越冬の場所

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月27日〜12月02日

リプレイ公開日:2004年12月06日

●オープニング

 ある小さな村で起こった出来事である。
 すっかり冬といってよいほど寒くなってきていた。ある朝、イオナは母から薪を持ってくるように言いつけられた。
 薪は家の裏の倉庫に積み重ねてあった。彼女が倉庫に入ろうとすると、倉庫の奥で何かが動いていることに気がついた。
「グルル‥‥」
 倉庫の奥にいたものはイオナの姿を見るとうなり声を上げた。
「きゃぁっ!?」
 イオナは倉庫の奥でふたつの眼が光るのを見た。驚いた彼女は慌てて家へと逃げ帰った。

 その後、イオナの兄と父が確認に行くと、どうやら倉庫にいるのは熊だということが分かった。
「仕方ない、薪はお隣さんに貸してもらおう」
「でも、いつまでも熊は逃げる気配がありません。倉庫には保存食とかも置いてあるのに」
 イオナの兄がのんきな父に言った。このままだと一家は飢え死にしてしまうかもしれない。
「どうして熊は逃げないの?」
 イオナは父に尋ねた。
「恐らく森に十分なえさが無かったのだろう。人家の倉庫なら食べ物もあるし、寒さもしのげる」
 もしかしたらあそこで越冬するつもりなのではないか、と父はつぶやいた。
「そんな‥‥冬中あそこに熊がいられたらこっちが迷惑だ! なんとかしないと」
 兄はそう叫ぶとあわてて農具を持って倉庫へかけていった。
 数分後、肩に怪我を負った兄が息を切らして戻ってきた。
「兄さん!」
「くっ‥‥熊め。なかなかやるじゃない‥‥か」
 イオナと母は兄を寝室へと運んだ。
 どうやら熊はかなり強いらしい。その後、イオナの父は村中に声をかけて、熊を追い払うのを手伝って欲しいと頼んだが、彼らの反応は冷たかった。
 なぜなら、皆イオナの兄の怪我を見てすっかりおびえてしまったのだ。

「どうしたもんか‥‥」
 イオナの父は頭を抱えた。
「お父様、冒険者の方に頼みましょう」
 イオナの説得により、パリの冒険者ギルドに依頼を出すことにした。
 パリへはイオナの父が行くことになった。
「気をつけて、無事に帰ってきてね。あと、お金に余裕があったら適当に食べ物も買ってきてね」
「ああ、分かった‥‥」
 妻に見送られて、男はパリへと向かった。

●今回の参加者

 ea4055 シャルロット・エルフェンバッハ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7841 八純 祐(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8583 アルフレッド・アルビオン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 木枯らしの吹く日、イオナの父は冒険者たちを連れて村に帰ってきた。
「ここが、私の家です」
 父は小さな一軒の家に冒険者たちを案内した。
「‥‥あれが、倉庫なのか?」
 八純 祐(ea7841)が家の裏に見える小さな小屋を指差した。小屋の扉は開いたままになっていたが、中の様子は暗くて熊がいるかどうかは分からなかった。
 父はうなずいた後、詳しい説明をしたいといって冒険者たちを家の中に案内した。
「お帰りなさい! この人達が冒険者なのね」
 娘のイオナが迎えに出てきた。一家はここ数日間、かなり貧しい食事しか取れなかった。だがイオナはそれを感じさせない位明るく振舞っていた。
「こんな田舎の村までわざわざありがとうございます。これからお昼なのですが、一緒に食べませんか?」
「それは嬉し‥‥ぐはっ!」
 承諾の返事をしようとした祐は水無月 冷華(ea8284)に思いっきり足を踏まれた。
「ご心配なく、さっき食べて来ましたので」
 冷華はそう言ってイオナと父に向かって微笑んだ。

 冒険者たちは居間に通された。奥の部屋からイオナが連れてきたのは彼女の兄であった。彼は肩に怪我を負い、包帯を巻いていた。
「これは‥‥ひどい傷だ。よろしければ、僕に治療させてください」
 アルフレッド・アルビオン(ea8583)がリカバーの呪文を唱えると、怪我の痛みが和らいだ。
「ところで、倉庫から熊を追い出すにあたり、相談したいことがありますの」
 九紋竜 桃化(ea8553)がイオナ一家に向かって真剣な表情でいった。彼女の雰囲気はどこか怪しげな色香がある。
「私たちは魔法で倉庫を冷やして、熊をおびき出そうと考えているのですが、倉庫の中に冷えると困るものがないかどうか確認しておきたかったのです」
「え、あぁ‥‥とくに倉庫の荷物は冷えてもかまわないません。ほとんど薪と食料だし、乾かせば平気でしょう」
 イオナの兄はしどろもどろな調子で答えた。イオナは彼の挙動に首をかしげた。
「では一刻も早く熊をやっつけましょう」
 冷華がそういうと、一家は驚いた。
「熊はかなり強いですよ。大丈夫でしょうか‥‥?」
「私たちはこれでも、冒険者です。依頼されたことは必ず達成して見せましょう」
 アルフレッドは落ち着き払った態度で答えた。

 倉庫の前まで来たシャルロット・エルフェンバッハ(ea4055)はフリーズフィールドの呪文を唱えた。魔法が発動すると倉庫の周りの温度が急激に下がっため、白い霧が辺りを覆った。
「これで熊が出てくるまで待ちましょう」
 シャルロットは倉庫の近くで焚き火(もちろん家の者に許可を取った)をしながら、見張りをすることにした。
 冒険者たちがしばらく見張っていると、イオナがスープの鍋を差し入れにやってきた。
「これでも飲んで温まってください‥‥きゃっ!」
 倉庫の入り口近くの地面が凍っており、イオナは滑りそうになった。祐がすかさず手を伸ばしてイオナの体を支えた。
「大丈夫か?」
「はい‥‥でも雨が降ったわけでもないのに、どうして地面が凍っているのでしょう?」
「ごめんなさい。あたしが水をまいたの」
 シャルロットは熊が出てきたときに備えて地面を凍らせておいたのだと説明した。イオナはそれを聞いて用心深い冒険者たちに感心した。
「がんばってくださいね」
 彼女はそういうと、家のほうへ戻っていった。

 さらにしばらく見張りを続けていると、何度か熊のうなるような声が聞こえたが、なかなかその姿は現れなかった。
 次第にあたりは暗くなり、イオナと母が台所で夕飯の用意をしている音が聞こえた。今回は父親が食料を少し買ってきたこともあり、久しぶりにまともな食事がとれそうだという母の声が聞こえた。
「お腹が空きました‥‥」
 冷華がそっとつぶやいたとき、冒険者たちの誰かの腹の音がした。
「全く‥‥緊張感が足りないみたいね」
 シャルロットはそう非難した。が、
「俺じゃない」
「私じゃありません」
「違いますわ」
「まさか、そんなことしてないです」
 全員否定した。
 そのとき再びぐるる‥‥という音がした。今度は皆はっきりと倉庫の中から音がしたのだと聞き取っていた。
「!」
 倉庫の中から二つの目のようなものが光った。それはうなり声を上げながらゆっくりと冒険者たちの前に姿を現した。
「ようやく現れたか」
 祐が苦々しげにつぶやいた。彼らの目の前には全身を茶色い毛で覆われた熊がいた。大きさは冒険者たちより一回り大きいといったところだろうか。
 熊は、冒険者たちを巣を脅かす存在と認識したのか、彼らに向かって前進し始めた。

 熊は長時間冷やされたために動きは遅かったが、殺気立っているようだった。地面が凍っているのに気づいたらしく、慎重に歩いているのが分かる。
 さっさと退治してしまおう。冷華はそう判断して熊の前に飛び出した。
「てぃっ!」
 冷華が日本刀で切りつけようとしたが、意外にすばやい動きで熊はかわした。熊は二本足で立ち上がると、冷夏を殴ろうとした。
 桃化が足場に気をつけながら、熊の横に日本刀を振り下ろした。刀は熊の腰に命中し、熊は大声を上げた。
「近所迷惑ですわ」
 しかし今度は熊が桃化の方へ振り向き、思いっきり腕を振り回した。桃化は熊にはじかれて思い切り後方に倒れた。
「そこまでだ!」
 熊の背後に回っていた祐が力の限り熊を殴った。熊は予想していなかった攻撃にあっけなく倒れた。
 冷華は刀で熊に止めを刺した。
「大丈夫ですか!」
 アルフレッドとシャルロットが桃化の近くに駆け寄ってきた。桃化は熊に殴られたというより、地面に強く打ち付けられたことでダメージを受けていた。
 アルフレッドがリカバーの呪文を使い、桃化の傷を癒した。
「これでもう大丈夫ね。家族の方に報告しに行きましょう」
 シャルロットの言葉に皆はうなずいた。

「熊を退治してくれた上に、兄の怪我まで治していただいて‥‥今日はほんとにありがとうございました」
 帰り際にイオナが冒険者たちに礼を言った。
「そう言っていただけるとありがたい」
 祐はそういいながら優しく微笑んだ。
「熊の肉と毛皮は皆さんで使ってください」
 冷華はイオナ一家にそう告げた。
「いいのですか? 少し持っていっていけばいいのに」
 イオナの兄はそう言ったが、荷物になるから、と冷華は言った。
「では、私たちはこれで失礼します」
 桃化がそう言い、冒険者たちは村を後にした。

「ねぇ父さん、お肉なんだけど、村の人たちにおすそわけしてもいい?」
「なに!」
 イオナの兄は妹の言葉に驚いた。村人たちは今回の事件に全くといっていいほど力を貸してくれなかったのに、である。
「そうね。でも結局は私たちもこの村に住んでいるんだから、助け合うことは大事だと思うよ」
「それが一方的なものでもいいのか?」
 イオナは首を振った。だが彼女はすぐには変わらないかもしれないけど、村人たちもいつか分かってくれるはずだといった。
 兄はため息をついたが、その表情はどちらかといえば笑っていた。
 家族はようやく平和になった我が家へと帰っていった。