花祀りたる女童の主張

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月23日〜04月28日

リプレイ公開日:2008年04月29日

●オープニング

●花祭り
 四月のお祭り、花祭り。
 丁度種蒔きの時期に当たるこの月には、花祭りと称して各地で様々な祭りが行われる。
 ここで一つ、とある村の花祭りを紹介しよう。各地で行われる様々な花祭りのうちの一つに過ぎないのだが、村にとっては大切なお祭り。

 この村では花祭りに際し、7歳から12歳の村娘の中から6人の花童(はなわらわ)を選出する。花童は祭り当日、豊穣を願いながら各家を訪問する。
「種、芽吹きたまえ。花、咲かせたまえ。実、実りたまえ」
 そう唱えながら、各家を回り、出てきた家の人々に籠から花びらを取り出し、振り掛ける。花びらの雨だ。ちなみにこの花びら、本物の花を使うわけではない。様々な色のリボンを花びらの形に切り取った物を使用する。
 そして花童の祝福を受けた村人は、お礼にその家で作った『花びら』を花童の籠に入れてやる。こうして籠を満タンにした花童は、次の家に祝福を与えに行くのである。
 花童の祝福を受ければ、まいた種は無事に芽を出し実をつける、とこの村では言い伝えられている。

 この花童、なぜ6人かというと各精霊を意識しているらしい。
 水・風・土・火・月・陽、この6精霊をイメージした衣装を花童は着用するのだという。


●女童(めわらわ)の主張
「我慢できない!」
「そーよ、もっと綺麗なのがいい!」
「何を言っているんだい、これは代々受け継がれてきた由緒ある‥‥」
「由緒なんかより、もっとふりふりで綺麗なのがいい!」
「こんなくたくたなのは嫌!」
「もっとかわいいのがいいなー」
 村のとある家。今年の花童に選ばれた6人の少女が集まり、衣装合わせが行われる――はずだった。だが衣装を保管している家のおばさんの声は空しくかき消されていく。
「もっとこう、今時って感じの、珍しいデザインがいいわ」
 花童たち、言いたい放題である。
 この村の花童の衣装は、その年選ばれた花童によって多少丈を詰められたり緩められたりはするものの、基本的にずーっと同じものを使い続けてきた。それだけ村人が大事に大事に使用し続けてきたのだ。だが今年の花童たちはその衣装に異を唱えた。きっかけはこの間村に滞在した冒険者達。その素敵な装いを見てしまってから少女達は御洒落に目覚めてしまったようだ。
「王都で流行っているような服装とかー」
「噂では天界って所の衣装は変わっているっていうじゃない?」
「こんな使いまわしの古臭い衣装、嫌よ!」
 かといってこんな小さな村で、今王都に流行っているファッション、ましてや天界のファッションに詳しい者などいるはずがない。
 困り果てた村長は、冒険者に縋る事にした。きっかけも冒険者だし。
 何にせよ、花祭りが出来ないという事は村にとっては大ダメージなのだ。小さな村ほど、こういう祭りごとを大切にするから。


●依頼内容
1.花童たちに新しい衣装を作ってあげること。
 既存の服を持ち寄りそれを改良するのでも、元ある花童用の衣装を改良するのでも可。
 ただし元からある衣装はかなり年季が入っていて、古ぼけていてくたびれているので、新しくしてあげた方が喜ぶかもしれません。

 どちらの場合も以下の条件を守ること。

◎条件
・6精霊をイメージした6種類の衣装を作ること


2.花童の使用する花びら作成の手伝い
 リボンを使い、花びらの形に切り抜く作業です。この時期この村ではどの家でも行われている作業です。作ってもらうのは最初に花童たちが撒く花びらです。
 リボン自体は村に用意されています。


3.籠を作成する
 木の枝を使い、花童たちが使用する籠を作ります。
 材料調達――村の裏の森で木の枝を取る所から始まります。そして取った木の枝を使用して籠を編みます。
 出来上がった籠へ可愛らしい装飾を施す事も可能です。


4.その他
 何かいい案を思いついたら実行どうぞ。
 祭り当日は、花童のパフォーマンス後、各家庭から持ち寄られた料理をお召し上がりください。
 希望があればその後の種蒔きにも参加が出来ます。

●今回の参加者

 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb9356 ルシール・アッシュモア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●花祭りの村へ
 陽精霊の光ぽかぽかする中を歩き行くと、目的の村にはすぐに到着できた。村の入り口で女の子達数人がこちらへ向かって手を振っているのが見える。
「やっほ〜よろしくね〜!」
 大きく手を振ってそれに応えるのはフォーレ・ネーヴ(eb2093)。彼女の明るさは一行の心をも明るくさせる。
「それでは早速始めましょうか」
 村で一番大きいという村長さんの家の部屋を借りて、女童の新しい衣装制作会議が始まる。まずはそれぞれが担当の女童に衣装を合わせ、こんなイメージで作りたいということを着る当人と雀尾煉淡(ec0844)に告げる。勿論この時点で持ってきた素材や布は目童のサイズに合っているわけはない。イメージを告げられた煉淡が持参したキャンバスに木炭でデザイン画の様なものを書き、出来上がり想像図を作るという流れだ。そしてそれが済んだら実際の作業に入る。
 衣装は着回しが基本だからして、毎年何歳のどんな体格の目童がどの精霊を担当するかわからない以上、ある程度その年にサイズ変更が行える衣装作りが望ましい。そこは冒険者達のデザインと、作成を手伝う村のご婦人達の手に掛かっているだろう。そうそう、さすがに冒険者達だけでは手が足りないので、裁縫などの面では村の婦人の手を借りることにしたのである。あれもこれも自分でやろうとせずに、出来ない部分は人の手を借りる。それも良い知恵。

「水の精霊担当の子ー?」
 レン・コンスタンツェ(eb2928)の呼びかけに応えたのは8歳くらいの女の子。ぺこりと頭を下げた後、期待に満ちた瞳でレンを見つめる。
「水は流れるものというイメージと青系ってイメージがあるから」
 まずレンが提案したのは短く纏まった動きやすい下着。そこに薄手の青いシャツとパンツズボンを重ねる。そしてその上から白く、薄い生地を掛ける。
 未だ整形されていないからして一枚布状態のその薄い白布は、さらさらと音を立てて女童の肩を滑る。白い生地が薄いので、下の青色が透けて見え、水色に見える。
「この白い布を長い上着にして、下は巻きスカート風にする。ぴったり身体につけるのではなく、ゆったりとした流れをイメージしてひらひらした飾り布を多めに。装飾とかはワンポイントに留める。どうかな?」
 レンの案を聞いていた女童の母親はなるほど、とその薄布をどう加工するのか考え始めたようだ。対する女童本人は想像が追いつかない様子で、きょとんとしながらも手触りの良い薄布を楽しんでいる。
「それではこんな感じでしょうか?」
 煉淡の描いたデザイン画を見せられ、漸く自分の着る衣装がイメージできた女童は「大人っぽくて素敵!」と喜びの声を上げた。

「火の精霊と陽精霊担当の子はこっちへきてください」
 土御門焔(ec4427)は煉淡と組んで女童の衣装をコーディネートする。まずは火精霊担当の子からだ。こちらは7歳の女の子。今回の最年少だ。とてとてと嬉しそうに近寄ってくる。
「かなり丈を詰めないといけないかもしれませんけれど」
 焔はまずイフリートローブを女童に羽織らせた。思ったとおり引きずるような格好になってしまったが、まだ手を加えていないのだから仕方がない。そして小さな耳と指にスカーレットピアスと火霊の指輪をつけてあげる。
「これは後でこのおにいちゃんに赤く塗ってもらいますからね」
 と安心させるように前置きしてから水晶のティアラを小さな頭に載せてあげ、骨を赤漆で塗り、蒔絵の花びらを漂わせた皆紅扇を持たせる。
「これ、きれいね」
 女童は一人前にアクセサリをつけてもらえたことが嬉しいのだろう。きょろきょろと落ち着かない様子で指輪や扇子を眺めている。あんまり落ち着かないものだから、付き添った母親に「こら、きちんと丈が計れないでしょう」とたしなめられたりして。
「はい、これが完成想像図です」
 煉淡の示した完成図。それに近づけるべく女童の母親と村の婦人は作業に掛かる。焔は続いて陽精霊担当の子のコーディネートに移った。こちらは12歳の女の子。背も高く、身体もある程度大人に近づいてきている。
「お待たせしました」
 焔に呼ばれ、その女童は立ち上がって彼女に近づく。先ほど目の前で火精霊担当の子のコーディネートが行われていたのを見ていた彼女の心は、期待に膨らんでいる事だろう。
「まずはこれを」
 焔が女童に着せたのは神馬の皮で作られたといわれる、黄色の外套、吉光の毛衣だ。こちらは今年は丈を詰める必要はなさそうで。普通に使うなら別だが、お祭りに使うのだから多少引きずりそうなくらいが良いだろう。
 そしてゴールデンネックレスを首にかけ、スカラベの指輪を嵌めてやる。太陽のブランシェットを持たせて頭に護法の冠を乗せる。するともう既に出来上がったようなものだった。
 丈を詰める必要がない分、後は当日髪型を弄れば完成という感じだ。デザイン画を描く煉淡もさささっと完成図を作り上げる。
「とても素敵、満足よ」
 女童はにこりと二人に笑いかけた。

「(女童さん達は、目新しいものに惹かれてしまう年頃なのよね。けどね、古い物だって捨てたものじゃないって事、教えてあげたいですね)」
 地精霊と風精霊担当の子は二人とも10歳だという。しかも双子。そっくりなので一見してはどちらがどちらだか判らなくなるから注意をしなくては。
「ではまず地精霊からですね」
 ソフィア・ファーリーフ(ea3972)の考えた衣装は和風だ。白布に花鳥草木が青摺りされている千早をベースにし、アクセントに新緑の髪飾りをブローチ代わりに胸元につける。そして茶系統の布を帯代わりとして腰に巻いていく。
「これは茶色の帯を大地と見立て、根付く植物を千早の柄で表現しているのですよ」
 その衣装には地精霊を友とする魔法使いである彼女のこだわり感じられる。最後に軽くラベンダーの香水を振り掛けてあげた。
 煉淡がデザイン画を描いているうちに、ソフィアは双子の片割れの衣装に取り掛かる。こちらは風精霊だ。
 軽やかで肌触りが滑らかな、薄く透ける薄絹の単衣を着せる。これで透明感と軽やかさを表現。
「よっと」
 と、突然ソフィアが羽扇の羽根を毟り始めた。何事かと驚いたのは女童とその母親。
「ちょっ‥‥」
「え? ああ、大丈夫ですよ、この羽根を使うんです」
 羽根を全て毟り終えたソフィアはそれが飛び散らないようにとかき集める。
「この羽根を単衣に縫い付けます。動いたり風が吹けば、羽根がひらひらと揺れるようにします。ちょっと大変な作業かもしれませんけれど、私も手伝いますから」
 さすがに二人の子供の衣装を一人の母親が手がけるのは大変だろう、とソフィアも手伝いを申し出る。
「およ、じゃあ私はここのお手伝いをした方がよさげかな?」
 きょろきょろと他の場所も見回っていたフォーレがひょっこりと顔を出す。
「そうね、私も裁縫に詳しいわけじゃないから、技術的なことを教えてもらえれば助かるわ」
「さて、できましたよ。どうですか?」
 煉淡が出来たキャンバスを二枚並べてみせる。
「「うわぁ、神秘的で素敵」」
 双子は声を揃えて喜んだ。

「うぅん〜こんな感じでどうよ?」
 自信なさげに月精霊担当の女童を見上げるのはチュール。月精霊担当の女童が11歳で助かった。着せてあげなくても指示するだけで済むから。小さいチュールが子供とはいえ人間に服を着せてあげるのは、ちょっと大変なのだ。
 チュールが提案したのは紺色の、裾のふわっとしたドレスに、肩から斜めに銀色の布をかけること。布は帯状ではなく、もっとふわふわで柔らかい素材を使い、ふわっとさせて幻想的な様子を表現。紺色が夜、銀色の布が咲き精霊の光をイメージしている。それに加えて銀色のイヤリング。銀色のティアラ。少し寂しい胸元には――
「これ、出血大サービス! あたしのコレクションの中から持ってきたんだよ。古く見えるかもしれないけれど、大切にされてきた、思いの籠った品なんだからね!」
 文句禁止、と言ってチュールが差し出したのは、天界の三日月を象ったトップのついたネックレス。
「ありがとう、妖精さん」
 おとなしそうな少女は文句を言わずにそれを受け取ろうとする。だがチュールはそれをふいとかわして少女の後ろに回った。
「これくらいはつけてあげるよ」
 そうこうしている間に煉淡のデザイン画が完成する。それを見た女童は満足そうに頷いた。


●花咲かせたまえ
「種、芽吹きたまえ。花、咲かせたまえ。実、実りたまえ」
 六人の少女がそれぞれ籠を手に、一軒ずつ村の家を回る。冒険者達はそれについて回った。煉淡がファンタズムのスクロールで各精霊役の少女の背後に光を作り、焔が陽精霊役の少女の背後にライトのスクロールで光を作る。
 その光を受けて、舞い散る花びら。
 それは本物の花びらではないけれど、ひとつひとつ手作りの気持ちのこもった花びらは、皆の願いを受けて舞う。
「ありがとう。さて花びらを上げようね」
 次の家へと赴く花童たちの花籠に、その家で作成された花びらが詰め込まれる。そして花童たちは次の家へと移動し、再び願いを込めて花びらをばら撒く。
「種、芽吹きたまえ。花、咲かせたまえ。実、実りたまえ」
「こういう昔からの習慣ってなんだかよいわね」
「そうだね〜。新しいものばかりがいいものじゃないってこと、この子達も判ってくれるかな?」
 古い方の衣装を着せてもらったソフィアが祭りの光景を見て隣のフォーレに話しかける。フォーレも小首を傾げて応えた。
「衣装は新しくなっても、祭り自体は古くから続いた良き物だからね。でもそういうものは、自分が親になって自分の子供が花童に選ばれた時に初めてわかるのかもよ?」
 花童の動きにあわせて竪琴を奏でていたレンが口を挟む。確かにそうかもしれない。この子達が大きくなって自分の子供が花童に選ばれた時、きっと彼女たちは自分の子供の頃を思い出すだろう。
「『お母さんが子供の頃、冒険者に作ってもらった大切な衣装だから古いなんていわないの』なんて怒ったりしますかね?」
 焔がくすくすと笑みを浮かべながら呟く。
「いうかもしれませんね〜」
「あはは、あるかも〜」
 冒険者たちの間に、笑いが広がる。
「でもそうやって大切にされれば、俺たちのしたことも報われるというものです」
 煉淡がしみじみと呟く。果たして十年後、二十年後はどうなっていることだろうか。


 煉淡と焔の提供した幸せの香る桜餅とエチゴヤのももだんごを加えた食事の席は、例年と違って冒険者たちを迎えたことで賑やかに過ぎていった。
「この後種蒔きをするんだが、誰か参加するかい?」
 おじさんに問われ、即手を上げたのはソフィアだ。彼女は土いじりが大好きなのだ。次いで煉淡も手を上げる。
「じゃあ食事が終ったら作業を始めよう」
「その前にじゃ、お礼にもならないかもしれんが、これを」
 村長が差し出したのは大理石の植木鉢とスコップ。祭り手伝いのお礼にくれるのだという。
「ところで古い衣装はどうしたらいいかのう?」
 村長の問いにすかさずチュールが声を上げる。彼女、実は密かにずっと狙っていた。この、大切にされて思いの籠った衣装を。
「私がもらってあげ――」
「「駄目です」」
 冒険者たちの声が被る。彼らは古い衣装は伝統を伝えるために残しておくべきものだと、意見を一致させていた。
「ちぇ〜」
 折角お宝を見つけたのにな、と悔しそうに笑うチュール。
「また別のところでお宝を探すといいよ」
 フォーレに撫でられ、まぁ、そうなんだけどーと彼女は呟く。捨てるつもりなら、貰う気満々だったらしい。
「まぁ、捨てる気になったらいつでも言って。あたしが引き取ってあげるから」
「「チュールさん!」」
 まだ諦めない彼女の姿勢に、呆れたように冒険者たちが声をかける。それは村人たちの笑いをも誘った。

 暖かい陽気に包まれ、種は土にもぐり、そして芽吹く。
 実りを祈り、長く繰り返されてきた祭りは続けられる。
 願わくば、今後も同じ様に祭りが繰り返されますように。
 衣装に籠められた冒険者たちの思いが、末永く伝えられますように。