●リプレイ本文
アマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)が馬で隣村に着いたときにはすでに、ヘイゼル・ガードナー(ec3881)が村人に対して注意を促していた。
「モンスターの半数は行方不明と聞きます。こちらでも同様のことが起こるかもしれません」
語調はやわらかく、人を安心させるようである。だが、注意を忘れてはいけないとヘイゼルは念を押した。そこへ駆けり込んで来た者がいる。
「−っ! ととと‥‥」
アナマリア・パッドラック(ec4728)がすごい勢いで飛び込み、きゅっと地面を踏みしめて止まった。足に履いていたのはセブンリーグブーツ。村人に注目されているのを知って、アナマリアは赤くなった。だが、アマーリアの姿を見てはっとなり、嬉しそうな顔になる。
「アマーリアさん?」
おずおずと聞き、近づいていく。アマーリアは微笑み、村人とアナマリアを同時に安心させた。
「薬草と包帯を買っていたら遅くなってしまって‥‥」
アナマリアが両手に抱えていた品物を見せた。アマーリアは頷き、二人で避難中の村人達に会いに行くことにした。
パーティはモンスターのいる村の近くまでたどり着いた。旅立ってから一日が過ぎようとしている。太陽はゆっくりと地平線に落ちようとしていた。
「何度も言うようですが、モンスターが宴会に出る日暮れを待って戦いましょう」
オスカー・モーゼニア(eb2275)が念を押すように言う。その顔には、弱者を守るのだという使命感がありありと見てとれた。
「もうすぐ村ですよ。襲撃まで潜伏した方がいいですね」
煉緋月(ec1856)が話を続けた。後に続くカモミール・トイルサム(ec4419)とハルトムート・バーレイグ(ec4776)は半数のモンスターが村から出ているということで警戒しつつ進んでいる。トゥエニエイト・アイゼンマン(ec4676)はひたすら無言である。
隣村で情報収集と忠告を終えた後、合流したヘイゼルとアマーリア、アナマリアから聞き、皆は村内の作りや少女の噂を知っていた。少女は十二歳くらい、魔法は使わず素手で戦っていたという。だが、背中に杖をしょい込んでいたと聞くと、そこそこの使い手なのかもしれない。
村が見えてきた。日の沈む方向にある村は薄暗く、いやに不吉で険しく見えた。
夜がやって来た。オークやゴブリン共のくぐもった話し声とけたたましい笑い声。村の中央に集まって焚火を囲み、食べ物を食いちぎり、飲み込んでいる。焚火は明々と石畳を照らし、化け物達の顔をぎらりと光らせた。
つ、と小さな靴が進み出でた。月に輝く銀髪は村を襲った少女のものだ。とがり気味の大きな目が瞬時伏せられたかと思うと、一つ溜息をつき、モンスターの群れから離れていった。
月を一人で見ると、また溜息をつき、モンスターの群れに戻っていく。勝ち誇った顔を無理に形作り、杖を手にしている。
「今夜、重大な発表があるぞ!」
少女の元にモンスターが集まっていく。
冒険者達は今を逃すとチャンスはないと判断した。
月夜に照らされ、冒険者達は姿を現し始めた。ゴブリン達の視線が向かってくる。それをはね飛ばし、武器を構える。緋月はヘイゼルとハルトムートの前に立ち、アナーリアはアナマリアの前に、カモミールはパーティの真ん中辺りに立ち、トゥエニエイトはかなり前方、オスカーは立ちまわれるよう最前線に立った。
「村を取り返すよう頼まれた者だ!」
モンスターはとっさに立ちすくんで動けない。少女は声に気が付ききつい視線を向けてくる。
「無用じゃ! 戻れ!」
「人間は人間のところへ戻りましょう!」
少女を目にし、オスカーが戸惑いつつ叫んだ。少女は戸惑いを浮かべたが、すぐに目をとがらせた。
「お前たち、蹴散らせ!」
モンスター達が武器を手にする。戦うしかないようだ。
「戦えない者達のために!」
レイピアをかかげると、オスカーは弧を描くように優雅に払った。斬られたゴブリンはよろけつつ体勢を取り戻す。それに構わず、モンスターの動きをかく乱するためにオスカーは次へ向かう。ヘイゼルは詠唱に入り、ハルトムートは緋月に守られつつ、モンスターとの距離を縮めた。
「醜きものは滅びなさい!」
一撃必殺! 緋月がゴブリンの剣を砕いた。そこへカモミールのストーンが決まり、ゴブリンは石化して倒れる。
「モンスター風情がのさばるではないであ〜る!」
オークと対峙したトゥエニエイトがノーマルソードを大きく振り上げ、次の瞬間腕を斬り飛ばした。
「ブラックホーリー!」
アナマリアの呪文がうなって敵に向かっていった。
ゴブリン達は状況を理解したのか、素早く術者に向かって迫ってくる。
「ヤバっ!」
カモミールはレビテーションで宙に浮いた。
術者に迫りくるモンスターを、緋月、アマーリア、オスカー、トゥエニエイトが防いだ。アマーリアは後衛の術者に向かってホーリーフィールドを詠唱している。
「はははははっ!」
緋月はすっかり狂化して高らかな笑い声を上げ、にやりと笑みを浮かべた。上がる血しぶきを楽しんでいるかのように舌なめずりして剣の一閃でゴブリンを斬った。
ヘイゼルのフレイムエリベイションがアナマリアにかかった。アナマリアは素早く視線を走らせて少女をうかがう。どうやら詠唱に入っているようだ。
アマーリアはアナマリアに向かってきたオーガをトゥエニエイトと二人で斬り落とした。
「悪いことした子にはおしおきよ!」
カモミールのストーンはオーガにはじき返された。カモミールは小さく舌打ちしつつ、詠唱に入った。
「私が始末しましょう!」
オスカーがオーガの腕を刺し貫く。
ハルトムートのマグナブローが火を噴きあげた。炎の先で少女が杖を向けてくるのが見えた。
「オレはハルトムートだ! 名を名乗れ! 銀髪小娘!」
「わらわはシルヴィじゃ」
少女は答えた。
「チャーム!」
シルヴィの呪文が飛んだ。アマーリアは一瞬立ちくらみ、はっと我に返った。
「ニュートラルマジツク!」
後ろでアナマリアの呪文がきいていた。シルヴィと同時に詠唱を行い、魔法を打ち消したのだ。
シルヴィはぎらりとした視線を向け、一直線に冒険者に向かっていった。ついと出た緋月がシルヴィの向けた杖を粉砕する。動揺を隠し、シルヴィはアナマリアに向かっていった。
アマーリアがシルヴィと対峙する。遮られて足を止めたシルヴィは回転して蹴りを放ってきた。腕で受け止めたアマーリアは剣を止めて迷っている。
オスカーとトゥエニエイトがモンスターを斬り倒す。モンスターの数は半数以下になっていた。それを横目でうかがったシルヴィは地面に着地すると、モンスター側に向かって走り出した。
「待て!」
ハルトムートはモンスターに遮られた。逃げに回られるとはうかつだった。チャームがきいているのか、モンスターはシルヴィの逃走に協力している。
緋月は舌打ちする。引き際と判断したのかモンスターがシルヴィの後について逃げに転じたのだ。冒険者達は追いかけつつ、モンスターを斬り倒した。
終わった。
アナマリアとアマーリアは自分達を手当てすると、次に仲間の手当てに向かった。アマーリアはピュアリファイと応急処置、ホーリーフィールド。アナマリアは応急処置とアユギを使っている。
「ちっ!」
シルヴィに逃げ切られてしまった。手当ての終わったハルトムートは、銀髪の揺れていった先を睨みつけていた。カモミールがその横で大きく伸びをしてから呟いた。
「ストーンかけといた方が良かったカモ‥‥」
モンスターは戻ってくることはなかった。シルヴィも同じである。それでも冒険者達は村からモンスターを追い出すことに見事に成功したのだ。