知識の伝授
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■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月02日〜02月09日
リプレイ公開日:2005年02月10日
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●オープニング
ウィザードのアーセイルがパリに帰ってきた。
彼は数ヶ月前、偶然にも幼いゴブリンとコボルト達を保護することになった。
しかしいつまでも人の手でモンスターを育てるのはどうか、と彼は考えていた。
はぐれてしまった親は一体どこに居るのだろう。彼が調べていくうちにとある村が関係ありそうだということが分かった。
アーセイルは弟子達にモンスターの子供達と自習用の課題を預けて件の村へと出かけていった。
パリからそう離れていないその村は、一年ほど前から森を切り開いて新たな耕作地を開拓していた。
彼は村長に会って、開拓の詳細を聞くことができた。
「最初はなかなかうまく進みませんでした。ええ、作業中怪物達が襲ってくることもしばしばありました」
昔からあるその森には熊やヘビなどの動物はもちろんのこと、ゴブリンなどのモンスターも住んでいたのだという。
モンスター達は自分達の住む森に入ってくる人間を激しく嫌い、開拓作業を邪魔することもしょっちゅうあった。
「‥‥そこで、私達は冒険者に怪物の退治を頼んだのです」
「冒険者?」
村長が言うには、冒険者といってもギルドを通じての正式な依頼ではなく、たまたま村に来ていた冒険者の集団がいたから頼んだということだった。
冒険者達は森のモンスターをすべて殺し、報酬を受け取ると村を去っていったという。
「すべて、ですか‥‥」
アーセイルはため息をついた。おそらくあの子供達の親も殺されたに違いない。
さてパリに帰ってきてから、アーセイルはこれからどうするか考えた。
肝心のモンスターの子供達は、今はのんびり暖炉の前で眠っている。
いまさら子供達をそこいらの森で暮らすようにといって置き去りにしても無理だろう。彼らは生活するための能力が足りなかったため、人間の食料を盗もうとしていたのだから。
「‥‥ならば、生活力をつけるしかないですな」
しばらく考えてた結果、アーセイルはそう結論付けた。
彼は冒険者ギルドへと向かった。
「お願いします、あの子達を森で誰にも頼らず暮らしていけるようにしてください!」
「落ち着いてください、アーセイルさん」
ギルドの受付係はアーセイルにもっと分かりやすく説明してほしいと頼んだ。
アーセイルが説明したところによると、つまりモンスターの子供達に森で暮らしていけるような技術を教えてほしいということだった。
「子供達が自分で狩や木の実を集めたりすることが出るよう、技術と知識を教えてほしいのです。冒険者の方達なら、きっと詳しいはず」
「確かにそうかもしれませんが‥‥モンスターに物を教えることが可能なのでしょうか?」
ギルド員がそう疑問を投げかけると、アーセイルは渋い顔をした。
「ここ数ヶ月間、小生はあの子達と生活してきました。最初は言うことを聞きませんでしたが、熱意を持って話せば自分達が人間の家で生活していくのに必要なことだと分かってくれました」
ここでの『分かる』とはペットが飼い主の言いたいことが分かる程度の分かるだろう。とギルド員は考えながら話を聞いていた。
「うまく生活のすべを身につけさせることができたら、小生は子供達をどこか遠くの森で生活させるようにしたいのです。おそらくそれが、自然なことのはずですから‥‥」
言いたいことだけ言って依頼書を作成するとアーセイルはさっさと帰ってしまった。
「あの人は、突っ走るタイプだからなぁ‥‥」
ギルド員はそう思いながら立ち去るアーセイルを見送っていた。
●リプレイ本文
アーセイルと冒険者達はその日の夕方森に着いた。かつてアーセイルがモンスターの子供達に出会った森である。
「アーセイル先生、こんな時間にどこへ行くのですか?」
偶然通りかかった近所の男がアーセイルに声をかけた。アーセイルはなんと答えたらいいか戸惑った。
「これからしばらく子供達にキャンプの仕方を教えることになった。近くの人と接触しないようにさせたいので、なるべく森には近づかないでほしい」
飛 天龍(eb0010)が説明した。冒険者達の後ろにはフードで顔を隠した小柄な影が四人ほど見えた。
「ああ、分かった。がんばれよ」
男は子供達にそう声をかけて去っていった。アーセイルはほっとため息をついて、飛に礼を言った。
「どうもありがとう」
「アーセイルは別に悪いことをしているのではない。焦る必要はない」
王 娘(ea8989)がそっけなく答えた。
確かに彼女の言うとおりだ。しかし何も知らない人がモンスターの子供に狩の仕方を教えている場面など見たら、変な勘違いを起こしても不思議ではない。
アーセイルがそう考えているうちに、森の中にある小さな木造の小屋にたどり着いた。彼が弟子の教育などで森に泊まる必要があるとき使用していた物である。もともとは使われなくなった倉庫だったらしい。
ランタンを囲んで簡単な夕食を済ませたあと、冒険者達は明日からの段取りや、見張りをどうするかなどを今一度確認した。
「道具はこんなものでよいだろうか?」
アーセイルはルーシェ・フィオル(eb0377)から頼まれていた、すこし小さめの子供用の弓矢や寝袋などの道具を広げて見せた。
「うん、ばっちりだよぉ。明日がたのしみだね」
ルーシェが笑顔で答えた。子供達は寝袋で寝るというのが面白いらしく、小屋の中をごろごろ転がって遊んでいた。
飛はあわててテーブルにあったランタンを近くの棚の上に移したが、すでに疲れていた子供達はすぐに眠ってしまった。
「楽しみ‥‥か」
皆が寝静まったころ、アーセイルは少し複雑な表情でつぶやいた。
さて日が変わり、いよいよ本格的な指導が始まった。
「まずは弓の扱い方を覚えてね。狩をするときや敵から身を守るために役に立つんだよ」
森育ちのルーシェはさすがに弓の扱いに慣れている。彼女の放った矢は遠くの木に掛けた的に命中した。
王とローサ・アルヴィート(ea5766)も加わり、子供達に身振り手振りを交えながら弓の持ち方などの手本を見せた。
クリムの矢が的をかすったが、他のものはかなり見当違いの方向に飛んで行った。
「大丈夫、じっくり練習すればもっと上手になるからね」
といいながらルーシェはがんばれのポーズをする。
「ルーシェさん、動かない的を狙うだけでは不十分ではないか?」
指導の様子を見ていたルーシャ・スコーフニルグ(eb0726)が声を掛けた。
「そうは言っても、練習のためだけに食べる以上の動物を狩るのはどうかと思うけど」
ローサがそう言って首をかしげた。
「ならば私が獲物となろう」
ルーシャはミミクリーの呪文を唱え始めた。魔法が発動するとルーシャは白いウサギに変化した。
彼は目で彼女達に合図を送ると飛び跳ねながら逃げ始めた。ルーシェは矢尻に布を巻いて傷つけないようにしてから、再び狙いを定め、矢を放った。
矢は見事ルーシェの左後足に当たった。子供達はそれを見てキィキィと甲高い歓声を上げた。
(「う‥‥やっぱり結構痛いな」)
ルーシャは少し後悔したが、我慢してしばらくの間子供達の練習に付き合った。
結果ゴブリン3匹は皆なんとかそれらしいものにはなった。特にクリムは才能があるらしく、上達の早さに皆驚いた。
コボルトのオリーブはなかなか当てることができなかった。
「‥‥仕方がない。いつまでも先に進めないのでは他の子が迷惑だろう」
王が冷たい口調で言った。弓の練習はこの辺でいったん中止にして、別のことをしようと。
オリーブは王の口調で何か怒られていると感じたようだった。それに気付いたのかそうでないのか、口調はそのままで最後に彼女はこう付け加えた。
「誰にでも得手不得手がある。彼も何か得意とするものがあるはずだ。それを生かせればいい」
というわけで午後からは植物の知識を教えることになった。
教えるのは主にセリア・ジャクレイヌ(eb0898)とファルス・ベネディクティン(ea4433)、ハニー・ゼリオン(eb0694)である。
「この草の実、これは毒があるので食べちゃだめよ」
セリアはそう言いながら手でダメのポーズをした。ハニーは持ってきた蜂蜜を子供達に分け与えながら、蜂蜜について教えようとした。
「蜂の巣があそこの木にできているのが見えるかな? 蜂はあそこに花の蜜を蓄えるんだよ」
「むきゅ?」
カルクスが首をかしげた。蜂の巣の周りでは蜜蜂がせわしなく飛び回っている。クリムこはなぜかまだ持っていた弓を蜂の巣に向けた。
「あ、こら‥‥!」
ファルスが止めようとする前に蜂の巣がボトリと枝から落ちた。
「‥‥‥‥‥‥」
全員が顔を見合わせた。巣から蜂の群れが沸きだし、こっちに向かってくる。
「みんな逃げろ!」
ファルスが言うまでも無く皆走り出した。蜂の群れを振り切れたのは、それから随分後のことだった。
ようやく小屋の前に戻ってきた冒険者と子供達は、夕食の支度を始めた。
狩や採集で得た材料でシチューを作ることになった。その合間にもルーシェやローサが子供達に山菜や肉の調理方法を教えた。
「そうそう、結構上手いじゃない」
ローサがオリーブを褒めた。彼は手先が器用らしく、ナイフで上手に木の実の皮を剥いていた。
王は特に何も言わなかったが、オリーブを見る目が以前より少し優しくなったのは気のせいだろうか。
さて次の日である。この日は昨日覚えたことを生かして実践しなくてはならない。どういうことかというと‥‥
「今日は皆で鬼ごっこをする! 俺達が食料を持って森の中を逃げるから、捕まえて食料を手に入れなければならない。捕まえられない場合は食事なしだ」
飛が子供達に言い放った。子供達はぽかんとした顔で聞いていた。
しかし飛が話し終わった後、冒険者達が保存食や昨日のシチューの残りが入った鍋などをまとめ出したのをみて、彼らが本気であることを悟った。
「がんばってくれ。まぁ今のお前達なら、捕まえられなくても飢え死にはしないはずだ」
ファルスがそういった後、飛がはじめの合図をした。冒険者達は何組かに分かれ、森の中に消えていった。
小屋の前にはアーセイルと子供達だけが残った。アズリーがアーセイルの顔を見た。
「ん? 確かに小生は予備の保存食をもっている。しかし今はお前達の味方をするわけにはいかない。わかっておくれ」
アーセイルは困ったような顔で微笑んだ。子供達は納得したのか、てけてけと森へ駆け出していった。
こうして二日間にわたる森での知識の伝授は終わった。人がモンスターの子供達に何かしてやれるのはここまでである。
ここから先に待っているのは彼らとの別れのみである。それでも彼らとそれに関わった者達の行く先を知りたい者のために続きを記そう。
今まで滞在していた森はパリのすぐ近くである。穏やかだが人目につきやすい場所だ。
アーセイルはもっと人里はなれた場所に行くべきだと言った。冒険者達は何日か歩き続け、人里からかなり離れた場所に来ていた。
深い森の中の小さな泉がある場所だった。
「ここでお前達とはお別れだ」
アーセイルが言い放った。子供達は何のことだか分からないといったようだった。あるいは冗談と思ったのかもしれない。
「じゃあ、元気でね」
「がんばれよ」
冒険者達は次々に別れの言葉を述べながら来た道を戻り始めた。
子供達もそれに続こうとしたが、セリアと王が立ちはだかって止めた。
「付いてきちゃダメよ。これからもう一歩でも人に近付いたら容赦なく魔法を放つわ」
そしてセリアは実際に稲妻を放った。稲妻は子供達の近くにあった岩に命中し、地面に衝撃は吸収されていった。
子供達は仰天して固まっていた。
オリーブはか弱い声で鳴いてアーセイルのほうを見た。アーセイルは厳しい表情で、もう一度お別れだと言った。
パリへ戻る道の途中、アーセイルは泣いていた。
彼らが子供達と過ごしたのはたったの数ヶ月、短い時間であった。
冒険者達もほとんどが暗い表情だった。彼らも子供達と過ごしたのはほんのわずかな時間だが、時間の長短など関係ない。
みな真剣に子供達のことを想い、接していたのである。
「王ちゃん、これからあの子達上手くやっていけるかな」
ルーシェが王に尋ねた。
「私達が生きる術は教えた。大丈夫だ」
「そうね、きっとたくましく生きてくれるわ」
ローサがそう、つぶやいた。