商人と老婦人と首飾りと

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月07日〜04月12日

リプレイ公開日:2008年04月12日

●オープニング

 ある日、また冒険者ギルドに一人のエルフがやってきた。青年の様な外見をしているが、見た目どおりの年齢ではないだろうことはその尖った耳が表している。
「すまない、また冒険者を雇いたいんだが」
 そのいささか上から目線の所は変わりない。商人として長年人を使い慣れているからだろう事は前回話を聞いてて解った。
「この間モンスター退治をしてもらった洋館だけれどね、あちらにあったものは無事に全部回収できたし、あの後掃除に行った時もモンスターは出なかったのでよかったよ」
 はははと笑う商人。だが上機嫌というわけではないらしい。眉間に皺がよっている。
「実は困ったことにね、夫人の一番大切な首飾りだけがそこにはなかったんだ。掃除に行った私達も念の為くまなく探したのだけれどね」
 ああ勿論任務に当たった冒険者達を疑っているわけではないよ、と商人は付け加える。「どうやら夫人が置き場所を間違って覚えていたらしくてね」
「‥‥なるほど」
 亡くなった友人の奥さんということだから、それなりの年齢なのだろう。少しばかり記憶があやふやになっていてもおかしくないかもしれない。
「結局首飾りは見つかったんだが、それから暫くしてその首飾りを鑑定に出したらしいんだ。ペンダントトップに大粒のエメラルドが使用されていて、銀の細工も精緻だという大層値打ちのある首飾りだからね。だが」
「だが?」
「なんだかんだ難癖をつけてその鑑定士は首飾りを返そうとしないらしい」
 値打ち物に目がくらんだのだろうね、と商人は言う。
「まさかその鑑定士の家に忍び込んでその首飾りをとってこいとか仰るんじゃ‥‥」
「いや、そのつもりだったんだけどね。どうやら首飾りはその鑑定士所有の倉庫のうちどれかに隠されてしまったようなんだよ」
「――‥‥つまり」
「そう、その倉庫に忍び込んで首飾りを取り返してきてほしい」
 その言葉に職員は額に手を当てて暫く考え込んだ。泥棒の真似事? いや、相手は正当な持ち主ではないんだから、正当な持ち主に返すのが当然で‥‥うーん?
「少しは見張りが雇われているようだが、どれもそんな凄腕じゃない。気を引くとか気絶させるとか何とかして上手くやってくれよ」
「上手く‥‥ですか」
「取り返した後は私のところへ持ってきてくれ。私からご夫人に返しておくよ」
 商人はそういうと報酬と倉庫街の見取り図を置いてさっさとギルドを出て行ってしまった。
「悪徳鑑定士の裏をかいて元の持ち主に首飾りを返す‥‥それだけ聞けば善行のように聞こえるんだけど」
 残された職員はぽつりと呟いた。
「なんだか腑に落ちないんだよなぁ。気のせいかなぁ」
 雑多な冒険者ギルドの中、書類作成に取り掛かる職員の呟きを拾う者は誰も居なかった。

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●…倉庫入り口(鍵がかかっている)
○…上部に窓(鍵なし。子供程度なら入れるサイズ)
◆…見張り(鍵は持っていません)

倉庫は便宜上、左から倉庫A、倉庫B、倉庫Cとします。
見張りは一分ごとに時計回りに移動します。
例)倉庫Aの前の見張りの動き:北(1分待機)→東(1分待機)→南(1分待機)→西(1分待機)→北(1分待機)の繰り返し。

見張りは当座の為に雇われた者達ですが、殺してはいけません(気絶とか酔いつぶれさせるのはOK)
肝心の首飾りは、小さな宝箱に入っています。見ればすぐにわかります。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb9356 ルシール・アッシュモア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)

●サポート参加者

カイン・イリーガル(eb0917

●リプレイ本文

●裏表
「裏ありそ〜」
 商人ギルドへの道を歩みながら漏らしたのはルシール・アッシュモア(eb9356)だ。『鑑定士』の情報を集めようとしていた彼らは、依頼人から聞きだすことが出来なかったため、『鑑定士』に関する情報を求めて歩いていた。
「エルフのおぢさんも何か企んでそうだし」
「なんだかおかしなところがある気がするんだよね」
 隣を歩くレフェツィア・セヴェナ(ea0356)も同意を示す。首飾りを取り戻せば解るかもしれないけれどでも‥‥
「盗む事もあんまり良いことじゃない気がするんだけど」
 ぽつり、呟く。正にその通りです。
「理由があって一時的に保留しているのか、それとも本当に強欲なのか、判断材料が出ればいいんだけれど」
 一歩先を歩いていたレン・コンスタンツェ(eb2928)が振り返る。
「とりあえず倉庫の持ち主の家を聞いてみよーか」
 フォーレ・ネーヴ(eb2093)が着いたよ、と示したのは商人ギルド。
「おっけー」
 一同はゆっくりとその中に足を踏み入れていった。


●裏
「え、どういうこと?」
「もう一度言って」
 声を上げるルシールとレンに、職員は「ですから」と前置きして先ほど四人に告げた言葉と同じ言葉を告げる。
「何か勘違いをなさっているのでは?」
「わかるように説明してくれないかな?」
 レフェツィアの言葉にしぶしぶと言った感じで頷く職員。その口から出た言葉は四人を混乱させるものだった。
「あの3つの倉庫は、鑑定士の持ち物ではなく、れっきとした商人の持ち物です」
「商人‥‥私達はあの倉庫は鑑定士の物だって聞いてきたんだけどな〜?」
「けれども商人のものという事実は揺らぎません。嘘だと思うなら、直接聞きに行ってはどうですか?」
 柔らかい口調で言うフォーレの言葉にも、溜まった仕事でも片付けなくてはいけないのか、つっけんどんな返答を返す職員。
「ここの辺りにあるお屋敷ですよ。もっとも商人だったご主人は既に亡くなっているので、今は奥さんしかいないと思いますけど」
 すらすらと走りがくように地図を描き、レンに渡す職員。その言葉にルシールが反応した。
「ちょっとまってよ‥‥」
 頭の中で情報を整理する。そして商人ギルドを出た三人を呼び集め、頭を突き合わせるようにしてルシールは小声で自らの推論を述べた。
「あの倉庫は商人の持ち物。商人であるご主人は亡くなっている――つまりあの倉庫、依頼人の言ってた『友人』の持ち物なんじゃないかな?」
「ふむ、つまり」
 顎に手を当てるようにして、レンが続きを引き継ぐ。
「依頼人が嘘をついていたっていうことかな? 私達を騙して、友人の奥さんから首飾りを奪おうとしていた、と」
「そうそう、それそれー!」
「ああ、だから直接老婦人に首飾りを返してくれ、じゃなくて『自分が返しておくから』だったんだ‥‥」
 納得したようにフォーレが頷く。
「ねぇ、もしかしてさ」
 レフェツィアの言葉に一同の視線が彼女に集まる。
「僕達が倉庫の持ち主の事を調べずに真っ直ぐ倉庫へ向かって、首飾りを盗って来たとするでしょ? そうしたらまんまと犯罪の片棒を担がされていた、ってことかな?」
 まさにそういうことだろう。エメラルドの首飾りを狙っていたのは依頼人自身だったということだ。
「何それー!? ひどーい」
 いくら未然に防げたからと言ってそれでいいというものではない。人を騙して、更に犯罪の片棒を担がされそうになったのだ。ルシールの怒りも最もで。
「とりあえず家も教えてもらったし、老婦人の所に忠告にでも行っておく?」
 レンの言葉に異を唱えるものはいなかった。少なくとも、この真実を知った上で依頼どおりネックレスを奪いに倉庫へ行こうなんて思う者はいまい。犯罪の片棒を担がせるどころか、罪を全てなすり付けられかねないのだから。


●真実を
 突然の訪問にもかかわらず、応接間に通され、夫人との面会も許された。窓は開け放たれ、陽精霊の光が暖かく差し込んでいる室内。程なく老婦人が若い女性に付き添われるようにして応接間へとやってきた。
「あらまぁ、可愛いお嬢さんがたくさん。大事なお話があるとの事だけれど、何かしら?」
 女性に椅子に座らせてもらい、柔らかな表情で老婦人は問う。ルシールは思い切って口を開いた。
「ご主人のお友達だったっていうエルフの商人さん、知ってますよね? あの人はおばあちゃんのエメラルドの首飾りを狙っている悪い人です」
「まぁ、何故エメラルドの首飾りの事を?」
 老婦人は少し驚いたように目を丸くしたが、柔らかい物腰は崩さなかった。
「私達、そのエルフの商人に倉庫から首飾りをとってくるように頼まれたんだよ。おばあさんが鑑定に出した首飾りを、悪い鑑定士が返さないから取替えして来てくれ、って言われて」
「なるほど、あの人には全てばれてしまっていたのねぇ‥‥」
 フォーレの言葉を受けて、老婦人は頬に手を当てて困ったように溜息をついた。
「実はね、あの方は主人が亡くなってからも色々と便宜を図ってくれる良い方なのだけれど‥‥どうも何かを狙っているような気がしてね。それがエメラルドの首飾りだとわかったから、私は最初『別邸に置きっぱなしにした』『置き場所を忘れた』といって誤魔化していたのよ」
 だがそれでも誤魔化しきれなくなり、『鑑定に出した』と嘘をついて倉庫へと隠したのだという。
「依頼人はご夫人の嘘を逆手にとって、首飾りを手に入れようとしたようですね」
「そうねぇ。どうしようかしら」
 レンの言葉に困ったように首をかしげる老婦人。だがこちらに問われても正直困る。
「とりあえずあの倉庫に首飾りがあることはばれちゃっているから、そんなに大切なものなら倉庫からは出して手元に置いておいた方がいいと思うよ」
「主人が、私の為に探し回って手に入れてくれた、エメラルド。加工する時も私の絵姿を職人に見せて『俺の妻に似合うようなデザインを』と念を押したそうよ」
 嬉しそうに微笑み、遠くを見つめる夫人。レフェツィアの言葉で再び思い出が甦ったのだろう。亡き夫との大切な思い出が。
「ところであなた方はどうなさるのかしら? 首飾りを持っていかなければ、あの人の依頼とやらは達成できないのでしょう?」
「人を騙して人の物を盗む依頼なんて、達成したくないですから」
「そーそー。悪人の手先になって犯罪に手を染めるなんてまっぴら」
 毅然として答えるレンとルシール。フォーレとレフェツィアも同感だ。
「ギルドに真実を話せば、この依頼無効になるかもしれないし」
「証拠とか無いから、逮捕とかできるのかはわからないけど」
 たとえそれが犯罪に手を染めるものではなかったとしても、あんな顔で思い出話をされて、実行に移せるだろうか。
「あらあら、それじゃあ報酬は出ないんじゃないの? 冒険者さん達にとっては死活問題でしょう」
 自分の大切な首飾りよりも冒険者達の心配をする老婦人。だから余計に放って置けなくなる。
「私達のことはいいですから、これからもあの男には注意をした方がいいです」
 レンの強い言葉にわかったわ、と頷く老婦人。そして彼女は付き添っていた女性に何かを告げる。すると女性は部屋を出、何処かへ行ってしまった。
「少し待ってちょうだいね。冒険者ギルドから出る報酬の代わりになるかどうかわからないけれど、私から感謝の気持ちを込めて、貴方達にプレゼントをするわ」
 そして戻ってきた女性が抱えていたのは様々な服飾品。元々服飾品を扱っていたという商人の家だ。いろいろな種類の服飾品があってもおかしくはあるまい。
「「うわぁ」」
 それらに思わず声を上げてしまうのは女性ゆえか。
「本当に貰っていいの?」
 フォーレの言葉にゆっくりと頷いた老婦人。
「私の大切に首飾りの危機を教えてくれたお礼」
 それは裏のありそうな怪しい依頼をこなしてもらう報酬よりも、何倍も良い報酬のように思えた。