森へいらっしゃい

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月07日〜02月12日

リプレイ公開日:2005年02月14日

●オープニング

 冒険者ギルドに一人の青年がやってきた。名をジュリスタと言い、とある森の案内人という仕事をしている。
「私はまだこの仕事を始めて間がありません。突然死んだ父の跡をつい最近継いだばかりなのです」
「案内人とはどういう仕事なのですか?」
 受付係のギルド員はジュリスタに尋ねた。
「はい、森の地理をしっかりと記憶して、森を通る人に安全な道を案内します。森はモンスターなどの危険がたくさんある場所です。案内人というのは少しでも森を通る人たちの危険を減らすために生まれたそうです」
「なるほど、良いことですね。ところで今日はどのようなご用件で?」
 ギルド員が尋ねると、ジュリスタはやや難しそうな顔をした。

「実は‥‥私は皆さんにもっと森に親しんでもらいたいのです」
「はぁ、でも今さっき森は危険な場所だと‥‥」
「もちろん何の知識もない人にとっては森は危険な場所です。しかし冒険者の皆さんは森へ行くこともよくあるだろうし、深い知識を持っている方もいらっしゃると思います」
「うーん‥‥でも、親しむって言われてもどうすればいいのか分かりませんよ。それでは依頼になりません」
「何でもいいのです。動植物の研究をなさってる方はずっと観察してもいいし、体を鍛えるために森の中を走り回るのも良いでしょう」
 ジュリスタは危険な場所に行かないよう冒険者達に注意したり、何か分からないことがあったら分かる範囲で答えるとのことだ。
「お礼は出せませんが、気楽に来て頂けるとありがたいです」
 彼はそう言い残して冒険者ギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea4609 ロチュス・ファン・デルサリ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5283 カンター・フスク(25歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0732 ルルー・ティン(21歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0751 ルシール・ハーキンス(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

(「何たる失敗‥‥これではナンパなどろくに出来ないではないか‥‥」)
 大宗院 奈々(eb0916)と何人かの者は寒さに震えながら焚き火に当たっていた。
 ジュリスタの招待により森へやってきた冒険者達。今回は自由に一日過ごしていいとのことで、それぞれ自分のしたいことをするつもりだった。
 だが2月の森は予想以上に寒かった。防寒対策をしてこなかった者たちは森の入り口付近、ジュリスタの家の前の焚き火から動くことが出来ない。
 男性との出会いを期待していた大宗院は同じく焚き火に当たっている男がいないかと探したが、あいにく焚き火に当たっているのはクリミナ・ロッソ(ea1999)、クリス・ラインハルト(ea2004)、ルルー・ティン(eb0732)といった女性たちばかりである。
 ついでに言うとジュリスタもカンター・フスク(ea5283)に連れて行かれてしまったのでここにはいない。
「クリスさん、このままだと森で演奏は無理ではないでしょうか」
 ルルーが心配そうにクリスに話しかけた。箱入り娘的なお嬢様であるといえるルルーは冒険を甘く見ていた。
 今回も楽な仕事、と思っていたのだろうが最低限の準備は必要である。
「うーん、今はまだ午前中だからね。もう少し暖かくなったら何とかなるかもしれないよ」
 同じく焚き火に当たっているクリスはそう答えた。
 とりあえず、動けないものは仕方ない。クリミナは持ってきていた木の板に近くの草花などをスケッチすることにした。刺繍の参考にするらしい。

 一方森の中では、ジュリスタがカンターに森の中を案内させられていた。
 もちろん彼の仕事は案内人なのでこれはむしろうれしいことだ。張り切って仕事している様子である。
「カンターさん、この木の実は食べられそうですよ」
「おう、じゃあ採っておいてくれ」
「はーい」
 ‥‥上手く使われているようにも見えるが。
 二人は森の中で食料になりそうな野草や木の実を探していた。一応カンターは冒険者達の分以上の弁当を持ってきているのだが、井伊 貴政(ea8384)が料理を作るらしいので、何か材料になるものがあれば採っておくことにしていた。
 井伊はというと、森の前のあたり、焚き火組の近くにかまどを作って料理の下ごしらえをしていた。
 それ以外の者達、ロチュス・ファン・デルサリ(ea4609)とルシール・ハーキンス(eb0751)はそれぞれ散歩やトレーニングをして思い思いに過ごしている。
「1、2、3、4‥‥」
 ルシールが数えながら腕立て伏せをしている。ロチュスは歩くのをやめてトレーニングを続ける彼女をほほえましく眺めていた。
「ふふ、元気ですわね」
「はい! いずれ神聖騎士にふさわしい装備をするために、体を鍛えておく必要があるのです」
 ルシールが腹筋をしながら答える。今の彼女の装備は皮鎧と棍棒のようだ。
「目標があるのは良いことです。がんばって下さいね」
 ロチュスとルシールがそのような話をしているうちに、昼食の時間になった。

「いただきまーす」
 井伊の作った料理とカンターの弁当が並ぶ。どちらも大変美味であった。
「大宗院さん、スープ美味しいですか?」
 井伊が食事中の大宗院に話しかける。
「うん? ああ、うまい」
「それは良かったです」
 そう言って井伊はほっとした表情を見せた。大宗院は今こそナンパするチャンスだと感じた。
「どうだ、せっかくだから後で‥‥」
 と彼女が言いかけたとき、
「クリスさん、もう少しスープ飲みますか?」
 井伊はクリスのほうへ行ってしまった。どうやら午前中に焚き火の周りにいた者たちを心配して、声をかけて回っているらしい。
「ふ‥‥あたしの腕もまだまだ、ということか」
 大宗院が独り言を言った。本当は今回ナンパのチャンスがほとんど無かっただけなのだが。

 さて食事も終えて体が温まってきたところで、ルルーがジュリスタにたずねた。
「小鳥が囀り、木漏れ日が指す場所はありませんか。できれば、雪などがのこっている小春を感じさせる場所が宜しいですわ」
「それならぴったりの場所があります」
 ジュリスタは森の中、目的の場所まで冒険者達を案内した。
 そこは木々が茂る森の中で比較的日が射している場所であった。日のあたらない場所には雪がまだ残っている。ウサギだろうか、雪には小動物の足跡がいくつか付いていた。
 そんな森の中でクリスが楽器を奏で、ルルーが歌った。森にはそれぞれの森の顔というものがあるはずだが、ルルーの歌う歌はまさにこの森にふさわしく感じた。
「ねぇ、あれ」
 小さな声でルシールがクリミナに声をかけた。クリミナは何事かと振り返って驚いた。
 いつの間にか森の中のウサギやリスたちがこの場所に集まってきていた。皆木の根元や枝に隠れながら演奏を聴いている。
 クリスは気がついたみたいであったが、ルルーは自分の歌に聞きほれていて気付いていないようだった。
 演奏が終わると、小動物たちは何処かへ去っていった。
「不思議なこともあるものですね」
 クリミナは感慨深くつぶやいた。しかし、
「いや、彼女の歌が単にやかましかっただけかもしれないぞ」
 とカンターは述べた。

 演奏は終わったが、冒険者達とジュリスタは不思議な音が聞こえることに気がついた。
 よく聞くとそれは水が流れる音だった。
「この辺に川でもあるのでしょうか?」
 クリミナが辺りを見回していった。
「はい、確かにあります。ですが今の時期は凍っているはずです」
「行って見ましょう」
 ロチュスの提案により、冒険者達は川へ向かった。
 川は凍っていたが、完全なものではなく、一部水が流れているところがあった。
「今日は天気がいいから氷がわずかに解けたようですね」
 ジュリスタが言った。まるで一足早く春が来たようだ。
「あら、ウサギですわ」
 ルルーが流れのほとりに一羽の白いウサギがいるのに気がついた。ウサギは水で、前足を冷やしているように見える。
「あのウサギ、怪我をしているみたい‥‥」
 クリミナに言われてよく見ると、確かに前足を怪我している。何かにぶつかったのであろうか。
 するとクリミナは呪文の詠唱を始めた。気がついたウサギは冒険者達の前から逃げようしたが、走り出そうとしてすぐに動きが止まった。コアギュレイトの呪文である。
「ごめんなさい。少し、じっとしていて下さいね」
 そう言って彼女は川を渡り、ウサギの元までやってきた。そしてウサギの前足に触れながらリカバーの呪文を使った。
「これで大丈夫ですよ」
 怪我の治ったウサギは冒険者達のもとを去った。
「なんと優しい方でしょう。私も見習わなくては!」
 クリミナの行いにルシールは感動したようだった。ルシールの言葉をきいて彼女は少し恥ずかしそうに笑った。

「では、わたくし達はこれで失礼いたしますね」
 夕方が近づく頃、冒険者達は森を離れることとなった。ロチュスがジュリスタに別れの挨拶をする。
「今日は森に来ていただき、ありがとうございました。また良かったらいつでも来てください」
 ジュリスタは笑顔で言った。彼がいる森はいつもは静かだが、冒険者達が来たことでまた違った表情を見たような気がした。
「‥‥もっと、この森について知る必要があるようです」
 冒険者達の去った森の前で、一人ジュリスタがつぶやいた。