誰が為の雑歌

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月20日〜04月25日

リプレイ公開日:2008年04月25日

●オープニング

「あ、ユリディスさん。いらっしゃい。依頼ですか?」
「ええ」
「ゴーレム増産とか修理とか?」
「いいえ。湿地帯に巣食っている恐獣退治なのだけれど」
 冒険者ギルドに入ってきたユリディスはつかつかと足を進め、勝手に椅子に座ってカウンターに肘をつく。
「湿地帯といえばこの間の吟遊詩人、お礼を言って今朝発ちましたよ」
「‥‥貴方の思考回路はどうなっているの。なぜあの吟遊詩人と湿地帯が繋がるわけ?」
 呆れたように髪をかき上げるユリディスの言葉が、職員の言葉を受けて止まる。
「次の行き先が湿地帯だと言っていたものですからねぇ」
「‥‥‥‥‥なんだか頭痛がしてきたわ」
 頭に手を当てる仕草をしながら、ユリディスは空いた手で地図を広げ、その一箇所を指した。
「まさか、この辺りの湿地帯とか言ってないでしょうねぇ?」
「ああ、その辺だと言ってたような」
「‥‥‥‥‥何かしらね、あの人はよほど恐獣と縁があるのかしら?」
「恐獣?」
 鸚鵡返しに問う職員に、ユリディスは羊皮紙のメモを取り出して読み上げた。
「ディプロドクス、アルケオプリテリクス、ステゴケラス――その湿地帯で確認された恐獣。いずれも温厚な性格のものが多いらしいけれど、安全と断言は出来ないわ」
「‥‥なんだか聞きなれない名前が多いですけれど、全部恐獣なんですか?」
「ええ。今回はカオスニアンの姿は確認されていないのだけれど」
 その湿地帯には恐獣が住み着いている、と。
「湿地帯だから、ストーンや金属よりウッドの方がいいと思って、借りる手配を整えてきたのだけれど‥‥また途中で吟遊詩人を拾っていかなければならないわね。まぁフロートシップの速度ならば現地に到着する前に詩人を拾うことは可能でしょう」
 小さく溜息をついてユリディスは恐獣の名前と貸与手続きを取ってきたゴーレムの書かれたメモを職員に手渡した。
「人が少なければ、私がゴーレムに乗っても良いんだけれど」
「!? ほ、本気で言ってます?」
 ユリディスの爆弾発言に職員は戸惑って腰を浮かせた。
「鎧騎士さんほどじゃないけれど、多少は扱えるわよ? 推進装置作成でグライダーに携わる事もある関係上、多少は航空技術も学んでいるし」
「でも‥‥前線に出るのはやめた方がいいと思いますよ? ――色々な意味で」
 控えめに注意した職員をユリディスはチラと見、くす、と笑う。
「わかっているわよ。私がゴーレムを操縦して前線に出るなんてよっぽどの事でしょう。グライダーの後ろに乗って援護とかならともかく」
 一応彼女は色々とわきまえているようだが、それがあまり本気に聞こえないのがちょっと怖い所だ。
「ああ、あたり一面は平原と湿地帯だから。特に村とか無いから気にしないで」
 何が気にしないでなのかいまいちわかりかねるが、まぁ敵との戦闘に集中できるという事だろう。


●敵戦力予想
・ディプロドクス 1体
・アルケオプテリクス 5体
・ステゴケラス 3体

●貸与ゴーレム
・ユニコーン最大5騎
・ゴーレムグライダー最大5騎
・フロートシップ・ナロベル(デロベ級3番艦)

※ゴーレムは最大数まで使用しなくても構いません。
※ゴーレムに乗り手がつかず、かつ作戦に必要な場合は人型ゴーレムにのみNPC鎧騎士(専門レベルくらい)が派遣され、作戦にしたがって行動します。
※最大数使用しない場合は何騎まで、と決めてもらえると助かります。

●今回の参加者

 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)

●サポート参加者

土御門 焔(ec4427

●リプレイ本文

●準備
 一行はフロートシップに乗り込み、問題の湿地帯及び吟遊詩人確保を目指した。
 アリウス・ステライウス(eb7857)はユリディスから借りた湿地帯までの略地図を丁寧に書き写し、バーニングマップで吟遊詩人の位置特定を試みる。
 バーニングマップで特定の個人を指定するには、その個人についてどれだけ情報を持っているかが重要となる。例えば今回の場合、「吟遊詩人」だけでは地図内に他の吟遊詩人がいた場合その吟遊詩人も含めた複数の道筋が表示される事になる。だが今回は「湿地帯に向かった吟遊詩人」という情報と、アリウスは前回問題の吟遊詩人に出会っているため顔を知っているので、特定する情報としては十分といえよう。
 魔法発動と共に地図が燃え、残った灰が道を指し示す。
「シファ殿、このようにフロートシップを動かしてはもらえないだろうか。これが吟遊詩人への最短コースと思われる」
 アリウスは残った灰と複数書き写した地図のうちの一枚を照らしあわせ、一つの道筋を導き出す。そしてフロートシップの操縦を買って出たシファ・ジェンマ(ec4322)へとその道筋を伝えた。
「わかりました、この通り進んでみます」
 シファは地図を預かり、フロートシップの進路を変える。
「そういえば今回は基本的にグライダーとナロベルからの精霊砲と射撃のみで、ユニコーンは使わないのね?」
 ユリディスが今一度冒険者達に確認を取る。彼らが決めた作戦は航空戦中心のものだった。
「はい。敵の航空戦力が多いと思われますし、地上戦を挑むとこのメンバーでは不利だと思いましたので」
 答えたのはシルビア・オルテーンシア(eb8174)。ユリディスは了解、と頷く。
「それとシファさん、貴方が友達から教えてもらったという戦法だけれど‥‥」
「ええ、それがどうかしましたか?」
 シファはウィルにいた頃グライダー乗りの友人から教えてもらった戦法だと、「ウィーブ戦法」と名づけた戦法を提案していた。グライダー2機がペアを組み、2機のグライダーの軌道を機織機の縦糸と横糸に見立て、1機が格闘戦に持ち込んだ敵をもう1機が横から攻撃する戦法だという。
「私がその戦法を利用しましょう」
 名乗りを上げたのはシュバルツ・バルト(eb4155)だ。彼女もまた、今回航空戦に挑む鎧騎士である。
「ということだから、シファさんはシュバルツさんとペア組んでその戦法を試してもらえるかしら? ナロベルには私と雨霧くんと梢さんが残るから」
「はい、わかりました」
「それじゃあ吟遊詩人の確保は任せて良いわね? 私はグライダーの点検に向かうわ」
 任せてください、と返される声を背に、ユリディスと数名がグライダーの格納されている部分へと向かった。


「これをグライダーに取り付けたいのだが」
 バルザー・グレイ(eb4244)が取り出して見せたのは、グライダーランスだ。自前のランスを彼は今回使用したいと考えていた。
「これをつけるなら、反対側に錘をつけないとバランスが崩れるかもしれないわね。やってみるから手伝ってもらえる?」
「勿論です」
「あ、俺も手伝います」
 ゴーレムニストとして機体や搭載品のチェックの手伝いに来ていた門見雨霧(eb4637)が手を上げた。二人の男手があればスムーズに作業も進みそうである。
 と、錘をグライダーにつけている作業中に、ユリディスは黙ったままグライダーをじっと見つめている結城梢(eb7900)に気がついた。梢はなんだか不安そうにじっとグライダーを見つめている。
「梢さん、どうかした?」
「あの‥‥今回はゴーレムグライダーにちょっとだけ乗ってみようと思っているんですが‥‥。乗りなれていないので長時間乗れないですけれど、偵察とか言う感じなら‥‥」
「そうねぇ‥‥」
 おずおずと申し出た梢に、ユリディスは顎に手を当てるようにして考え込む。
「梢さん、あなた航空技術を少しでも学んできた?」
「いえ、まだそこまでは‥‥」
「だったら今回は見送った方がいいと思うわ」
 ユリディスとて意地悪でこんなことを言っているわけではなく。
「グライダーはね、起動自体はゴーレム操縦技能で出来るのだけれど、離陸や着陸には航空技術を学んでいる必要が有るの。今の梢さんの状態は――なんて言えば伝わるかしらね」
 ユリディスの言葉を頷いて聞きながら、梢は続きを待つ。一体何で彼女は梢の搭乗を止めるのだろうか。
「素人がムメンキョでヒコウキを運転するようなもの‥‥といえばわかる?」
「――‥‥‥はい」
 チキュウ風に噛み砕いて伝えられたユリディスの言葉の意味を、チキュウ人の梢は良く理解できた。素人が飛行機を操縦したらどうなるか――考えるだけで怖い。
「私のいた世界でも、飛行機は離陸と着陸が最も危険だといわれる事があります。こちらの世界でも同様なのですね」
「そうね。だから今度はグライダーに乗りたかったら、少し航空技術も学んでいらっしゃい。風のゴーレム魔法修得を目指すなら、グライダーに関わることも多いでしょうし、きっと無駄にはならないわ」
「ユリディス殿、取り付けが終りましたが見ていただけますか?」
 わかりました、と納得した様子の梢を見てユリディスは微笑んだ。そこにバルザーから声が掛かる。
「はい、ちょっとまっててね」
 バルザーと雨霧の待つグライダーへとユリディスはスタスタと歩いていく。梢も後学の為に、と急いでその後を追った。


●戦闘
「目標確認。近づかれる前に攻撃を加えます」
 空を飛ぶグライダーの上で、シルビアは弓を引き絞る。目標までかなりの距離があり、グライダーを操縦しながら両手を使うという不安定な状況だが、彼女の磨き上げた技術がそれを可能としている。
 シルビアの弓から矢が放たれる。それは1体のアルケオプリテクスに命中した。敵はふらりとバランスを崩す。
 このアルケオプリテクスという敵、大型の鴉くらいの大きさで爬虫類と鳥の合わさった様な不思議な外見をしていた。そして翼の中心付近に手の様なカギ爪が見える。これが5体いた。
 バルザーのグライダーが敵に接近していく。ある程度距離を詰めた所で敵3体が炎に包まれた。グライダー後部に搭乗したアリウスの高速詠唱ファイアーボムが炸裂したのだ。
 炎が、敵を包む。炎に包まれたアルケオプリテクスはふらふらと頼りない飛行状態に陥りながらも、こちらへと向かってくる。
「もしかしたら思ったより耐久力がないのかもしれませんね」
 アリウスが操縦をするバルザーへと声をかけた。確かに敵は少し力を絞ったファイアーボム一発で大分弱っているように見える。
「それならば一気に殲滅するのみ」
 牽制も兼ねて、バルザーは敵の1体に攻撃対象を絞る。そして一気に近づき、装着したグライダーランスでその身体を突いた。
 その一撃を受けた敵は、懸命に飛んで入るがふらりふらりと高度を下げていく。

 未だ無傷の1体に対しては、シファが格闘戦を挑んでいた。ひきつけられているとも知らず、敵は嘴でシファの機体を突付こうとするが、彼女はそれをひらりと避ける。そこにシュバルツの操縦する機体が近づいてきた。横合いからすれ違い様に薙刀でスマッシュEXを叩き込む。それをまともに受けた敵は辛うじて飛んではいるのだが、ふらふらと高度を下げていった。シファがそれを追い、追撃をかける。
「もう一発‥‥」
 未だ敵との距離を保っているシルビアは、再び鉄弓を引き絞り、同じ敵を狙う。少しでもダメージを与えておいて、格闘戦に入る味方の援護をしたい。
 一方バルザーは敵の群れから再び距離を取っていた。そして味方を巻き込まないことを確認し、アリウスがファイアーボムを唱える。バルザーのグライダーを追ってきていた先ほどと同じ3体が、炎に包まれる。うち、格闘戦を仕掛けた1体は力尽きてまっ逆さまに地上へと落下していった。


 地上では停泊したナロベルから、湿地帯にいる2種類の恐獣への一斉射撃が行われていた。雨霧の指揮で、まず精霊砲が火を吹いた。炎が恐獣ごと湿地帯を直撃する。グギャーシギャーという鳴き声が辺りを覆う。続けて大弩弓から矢が、雨のように容赦なく恐獣たちへと降り注ぐ。
「本日は晴天なり。されど局地的に精霊砲とバリスタの矢が降りし。ってね」
 雨霧は自らも弓を手に、恐獣の胴体を狙う。複数の矢と精霊砲の攻撃を受けて、恐獣たちが弱ってきているのは確かだった。
「まだ地上には5体います。こちらに接近して来ているようです!」
 ブレスセンサーで援護をする梢が叫ぶ。フロートシップに攻撃されたらアウトだ。何とか近づかれないように牽制しなくてはならない。
 バリバリバリッ!
 ユリディスの掌から雷が走った。それは小さい方の恐獣のうち2体を貫く。ライトニングサンダーボルトだ。
「バリスタ、打て!」
 雨霧の指示で再び、大弩弓から大量の矢が放たれる。その矢を何本もまともに受けた小さい方の恐獣――ステゴケラスはナロベルに接近できずに力尽きた。だが大きい方の1体――ディプロドクスはその動きは鈍くなっているものの、未だにナロベルへの接近を諦めてはいない。
 梢も攻撃に切り替え、ユリディスと共にディプロドクスを攻撃するが、その進行は止まらず――
 その時、上空からディプロドクスを矢が貫いた。シルビアの射った矢だ。敵は今までと違う方向からの攻撃に、一瞬空を仰ぐ。と、その身体を炎が包む。アリウスのファイアーボムだ。上空の恐獣を倒し終わったグライダー達が、一気に30メートル近い恐獣へと攻撃を開始する。余り大きなダメージを与えられているとは言いがたいものの、恐獣は周りを飛び回り、そして飛び去っていくグライダーに気を取られ、その歩みを止めた。
「今のうちに」
「はい!」
 梢とユリディスとが、味方に当たらぬように注意をしながらライトニングサンダーボルトを唱える。
 ディプロドクスは周りを飛び回るグライダーが目障りらしく、爪で反撃を試みるがそれはことごとくかわされていく。
 グライダー、弓、魔法の攻撃が何度か続いた。
 しばらくして漸く、その巨体が傾ぎ、どすんと音を立てて泥を跳ね飛ばし、倒れた。


●吟遊詩人
「ところで‥‥貴方は何をしにここへ? あてもなく旅をしているのですか?」
 アリウスのプットアウトによる消火が済んだ事を確認した後、途中で拾った吟遊詩人はフロートシップの外に出ることを許された。そんな吟遊詩人にシルビアが問う。
「いえ、昔ここで私は大切な友と出会ったのです。その思い出の地を、もう一度目にしたくて」
 特に意図して恐獣の住処を狙ったわけではないらしい。吟遊詩人がかつて友と出会った時は、まだ恐獣は住み着いていなかったのだろう。
「これからも思い出の地を巡ったりするんですか?」
「ええ、そのつもりです」
 雨霧の問いに、吟遊詩人はゆっくりと頷いた。
「また恐獣に出会ったりするのですかね‥‥」
 梢のぽつりとした呟きを、誰も否定する事は出来なかった。