氷の彫刻師

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月14日〜12月19日

リプレイ公開日:2004年12月23日

●オープニング

 彫刻師フリックとウィザードのライナは氷の彫刻を作ることでその名を知られていた。
 ライナがクーリングの呪文で氷を作り、フリックがそれを削ってさまざまな形を作るのである。
 ある日彼らのもとにパリに住む貴族から注文が入り、彫刻を作ることになった。
 二人はさっそく貴族の屋敷へ向かった。
「勇ましい獅子の彫刻を作っておくれ」
「かしこまりました、では‥‥」
 フリックは大きな木桶に水を張ったものを用意させた。ライナがその前でクーリングの呪文を唱えようとすると、貴族は驚いたような声を上げた。
「まて、魔法を使うとは聞いてないぞ!」
「でも、そうしないと氷ができませんわ」
 そうライナに言われると貴族は渋い顔をした。フリックが一体どうしたのかとたずねると、
「わしは昔、魔法使いにだまされてひどい思いをしたのだ。だから魔法を使う奴はすべて信用ならん」
 と貴族は言い、ついには帰ってくれとまで言い出した。
「そこをなんとか‥‥氷さえ手に入れば、魔法を使わず彫刻はできますので」
「そう言われても、自然にできる氷など、大きさはたかが知れているだろう」
 貴族が外で見たことのある氷といえば、池や水溜りの表面にできた薄いものであった。
「そうでもありませんわ」
 ライナがそう口を挟むと、貴族は怖い顔で彼女を見たが、
「どういうことだ?」
 と興味深そうに質問した。
「この近くにある山の洞窟には、地下水が冷やされてできた大きな氷の塊があるそうです」
「その山って、ゴブリンが出るっていうあの山のことか?」
 フリックが心配そうに彼女に尋ねた。
「ええ、でも大丈夫です。冒険者に頼めばきっと取ってきてくれますわ」
「うむ‥‥それならいいだろう」
 貴族も満足そうにうなずいた。
「つきましては、冒険者を雇う費用などももちろんそちらで負担して下さいますね?」
 ライナがちゃっかりと付け加えた。
「うむ‥‥いいだろう」
 貴族が苦々しくうなずいた。

●今回の参加者

 ea2733 ティア・スペリオル(28歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea7383 フォボス・ギドー(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7841 八純 祐(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7866 セルミィ・オーウェル(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea8223 竜崎 清十郎(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8286 ビアンカ・ゴドー(33歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 ea9248 アルジャスラード・フォーディガール(35歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

 かれこれ歩き始めてだいぶ時間がたった。いま冒険者たちはフリックとライナの案内で山道を歩いているのである。
「それにしても、人を偏見で見るなんてよくないです。ライナさんもそう思いませんか?」
 セルミィ・オーウェル(ea7866)がライナに貴族の態度について話していた。
 アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)は黙って二人の話を聞いている。ハーフエルフである彼は、世の中に偏見や差別がたくさんあることを嫌というほど知っていた。そのせいか差別はよくない、という意見もどことなく偽善的に聞こえてしまうのである。
 今回、冒険者たちはまだ貴族に顔を見せていない。冒険者ギルドにおいての雇い主はフリックとライナの二人であった。だが、氷を届けるため、最終的には貴族の家に行かなければならない。
(「貴族はハーフエルフについてどう思うだろうか‥‥ものわかりの良い人物だとは思えないが」)
 とりあえずは正体を隠しておいたほうがいいだろうと思うアルジャスラードであった。

「もしかして、あれが例の洞窟ですか?」
 ビアンカ・ゴドー(ea8286)が少し道から離れたところを指差した。崖の一部分に大きめの穴が開いている。それこそ洞窟の入り口だった。
 ライナがそうだというと、ビアンカはランタンに火をともした。洞窟の中は暗く、これがなければ中でものを見ることは難しいだろう。
「では行こうか」
 フォボス・ギドー(ea7383)が気楽そうに言った。今回の冒険者たちの中では経験豊富な彼にとって、今回の依頼はそれほど難しいものではないらしい。
 冒険者たちは彼の言葉に安心して、しかし警戒は怠らずに洞窟の中へと入っていった。

 洞窟の中はひんやりとした空気が流れていた。冬のため外ももちろん寒いのだが、それとはまた違った寒さである。
「うにゃ〜寒そうだねぇ」
 ティア・スペリオル(ea2733)が洞窟の中を見回しながら言った。もっとも本人は防寒服をきっちり着込んでおり、暖かそうだった。
「こんなに寒いところ、わざわざゴブリンも現れないだろう」
 竜崎 清十郎(ea8223)が白い息を吐きながら言った。
「わからん。もしかしたらゴブリン以外の何かが潜んでいるかもしれない」
 八純 祐(ea7841)が心配そうに言った。とにかく、警戒してしすぎることはない。
 冒険者たちは、ランタンの明かりを頼りに氷の塊がないかあたりを探索した。
「あ、あれはどうでしょうか!」
 セルミィが天井を見て言った。何本もの大きなつららができていたのである。しかしいくら大きいとはいえ、彫刻できるほどの大きさではなかった。
「もう少し奥に行って見ましょう」
 ビアンカがランタンで辺りを照らしながら言った。どうやら入り口近くには大きな氷はないようだ。
 冒険者たちは洞窟の奥へと歩き出した。
 
 洞窟の奥へ進むと不思議な光景が広がっていた。地面の所々に氷の塊が出来ている。
「どうやらつららから落ちた水が、長い時間をかけて氷の塊になったようですね」
 ライナが冒険者たちに説明した。そして、しばらく探した結果、一際大きい氷の塊を見つけた。
「これなら彫刻が出来るだろう」
 フリックが満足そうにつぶやいた。
 氷は清十郎とアルジャスラードがのこぎりを使って切り出した。かなり時間がかかったが、交代しながら何とか氷を切ることが出来た。
「持ち上げられるか?」
 フォボスが大きな氷を見ながら言った。清十郎とアルジャスラードは二人で持ち上げようとしたが、わずかに地面から浮くのが精一杯で、とても動かすのは、無理だった。
「とりあえず、借りてきた荷車に何とかして載せようよ」
 ティアが洞窟の入り口まで引き返して荷車を引いてきた。そして今度はフォボスと祐も加わって四人で氷を持ち上げてみた。
「せーの!」
 氷はゆっくり持ち上がり、何とか荷車に載せることが出来た。荷車から氷が動かないよう、清十郎がロープを使ってしっかりと固定した。
「よし、氷が溶けないよう、急いで帰ろう」
 フォボスは荷車を自分の馬に引かせることにした。
「今のところゴブリンはまだ現れていないけど‥‥とにかく気をつけていこうね」
 ティアはそういって冒険者たちの先頭を行くことにした。
 冒険者たちはそれぞれ辺りを警戒しながら山を下り始めた。

 洞窟を出て少しした後、冒険者たちは周りに何者かの気配を感じていた。
「‥‥つけられているな」
 祐は小さな声で他の冒険者たちに言った。冒険者たちは歩くのを止め、緊張した面持ちで辺りを見回した。
 と、そのとき、草むらからわらわらと数匹のゴブリンが現れて冒険者たちを取り囲んだのである。数は五匹だろうか。まだどこかに隠れているかもしれない。
「うわ、沢山出てきたぞ!」
 フリックが驚いている間に冒険者たちは手際よく自分の持ち場についた。
 フォボスは氷にゴブリンたちが近づかないよう、果敢に前へ飛び出していった。ゴブリン二匹に挟まれた彼は盾で攻撃を受け流しながらモーニングスターを振り下ろした。
「くらえ!」
 ゴブリンの頭に攻撃が命中し、敵は気絶した。もう一匹のゴブリンも祐のスタンアタックによって気絶させられた。
 氷を守る後方の冒険者たちに近づこうとするゴブリンがいた。ティアは的確に矢を放って、ゴブリンたちを氷の近くに近づけないようにした。
「こっちくるなよー!」
 アルジャスラードも目の前にもゴブリンが一匹立ちふさがった。アルジャスラードは動揺せずに、向かってくる敵に対して両拳を突き出した。
「ぎゃっ」
 ゴブリンは悲鳴を上げて地面に転がった。一番奥で構えていたリーダーらしきゴブリンは驚いて逃げ出そうとした。
「まて!」
 清十郎が追いかけていってゴブリンに思い切り蹴りを入れた。ゴブリンは強い衝撃ですっ飛び、地面に打ち付けられた。
「これで全部みたいですね」
 ビアンカが周りを見回して言った。
「ああ、だがまた別のゴブリンの集団が現れないとも限らない。早めに帰ろう」
 アルジャスラードが皆に言った。冒険者たちはさっきより少し駆け足で山を降りて行った。

 冒険者たちは何とか無事に貴族の屋敷にたどり着いた。貴族は氷の塊と、冒険者たちを見て驚いた。
「おお、君たちがこれをもってきてくれたのか。ありがとう」
 貴族はうれしそうに冒険者たち一人ひとりと握手した。フードをかぶったアルジャスラードは少し気まずそうな顔をしていたが、貴族はそんなことは気がついていないようだった。
「ではさっそく彫刻を作りますので、お待ちください」
「僕、見学していい?」
 ティアがフリックにたずねると、彼はもちろん、と言った。

 次の日の朝、ようやく獅子の像が完成した。
「きれいですねぇ」
 セルミィがうっとりと言った。獅子は朝日の光を浴びてきらきらと輝いていた。
「うむ。魔法を使わなくても、これほどのものが出来るのだ」
 貴族は満足そうにそういったが、ライナは少し不満な様子であった。
(「まぁほとんど働かずにお金がもらえるわけなのですが、何かすっきりしませんわね‥‥」)
 冒険者たちや彼女のそれぞれの複雑な思いも知らず、ただ獅子だけが透き通った輝きを放っていた。