青色気分でときめいて
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月24日〜04月29日
リプレイ公開日:2008年04月29日
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●オープニング
●青色気分
冒険者ギルドで依頼を受けた冒険者達が王宮の宮廷絵師の部屋を訪ねると、依頼人であるファルテ・スーフィードは椅子に座り、キャンバスに向かっていた。その手には筆が握られている‥‥が、現在その筆は動いていない。
彼女はキャンバスの一点に見入っていた。その箇所は、深い青色で彩られている。
「‥‥海の絵、ですか?」
冒険者の一人がその背に声を掛けた。こうでもしないと彼女は気づきそうになかったもので。それほど熱心に――というよりうっとりと、彼女はその青色に見入っていたのだ。
「あ、はい‥‥」
彼女は声を掛けられて初めて冒険者達の存在に気がついたようで、少し照れたようにぱたぱたと服の裾を叩いて居住まいを正す。
「話に聞いたマーメイドを描いている最中です。どうでしょう、上手く描けているでしょうか?」
キャンパスに描かれているのは、下半身が魚、上半身が美女の生き物。鮮やかな色彩で彩色されているその生き物は、背景の海(塗り途中だ)の中、艶然と微笑んでいる。
だが「どうでしょう」と聞かれて「本物のようだ」と答えられるほど、実際にマーメイドを目にした事のある人はいない気がする。なのでとりあえず似ているかどうかは別として、絵を軽く褒めるに留める冒険者達。
「ところで本題なのですが‥‥」
ファルテは描きかけの絵を指した。所々キラキラと光るその海の色は、見ているだけで心があらわれそうな色。吸い込まれそうな色。その青にはラピスラズリが使用されているらしい。
「先日、皆さんに3つの鉱山の問題を解決していただきました。3つの鉱山とも無事に発掘が再開されたのですが‥‥ラピスラズリの鉱山から王都への輸送ルートが盗賊に襲われました。しかも‥‥」
彼女は一瞬言葉に詰まった後、その続きを一気に告げた。
「‥‥目撃情報によれば盗賊は浅黒い肌をした大柄の男達――カオスニアンの様なのです」
幸い、襲撃当時恐獣は使役していなかったようなのですが、と彼女は付け加える。
「というわけで、ラピスラズリ鉱山から顔料となるラピスラズリを預かり、王都まで持ち帰ってほしいのです。道中万が一カオスニアン盗賊達に襲われたら、その退治もお願いします」
あくまで依頼の第一目的は顔料の原料になるラピスラズリの輸送だ。だが余裕があればカオスニアン盗賊達のアジトを突き止めたりしても良い。ただ目撃された時は連れていなかっただけであり、騎乗用の恐獣を連れていないとも限らないので十分注意をした方が良い。
「ラピスラズリが届かないと、この絵だけでなく他にラピスラズリを使用する絵が完成せず、他の絵師の仕事にも支障が出ます。また、他に盗賊達の被害にあう人達が出ないとも限りません」
どうかお願いします、とファルテは深々と頭を下げた。
ちなみに輸送成功の暁には、少しではあるがラピスラズリの顔料を分けてくれると彼女は言う。宝石的価値はない、元々顔料にするために選り分けられた欠片ではあるだろうが、絵に興味がない者も記念に貰ってはどうだろうか?
●リプレイ本文
●青の素
鉱山でラピスラズリの乗った馬車を受け取る。ラピスラズリの安全を鉱夫たちに約束した冒険者達の顔は一様に真剣なものであった。
「絵が無事に完成できるように頑張らなくてはなりませんね」
馬をひと撫でし、御者を務めるクウェル・グッドウェザー(ea0447)が呟く。
「最善を尽くすことを目指そう。アジトの追跡は一応行わない方向で、常に警戒を怠らず粛々と王都を目指そう」
馬車に乗り込むマリア・タクーヌス(ec2412)の言葉に、先に乗り込んだカレン・シュタット(ea4426)が頷き返す。
「ラピスラズリの輸送ですか‥‥」
馬車の中を見れば木箱がいくらか積まれていた。この中に顔料になるというラピスラズリが詰まっているのだろう。
「ファルテか‥‥折角鉱山の採掘が再開されたというのにまたこれか‥‥」
運が悪いというかなんというか。鉱山を再開させるまでに苦労して冒険者達を集めていたというのに再開された途端これでは、少し哀れになってくる――レインフォルス・フォルナード(ea7641)はぽつりと誰にともなく言葉を零した。
「この世界に来て初めての戦いだけれど、できる限りの事をしようと思います」
チキュウ人のレラジェ・カルファー(ec4817)は初めての依頼という事で緊張しつつ、馬車の中でショートソードを握り締めていた。
「そんなに緊張しなくても、きっと上手くいきます」
全力を尽くす、そう決めていたアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)が、緊張気味のレラジェを落ち着かせようと声を掛けていた。
「それでは、出発しましょうか」
クウェルが馬に鞭を入れる。
馬車は王都への道をゆっくりと走り出した。
●来襲
見晴の良い場所はできるだけ早く移動し、隠れる場所がある道は安全を第一にいつ襲われても対処できるようにしておく。クウェルの操る馬車は緩急織り交ぜて走っていた。
「(何事もないといいのですけれどね‥‥)」
クウェルは横に置いた盾をふ、と見やる。このまま王都まで何事もなく到着できるに越した事はない。だが――それは儚い望みだった。予想通りというか予定通り、樹木や茂みの多い道に掛かった途端、ヒュンッと何かが飛んできた。
矢だ!
「!」
咄嗟にクウェルは手綱を片手で捌いて馬車を止め、反対の手で十字架のネックレスを握り、高速詠唱でホーリーフィールドを展開する。
ホーリーフィールドを突き破った矢が、クウェルの腕をかすった。
「皆さん、敵襲です!」
彼の叫びに、馬車の中からレインフォルスとアルトリア、レラジェが飛び出した。マリアとカレンは馬車から出たものの後方に位置し、いつでも援護を行えるようにと様子を窺う。
「大人しく荷物を置いていけ!」
茂みの向こうから、浅黒い肌に黒い髪の大男が三人ほど現れた。カオスニアンだ。
「これがカオスニアン‥‥」
カオスニアンと初めてまみえるレラジェが、思わず呟きを零す。
「はいそうですか、と渡すわけにはいかない‥‥」
レインフォルスが己の得物に手を伸ばしたのに倣い、アルトリアとレラジェら前衛が武器を構える。
「どうやら恐獣は連れていないようだな」
茂みや木々の間は恐獣の大きさでは移動が困難だろう。それに今つれて出てきていないということは敵に恐獣はいないとみていい。
「そうですね‥‥つれていたら戦闘にも使うでしょうから」
後方で小声で言葉を交わすマリアとカレン。
「どうやら大人しく渡す気はないようだなぁ。ならばやっちまえ!」
身長二メートル近いリーダー格の男に先導され、残り二人の男も雄叫びを上げて一行に襲い掛かってくる。
「来ます、気をつけて!」
御者台から降り、馬車と馬を守る形でクウェルは立つ。
リーダー格のカオスニアンは剣を大きく振り下ろすようにしてレインフォルスを狙ったが、あっさりと回避されてバランスを崩す。残り二人のカオスニアンは、それぞれアルトリアとレラジェを狙った。二人はその剣を辛うじてかわしたが、次はかわしきれるかわからない。
「今度こそ当ててやる!」
その意気込みを籠めて振るわれた剣は、アルトリアとレラジェを直撃して。
「先制攻撃、いきます」
カレンが後衛から魔法の詠唱を開始した。マリアが高速詠唱でローリングラビディを唱え、三人のカオスニアンを中空へと舞い上がらせ、そして落下させる。
「うがあぁっ!」
落下の痛みに叫び声を上げる敵たち。だが冒険者達がそれを黙ってみているはずはなく。
「‥‥お前たちの行い、許されるものではない」
態勢の整わないリーダー格のカオスニアンに、レインフォルスが素早くサンソードで二度斬りつける。彼の胸元に、レミエラの光が蜃気楼のように浮かび上がった。
「今のうちに!」
アルトリアも、先ほど斬りかかって来た敵に両刃の直刀で斬りかかる。彼女の胸元にもレミエラの光が浮かび上がっていた。
「この攻撃‥‥効くかな?」
レラジェは初戦だというのに慌てた様子なく、向かってきた敵にショートソードで二度斬り付けた。
「援護しますね!」
前衛が男達を止めてくれている、そう判断したクウェルは胸元にレミエラの光を宿しながら聖者の剣を構え、ソニックブームを打ち出す。その衝撃波を食らい、立ち上がろうとしていたリーダー格のカオスニアンが更によろめいた。
その時、カレンの体が淡い緑色の光に包まれるのが後衛にいる者の横目に映った。詠唱が完成し、その掌からライトニングサンダーボルトが放たれる。
「「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」」
その雷撃は手下カオスニアン二体を貫通し、そして地面に消えていく。
「このままで終ってたまるか!」
カオスニアン達はふらつきつつも、懸命に剣を振るう。だが傷を負った身体でのその攻撃は、明らかに最初の攻撃よりも精度が落ちていて。冒険者達にひらりとかわされてしまう。
「捕縛を試みてみます」
クウェルがカオスニアン達に近づき、高速詠唱のコアギュレイトで手下の一人を拘束に掛かる。その間にもマリアのローリングラビディがカオスニアンを落とし、レインフォルスの剣が閃き、アルトリアとレラジェも傷を負いながらも勇敢に戦った。カレンは立ち位置を少しずらし、ボスと手下一人を纏めて雷撃の餌食にする。
程なく戦場は静かになった。
「お前達のアジトはどこだ」
コアギュレイトの効果が切れる前にロープで拘束された手下カオスニアンは、傷跡そのままで道端に転がされている。
「それを話して俺が得する事はないだろう!」
だが、口を割る気は全くないらしい。
「まあ‥‥得はないでしょうね」
カレンがそれを肯定した。アジトを教えれば逃がしてやるなどという交換条件を持ち出すわけにもいかない。
「どうするか‥‥」
捕虜として王都に連れて帰っていいものか、少し迷う所だ。レインフォルスはカオスニアンを見下ろしながら呟いた。
「さて、これで傷は治りました。もう安心ですよ」
アルトリアとレラジェ、二人の怪我の治療をしていたクウェルがにっこり微笑む。
「有難うございます」
「ありがとう‥‥魔法って便利なのですね」
二人はクウェルに礼を言い、一緒に馬車近くへと戻ってきた。
「まだ口を割りませんか?」
「ああ」
クウェルの問いに、マリアがどうしたものかと苦笑する。
「一応王都まで連れて行って、あとは依頼人の判断に任せるのはどうでしょうか‥‥?」
多少辟易した様子で提案されたカレンのその言葉に、異を唱えるものはいなかった。
拘束されているとはいえカオスニアンと馬車に同乗、という居心地悪い旅路になるが、致し方あるまい。
●青色気分でときめいて
「これが絵の具ですか‥‥」
運んできた荷物の中からラピスラズリを取り出し、小鉢に入れて砕くファルテの姿を見て、カレンが呟いた。
「まだ、絵の具になる前の状態ですけれどね。これが結構力のいる作業で‥‥」
確かに草などをすりつぶすのとは違い、石を砕くのには力が要るだろう。だがこの苦労があってこそ、美しい色が手に入るのだから。
「この世界には、私のいた地球のような絵の具はないのですね」
レラジェも、不思議そうにファルテの作業を見守った。
「これで無事に絵は完成できそうですか?」
クウェルの問いに、ファルテは小鉢から顔を上げながら頷いた。
「捕縛したカオスニアンだが、アジトを突き止めるまでには至らなかった」
「後はお城の兵士達に任せましょう。こうしてラピスラズリをしっかりと運んでくれた、それだけで十分です」
申し訳ない、と頭を下げるマリアに、ファルテは頭を上げさせる。
「ほら、守っていただいたのはこんな綺麗な青です」
粉末にされ、卵などと混ぜられて絵の具となった青色を、ファルテは筆につけて描きかけのキャンパスに走らせる。
人魚の背景である海に、一筋の青い線が引かれた。
「綺麗だな‥‥」
目の保養になる、とじっと絵を眺めるレインフォルス。
「綺麗な青ですね」
アルトリアも、ゆっくりとファルテの手で染められていく海を眺めた。
「この青を、おすそ分けしますね」
筆をおき、ファルテはラピスラズリの詰まった木箱へと歩み寄ると、なにやら選別を開始した。そして暫くしてそれを、一袋ずつ冒険者達に手渡す。
「ラピスラズリの顔料です。よろしければ記念に」
深みのある美しい青。宝石的価値はない顔料用のラピスラズリだが、彼女からの感謝の気持ち。
「本当に、有難うございました」
彼女は柔らかい笑みを浮かべ、冒険者達にゆっくりと頭を下げた。