●リプレイ本文
「位置について、よ〜い、どん!」
村の市長の掛け声と共に競技の参加者達が一斉に我が先にとばかりに駆け出し、湖へ次々に飛び込んでいく。
「華々しくスタートが切られた! 先頭集団を行くのは‥‥」
小船に乗り盛り上げるのは、司会を務めるリュイス・クラウディオス(ea8765)、オールを漕ぐのはサポート兼救助を行うオルテンシア・ロペス(ea0729)だ。
バードだという事もあり、リュイスの声は聞き取りやすく、観客は参加者達の状況を簡単に把握する事が出来る。
「イギリスのお祭りはジャパンのお祭りと違いがあるのでござろうか? 楽しみでござるの‥」
観客の中に混ざり、いつもクールなように見える沖鷹又三郎(ea5928)も興味津津に競技に見入る。
村の女性に髪を後ろで編み込んでもらい気合十分に先頭を走るのはマナウス・ドラッケン(ea0021)だ。
先頭集団の中に小さな体で必死に掻き分けながら突き進む漁師のような泳ぎやすい布服を着た村上琴音(ea3657)の姿もある。
「ようやく全員スタートして、見えなくなりましたね‥」
まだスタート地点にいる動きやすい薄布を着用したレジエル・グラープソン(ea2731)の姿を気にする者はいない。
「この競技、どちらかと言うとスピードレースか‥。前のみを見て進むと、思わぬところで邪魔が入りそうだ」
闇雲に争い互いに足の引っ張り合いをしていてはなかなかゴールする事が出来ないと考えたレジエルの感はあたっていたようだ。
少し考え事をしてからレジエルは向きを変えて森の脇へと入って行った。
「レジエル選手、リタイアか?!!」
リュイスはレジエルの行動が読めずに不思議そうに首を傾げながら実況する。
「私の片翼ルーティ君が行くとなれば、私も行かねば‥‥」
キョロキョロとレイヴァント・シロウ(ea2207)はルーティ・フィルファニア(ea0340)の姿を探すが何処にも見当たらない。
純粋に競技を楽しめると張り切るルーティは既に先頭集団に混じって泳いでいた。
「私は泳ぎのスキルはないが人体の浮力以上の重みがあれば、泳がずとも歩けるから問題ない!」
意気込みながらレイヴァントはぎりぎり耐えられる重量級装備でいざ湖の水面に足を落とす。
「「どぼんっ!!!!!」」
そして、ものすごい音を立てながら又三郎や村人達の目の前で勢いよくレイヴァントは沈んでいった。
●難関の第一関門?!
「大丈夫でござるか?」
ようやく意識を取り戻したレイヴァントの目の前には心配して覗き込む又三郎の姿がある。
「盾二つに兜一つ‥こんなに身につけていれば溺れるのは当然でござる‥‥」
呆れた顔で又三郎は外したレイヴァンの重たい装備品を見る。
「リタイアするでござるか?」
「そんな事はできない! 何故ならルーティ君とはマックスハートだから!」
レイヴァンは勢いよく起き上がり、又三郎が声をかける前に猛スピードで先頭集団を追いかけていき、気がついた時には姿が見えなくなっていた。
「まずは第一関門である貝殻探しに苦戦しているもの達が多いようだ!」
救護班として待機していた村人達やオルテンシアが罠に掛かったり、クラゲに刺されたりしてリタイアする参加者を次々に引き上げる姿にリュイスは至難なレースに少し驚く。
「ピンクの貝殻‥‥これの事だな」
他の者達を尻目にマナウスは優良視力を活かして簡単に貝殻を手に入れ前に進む。
「さて、どこまでやれるか楽しみであり、怖くもあるが‥楽しく行けばいいかね」
争奪戦を繰り広げている一方で生き生きと楽む参加者を見渡しながらマナウスは楽しそうな表情で呟き、泳ぎだす。
「これはすごい! マナウス選手、他の選手を次々に抜き、トップを独走態勢だ」
マナウスは障害物を回避や縄抜け訓練の気分で交わし、リュイスとオルテンシアの小船の前を通過する。
「罠が多くては貝殻に辿り着けないのじゃ‥。そうじゃ!」
琴音は名案が閃き、突然マジカルエブタイドを唱え水の水位を下げ、罠が浮き彫りになっている内に貝殻を見事手に入れる。
それに続けとばかりに琴音の周りにいる数人の者達が次々と貝殻をゲットした。
「ここか‥。そろそろ湖に入って良さそうだ‥‥」
少し離れた場所にいる密集した先頭集団の琴音達を見ながら誰にも気が付かれないように注意をはらい水中に足を入れる。
泳ぎが得意でない分、それをカバーするようにレジエルは森林の土地感の隠密行動の知識を役立てて最短距離で貝殻のポイントへとやって来ていた。
おまけに湖の罠が仕掛けづらい場所を見極め、争奪戦や罠に掛かることもなく意図も簡単に貝殻を手に入れ、先頭集団へと食い込んだ。
「ここで気を抜かずに戦闘にならないようにしなければ‥」
誰にも気が付かれることなく脳をフル回転させてレジエルは安全かつ最短ルートを着実に進んでいた。
「次に琴音選手が貝殻を手に入れたようだ! では他の選手はどうだろうか?!」
先頭集団以外の状況を伝えようとリュイスは他の参加者を探し出す。
その頃、ちょうど中間付近にいるルーティは必死に戦っていた。
優良視力が優れている分、罠に掛かることもなく貝殻に近づけるのだが体力がない為、後一歩の所で周囲の者達に押し流されてしまう。
おまけにクラゲゾーンにあたってしまい、グラビティーキャノンで応戦するが迂闊には近づけない。
「やった! 貝殻を手に入れ‥‥」
やっとの思いで貝殻を手に入れたルーティが気を抜いた瞬間、周りの者達に押し流され、その拍子に着ていた布が破れてしまった。
「こんなこともあろうかと、ルーティ君の着替えを準備しておいた」
「‥‥レイヴァントさん、いい所に! 助かりました‥ん?」
突然現れたレイヴァントの手には密かに隠し持っていたルーティにぴったりサイズの白く生地が薄い。助けてもらっている手前生地の薄さにルーティは怒ろうにも怒れず、ぐっと怒りを堪える。
「所でどうしてサイズが分かったんですか?」
「サイズの判別方法? 何、簡単なことだ。いつもルーティ君を抱きしめているからね」
店で女性店員の協力の下、いろんな女性を手当たり次第抱きしめて、同じサイズの女性から算出したのだとレイヴァントは自慢げに語る。
「やめっ! そこのエロい人っっ!!!」
極限に達したルーティの怒りは爆発して一時の感情に任せて魔法を使い暴走を始めた。派手にルーティはウォールホールでレイヴァントの足下に直下型穴を作り出し止めにストーンウォールをぶっ放す。
ルーティの暴走に驚いて近くにいた参加者達は自分の身の危険を感じ、リタイアを申し出る者が続出する中、一部では姉御のようにかっこいいと尊敬するものさえ出てくる。
「ああ、始まってしまった‥‥秘密にしておきたかった秘密兵器が‥‥」
既に遠くを泳いでいるマナウスの方まで響き渡る派手な戦闘の主は大凡予想がつき、溜め息をつきながら二人の近くにいるに違いない参加者達を哀れみながら再び泳ぎだした。
どちらにしても危ない障害ともいえる2人がドロップアウトしてくれて一安心のようだ。
●一着は誰のもの?
「村の人達と村の郷土料理を作ったでござるよ。良かったら飲むでござる‥」
応援に来た人や競技に参加しない村の人々や既にリタイアしている人に大量に作ったスープを又三郎は笑顔を振り撒きながら運ぶ。
料理好きの又三郎にとって興味津々に集まり、次々と美味しそうに飲んでくれる姿を見ていると幸せな気分になった。
「これでよし。これで時間稼ぎにはなるな‥‥」
レジエルは簡単な罠をみつけ、余裕もあって単純な小細工をしてから再び木を目指す。
「参加者達かなり燃えているな‥殺気を感じるよ‥‥」
「そうね。でも、折角のお祭りですもの。村の人達と一緒楽しみたいわね‥」
リュイスが休憩に入り皆の気迫を改めて実感させられて苦笑する、オルテンシアも気迫を感じながらも多くの者達がゴールできる事を願う。
「誰か! 助けて!!」
「もう大丈夫じゃ。私に掴まるのじゃ」
琴音は声に反応していち早く溺れているものに手を貸す。
幸い子供で琴音一人でも救い出す事が出来、小船まで行って手助けを求める。
「大丈夫か? よっし‥持ち上げるぞ」
リュイスは子供を軽々と持ち上げて小船に乗せ、急いでオルテンシアは用意した毛布で包み込み、積んでいた酒を少し飲ませて体を温めさせる。
「琴音、競技に戻っていいぞ」
「いいのじゃ‥。勝ちには行きたかったのじゃが一番は皆が楽しむことなのじゃ。それにこの子が心配なのじゃ‥」
リュウイスの言葉に後悔の念もなく琴音は笑みを零して告げた。
そろそろ誰かゴールするのではないかと思いゴール地点にリュウイスが、ふと目を遣ると今まさにゴール寸前の選手がいた。
「マナウス選手、一着でゴーー‥いやゴール直前で引き返し始めたぞ!」
予想外の事態にリュイスは自分の目を疑う。
よく見ると今まさに罠に掛りそうな女性が後方にいてマナウスは滑り込みで女性を止める。
それは先程、レジエルが発見しにくいように細工を施した罠であった。
「ふぅ‥ギリギリセーフ‥‥」
女性の体を支え、目の前で小石を投げると勢いよく縄が水面へと現れ女性は目の前で起きた出来事に唖然とする。
「なんと、その間にレジエルがゴール!!!!」
マナウスがレースの事を思い出した時には時既に遅し、既にレジエルがゴールして祈りを捧げていた。
●お祭りを終えて
「皆、お疲れ様でござる。暖かいスープで暖めるでござる」
疲れ、冷え切った体には又三郎が差し出す暖かいスープが参加者達の心を癒す。
又三郎としては皆が喜んでいるうえに新しい料理を覚えられて一石二鳥である。
「まだ寒中水泳には早い時期、暖かい物を食べて体を温めてもらうのがいいと思ったでござるよ」
「うまいのじゃ。体が心から温められていく感じなのじゃ‥」
「それに村特製のスープが飲めてラッキーです」
琴音やレジエルは幸せそうな表情でスープを飲み、溜め息をついてようやく一息つく。
「琴音殿、御代わりもあるでござるから遠慮うせずに言うでござる」
美味しそうに飲む琴音やレジエルの姿に嬉しさを覚えて、又三郎はつられるように笑顔で言葉を返した。
また、オルテンシアが湖の前で水への感謝を込めてマナウスの笛に乗せて水の精霊をテーマに四季の水の変化を踊る姿に村人達は癒される。
踊りの途中、見覚えのある男達を見つけ演技を終えた後2人はすぐに男達を呼び止めた。
「賭けは私達の勝ちのようね‥」
オルテンシアは男達に声をかける。
実はこっそりと競技前に村の男達に得意のナンパを活かしてマナウスと共に村人が勝つか冒険者が勝つか、賭けを持ちかけていた。
当然、冒険者に賭けていたオルテンシアとマナウスは勝利の暁にたんまりと酒を貰う。
こうして小さな村の祭りは村始まって以来の大賑わいを見せた。