誰が為の挽歌
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月08日〜04月13日
リプレイ公開日:2008年04月14日
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●オープニング
「というわけなんだよ」
「ふむふむ」
「依頼、持ってきたわよ」
職員が冒険者と話をしていると、冒険者ギルドの扉を開けて颯爽とした足取りでカウンターに近づいて来る人影が。彼女はユリディス・ジルベール。メイのゴーレム工房所属のゴーレムニストであり、数ヶ月前に開校されたゴーレムニスト学園の講師でもある。そんな彼女が持ってくる依頼といえば、ゴーレム関連だろう。
「ああユリディスさん、いらっしゃい」
「何の話をしていたの? 面白い話かしら」
彼女は空いている椅子にふわりと腰をかけ、カウンターに肘を突いて小首をかしげる。
「いやね、この冒険者さんが面白い吟遊詩人を見かけたって言うんで‥‥」
「そうそう。何故か廃村になった村への行き方を熱心に聴いてきたんだよ」
「廃村?」
ユリディスの白い指先がぴくりと動く。
「それってもしかして、この辺にある村じゃないでしょうね?」
さっとテーブルに広げられた地図。彼女はその一箇所を指す。
「ああ、そこそこ。戦争に巻き込まれて廃村になったって所だよ。そんな所に行っても何もないって言ったんだがね、どうしても行きたいらしくてね」
「その吟遊詩人が出発したのはいつ? 昨日? 今日?」
「け、今朝の話だが‥‥」
冒険者はユリディスの静かな問いかけに押される様にして口を開く。すると彼女の口から細い溜息が漏れた。
「何もないならいいのだけれど。何もないどころじゃないのよ」
「「え?」」
職員と冒険者の声が重なる。
「その村、今はカオスニアンと恐獣が住み着いているの。だから私が依頼を持ってきたのだけれど」
「「!?」」
その吟遊詩人が村の現状を知らずに廃村に向かっているのだとしたら――放っておけばその吟遊詩人はカオスニアン達の餌食になる事が容易に想像できる。
「仕方がないわ。途中で拾っていきましょう」
「いきましょう‥‥ってまさか」
「ええ、当然私も同行するわよ。悪い?」
「悪くはない‥‥ですけど」
彼女はゴーレムニストだ。それが同行するとなれば、簡単なメンテナンス程度は現場で行えるということだろうが。だがあくまでもそれは「応急処置」であり、しっかりとした設備のない戦場では急場凌ぎのものに他ならない。あまり期待はしないでおいた方がいい。
また彼女は風の精霊魔法もいくつか扱える。援護くらいはできるだろう。
「とにかくね、その廃村にカオスニアンと恐獣が住み着いているの。その退治が私が持ってきた依頼よ」
村は既に廃村になっていてカオスニアンと恐獣以外の者はいないという。だが建物は一部残っていたり、崩れた建物がそのままにされていたりするので、戦闘に際しては気をつけなくてはならない。
――村ごと本当に潰してしまうつもりなら別だが。
「敵は少なくないわ。ゴーレムをいくらか借りる手続きをしてきたから、それを元に作戦を練って頂戴。敵戦力の予想も出しておくわね」
廃村の周りは平地だという。フロートシップを着陸させる事も容易だろう。戦闘に際して村外の被害を気にする必要はない。だが平地という事は村からもこちらの接近が見て取れるという事。そこは注意した方がいいだろう。
「ところでその吟遊詩人、一体何をしに廃村なんかへ向かったのかしらね?」
ユリディスのその問いに答えられる者はその場にはいなかった。
●敵戦力予想
・カオスニアン5体〜
・プテラノドン2体
・アンキロサウルス3体
●貸与ゴーレム
・オルトロス2騎
・モルナコス最大5騎
・ゴーレムグライダー最大3騎
・フロートシップ・ナロベル(デロベ級3番艦)
※ゴーレムは最大数まで使用しなくても構いません。
※ゴーレムに乗り手がつかず、かつ作戦に必要な場合は人型ゴーレムにのみNPC鎧騎士(専門レベルくらい)が派遣され、作戦にしたがって行動します。
※最大数使用しない場合は何騎まで、と決めてもらえると助かります。
●リプレイ本文
●吟遊詩人
「精霊機関発動‥‥ナロベル発進!」
廃村に向かうまでの間、艦長代理をさせてほしいと頼み込んだ音無響(eb4482)は見事に指揮を取っていた。その顔は憧れの玩具を与えられた少年のように輝いている。これが男のロマンというやつなのだろうか?
「ユリディス師、ご無沙汰しております。今回は宜しくお願いします」
ユリディスの持ち込んだ地図を羊皮紙に写しながら挨拶を交わすのはアリウス・ステライウス(eb7857)。彼は写した地図にバーニングマップを掛け、吟遊詩人の居場所を特定しようと考えていた。
「こちらこそ、よろしくね」
「しかし吟遊詩人さんは何で廃村に向かったのでしょうね? 世間から見れば変わった方が多いですからね」
地図を書き写すアリウスの手元を見つめながら呟いたのはベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。何か得るものを求めて転々としながらというのもロマンだ、と少しうっとりしてみせたり。
「私はちょっとゴーレムの様子を見てくるから、吟遊詩人の保護は任せてもいい?」
「了解しました」
「任せてください!」
「わかりました」
アリウス、響、ベアトリーセの返答を得たユリディスはその足でゴーレム格納部分へと向かった。
●講習――まるで補講?
「多いわね」
廃村へ向かうナロベルの中でユリディスが微笑み混じりに呟いた言葉だ。
「まるで学園の実習授業みたい」
そう、何が多いのかというとゴーレムニストが、だ。今回の依頼を受けた者のうち実に半数がゴーレムニストなのである。
「ユリディス先生どうも‥‥」
すれ違い様に挨拶をするカレン・シュタット(ea4426)に挨拶を返し、ユリディスはゴーレムの格納されている部分に降り立っていた。その後ろには、この依頼をゴーレムニストになる前の最終実習の一つと決めて参加してきた結城梢(eb7900)と、ユリディスに質問をぶつけている布津香哉(eb8378)がつき従っている。
「ゴーレム魔法[地]に浮遊機関という魔法があるけど、この浮遊の高さはどれくらい? これをさ、ゴーレムが乗っても浮いていられる位の物に付与して、上空からその物体にゴーレムを固定して乗せて降下させたりすることが出来れば、ゴーレム降下に掛かる手間が省けるんじゃないかな」
まるで熱心な生徒のように質問をぶつける香哉に、ユリディスは積んできた機体の最終チェックをしながら答える。一応メイディアを出る前に工房の者達がチェックを行ったはずだが、念には念を入れて損をすることはない。
「浮遊機関の浮遊の高さは少し熟練度が上がればチャリオット位の大きさのものを浮かせられるようになるけれど、チャリオットの浮遊高度は地面スレスレね。もっと熟練度が上がれば、フロートシップを浮かせられるようになるわ」
ユリディスはオルトロスに設置されている風信器の状態を見ながら続ける。
「香哉君のその案はどうしても大型化しちゃうから、それをどうするかが実現前の問題点ね。最低限チャリオットの倍の搭載量が確保できて、その乗り物を操縦する鎧騎士が乗るスペース、ゴーレムが乗って安定を確保する設計とか、色々と必要になるわ」
「なるほど。じゃあ天界製の携帯電話に風信器のゴーレム魔法を掛けたら、他の風信器と会話可能になったりしないのか? 実験した事はある?」
香哉は負けじとばかりに次の機体のチェックに移るユリディスについて回る。梢も少しでも何かを吸収しようと、早足でそれについて回った。
「実験した事はないけれど‥‥持っているなら見せてもらえる?」
足を止めて振り返ったユリディスに、香哉はポケットから携帯電話を取り出してみせる。それは天界人らしい考えと質問だろう。だが携帯電話を一目見たユリディスは軽く首を振る。
「これは‥‥素体が全部同じ素材でないなら厳しいかもしれないわね。素材の種類が多岐にわたっているようなら、魔力分布が均一にならないから」
「も、もう一つ!」
返された携帯電話を手に少し残念そうに、香哉は聞きたかった事を一気にぶつける。
「現在のゴーレムの配備状況ってどうなっているんだ?」
「今はね、金属ゴーレムよりウッドとストーンの増産がはじまっているところよ。これが進めば王宮だけでなく、ギルドにもゴーレムが配備される可能性があるわ」
そうなればもっと簡単にゴーレムを出動させる事が出来るだろう、ユリディスはそう告げた。
「雨霧君にリアレスさん」
チェックを終えたユリディスは他の冒険者達の集まる場所へと赴き、門見雨霧(eb4637)とリアレス・アルシェル(eb9700)の二人に声をかけた。この二人の共通点はモナルコスの装備に弓を選んだ事、である。
「希望通りゴーレム弓を持ってきたけれど、少し注意して欲しい事があるの。メイのゴーレム弓はアルメイラ用に開発されているわ。アルメイラとモナルコスでは機体の大きさが違うでしょう? そうすると手の大きさや腕の長さも違ってくるの。アルメイラ以外は弓を使用することを考えて作られたわけじゃ無いから、照準を合わせるのが少し難しいかもしれないわ」
「久しぶりの実戦だし、皆の足を引っ張らないようにしないとって思っているんだけど」
雨露の呟きにふふ、とユリディスは軽く笑みを見せる。リアレスはその笑顔に浮かんだ意味を的確に感じ取ったようだ。
「事前に照準が合わせづらい事がわかっていれば、戦場で慌てる事もないと思うので助かります。足を引っ張らないように出来るかどうかは、私達次第という事ですよね?」
「ふふ、そういうこと。活躍を期待しているわ、頑張ってね」
「あ、ユリディスさん!」
二人に微笑みかけ、去ろうとしたユリディスを雨露が呼び止めた。その手にはブラッドリングが握られていた。
「これ、余り物で申し訳ないんだけれど。念の為に」
「私に? 念の為って?」
ふ、とリングを受け取って笑ったユリディスに、雨露はぽろりと口を滑らす。
「ほら、なんか危ない所にも行きそうな気もするし」
「どういう意味かしらね、それは。まあ、ありがたく受け取っておくわ」
生徒に心配されるなんて、私ってそんなに無茶に見えるかしら、そう呟きながらリングを嵌め、ユリディスはその手を振って見せた。
●決戦
「これより本艦は、廃村周辺の平地に着陸します、各バリスタは翼竜の接近に注意してください。また、ゴーレム部隊各員は発進準備を! ‥‥ゴーレムニストの皆さん、各機体の準備はOKですか?」
「もちろん」
響の言葉にユリディスだけでなく、ゴーレムに搭乗した冒険者達も肯定を返す。
「敵の数、恐獣と思われる大きさのものが5体、カオスニアンと思われるものが8体、いずれもこちらへ向かってきています!」
梢がブレスセンサーでの探査結果を告げる。
「俺もグライダーで出ますから‥‥後はお願いします」
響とシルビア・オルテーンシア(eb8174)がまずグライダーで飛び立った。次いで降下されたオルトロスに乗り込んだベアトリーセとフラガ・ラック(eb4532)が廃村へと前進する。それに付き従うように王宮から派遣された兵士が乗り込んだモナルコス三体が続く。リアレスと雨露の乗り込んだモナルコスは弓を手に、その後ろから進んでいった。
「吟遊詩人さん、時間がないので詳しい話は後でしますが‥‥戦闘が終るまで艦内で待機していてください」
取り急ぎ吟遊詩人を廃村に着く前に確保する事が出来たが、詳しい事情を説明する暇はない。大きなフロートシップの接近は敵に悟られてしまったのだ。カレンが告げると、吟遊詩人は少なからず事情を悟ったのか、大人しく頷いて見せた。
「なるべく村は壊さないようにしますから‥‥」
梢の言葉にほっとした表情を見せた吟遊詩人。やはりこの人は村自体に用があるらしい。
「弓、いつでも撃てるように準備を!」
ナロベルに残った香哉の指示で、大弩弓の準備がなされる。
今まさに戦闘は始まろうとしていた。
「行きます!」
アリウスをグライダーの後ろに乗せたシルビアが、弓に矢を番える。グライダーの操縦をしながら両手を使う弓を射るにはそれなりの技量が必要だが、彼女はその不利が苦にならないほどの技量を持ち合わせている。
シルビアの射った矢がプテラノドンの一体の角に命中したと同時に、そのプテラノドンが火炎に包まれた。アリウスの放った高速詠唱ファイアーボムだ。その攻撃に一体が怯んでいるうちに、響のグライダーが無事なもう一体との距離を詰める。
「グギャアァァァァァ!」
急接近した響の機体のランスと、彼のペットであるトリさんの連携攻撃を受けたプテラノドンは叫び声を上げ、彼を敵と定めた。その鋭い嘴でグライダーを狙うが、傷を負ったその身体による攻撃は響の素晴らしいグライダーさばきで悠々と回避されてしまう。
「もう一度行くよ、トリさん!」
響は愛鳥に声をかけ、再びプテラノドンへと迫った。
「もう一撃」
先ほどの炎が消え去らぬうちにアリウスのファイアーボムが再びプテラノドンを襲う。そのプテラノドンはふらふらとしながらもシルビアの機体へと迫ってきた。
「近づかせる前に落としてしまいましょう!」
シルビアが矢を番える。アリウスも再び高速詠唱を開始した。
その頃地上ではオルトロスを前衛として人型ゴーレム部隊がカオスニアンと恐獣と交戦していた。ナロベルの大弩弓とナロベルに残った魔法使いの援護を受け、オルトロス、モナルコス共に前進する。
『ここはお前達のいるべき場所ではない。この双剣に懸けて、これ以上の非道は許しません!』
フラガが両手に剣を持ち、二倍近い大きさのアンキロサウルスへと攻撃を加える。敵の固い装甲を逆手に取ったポイントアタックとダブルアタックが華麗に決まる。その攻撃は、敵にガードさせる余裕を与えない。
「(尻尾からの変則的な攻撃に注意です)」
自分に言い聞かせながらベアトリーセは斧を振るう。その斧を避ける事の出来なかったアンキロサウルスは尻尾を動かしての攻撃に移ろうとするが、その攻撃は余裕で回避されてしまう。
そこに斧装備のモナルコスが支援に入り、後衛の弓モナルコス――リアレスの放った弓がアンキロサウルス自身からは逸れて騎乗していたカオスニアンに突き刺さる。
『もう1体を後ろに抜けさせないで下さい!』
フラガが前衛モナルコスへと指示を飛ばす。指示を受けたモナルコス2騎は後衛に抜けさせるまいと2騎がかりでアンキロサウルスに当たっていた。
その時弓がフラガの前のアンキロサウルスに突き刺さる。胴体には当たらなかったものの、雨霧の射った矢はその尾に命中した。
後から押し寄せてくるカオスニアン達は、ナロベルからの援護射撃と援護魔法を前にゴーレムまで到達する事がなかなかできずにいた。
『あ、丸まりました!』
その時、ベアトリーセの対峙していたアンキロサウルスが身体を丸めて防御態勢に入った。その状態を無理矢理伸ばしてひっくり返してお腹側を向けることが出来るか試してみたい衝動に駆られたが、もう1体に対峙しているモナルコス2騎が多少押されているので試している余裕はなさそうだった。丸まったその身体に斧を叩き込む。その装甲に叩き込んだ斧は先程よりダメージを与えた手ごたえが減った気がした。だがそこにナロベルからカレンが放ったライトニングサンダーボルトが命中する。追って梢の放ったライトニングサンダーボルトも命中した。
フラガがモナルコス2騎の応援に向かっていくのが見える。ベアトリーセも目の前のアンキロサウルスに止めを刺し、援護に向かおうとした。
その時には既に上空での戦いは決着がついていて、地上部隊は上空の響とシルビア、アリウスからも援護を受けられるようになっていた。彼らは廃村の建物の影などにカオスニアンが隠れていないか確認に回る。
香哉の指示するナロベルからの射撃、そしてモナルコスからの弓攻撃は主にカオスニアン達を狙っていた。次々とカオスニアン達が倒れていく。モナルコスの弓攻撃はやはり先にユリディスが忠告したとおり照準を合わせづらいのか、時折命中しないものもあったが十分牽制にはなっている。
戦局は冒険者に傾いたまま、有利に進んでいった。
●廃村にて
戦闘が一段落つき、ゴーレムを格納し終わった後、吟遊詩人は皆に礼を述べて廃村へと降り立った。多少流れ矢が家屋に突き刺さっている部分もあったが、敵がフロートシップ目掛けて出て来てくれたおかげで村を壊滅させるには至らなかった。
「それで、吟遊詩人さんはどうしてこの村に? 話したくないなら無理強いはしないけど、聞かせてもらえれば何かできることがあるかもしれないし‥‥」
「いえ、こうして村をカオスニアン達から取り返してくださっただけで十分です」
吟遊詩人はリアレスの申し出に笑顔で頭を下げた。
「私は、この村で何年か過ごした事があるのです。遠い昔の事ですが‥‥。その村が廃村になったと聞き、耳を疑いました。ですが何度聞いても思い出に残るこの村のことで‥‥」
「貴方には大切な、意味のある場所なのですね」
フラガの言葉に吟遊詩人は頷き、ポロン‥‥とリュートを爪弾く。
そして奏でられるのは挽歌。
今はもう滅びてしまった村に対する‥‥。