初夢記録人

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月02日〜01月07日

リプレイ公開日:2005年01月10日

●オープニング

 寒い冬の日の朝。ウィザードのレイリアが目を覚ました。
「‥‥そういえば、もう年末ね」
 レイリアは朝食をとりながらそう考えると、冒険者ギルドへ行く準備をした。

 彼女は夢を見たことがない。もしかしたらとても幼いころは見たのかもしれないが、それも覚えていないのである。
 いつしか彼女は他人の夢に興味を持つようになり、人々の夢の記録をとるようになっていた。
 普段の生活の延長のような平凡な夢を見る人、冒険などとは縁がないのに恐ろしい怪物の夢を見る人などさまざまな人がいた。

 冒険者ギルドにやってきたレイリアは受付の者にこう言った。
「実は、私の研究を手伝ってくださる方を探しているのです」
 ジャパンでは一年の初めに見る夢を初夢と言ってその内容で一年を占うらしい。
「もうすぐ新年ですし、冒険者の皆様がどんな初夢を見たのか記録に残しておきたいのです」
 レイリアは冒険者のほかにも、さまざまな職についている人々を回って、夢の記録をつける予定だと言う。
 冒険者たちには夢の報告のほかに、こちらの手伝いもしてほしいということだ。

 果たして今回はどのような夢の報告が聞けるだろうか。レイリアはそう考えて少し楽しそうな顔をした。

●今回の参加者

 ea0130 オリバー・マクラーン(44歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4049 シェアラ・クレイムス(21歳・♂・レンジャー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7357 メラ・ポゥーラー(26歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea7693 マルス・ティン(41歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 ea7738 ブライアン・セッツ(21歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea9481 マッカー・モーカリー(25歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 オリバー・マクラーン(ea0130)が目を覚ましたとき、影の傾き具合で昼をずいぶん過ぎてしまったことがわかった。
「しまった、遅刻だ!」
 今日はレイリアや他の冒険者たちが、イギリス出身の騎士に夢の取材に行くのを手伝うはずだったのだ。
 ふと宿の外をみると、乗るはずだった馬車がガラガラと出て行くところである。
「ま、待ってください」
 いつの間にか着替えたオリバーはのろのろと馬車のあとを追いかけていく。しかし馬車との距離は開く一方である。

「‥‥‥‥!」
 オリバーは再び宿で目を覚ました。どうやら夢だったようである。
 冷たい空気がさわやかな朝のことである。オリバーは着替えと朝食を済ますと、今度は徒歩でレイリアの家へ向かった。
 彼は早めに出たつもりだったが、先にシェアラ・クレイムス(ea4049)が着いて、レイリアと話をしていた。
「普段から夢って、あまり気にしていないんですけど‥‥今朝見たのは夜空でした。おいらがそこを飛んでるんです。それから場面が変わってお菓子を食べてました。いくらでも入るんです」
「かわいい夢ですね」
 レイリアがそう言うと、シェアラは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「これ記録するんですよね、はずかしいな‥‥でも他の人がどんな夢を見たのか、結構気になります」
 二人の視線がオリバーに集まった。
「うん? 私ですか‥‥」
 オリバーはさっき見たばかりの夢の内容を話した。しかしシェアラの後だと、自分の夢があまりに日常的すぎる気がした。
(「別にわざわざ初夢にみる夢じゃないよなぁ‥‥」)
 本人はそう思っていたが、夢を見たことがないというレイリアは面白そうに聞いていた。

 オリバーたちが取材に出かけた後、続いてレイリアの家にやってきたのはメラ・ポゥーラー(ea7357)とマルス・ティン(ea7693)であった。
「メラさんの初夢はどのようなものでしたか?」
 レイリアがたずねると、メラは難しそうな顔をした。
「どうかしましたか?」
 マルスが優しくたずねた。
「なんだか素敵な夢だった。だけどはっきりとは覚えていないんだ。誰かが歌を歌ってくれたんだ。歌の内容は分からなかったけど、曲はボクの心を落ち着かせ、疲れきった心と身体を癒してくれるかのようだった」
「とても素敵な歌ですね。その歌を歌ってたのは誰なのでしょう」
 レイリアがたずねるとメラは残念そうに首を振った。
「光で顔はよく見えなかった。でも冒険者になってから、ギルドで知り合うようになった人に違いない。これから探してみることにするよ」
「そうですか。夢が本当になるといいですね」
 マルスはそう言って微笑んだ。
「マルスさんはどんな初夢を見ましたか?」
 レイリアが羊皮紙にペンを走らせながらマルスに尋ねた。
「そうですね‥‥」

 夢の中、マルスはただ事態を見守るしかできなかった。
 娘がモンスターに襲われそうになっている。マルスは助けようとするが、なぜか自分の手は届かない。
「誰か‥‥」
 その瞬間、誰かがモンスターの手から娘を取り戻し、マルスのところへ連れてきたのだ。
 助けてくれた者はどうやら女性のようだが顔ははっきりとは分からなかった。
「ありがとうございます」
 マルスが手を差し出すと、ふっと女性の姿は掻き消えてしまった。

「‥‥なるほど、どことなくメラさんの夢と似てますね」
 レイリアは興味深そうにマルスの話に聞き入っていた。
「夢とは人の願望を反映するといいますが、これもそのような物なのでしょうか?」
 マルスがレイリアに尋ねると、レイリアは首をかしげた。
「どうでしょう‥‥? 家族がモンスターに襲われることを望む人は少ないと思いますが。初夢には不思議な力があるとジャパンでは言われます。何かの予兆かもしれません」
「そうですか。しかしモンスターはともかく、あのような女性に会えるならとても楽しみです」
 そういってマルスは楽しそうに竪琴を鳴らした。

 次の日のことである。レイリアは寝不足で機嫌が悪かった。
 今日は昨日パリのあちこちに取材に出かけていた冒険者達が報告にくる。それから昨日は夢が見られなかったという二人の冒険者達の話も聞かなくてはならない。
 一番最初に来たのはマッカー・モーカリー(ea9481)であった。どことなく楽しそうな顔をしている。
「どんな初夢を見ましたか」
 機嫌の悪いレイリアはそっけなくたずねた。
「われながら愉快な夢じゃったよ」
 マッカーはそんなレイリアの様子に気がついていない。
「わしが世界中を旅する商人になって、大冒険するのじゃ。本当に一夜の夢とは思えないほど長くてな。海賊の宝を発見したり、美しいお嬢さんと恋に落ちたりしたものだよ」
「‥‥続けてください」
 レイリアは羊皮紙に顔を向けたまま促した。
「最後は一国一城の主となって、めでたしめでたしじゃ。レイリア殿、この話でどこか気になった所はございませんか?」
「いいえ。ご協力ありがとうございました」
 レイリアがそういうとマッカーは残念そうな顔をしてその場を去った。
 マッカーが帰った後、レイリアは少し休もうと考えた。

「うーむ、残念じゃったな‥‥」
 帰りの道、マッカーは顔をしかめながらつぶやいた。
 実は昨日夢を見なかったというのは嘘であった。彼はレイリアが夢を見れるようになればいいと考え、昨晩こっそりと彼女の枕元で自分の初夢の内容を囁いていたのである。
 しかしそのとき夢を見ていたとしても、目が覚めたころには忘れてしまったらしい。
「夢は何でも起こりうる。この面白さを彼女が体験するのはいつになることやら‥‥」

 レイリアははっと目を覚ました。どうやら少しの間ウトウトとしてしまったらしい。
「‥‥なんだか今夢を見ていたような気がする」
 内容はよく思い出せなかったが、なぜかいい気分であった。
「それはよかったですね」
 気がつくとブライアン・セッツ(ea7738)が机の脇に立っていた。彼は昨日夢を見なかったが、その代わり彼女の紹介状を持って、貴族の家を回っていたのである。
「私もはつゆめをみました。とてもふしぎなゆめでした」
「不思議な夢?」

 ブライアンは夢の中で目線が奇妙に低いことに気がついた。これは人の目線ではない。
 彼は冒険者ギルドの中をうろうろしているようだった。とはいえ、普段のギルドとはまるで違うように見えた。
 いかつい男性がブライアンと目があった。男がちょっと脅かすようなしぐさをすると、ブライアンはキャンキャンとほえながら逃げていった。
 どうやら夢の中で犬になっているようだ。しかしどうも変だ。あそこにいるゆったりした服に身を包んでいる少年はまるで自分みたいだ。
「わんわんわん」
 ブライアンは少年に声をかけたが彼は気がつかない。そうしているうちに少年は他の冒険者達と出て行ってしまった。

「‥‥なるほど、犬の視線でブライアンさんを見ていたんですね」
 レイリアは彼の話を聞いて、そう結論付けた。
「はい、しかし私はぼうけんしゃギルドで実際にそのいぬにあったことはありません。ゆめみたいに気がつかなかっただけかもしれませんが」
「そう? でも夢のとおりにその犬が実在するとは限らないわ。何か他の事を意味するのかもしれません」
 ブライアンは残念そうな顔をした。
「このゆめをみてから、いぬがとても飼いたくなりました。でもエチゴヤに行ってもうりきれていますし‥‥」
「いつかきっと飼えますわ」
 レイリアはそう言ってブライアンを励ました。

 冒険者達の報告をレイリアがまとめているころ、メラは冒険者ギルドの一角に座っていた。
 夢に出てきたあの人は一体誰だったのだろう。彼女の視線がうろうろとギルドの中をさまよう。
「おつかれさまです」
 ふと声をかけられて振り返ると、そこにはマルスが立っていた。
「この数日間、さまざまな人の夢を聞けてよかったです。どれか詩にできるといいのですが‥‥」
「僕もぜひ聞きたいな。楽しみに待ってます」
 メラはそう言ってマルスに微笑みかけた。
「そう言っていただけるとありがたいです。そうだ、メラさんの初夢を詩にしましょう」
「本当!?」
 メラはとても嬉しそうだった。マルスは竪琴を鳴らしながら、彼女の夢にふさわしい言葉を選び始めた。