●リプレイ本文
●危なげなデートの始まり
「あの‥レナさん、少し歩きませんか?」
先ほどからぎこちない様子でレナに話しかけるリューイを一行は遠くから不安げに見守っていた。
二人の行き先はチリーン・リン(ea8547)の提案により食事をする事になっている。
「リューイさん大丈夫かな‥。僕自身恋愛については分からない事の方が多いから、あまりアドバイスが出来なかったんだよね‥‥」
「あらあら‥お二人共初々しいですね、何とも微笑ましい雰囲気です‥‥」
少々不安げな様子でレフェツィア・セヴェナ(ea0356)は二人の様子を窺い見る。
レフェツィアとは対照的にティアナ・クレイン(ea8333)はおっとりとした様子で微笑む。
予めアドバイス出来る事はリューイにはしたのだが、恋愛経験が豊富な冒険者が少なく不安が多く残る。
それでも何とかデートは進行していた。
「ふむ‥‥なるほど。情報どおり、レナさんは控えめな女性のようですね。このまま結婚したとしても夫を立てる良妻になるでしょう。それでも相手の女性の気持ちを知りたいというのが男心なのでしょうね‥」
レナを見る限り、何も心配することなどないと感じるユルドゥズ・カーヌーン(eb0602)だが、リューイの考えがまったく理解出来ない訳ではなかった。
「恋愛なんてエリよく分からないですの! でも、好きな人の気持ち確かめたいと言う気持ちは万人に共通するってパパ達が言ってましたです」
幼い頃に両親を亡くし、冒険者仲間に育てられてきたエヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)は冒険者達から多くの事を学んでいた。
少しでもリューイの気持ちが分かるからこそ手助けをしたいと思っている。
それに困っている人を助けるのが冒険者の仕事なのだとエヴァーグリーンは付け足して言った。
「えっと、何処に食事に行きますか?」
「リューイさんにお任せします‥」
「ぼ、僕は何処でも‥‥」
リューイが返答を返そうとした瞬間、脳裏にあるアドバイスが流れてきた。
それはデートの前に受けたアドバイスだ。
「やはりリューイさんの意見が一番です! なんでもレナさんに答えを求めてついて行くだけでは駄目ですよ。だからと言って一方的になるのも駄目です‥」
マルティナ・ジェルジンスク(ea1303)はデートにおいて重要ともいえる大切なアドバイスをおくる。
「そうですね、相手の事を考えることも大切です〜。レナさんの仕草とか表情をじろじろ見ない程度に観察してみるといいと思いますよ〜。ちょっとした仕草で相手の心情が分かる事もありますから‥」
自己主張のアドバイスをするマルティナに加えてクラリッサ・シュフィール(ea1180)は相手を尊重する為の方法の一つを伝授する。
〜現在〜
「僕は何処でも‥いえ! この間、美味しいお店を見つけたんです。其処にしましょう‥」
力強く返答を返すリューイにレナは軽く苦笑しながら頷いた。
レナの訪れた事のない店を選んだほうが良いと考えたエヴァーグリーンは予め周りから情報を得てリューイに伝えていた。
その甲斐もあって、レナと新しい店の話をする事で話題作りの切欠にもなった。
「その調子だ‥」
自分からようやく行動に出たリューイの姿を見てクー・シェ(ea6653)は小声でエールをおくった。
●想いを伝える 〜作戦その1〜
二人を追って一行は洒落た店へと足を運び、席に着くと二人の会話に耳を傾ける。
「あの‥レナさん、き、綺麗な瞳です。その瞳でずっと僕を見てくれませんか?」
「くすくす、何だか今日のリューイさん、いつもと違いますね‥」
食事の途中に緊張しながらリューイが発した言葉は、チリーンが好きな人に言われたら嬉しいと思う言葉である。
一方、レナは照れ笑いを見せて反応を返した。
「僕がアドバイスにおくった言葉とはいえ、何だか照れるね‥」
近くの席から耳を傾けていたチリーンは少し照れ笑いを見せる。
「しかし、本当にリューイさんは鈍感みたいですね。照れ一つ見せずに言っていましたし‥」
「鈍感な殿方ですか‥。実際に似たような体験がありましたから苦労がよく分かります〜」
エヴァーグリーンの言葉に反応を示したクラリッサは過去の出来事を思い出して虚ろ状態になる。
「わたくし達も少し休んで食事をとりましょう‥」
一日中神経を張り詰めていては疲れが出てしまうので、マイペースではあるがティアナの提案によりしばしの休憩を取ることが出来そうだ。
「リューイさんも此処のお店の料理は美味しいと言っていましたよね」
店を選ぶ際に理由を述べていたリューイの会話を思い出したクラリッサは微笑して言った。
●想いを伝える 〜作戦その2〜
食事を終えた二人は次の目的地を決めたわけでもなく、露店が並ぶ道をしばし無言で歩いていた。
食事中はなんとか会話が続いていたようだが、ついに無言になってしまった。
「リューイさん、黙ってしまいましたね‥」
リューイのピンチにマルティナはどうする事も出来なくハラハラしながら見守る。
「私に良い考えがあります! クーさん、露店に店を開きますので二人が足を止めるようにお伝えしていただけますか?」
恋愛の勉強をしようと見学しながらメモを取っていたユルドゥズが二人の手助けをしようと皆に作戦を伝えて協力を頼む。
クーはテレパシーを使用してリューイに作戦を実行する前に予め伝えた。
少し歩くとリューイ達の目の前に「占いの館」を開いている露店が姿を現した。
「そこのお二人、近いうちに結婚されますね? 占いでもやってみませんか?」
突然声をかけられた二人は足を止めて、布を羽織り占い師に扮装したユルドゥズに耳を傾ける。
占いが当たっていた事に吃驚したレナの動きが一瞬止まる。
「面白そうですね。是非占ってもらいましょう‥」
リューイはレナを必死に引き止める。
不思議に思ったレナは首を傾げながらも用意された椅子に腰を下ろした。
「此処は雰囲気作りに‥‥」
ユルドゥズの話に聞き入っている隙を狙ってマルティナはローズキャンドルに火を灯した。
すぐにバラの甘い香りが仄かに匂ってムードを引き立てる。
「そうですね‥‥スノードロップを身につけると幸せな結婚が出来るでしょう。スノードロップは「希望」を運ぶ花ですから‥」
間を確りととってからユルドゥズは占い結果と花言葉の意味を二人に伝える。
ユルドゥズがスノードロップを選んだのには大きな理由があった。
「最近、庭に綺麗なスノードロップが咲いたんです。良かったら見に来ませんか?」
花の話を切り出せずに悩んでいたリューイは占いの結果を聞いてここぞとばかりに誘いをかける。
「本当に冷や冷やさせられますね〜」
ばれない様にずっと見守っていたクラリッサは真剣に心配していたあまり止めていた息を整えてほっと溜息を吐いた。
●花に込められた想い
「レナさんに好きな人いるならば、その人と添い遂げされてあげる決心が有りますか? もしそれだけの決意がないならば聞くのは止めた方がいいと思います。 決心があるのなら‥自分の思った事、考えた事ちゃんと伝えるべきです」
「相手の気持ちを知りたいのでしたら、自分の気持ちを相手に伝えなければいけませんよ。大丈夫です、真剣な気持ちというものは、ちゃんと相手に伝わるものですから」
屋敷へと戻る最中、リューイの脳裏にはデート前に忠告されたエヴァーグリーンとティアナの言葉が何度も頭の中を駆け巡っていた。
リューイに着いて行くと、やがてリューイの屋敷が目の前に飛び込んできた。
一行は関係者に怪しまれないように裏口から庭へと先回りをして物陰に隠れる。
冬の寒さの中でも力強くスノードロップが庭一面に咲き乱れている。
「二人が上手く行くと嬉しいな‥。でも恋愛はお互いの気持ちが通じ合あって初めて上手くいくものだから駄目な時もあるんだよね‥」
ドキドキしながら見守るレフェツィアはリューイの頑張りを応援したい気持ちでいっぱいである。
「僕の想いを聞いてください‥」
リューイはクーに渡されていたメモをポケットの中でぎゅっと握り締めて、決意を決めてレナの方を見る。
If you love me love me true
Send me a ribbon and let it be blue
If you hate me let it be seen
Send me a ribbon of green
これがクーが記したメモの内容であった。
「僕を好きならば青いリボンを、友達以上になれないならば緑のリボンを‥」
リューイは顔を真っ赤にして、返答を待つ。
当然、一行にも緊張が走る。
「これ‥‥」
「綺麗〜。スターサンドボトルですね‥」
返答を返す前にリューイは声を出してしまった。
ポケットに見慣れない小壺が入っていたからだ。小壺の中に入っている星の形をした砂は恋人達を幸せにしてくれるおまじないが込められた砂だ。
実はマルティナが後から見るようにとリューイに手渡したささやかなプレゼントであった
「リューイさん、綺麗な青いリボンですね。私に似合うでしょうか?」
一瞬、言葉の意味を呑み込めなかったリューイは無言でレナを見る。
「あらあら‥二人共、想いは一緒だったようですね‥」
「職業柄結婚式はたくさん見て来たけど、二人の笑顔を見る限り幸せな結婚を迎えると思うな‥」
ティアナとレフェツィアは微笑しながら縁結びの成功を喜ぶ。
「雰囲気を壊すわけにいかないし、僕達は退散しようか?」
「今度、皆でお二人のお祝いが出来るといいですね。私は飲めますがミルクの方がいいです‥」
二人の雰囲気を察したチリーンとマルティナは二人を見て少しばかり羨ましく思いながら静かにその場を後にした。