デリバリー冒険隊

■ショートシナリオ&プロモート


担当:天野りお

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月23日〜03月30日

リプレイ公開日:2008年03月27日

●オープニング

 今日もギルドに依頼が舞い込んできた。やや風変りな依頼が。
「女の子に誕生日プレゼントを届けてほしい」
 商店を営む男がにこやかに言った。
「驚かせたいので、誕生日きっかりに届けてくれ。もし村に早く到着した場合は、村で時間をつぶしてくれ」
「それでプレゼントはどこでしょう?」
 ギルド役員が不思議そうに尋ねると、男はにこやかに続けた。
「まだ出来ていない。木苺のジャムなんだが、砂糖が届かなくてね。誕生日の三日前に渡すからそれまで待っていてくれ。なんとしても頼むよ」
 男は続けた。
「そうそう、向こうについたら誕生日を一緒に祝ってやってくれよ!」
 ギルド役員はため息をつき、この風変わりな依頼を受けてくれる冒険者を探すことにした。プレゼントの品を早めに受取って、早めに出発することは出来そうにない。請け負ったらギリギリで出発することになりそうだ。

 プレゼントを届けなくてはならない場所はパリから街道を利用すると二日ほど歩いた小さな村。間に森と丘陵を挟んだ閑静な場所だ。
 村に行くルートは三つある。

 一つは街道を通っていくルート。ここには最近旅人を襲う盗賊が出没して、困った人間を装い、旅人から持ち物を奪っていくという。ここを通れば最短二日ほどで村に着くが、盗賊に荷を奪われる危険が伴う。盗賊は人数が多く、一度やられても、残った仲間がつけ狙ってしつこく追い回すという。ただし、整備された道であり、人も行きかうため、モンスターは滅多に現れない。

 もう一つは遠回りして平坦な道を行くルート。ここは道が整備されていない暗い森で、長い道のりの分、うっかりすると迷いやすい。ただし、モンスターなどは少なく、人も近寄らないので奪われる心配はなさそうだ。
 ここを通れば最短三日で村に着くが、あくまで最短の話。なにせ長い道のりなので、うっかり間違えば五日以上はかかるかもしれない。

 そして最後は明るい森をまっすぐ突っ切っていくルートだ。ここなら一番早い一日ほどで村に着く。ただし、モンスターのアジトのようなものでサスカッチとジャイアントラットの天国だという。こいつらにはジャムを食べられてしまう危険が大きい。しかも途中に小さな川があり、足場の不安定な川を渡らなければならない。川にモンスターがいないとも限らない。
 ただし、時間に余裕がある分、戦闘に手間取らなければ村でゆっくり骨やすめをし、誕生日のために身支度を整えることも出来るだろう。無事つけばの話だが。

 折角の誕生日、疲れた顔でプレゼントの配達はしたくないものだ。村についたのが夜でなければ、身支度を整えられる余裕はある。暗い森と明るい森には花が咲いているだろうから、プレゼントと一緒に渡してもいい。それに明るい森は美しい花の宝庫だという。盗賊も、交渉次第ではなんとかかわせるかもしれない。
 あなた方に説明を終えたギルド役員は地図をたたんで、「くれぐれも甘い言葉と道草には注意して下さい」と呟いた。

●今回の参加者

 ec4179 ルースアン・テイルストン(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4252 エレイン・アンフィニー(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ec4271 リディック・シュアロ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4296 ヒナ・ティアコネート(30歳・♀・僧兵・人間・インドゥーラ国)
 ec4638 リリー・リン(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

デルスウ・コユコン(eb1758)/ 陰守 清十郎(eb7708

●リプレイ本文

 冒険者たちはギルドで身支度を整えていた。
「今回もよろしくな」
 リディック・シュアロ(ec4271)がエレイン・アンフィニー(ec4252)に軽く挨拶する。エレインは微笑み、「こちらこそよろしくお願いします」と返事を返した。
「今回は初めてだな。リディックだ。よろしく!」
 ルースアン・テイルストン(ec4179)はにっこりして簡単な返事を返し、リリー・リン(ec4638)はやや戸惑った風に笑いかけた。どうやらリリーはゲルマン語に不慣れらしい。リディックがラテン語での通訳を申し出ると、ふわりと笑って返事を返した。
「よろしくお願いします」
 出発の時間まで待ったが、もう一人は現れそうにない。
 リディックのサポートに来ていた陰守 清十郎に見送られながら、一行はまずお祝いの品を取りに行くために商店に向かった。
「よく来てくれたね」
 依頼人のおじさんがにこにこしながら、白いツボに入ったジャムに封をしている。手のひらでちょうど包めるほどのかわいらしいツボを木の箱に入れ、二つほど手渡してくれた。
 どうやらこのままらしい。ルースアンはおじさんにプレゼントを包装したいと申し出、ついで語学の才能を駆使して、簡単に尋ねた。
「女の子はどんな色が好きですか?」
「たしか明るい緑だったなぁ」
 ルースアンが街にリボンと布を買いに行っている間に、エレインとリディックは色々尋ねることにした。
「プレゼントの相手はもしかして娘さんですか?」
 エレインの問いにおじさんは頷き、色々話してくれた。娘は母親と二人でいるが、明るく元気なこと。自分に会えなくて寂しがっているかもしれないこと。パリに家が買えたら迎えに行きたいが、野山で楽しそうに遊んでいる娘を見ていると、決断が鈍ることなど。
「あなたと娘さんの名前は?」
「わしはジョセフ。娘はヴィヴィアンだよ」
 次にリディックが尋ねた。
「いくつ位になるんだ? 趣味は?」
「確か今年で十二になるよ。編み物が得意さ。そうだなぁ、最近、おしゃれにも興味が出てきた頃だ」
「十二。小さなレディといった年頃だな‥‥」
 真面目な顔でリディックは考え込んだ。
 ルースアンが帰ってきた。机に木の箱を載せると、ベージュの布で木箱を包み、新緑色をしたリボンで留める。器用さと美術に秀でているため、キレイに仕上がった。
「お祝いの言葉は?」
「誕生日を一緒に祝えなくてすまない‥‥と」
「はい」
 ルースアンは微笑んだ。
「品物をその言葉と一緒に届けます」
 エレインはさっと街に出て材料を求め、小箱に銀のペンダントを入れ、上に薄緑色のりぼんをつけた。みんなで相談し、うんと賑やかなお祝いにしようと決めた。
 一行は盗賊の出る街道を選び、品物はリリー、エレイン、ルースアンが交代で大きめの布に包んで運ぶことにした。たすき掛けにして右胸元できっちり結ぶ。これなら落としてしまう心配も少ない。
 
 二日目の旅の途中のことである。
 街道を歩いていると、向こうから賑やかな旅人の一行がやって来た。すっぽりとマントをかぶって、何を着ているのかよく分からない。ルースアンはしっかりと旅人の一行を見つめた。汚れた身なりの若者衆が五人。にこやかに話しているところなどは怪しげには見えないが‥‥。
 すれ違ったと思ったら、突然、旅人の一人が地面に転がり、そのまま動かない。
 ちょうど目についたのだろう。こちらに助けを求めてきた。仲間の持病が出たという。
 旅人を装った盗賊がいるかもしれないので、食糧や水は渡すけれど深くは関わらない。旅の間そうした態度を崩さないつもりでいた冒険者達だが、本当に困った人がいたら別である。若者達はこの辺に不慣れで、目的地へのルートしか知らないと言う。
 リディックは対人鑑定を試みた。表面はにこやかである。体格を見れば戦いなれているかどうか分かるが、マントがそれを隠してしまっている。汚れた顔も、長い旅を続けていれば自然とそうなるものかもしれない。
「‥‥分かった。近くの町で馬車を呼んで来てやる」
 リディックが走っていき数分経っただろうか、人通りが少なくなると若者達の目つきが一変した。マントをばさりと投げ捨てると、音がしないように下でしっかり握りしめていたナイフを残った三人に振りかざす。地面に転がっていた男は、ゆっくりと立ち上がった。
「命が惜しけりゃ荷物を全部捨てていくんだな」
 盗賊だ。どうやらこの手口のプロらしい。
「私達で応じられるものがあるのでしたらお渡しします」
 エレインが静かな、だが毅然とした態度で伝える。
「身ぐるみ全部よこせ!」
「それには応じられません。お渡し出来るものだけお渡しします」
 盗賊達は長い交渉にいらつき、段々と雲行きが怪しくなってきた。盗賊の一人が舌打ちし、ナイフを振りかざし、襲いかかってきた。
 警戒していたリリーは、盗賊にコアギュレイトをかけた。盗賊の一人が固まり、動けなくなる。様子をうかがっていたエレインが、そばに落ちていた枝をアイスコフィンで凍らせて威嚇する。
「こうなりたくなければ、お引き取り下さいませ」
 しばしの動揺の後、ボスらしき盗賊が叫んだ。
「魔法が怖くて盗賊やってられっか! やっちまえ!」
 戦うしかないようだ。
 リリーが魔法のじゅうたんを取り出して、エレイン、ルースアンから受け取ったプレゼントの品を載せ、宙に浮かせた。
 ルースアンが、サイコキネシスで剣の方向を変えると、盗賊達は混乱した。そこをエレインのアイスコフィンが襲う。
 リディックが戻ってきた。
 ナイフを光らせた盗賊達を見て、すぐに状況を飲み込んだリディックは、ロングソードを抜く。両手でナイフを伸ばしてくる敵をかわし、ロングソードの一太刀。盗賊とは剣の熟練度に大きな開きがあった。
 劣勢と見た盗賊達は逃げていった。捕らえたのは、アイスコフィンで凍っている一人と、逃げる時につまずいて転んだ一人。馬車の御者が心配そうに冒険者達の様子をうかがっている。
 リディックはロープで捕らえた盗賊を縛り上げた。
 その日の夜は特に警戒して、キャンプをはるときにしていた交代の見張りを、二人ずつですることにした。
 あれから手ごわい相手とふんだのか、もう騙せないとふんだのか、盗賊は現れなかった。

 村に着いたのは三日目の朝だった。ちゃんと二日かけて着けたことになる。冒険者達はお祝いに村の付近に自生していた花を摘んだ。
 ルースアンはプレゼントに添える花を探しているし、エレインは青い花で冠を作っていた。リリーは年齢の数だけ花を摘んでいる。エレインとルースアンは珍しい花を摘んで、二人で花冠を豪華にしていった。リディックも花を摘むのを手伝う。お日様が真上に傾いた頃、やっと村に入った。
 宿らしきものはないため、酒場を借りることにした。そこで顔を洗わせてもらったり、髪を梳ったりする。タダでは悪いので、昼食と夕食を頼むと、一行は暖炉の前で眠らせてもらった。
 誕生日はよく晴れた気持ちのいい春の日になった。日が昇ってしばらくした後、プレゼントのジャムを届けに一行はヴィヴィアンの家に向かった。
 小さなかわいらしい家のドアを叩くと、二つのお下げを揺らしながら女の子が顔を出した。
「誕生日おめでとう!」
 一瞬、ヴィヴィアンは目を丸くした。だが、父親に頼まれて来たと伝えると、りんごのようなほっぺを緩ませてにっこりした。
「真心の詰まった世界でひとつだけのあなたのジャムですわ」
 エレインが微笑んで、ルースアンと共に二つのジャムを渡す。ジャムには淡いピンクの小花が添えられていた。ルースアンのアイディアである。
「ありがとう、ねぇ中身は?」
「木苺のジャムです」
 ルースアンが答えると、ヴィヴィアンはぴょんぴょん跳ねながら、ジャムを大事そうに両手で抱えた。ヴィヴィアンの母親がやって来て、お礼とねぎらいの言葉をかけてくれる。
「さあ疲れたでしょう、家に入って下さい」
 エレインの提案で、村の人も一緒にお祝いをすることになった。みんなお祭りが大好きである。お祭りの準備の間、ルースアンは魔法で不思議なぬいぐるみをダンスさせた。ヴィヴィアンが明るい声で笑う。エレインはヴィヴィアンの母親と一緒に御馳走を作っていた。
 村のどこからか料理とお酒が運ばれてきた。エレインがメインのお料理を、野外に設置されたテーブルに置く。いい匂いが辺りにたちこめた。
 食べたり飲んだりしている内に日が傾いてきた。いよいよ最後のイベントである。
「ダンスだ!」
 誰かが叫んだ。音楽がどこからともなく流れてくる。それがにぎやかになると皆一斉に相手を決めて踊り出した。リディックがヴィヴィアンをダンスに誘う。
「小さなレディ、一曲お相手願えませんか?」
「喜んで!」
 ヴィヴィアンが急におしゃまな顔をしてみせる。ルースアン、リリー、エレインは次々にダンスの相手を申し込まれて、軽いめまいを覚えたほどだった。
 お祭りが終わった後、エレインは大事に持っていた銀のペンダントが入っている小箱を、ヴィヴィアンにそっと渡した。
「これは私から。もうレディの入り口ですものね」
 秘密めいた言葉をかけて、軽くウィンクしながら品物を渡す。中身をあらためたヴィヴィアンはほぅと息をついた。
「ねぇ、本当にもらっていいの?」
「ええ」
 リリーとルースアンがヴィヴィアンに花冠をかける。
「私、幸せ。みんなにこんなにお祝いしてもらって!」
 ヴィヴィアンは心から幸せそうに微笑んだ。

 翌日、ヴィヴィアンと母親に見送られながら、一行はパリに戻っていった。