老騎士の腕輪
|
■ショートシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月28日〜08月02日
リプレイ公開日:2004年07月30日
|
●オープニング
「ここは‥‥どこ?」
少女は暗い路地裏にいた。両親に連れられてはじめて来た大きな町。右も左も同じような建物、人ごみが続いているように見える。
「そこのお嬢さん、この通りは危ない。こちらに」
振り返るとそこには身なりの整った初老の男がいた、少女は他になすすべもなく、彼のいる方へやってきた。
「見たところ、この町の者ではないようですが、迷子ですか」
「ええ。お父さまが、教会で働いているおじさまに挨拶に来たの」
「では教会まで案内しましょう」
やがて道に光がさすようになり、人ごみがますます激しくなっていった。気がつくと少女と男は町の教会の目の前に立っていた。
「ありがとうございます」
少女は母に教えられたとおりの礼をいった、男はいいえ、といって笑った。
「騎士として女性に対して当然のことをしたまでです」
「‥‥今にして思えば彼の住んでいる場所など、いろいろ聞いておけばよかったのにと思います。ですがそのときは早く両親に会いたい一心で、すぐに別れてしまいました。その後、あの町に何度か行く機会がありましたが、彼に再会することはありませんでした」
今、冒険者ギルドで冒険者たち相手に話をしているのは一人の美しい女性‥‥大きくなったあの少女であった。
「お願いします、彼が今どこにいるか調べてください。会ってお礼を言いたいのです」
彼女、サラが言うには、男は騎士と名乗り、それにふさわしい身なりをしていたという。町の地理をよく知っていたことから、おそらく彼女が出会った町かその近くに住んでいたと考えられる。
また彼女は彼の特徴として、左手に腕輪をしていたことを挙げた。
「とてもきれいな腕輪でした。銀色をしていて、小さな宝石が輝いていました。今となってもあれと同じくらい美しい装飾品は二、三見たことがあるかどうか」
だが、身に着けていたのは初老の男性である。
「私もそれは気になりました。もしかしたらあの腕輪は、何か特別な思い入れがあって着けていたのかもしれません」
最後に彼女はよろしくお願いします、と冒険者たちに言ったのであった。
●リプレイ本文
その町は昔とほとんど変わっていないように見えた。だがパリなどのより大きい町にも行くようになった今、サラは昔ほどこの町を都会に感じることはなかった。変わったのは町ではなくサラだった。
サラがふと気がつくと、なにやら酒場の前に人ごみができている。アリア・エトューリア(ea3012)が店の前で楽器を演奏していたのだ。
「いいぞー、お嬢ちゃん、もっと演奏してくれ」
彼女の演奏はとても上手なので、しばしば観客たちからこんな声が上がった。本当は町の人に聞き込みするため、人を集めようと思って始めたのだが、なかなかやめるタイミングが見つからない。
そんなうちに酒場から人相の悪い、いかにもチンピラといった感じの男が出てきた。男はアリアが店の前で演奏しているのが気に食わないらしい。
「なぁお嬢ちゃん、勝手に店の前で演奏されるとうちも困るんだよねぇ」
「なに言ってるのよ、あんたの店じゃないでしょうに」
チンピラに反発したのはミリランシェル・ガブリエル(ea1782)であった。普段はお嬢様口調の彼女だが、このときは素の口調に戻っていた。つまり、やる気満々である。
「まぁ、まて。こんな町中で暴れても迷惑になるだけだ。戦うときはもっと時と場所を考え、相手の隙を突くべき」
そう言ってミリランシェルを止めたのは我羅 斑鮫(ea4266)。彼の右手にはクナイが怪しく光っていた。
「ち、おぼえてろよ!」
チンピラは捨て台詞を吐いて彼らの元を去った。酒場の主人はこの様子を見て大層喜んだ。
「ありがとう。奴ら、最近うちの店に入り浸っていてね。怖がって他のお客が来なくなってしまってたんだ。今日は楽器を演奏してくれた彼女のおかげでお客もたくさん来たし、何かお礼にごちそうしたい」
「ありがとうございます。所で、私たちこの近くに住んでいるある老騎士を探しているのですが、何か知りませんか?」
セシリア・カータ(ea1643)が尋ねると、酒場の主人は首をかしげた。
「騎士と言われても、この町の近くに住んでいる騎士は何人かいるからなぁ。町に来ることもあるが、誰が探している人かは分からないな」
その後も彼らは老騎士についての手がかりを探したが、はっきりとした手ごたえは感じられなかった。
日が暮れてから、他の仲間達と教会に集まり、それぞれ得られた情報を交換した。
「サラ、老人がつけていた腕輪について詳しく教えてほしい。形やどんな色の宝石がついていたとか」
ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)が彼女に尋ねると、サラは大体こんな形だった‥‥という図を描いて見せた。
あっさりとした装飾の銀の腕輪で、中央に深い青色の宝石がはまっているという物だった。
「じゃあ、明日はこれを宝石商の人に見せて何か知っていないか聞いてみるわ」
「私は騎士の方を訪ねて心当たりがないか聞いて見ます」
ミレーヌ・ルミナール(ea1646)やセシリアらは明日の予定を決めて宿へと向かった。サラは叔父の家、この教会に泊まることになっていたので、一旦彼らと別れることになった。
次の日、セシリアとシャクリローゼ・ライラ(ea2762)はこの町の近くに住んでいる騎士の家を訪れた。
「老騎士ってどんなおじさまなのでしょう。なんだかどきどきしますわ」
ロマンスグレーにあこがれるローゼは探し人の老騎士に興味があるようだ。
訪ねた騎士はまだ若かったが、彼は幼いころ訓練のためにこの近くに住んでいるハスウェン卿という騎士の家に預けられたのだといった。
「しばらく会っていませんが、おそらく50代後半位だと思います。今はもう騎士として活動していないかもしれませんが」
二人はハスウェン卿の住んでいる場所を教えてもらうと、一旦町に戻ることにした。
「まだ探している人物か分かりませんが、会って見れば何か手がかりが分かるかもしれませんね」
セシリアは卿が探している老騎士と同年代であることから、何か知っているだろうと考えていた。
一方ミレーヌとミカエラ・ガーランド(ea2024)は町の宝石商を訪れていた。
「こんな感じの腕輪をつけた老紳士を探しているの。何か心当たりはありません?」
ミカエラはあえて『騎士』とは言わずに宝石商に腕輪の図を見せた。彼が本当の騎士でなかった場合、変な先入観をもたれるとかえって探しづらいと考えたからだ。
宝石商は腕輪の図を見たとたん、一瞬驚き、次にひどく懐かしそうな顔をした。
「おお、これは私の父がある騎士様へ売った腕輪に似ている。はっきりとは覚えていないが、確か騎士様の娘の誕生日祝いだったそうだ」
「どこに住んでいる方か分かります?ある方がその騎士様に会いたがっているかもしれないの」
ミレーヌが尋ねると、宝石商は古い帳簿を見返してみれば分かるかもしれない、と言って店の奥へと入っていった。
昨日より早く、昼過ぎに一行は教会に戻ってきた。話し合った結果、どうやらサラの探している騎士はハスウェン卿で間違いなさそうだ、ということになった。
「今からみんなでハスウェン卿の家に行って、サラ様に会ってもらえるよう頼んでみましょう」
アリアの提案で、一行はサラを連れて郊外にある卿の屋敷へと向かった。
町を出たところで、突然彼らの乗った馬車を数人の男たちが取り囲んだ。そのうちひとりの顔には見覚えがあった。
「お前ら、昨日はよくもこの俺を馬鹿にしてくれたな!覚悟しろよ」
酒場の前で会ったチンピラである。ただし今回は子分らしき男を数人連れている。
「何事かと思えば。ひとりでは何もできない臆病者が、数に任せていい気になっているだけか」
我羅は複数の敵に囲まれても決して冷静さを失わなかった。他の仲間、ミリランシェルやファイゼルもすでに応戦できるよう武器を構えている。
だがこの緊張はある者によって突然解かれた。
「待ちたまえ、諸君。何があったのか分からないが、武器を収めなさい」
声の主は身なりのよい老人であった。ローゼが振り向くと、杖をついた老人がこちらに歩いてくる所だった。
「貴婦人の前でそのような物騒な物を振り回すのは、騎士として見逃すわけにはいかないですな」
「おや、ハスウェン卿ではありませんか‥‥これは失礼しました。じゃ、私はこれで」
チンピラは老人を見るや、あわてて子分たちの頭を押して無理やり謝らせながら、町のほうへ逃げていった。
後にはサラと冒険者たちが残されたが、老人は相変わらず気難しい顔をしている。
「あら、いやですわ。私ったらこんな物騒な物持って。おほほ」
いきなりミリランシェルがお嬢様口調になりフレイルを後ろに隠した。他の者たちもようやく事情を理解して武器を収めた。
「そうか、あなたがあの時のお嬢さんでしたか。いや、お美しくなられました」
あの後、ハスウェン卿に今までのことを全て説明したところ、やはり以前サラを助けた騎士は彼であることが分かった。
現在55歳。現役の騎士ではなく、最近は若い騎士に訓練をつけて生活しているという。杖をついてはいるが一般の人からすれば十分しっかりとした足腰をしている。だが顔のしわや髪に混じった白髪がまぎれもない年齢を感じさせた。
「それが、例の腕輪か」
ファイゼルが老人の左腕にはめられた銀の腕輪を見て言った。深い青色の宝石が、以前と変わらぬ輝きを放っている。それに気づいたのはサラだけであった。
「でも、宝石商の人は腕輪は娘さんに買った物だって言ってたけど‥‥」
ミカエラがおそるおそる尋ねると、老人は少し悲しそうな顔をして笑った。
「その通りです。ですが娘は10歳のとき病気で亡くなりました。今でも生きていれば、丁度サラさん位になっていたでしょう」
「そうでしたの‥‥なんて悲しいことでしょう」
ローゼが老人に同情するように言った。ただ照れているのか、馬車の陰に隠れていた。
「ええ、ですがこの腕輪があれば、娘が見守ってくれるような気がしまして。こうしてずっとはめているのです。そして、娘と同じくらい、他の女性に親切に出来ればいいと。おかげでサラさんとも出会えました」
色々あったがサラは老人に再会することができた。もちろん以前のお礼も忘れずに言ったという。
「よかったね、サラさん、老騎士に再会することができて」
帰り道、ミレーヌがサラに向かって囁いた。サラは小さな声で「はい」とだけ答えた。その顔には何年も果たせなかった目的を遂げた充実感があった。
「さー、依頼も達成できたことだし、今夜は皆で宴会しましょう!」
「それはいいですわね」
ミカエラの提案にミリランシェルも乗り気だ。
「くれぐれも酒場で暴れるなんてことがないようにな」
ファイゼルが釘をさすと、ミリランシェルは不機嫌そうな顔をした。それを見てローゼやアリアたちはあわてて話題をそらしたりする。
やがて日も暮れ、空には星がひとつ、ふたつと現れ始める。
だが一行は星より美しく輝く宝石をがあることを知っているのであった。