森に入る者

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月22日〜11月27日

リプレイ公開日:2004年12月01日

●オープニング

 冒険者ギルドに一人の男がやってきた。まだ若い青年で、名をジュリスタといった。
「実は、ある森の地図を作るために手伝ってくださる人を探しているのです」
 それはこういう訳だった。ジュリスタの家は代々、森の案内人を家業としてきた。暗く、危険な森を旅人などが通るとき、案内人は付き添って道案内をするのである。ジュリスタの父も案内人であり、多くの人から信頼されていた。
 まだ若かったジュリスタは漠然と家業を継ぐことに納得がいかず、自分が果たして何をするべきか見極めるために数年間放浪の旅に出た。父はジュリスタの行動を止めなかった。
 しかし数年間過ぎて、ジュリスタはやはり家業を継ぐべきだという考えにいたった。父の仕事の重要性を改めて痛感したのであった。
 故郷である森の近くの生家に帰ってきたジュリスタは愕然とした。父は数日前に毒ヘビに噛まれ、その毒で死んでしまっていたのだ。
「まだ、仕事について何も教わっていないのに‥‥」
 ジュリスタは自分の行動に後悔して数日間家から一歩も出なかったが、やがてこれではいけないと考えるようになった。
 自分なりの方法で、案内人の仕事を始められるように準備しようと思い立ったのだ。
「むかし父から聞いたことによると、案内人は代々自分の知識を次の代に伝えていったと言われています。森を安全に通るための道順や、危険な怪物の住みかの場所などです。これらは全て口頭で伝えられていた物で、文献などは残っていません」
 ジュリスタは小さいころに父に連れられて何度か森を回ったことがあった。そのため道順は大体分かっているつもりだったが、何しろ昔のことのため、間違いがあるかもしれない。また小さかったため、危険な場所には行かせてもらえなかった。
 しかし案内人を行なうには曖昧であるとか、知らないということは許されないだろう。
 そう考えたジュリスタは、改めて森の道やどこに何があるかを地図にしようと決意した。
「そこで私の手伝いや護衛をしてくださる方を探しているのです」
 森は危険な場所である。迷ったりモンスターが現れてもおかしくは無い。
「まだ今は無理ですが、なるべく早いうちに案内人の仕事を始めたいと思っています。そのために少しでも正確な知識が必要なのです」
 よろしくお願いします。とジュリスタは丁寧に言ってギルドを出た。

●今回の参加者

 ea7378 アイリス・ビントゥ(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea7693 マルス・ティン(41歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 ea7866 セルミィ・オーウェル(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8652 ユーリ・ノーンドルフ(29歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 よく晴れた日のことだった。冒険者達は地図製作のため、ジュリスタの家に集まった。
「ジュリスタさん、探索に出かける前に一つ言っておきたいことがあります」
「はい、何でしょう?」
 マルス・ティン(ea7693)は吟遊詩人として、色々な冒険を歌にしてきた。今回の仕事も、もちろんジュリスタを手伝うために参加したのだが、新たな歌を作ろうというのがもう一つの目的であった。
「でも、いいのですか。歌にするなら、もっと恐ろしい怪物と戦うような冒険の方がいい気がするのですが‥‥?」
「いえ。そのような英雄譚もいいのですが、もっと聞く人に親近感を持ってもらえる歌があってもいいと思うのです」
「そういうものですか」
 ジュリスタはいまいち理解できなかったが、今回の地図製作が歌になると考えると少し楽しく思える反面、しっかりしなくてはならない、と改めて気を引き締めた。

 一日目は森の南側を探索することにした。ここは比較的安全な場所で、ジュリスタも小さいころ時々来た記憶があった。
 セルミィ・オーウェル(ea7866)は上空から森の様子を見ることにした。
「‥‥確かに、この辺りには危険な場所もなさそうですね」
 ひととおり観察し終わったセルミィが皆に報告した。
 ジュリスタは彼女の話を元に大まかに森の形を羊皮紙に描いた。その後、一行はジュリスタの案内で森の南側を歩いて回った。
「この岩は人の顔に見えますね」
 アイリス・ビントゥ(ea7378)が前方に見える大岩を指した。
「この草の実には毒があります。案内のときは、食べないように注意したほうがいいですね」
 ユーリ・ノーンドルフ(ea8652)は時々、草木に関する助言を与えた。
 ジュリスタはこのような意見をさっき描いた森の地図にそのつど書き足していった。そのうち、辺りが次第に暗くなってきた。
「今日はそろそろ帰りましょう。あたし、夕飯をつくります」
 アイリスの提案により、一行はひとまず森を後にした。

 その日の夜。
 アイリスと井伊 貴政(ea8384)は、ジュリスタの家の台所で夕飯を作っていた。パン焼き職人のアイリスと料理人の貴政、どちらも生業は食べ物を作る仕事であるが、出身国の違いゆえかその料理の様子もだいぶ違った。
「アイリスさん、これは少し辛くないですか?」
 アイリスの作るシチューには塩と胡椒が多めに入っていた。
「インドゥーラの香辛料が手に入らなかったから、辛い味付けにしてみたんですが‥‥似てないですね」
 味見をした彼女はそう言って苦笑した。
 出来上がった料理を出すとジュリスタはとても喜んだ。
「地図製作の手伝いだけでなく、料理までしてくださって‥‥本当になんてお礼を言えばいいのか」
「そんな大げさな。当然のことをしたまでです」
 貴政はそう言って笑った。
 夕食も食べ終わり、冒険者達とジュリスタは眠りについた。あと一日で、森の地図も完成するだろう。

 次の日は森の北側を探索することになった。
 こちら側は南に比べて薄暗く、場所によっては昼でも日が射さない。
「この辺は地面がぬかるんでますから。気をつけて進んでください」
 ある場所まで来ると、ジュリスタが冒険者達にそう注意した。
「‥‥うわっ!」
 皆慎重に歩いていたが、ユーリが途中で滑りそうになった。
「大丈夫ですか?」
 九紋竜 桃化(ea8553)があわてて駆け寄った。さいわい怪我などはしていなかった。
「この辺は危険ですね。注意しませんと」
 桃化が心配そうに言った。ジュリスタも確かに、とうなずいた。

 しばらく歩くと、冒険者達の目の前に木でできた簡単なつくりの小屋が現れた。
「何ですか、あれは?」
 貴政がジュリスタにたずねた。ジュリスタは休憩用の小屋だと答えた。
「父が使っていたものです。もっと前からあったのかもしれませんが‥‥。森を歩く途中で水や弓矢が補給できるようにしておいたそうです」
 ジュリスタはなんとなくあの小屋に近づきたくなかった。それは‥‥
「村で聞いたのですが、あの小屋の近くでジュリスタさんのお父さんの死体が見つかったそうです」
 貴政は小声でアイリスの耳元にささやいた。アイリスはしばらく考えていたが、やがてジュリスタにいった。
「小屋に行って見ませんか? 今もちゃんと使えるか、確認した方がいいと思いますし」
 彼女がそう説得すると、ジュリスタは決心したように頷いた。

 小屋の中は埃っぽく、散らかっていた。
「これは‥‥掃除する必要がありますね」
 セルミィが室内を見回して言った。時間もまだだいぶあるし、簡単に片付けることにした。
 しばらく物を動かしたりしていると、ふいにマルスが何かが動いているのに気がついた。
 毒蛇が壁づたいにセルミィの背後に近寄っていた。
「セルミィさん、危ない!」
 マルスの叫び声でセルミィは間一髪で毒牙を逃れた。
 アイリスは振り返るととっさにロングソードを振り下ろした。
「え、え〜いっ!」
 毒蛇は真っ二つになったが、それぞれがうねうねと動き続けていた。ユーリはそのさまをみて少しめまいがした。
 桃化が日本刀で毒蛇をさらに切り刻むと、毒蛇は動きを止めた。
「これでもう大丈夫です」
 桃化がユーリにそう言ってほほ笑んだ。ユーリは半歩ほど下がりながら、こくこくと頷いた。
 冒険者達がほっとしていると、少し離れていたマルスがうめき声を上げた。皆が振り返ると、マルスが膝を抱えてうずくまっていた。
「もう一匹います!」
 アイリスは床を這う毒蛇を発見した。貴政が日本刀を振り下ろし、毒蛇に止めを刺した。
「大丈夫ですか、マルスさん!?」
 貴政が駆け寄ると、マルスは膝を毒蛇に噛まれていた。
 何とかしなくては‥‥。ジュリスタはマルスの姿を見て直感的にそう感じていた。このままでは、父の二の舞である。
「ジュリスタさん‥‥?」
「じっとしててください、今毒を出しますので」
 ジュリスタの応急手当は慣れない手つきではあったが、アイリスの手伝いもあってなんとかマルスは助かった。
 今度こそ本当にほっとした一行は小屋の片づけを終えて、残りの森の探索を行なった。

 森から帰ってきた一行は地図に書かれたメモを見ながら、あれはこうだった。あの場所はもっとこの辺ではないか。などといろいろ話し合って地図を整理した。
 ジュリスタは地図を清書して、地形や森の特徴、注意すべき点などを記号や文字でまとめた。日が暮れるころ、ようやく地図が一通り形になった。
「どうもありがとうございました」
 ジュリスタは冒険者達に礼を言った。膝に包帯を巻いたマルスは、
「いいえ、おかげでいい歌ができそうです」
 といって笑った。
 
 ほとんどの冒険者達が帰った後、ユーリは今回の報酬と同じ額を懐から出し、ジュリスタに差し出した。
「これから大変でしょうし、あなたが持っていてください」
「いえ、そういうわけにはいきません」
 ユーリはしつこく差し出したが、ジュリスタはなかなか首を縦に振らなかった。
「‥‥わかりました。でも半額だけいただきます」
 最後にジュリスタはそう言った。ユーリはその言葉をきいて喜んだ。
「これから案内役を頑張ってください。あなたに聖なる母の祝福がありますように」
 ユーリの去ったあと、ジュリスタは家の中へと戻った。一日でも早く仕事を始められるように準備をするためであった。