冒険志望者の試練
|
■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月16日〜01月21日
リプレイ公開日:2005年01月25日
|
●オープニング
「‥‥わしはミラシアが冒険者になるのは反対だ。彼女は無邪気で、他人を疑うことがない。教会ではともかく、外の世界はそれだけが価値ではない。しかし、彼女がなりたいというなら仕方がない」
とある小さな町の教会。司祭は部下のシスター・エスリルと話し合っていた。
ミラシアはエスリルとほぼ同じ時期から教会にいる若いシスターである。二人は以前、人攫いの集団にさらわれかけたが、冒険者達の手によって助け出されたという経歴の持ち主である。
日常に戻ってこれたことを神に感謝するエスリルとは対照的に、ミラシアの心に生まれたのは冒険者に対する強い憧れであった。
そんな彼女が冒険者になりたいと言い出すのは時間の問題だった。
「ミラシアに同行して、これをパリの冒険者ギルドに届けてほしい」
司祭は一通の手紙をエスリルに託した。
「この手紙は‥‥ミラシアの紹介状ですか?」
エスリルは封筒を受け取り、不思議そうに眺めた。司祭はその様子をみて少し面白そうに微笑んだ。
「すこし違う。詳しくはパリについてからギルドで聞いてほしい」
「なぜ今教えていただけないのです?」
エスリルの素朴な問いに、司祭は困ったという顔をした。
「エスリル、お前のことを疑っているわけではないんだ‥‥だがお前達は、仲がよすぎる。うっかりミラシアに話してしまわないようにしたいのだ」
「‥‥分かりました」
司祭のやり方に少し反発を持ちながらも、エスリルとミラシアはパリに向かうことにした。
「しかしどうしてエスリルに手紙を託したのかしら。私がついでに届ければすむ事なのに」
パリで冒険者ギルドに向かう途中、ミラシアは言った。
「さぁ、どうしてかしら」
二人がそのように話していると、冒険者ギルドにたどり着いた。
エスリルが受付で手紙を渡すと、少しお待ちくださいとギルドの者に言われ、二人は待つことにした。
しばらく中でなにやら騒がしい声がしていたが、しばらくして受付をしていたギルド員が戻ってきた。
「え〜、お持たせいたしました。そちらのミラシアさん? 早速ですが、簡単な試験を受けてもらいたいと思います」
「試験!? そんなものがあるの?」
ミラシアはびっくりして言った。
「はい、司祭様からの指示により、あなた様が本当に冒険者にふさわしいかどうか審査することになったのです」
「あの親父‥‥」
「ミラシア、司祭様はあなたのことを思ってやってるのだから悪く言っては駄目よ」
エスリルは彼女をそういってなだめた。
「う、うん‥‥それで、試験とは一体どういったものなのかしら?」
「基本的に普通の依頼と同じです。ここから少しいったところにある小さな村で悪い病が流行っています。病人達はみな、近くの山の洞窟に行ってから調子が悪いとの事です」
「どうくつ?」
「はい。なのでその洞窟へ行って病気の原因を探し出し、それを排除してください。これが試験の内容です」
「なんだか本当の冒険者になったみたい」
試験の内容を聞いたミラシアはすこしやる気が出てきたようだ。
「もう少ししたら通常の依頼として出されますので、他の冒険者達も集まってくるでしょう。彼らと協力して依頼を達成してください。報酬も通常どおり出ます」
「はい、がんばります!」
「‥‥‥‥」
なにやらやる気まんまんのミラシアを見て、はたして大丈夫だろうか、と心配するエスリルであった。
●リプレイ本文
その日の朝、エスリルはパリの町外れにやってきた。初めての冒険に出発するミラシアを見送るためだ。
「あんまり心配しないで。私達がついてるんだからね」
ルティエ・ヴァルデス(ea8866)が心配そうな顔のエスリルに言い聞かせた。今回集まった冒険者達はミラシアと同じく今回が初の依頼だという者から、すでにいくつかの依頼をこなしてきた者までさまざまである。
「大丈夫、みんな良い人たちだよ。絶対に冒険者になるからね」
ミラシアはそう言って微笑み、仲間とともに旅立っていった。
「大丈夫でしょうか‥‥」
一人残ったエスリルは、だんだん小さくなってゆく冒険者達の姿を眺めていた。
村に向かう道の途中、ミラシアはいろいろなことを先輩冒険者、主にティア・スペリオル(ea2733)に教わった。
「種族不問・実力主義・信用第一。冒険者達の多くはこう考えてるよ。ハーフエルフにしてもそれは同じ。覚えといてね」
「なるほど。わっかりました!」
ミラシアは素直に先輩の話を聞いている。
「冒険者の仕事は確かに危険も多いが一人で仕事をするわけではない。気楽に考えるのは危険だけど、かといって無闇に怖がる事もないさ」
というシヅル・ナタス(eb0485)とハニー・ゼリオン(eb0694)も今回が初の依頼である。
しかし彼女らの方が世間知らずな面もあるミラシアより頼もしく見えるのは気のせいか。
とにかくそうして歩き続けると夕方には目的の村にたどり着いた。
村に着くと依頼人である村長が冒険者達を迎えてくれた。ミラシアは村長の顔に見覚えがあった。
「あら、あなたは‥‥」
「どうかしましたか?」
シャルク・ネネルザード(ea5384)がミラシアにたずねた。
「ふぉふぉふぉ。ミラシアじゃないか。ずいぶん大きくなったのう」
実は、村長はミラシアのいた教会の司祭の兄であった。
「兄さんから話は聞いておる。まぁ試練だろうが何だろうがわしは気にしないがな。頑張っておくれ」
「村長、病人に話を聞いても良いだろうか?」
アンノウン・フーディス(ea6966)が村長に尋ねると、村長は何人かの病人の名前と住んでいる場所を教えてくれた。
冒険者達は手分けして話を聞いてくることにした。ミラシアはティアとシャルクと同行することにした。
「症状はそうですね、ごほっ‥‥熱がありやす。あと咳です」
「ふむ‥‥それだけだと病気を特定するのは難しいな」
病人のひとりの家にやってきた ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)はそう言って腕を組んだ。
「ところで、どうして洞窟に入ったのでしょうか?」
アディアール・アド(ea8737)が質問すると村人は、洞窟にはキノコが生えていてそれを採りに入ったと答えた。
「まさか、毒キノコだったのではないか?」
ヴィクトルがそう言うと村人はとんでもない、と首を振った。
「洞窟に生えるキノコは村のものなら皆食べたことがあるはずですぜ。それよりも、わたしゃ妙な『音』がしたのが気になりやす」
「音?」
「はい、バサバサという羽音です」
そう言って村人は両手を翼のように動かした。しかし熱のせいか元気はなかった。
「コウモリでしょうか?」
「分からんです。でっかい音だったのでカラスかと思いましたが‥‥以前はあんな音はしなかったと思いやす」
話を聞き終えたヴィクトルとアディアールは村長の家に戻り、皆に報告した。他のものが聞いてきた話も大体同じようだった。
「その羽音の主が病気のもとなのかしら? ここはやっぱり実際に洞窟に行って確かめないと‥‥」
「気持ちは分かりますがミラシアさん、今日はひとまず休みましょう。ここまで歩いてきた疲れを残したまま、山へ行くのは危険です」
アカベラス・シャルト(ea6572)にそう諭されたミラシアはどうやら納得したようだ。
冒険者達は明日に備えて休むことにした。
夜が明けたばかりの霧の中。冒険者達が山を登っていくとその洞窟はあった。
「ここが、問題の洞窟みたいだね」
ルティエはランタンに火をともし、入り口から洞窟を照らしてみた。特に異常はないように見える。
「では、行きましょう」
井伊 貴政(ea8384)とハニーを先頭にして冒険者達は洞窟の中へと進んでいった。
洞窟の中は暗く、しんとしている。今のところ羽音も聞こえない。
一行が洞窟内を見回していると、ふいにミラシアは気になるものを見つけた。
「これが例のキノコかしら」
「どうやらそうらしいですね、どれどれ‥‥」
薬草師のアディアールは興味深そうにキノコを観察していたが、それを見ていたミラシアは何を思ったのかそこに生えているキノコをえいっと一本むしりとった。
「ミラシアさん!?」
「ちょっとおなかすいたのよねぇ。食べてもいいかな?」
「あまりお勧めできませんね。まだ病気の原因がはっきりしていないのですから」
アカベラスがそう言うと、ミラシアはちょっと残念そうな顔をしたがキノコを食べるのをあきらめた。
彼女が地面にキノコを落とすと、もわりとほこりが立った。
「‥‥?」
シヅルは妙なことに気がついた。この洞窟の中は、妙に埃っぽいのだ。
だがそれに気がついたのとほぼ同時に、バッサバッサという羽音が冒険者達の耳に入ってきた。
「来たか‥‥!」
すかさずアンノウンがウィンドスラッシュの詠唱を始める。彼の放った真空の刃は羽音の主の片翼に命中したらしい。
「キィーッ」
羽音の主の動きが一瞬鈍くなった。そしてルティエのランタンがその生物の形を捉えた。
「きゃあっ」
「なんだ、コウモリか?」
「それにしてはずいぶん大きいですね‥‥」
それはコウモリであった。しかし翼を広げると大体パラと同じくらいの大きさの、である。
体勢をたてなおした巨大コウモリは冒険者達を敵と認識し、ミラシアに襲い掛かってきた。
「危ないっ!」
井伊はとっさに彼女とコウモリの間に割り込んだ。コウモリの牙が井伊に迫る。しかしその瞬間、
「とりゃあっ!」
ハニーが横からロングソードで切り付けた。というより叩き落した。打ち所が悪かったらしくコウモリは地面に落ちた。
「井伊さん、ハニーさん、どうもありがとうございました」
ミラシアは自分を助けてくれた二人に感謝の言葉を述べた。
「いえ、同じ冒険者同士、お互い様です」
井伊は少し照れているようだった。ハニーは、
「あたしがこんなに強いのも、毎日ハチミツを食べているからだよ」
といって自分がハチミツ好きであることをアピールした。
その後洞窟をしばらく調査しだたが、埃っぽいという以外は特にこれといって異常もないので村に帰ることにした。
「‥‥そうでしたか。ということは結局何が病気の原因だったのじゃろうな?」
村長は冒険者達の報告を聞いてそうたずねた。
「たぶんコウモリでしょう。洞窟の埃、あれはコウモリの糞が乾いたものだったんじゃないかと」
ルティエがそう言うと、ミラシアはキノコを食べなくてよかったとほっと胸をなでおろした。
「とりあえず洞窟の中のコウモリの死体は燃やしてきたが、中のキノコは食べないようにしてほしい」
ヴィクトルがそう言うと、村長は分かった、皆に伝えようと答えた。
こうして今回の依頼はなんとか終了したのであった。
数日後、司祭はエスリルだけが教会に帰ってきたことを知った。
「‥‥ということです。ミラシアは正式に冒険者ギルドに登録されました」
エスリルは司祭に詳細を話した。
「そうだな」
司祭の反応はエスリルが思ったより冷静であった。
「彼女の選んだ道だ。もうわしが何を言っても意味ないさ。これからは、彼女のことは彼女でやっていけるだろう」
「そうだといいですね」
エスリルは冒険者として活躍してゆくであろうミラシアを想像して微笑んだ。
そしてまた教会にいつも祈りの日々が戻ってきた。
以前より、少しだけ静かな日々が。