少年と栗

■ショートシナリオ


担当:葵桜

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月21日〜10月29日

リプレイ公開日:2004年10月29日

●オープニング

「お祖母ちゃん、体の調子はどう?」
 心配そうに少年は風邪を拗らして寝込んでいる祖母に声をかける。
 近頃、西の村では風邪が流行っており、元々体の弱い祖母の回復は非常に遅い。
 祖母は笑顔を見せるものの、表情は弱弱しく顔色もすぐれない。
 少年の両親はすでに他界しており、貧しい生活ながらも幸せな生活を送っている。
「今日は俺が隣街に栗を売りに行ってくるよ!」
「ごほごほっ‥でも、隣街に行くには森を通らなければ‥‥」
 家計を支える唯一の稼ぎは祖母が毎週売りに行く自家栽培の野菜や果物であった。

 最近、森の中によく数匹のオークが出没しているとの噂が絶えず、村の者達は脅えきっている。
 祖母も例外ではなく、それでも今まで運良く隣街で商売を続けられてきた。
 街にはたくさんの商売人が集まり、人々で栄えている場所で大抵の物は手に入る。

「大丈夫だよ。俺には神様がついているもん!」
 幼い頃、両親から貰った石作りの十字架の首飾りをぎゅっ、と握り締めてキョウは無邪気な笑顔を見せる。


【酒場】
「‥‥と、言うわけなんだ。キョウは今年で6歳になる。だが、大切に育てられてきたせいか、オークの怖さを分かっていない‥」
 年寄りばかりの田舎村にとってキョウの様な幼子は村全体の宝子として大切に育てられてきた。
 青年は心配そうな表情をしながら話を続ける。
「森には小さな泉があり、村では有名な美味しい水なんだ。『病気を治す効果』があるという噂もある。途中でキョウも立ち寄り恐らく水分を取る。祖母さんの分は汲んで帰るらしい‥。是非、皆さんにも田舎村の名物水を堪能してほしい‥‥」

 所で森に住み着いているオークの中にはボス的存在がいるのだが、そのオークに問題がある。
「・・・・実は、太りすぎなんだ!」
 何故だか小声で真剣に青年は皆に告げる。
「『豚』って言うと体に見合わず、結構の速さで追いかけて来るんだ!豚なのにだぞ!!」
 実際に追いかけられた事のある青年は体を身震いさせて涙目になりながら訴える。

「はっ!っと、取り乱して悪い。それでキョウの面倒を見てやってくれないだろうか? 護衛に退治、それから商売の手助けを頼みたい・・」
 男性は深々とお辞儀をして、酒場の真ん中で冒険者に助けを求めた。

●今回の参加者

 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5459 シータ・セノモト(36歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea5738 睦月 焔(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5768 ネル・グイ(21歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea5914 ジルドラ・ブランシュ(34歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7469 エレナ・スチール(18歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7727 ヨアン・フィッツコロネ(29歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●穏やかな時間
「キョウ君、手を繋ごうか?」
 優しく微笑みながら差し出すシータ・セノモト(ea5459)の手をキョウはぎゅっと握り締める。
「栗の良い匂いがするんである‥‥」
 キョウの持つ籠に入った栗の存在に気がついた時からリデト・ユリースト(ea5913)は籠にくっ付き、栗が持つ独特の匂いに誘われていた。

「リデトさん、栗に涎を垂らさないようにね‥」
 仄々とする光景を見つめてエレナ・スチール(ea7469)は笑みを零して告げる。
 森を歩き始めてから大分時間が経つがなにも変わった事はなく寧ろ穏やかな時間が続いていた。

「リデトさん、そろそろ泉に着く頃だよ! 俺、喉からからだよ‥」
 森の泉の噂を聞いてやって来たというリデトの言葉を思い出して、キョウは泉の方向を指差しながらリデトに嬉しそうに告げる。

「キョウ、ちょっと待って!!」
 嬉しそうにシータの手を軽く引っ張り、走り出そうとしたキョウの逆の手をロア・パープルストーム(ea4460)が掴む。
 数分前にインフラビジョンを唱えていたロアの目には少し離れた場所に赤い大きめの物体を感知していた。
「焔、もしかするとオークかもしれないわ‥‥」
「ああ‥殺気を感じる、間違いないだろう」
 殺気感知を行なう睦月焔(ea5738)にちらりと目をやり、ロアが小声で尋ねると同じ判断を下した焔は軽く頷く。
「ネル、後は頼んだわよ」
「了解! ロアのねーさん、キョウちゃんは頼んだよん♪」
 ネル・グイ(ea5768)はキョウの護衛を他の者達に任せてロアの指差す方向へ先に行き確認を急ぐ。

「シータさん‥」
「キョウ君、この手を放しちゃ駄目だからね」
 只ならぬ様子に気がついたキョウはシータの手をぎゅっ、と握り締めて不安そうな顔で見上げる。
 シータは祖母思いの良い子なうえに自分が頼られて、こんな弟がいたら最高かも‥‥、と思いながらも不安にさせないように優しく微笑みながら告げる。
「(でも流石に息子だと困るけど‥)さっ、キョウ君急ごうね!」
「うん!」
 心の中でこんな事を思い、苦笑しながらキョウの手をしっかりと握り締めてその場の移動を始めた。


●豚と呼ばれるオーク
「あいつだな?本当に見るからに豚だ‥‥」
 一匹で行動をしている事を確認したネルはオークの前に堂々と仁王立ちになって、自分の存在に気づくように仕向ける。
「お前、そんなナリで良く平気だな豚野郎!」
 じっと様子を見ていたオークは切れたらしく、突然ものすごい勢いでネルに向かって突進を始める。
「そ‥そうだ! キョウから貰ったものが‥‥イガ栗攻撃!!」
 一つだけ貰っていた栗をネルは突進してくるオークに向かって勢いよく投げつけ、隙を狙って距離を稼ぐ。

「この先に開けた場所がある! って、そっちじゃない!!」
 冷静に誘導をするジルドラ・ブランシュ(ea5914)を他所に意外と足の速いオークに自分の身の危機を感じながらネルは必死に羽をぱたつかせて逃げる。
「ヨアンとエレナには誘導の手伝いを頼む。ジルドラ俺達は先を急ごう!」
「ああ、私が道案内をしよう‥‥」
 予めキョウから森周辺の地形を聞いていたジルドラは焔を連れて先回りをする為に急ぐ。
「木々を倒さないように気をつけなくては‥‥」
 タイミングを計ってヨアン・フィッツコロネ(ea7727)はストーンウォールを放ち、石を出現させて石の壁を作り、オークの進路を妨害してネルを追いかけさせる。
「ヨアンさん、ちょうどあの木の下辺りに罠があるわ」
「分かりました!」
 罠に嵌るように仕向ける為に石の壁を作る場所をエレナが指定するとピンポイントでヨアンは石の壁を次々と作りだす。

「「ぶひっっっっ!!!」」

 ネルを今にも捕まえそうになったオークだが、エレナの草を結んで作った罠に掛かり悲鳴をあげながら勢いよく転ぶ。

「た‥助かった‥‥」
 心臓をバクバクさせながらネルは急いで距離をとり、めげる事無く再びおいかけてくるオークから一定の距離を保ちながら何とか逃げる。
「よしっ! ここを抜ければ!!」
 合流する予定の戦闘班の待つ場所へとたどり着き、へとへとになりながらも焔とジルドラを発見する。
 その場を動かずにジルドラは自らオークが近づいてくるのを待つ。

「「ぶ‥ぶひぃぃぃぃ!!!!」」

 勢いよく走ってきたオークは学ぶ事を知らないらしく、ジルドラの作った簡単なロープを張った罠にまんまと引っ掛かり勢いよくこける。

「こんなに簡単に引っ掛かるとは単純だな‥‥本当」
 ある意味敬服さえ覚え、焔は呆れながら日本刀を構えて、完全に立ち上がる前の隙を狙ってここぞとばかりにソニックブームを放つ。
 しかし、オークの腹の厚い皮の弾力で焔の攻撃は軽く跳ね飛ばされる。
「跳ね返された!!」
「一筋縄じゃいきそうもないわね‥‥」
 遠くから驚くヨアンと共に見守っていたエレナは攻撃を跳ね飛ばすだけの厚い皮を持つオークに半ば感動を覚えながらオークの意外な利点に気がつく。

「援護いたします!」
 エレナはロングソードを持つジルドラと焔の傍に近づき、オークの厚い皮に跳ね返されないように二人の武器にバーニングソードを掛け、炎を纏わせて武器の威力を高める。
「邪魔になるかも知れませんから‥少し離れた場所にヨアンさんと移動していますね!」
「エレナさん、僕達はあの草むらに身を潜めましょう‥」
 二人が攻撃に集中出来るように、エレナはヨアンと共に急いでその場を離れた。

「いくぞ!」
 ジルドラの合図で焔とジルドラは力をあわせて勢いよく切り込むと今度は二人の武器の威力が勝り、オークはその場に倒れこんだ。
 少々の苦戦はあったが、誰一人大怪我をする事無く無事に豚オーク退治は成功を収めた。

「別班はそろそろ泉に着く頃だな‥」
「栗に美味しい水か‥。ぜひ家にも持ち帰りたいものだ‥‥」
 戦いを終えて一息つく焔の言葉にジルドラが微笑しながら言葉を漏らす。
「では、皆さんの元へと急ぎましょうか」
 エレナは緊張の糸が解れたのか、自然と笑みを零して泉の方を指差して告げた。


〜一方〜
「少し遠回りをしてしまったけれど、無事に泉に着いたわね‥‥」
 途中でオークを発見したが、ロアはインフラビジョンを有効に使いオークに遭遇しないように皆を誘導した。
 またリデトのアドバイスでオークが通り難い細い道や小道を出来る限り選んだおかげで安全性がより高まる結果となった。
 リデトにとって太りすぎの珍しいオークは学者としては気になる所だ。
 だが、別班の者達と行動を共にしなかったのは豚のオークを見るよりもキョウと行動を共にして、栗の良い香りを嗅ぐ方が魅力的であった。

「わぁ‥綺麗な泉‥‥」
「重たくなるし、帰りに汲んで帰りましょうね‥‥」
 一面に広がる透明の泉を見て、両手を合わせて感動するシータにロアも同じ事を感じながら告げる。
「『病気を治す効果』‥か。流石にそれは眉唾物だろうけど、それくらい美味しい水ってことかなぁ?」
 泉の水面に軽く触れながらシータは村人が話していた泉の話を思い出す。
「お祖母ちゃんに汲んで帰るんだ」
「お祖母ちゃん‥か。私の肉親は、今どこで何をしているのかな? 元気ならそれでいいんだ‥‥」
 隣にしゃがみ込んで、祖母の為に水を汲んで帰ると嬉しそうに話すキョウの顔を見ているうちにシータは肉親の事を知らず知らずのうちに考えていた。

「まだ、別行動をしている人達が到着していないし、キョウにオークの話をするんである」
 リデトは自分の専門知識を生かして知る限りのオークの話を怖がらせない程度にキョウに説明しようとする。
「それなら、紅茶を用意してきたから泉の水を使って皆で紅茶を楽しみませんか?」
「良い案ね。キョウも疲れているみたいだし‥良い休憩になると思うわ‥‥」
 シータの提案にキョウの疲労と不安を取り除くには良い案だと思いロアは賛成して、4人は暫しの休息を楽しみながら皆の到着を待つことにした。


●おいしい栗をたくさん売ろう!
「そこのお姉さんっ〜、今日はこの栗とターキーでさくさくのパイ料理なんてどうだい♪」
「栗シロップも最高においしいよ」
 体力が回復したネルは小さい体でいっぱいの栗を持って、シータと共に道行く人に栗を売って行く。
「栗はいらないか?」
「栗は秋の代表的な味覚なんである。蒸しても焼いても、暖めて二つに割れば中は甘くてしっとり美味しいんである〜!」
 内心ドキドキしながら話しかけるジルドラの言葉に足を止めた人々にリデトは栗の美味しさを力説して、人々を惹きつける。
「栄養が豊富で、滋養強壮に役立ちますよ。皮を剥くにはお湯にしばらく漬けておくと良とか‥‥」
 止めの一言はヨアンの学問全般に優れた知識による、栗の効果と魅力に人々は次々と魅了されていった。

「皆、上手に売っているわ‥どうやら私の出番はないようね‥。所でキョウ、もしも栗の在庫があれば買って帰っていいかしら?」
「うん、もちろんだよ! 沢山あるし‥‥それにロアさんにも食べて欲しいな」
 大きな栗を片手にキョウは万遍の笑みを浮かべて、包んだ大きな栗をロアに手渡す。
「キョウ、大盛況のようで良かったな。早く祖母の病気が早く良くなって、今度は2人で商売が出来るといいな‥‥」
「風邪にも効くらしいですよ」
 客寄せを次々と行なう者たちと笑顔で商売をするキョウを見て焔はキョウの頭を軽く撫で上げ告げる。
 祖母の話しをしている二人の会話でヨアンは風邪に効果がある事を思い出してアドバイスをおくった。


 こうして、大量に持ってきた栗は次々と皆の手によって売られていった栗は色々な家の食卓に並ぶ事となった。