうに痛がってんじゃねェぜ。この拳は、死んだテメェの女房の分だ」
「う‥‥うぅ‥‥」
 男は殴られた左頬を押さえ、痛みの為なのか悲しみの為なのかわからぬ涙を零した。
「あんたがあの赤ん坊の父親か?」
 香哉のがミレイアの抱いている赤子を指すと、男は涙をぽろぽろ零しながら頷く。
「やっぱりお母さんは亡くなってたんだね‥‥」
 ミレイアの呟きを否定するものはいない。ぎゅっと赤子を強く抱きしめたその手を、フォーレが優しく握った。
「奥方は貴方と子の幸せを願っていたはず、決してこのようなことは望まれないでしょう」
 ルイスがゆっくりと、男に近づく。
「生活が立たず、子のために死ぬ決意をされたのだとしても、それは子にとって『自分の為に親が命を絶った』と一生の枷を負わせることではないでしょうか」
 彼の言葉は、男に向けられるその一歩一歩と同じ様に男の心に深く深く刻み込まれていく。
「命を棄てる覚悟があるなら、日々の暮らしを切り開く事にその命を懸けるべきだと思います」
「あんた文字書けるんだろ? だったら仕事なんて探せばあるはずさ。俺も知り合いに仕事の口がないか、聞いてみるから死ぬのはやめておきな」
 香哉の申し出に涙にぬれた顔を上げた男の前に、チャリン、と布袋が落とされる。見上げれば渓が腕を組んで男を見下ろしていた。
「ほれ、俺の50Gをくれてやる。今回の報酬もいらねェ。こいつを食いつぶさんうちに身持ちを立て直しな」
「お優しい人達‥‥」
 父親は涙声でそういうのが精一杯のようだ。
「‥‥俺は、優しくなんかねェよ」
 憮然とした様子で渓はそっぽを向いた。
「精霊の世界でなく、近くでこの子の成長を見たくはないのかな?」
 フォーレの言葉に、再び赤子を視界に治める父親。「あーあー」とまるで父親を呼ぶように手を伸ばすその様子を見て、男の涙はとめどなく溢れる。
「見たい‥‥見たい、です」
「だったら生きるんだな」
 と香哉。それに付け加えるようにして渓が口を開く。
「だが、冒険者にはなるなよ。俺たちゃ世間からはみ出たクズなんでな」
「それでも忘れちゃだめだよ、貴方を助けてくれたのは、冒険者なんだからね!」
 ミレイアは知っている。冒険者という存在がどんなものかを。非戦闘民である自分達にとって、どれだけ心強い存在であるかを。



「ああ、よかったですよ〜」
 街に戻った一行を出迎えたのはクリシュナだった。彼女はあの後仕事をしている間だけでも赤子を預かってもらえないかといくつかの孤児院を回り、中でも条件のよさそうな所と約束を取り付けていた。
「全ての根回しはおわっております〜。でもわたくしの苦労が無駄にならずに良かったっスよ」
 クリシュナの根回しで父親はギルドの受付係としての臨時採用が決まり、その仕事がない時と夜はミレイアの店で働く事が出来ないか、ミレイアが両親に掛け合うことになった。
 赤子は「お館様」と呼ばれる元冒険者の経営する孤児院に、父親が働いている間の一時的な措置として預けられる事が決まり、父親は渓から貰ったお金とクリシュナから貰った金塊などで一から生きる事を決意したのである。

「やっぱり冒険者っていいよね〜」
 ミレイアのその呟きを拾った者はいただろうか。彼女の冒険者好きは筋金入りのもの。一年ほど前には冒険者の家に押しかけ女房をした事もあった。それ以来色々と冒険者に助けられ、彼女は更に冒険者に全幅の信頼を置くようになったのであった。そしてそれは今回の件で更に強まったようで。
 そんな彼女が本当のママになる日は、いつか来るのだろうか――。