バレンタインの試練

■ショートシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月17日〜02月22日

リプレイ公開日:2005年02月24日

●オープニング

 冒険者ギルドに二人組の男がやってきた。一人はいかにも育ちが良さそうな少年。もう一人は東洋系の服装と顔立ちをした青年である。
「へぇ、ここが冒険者ギルドかぁ」
 少年は珍しそうに辺りを見回している。
「ルーシャス様、あちらが受付のようです」
 青年が言った。どうやら彼は少年の護衛か何からしい。
「あ、どうもはじめまして」
 少年が受付係に挨拶した。彼はルーシャスと言い、イギリスから来た貿易商人の次男坊で、パリからさほど離れていないある町に住んでいる。護衛は安藤と言う。
「僕の家では毎年この時期にバレンタインパーティを開くんです。今年から僕がパーティの準備を任されることになりました」
 せっかくなのでただのパーティではなく、変わった趣向を取り入れようと彼は考えたのだ。

 バレンタインの風習としてバレンタインパートナーを選ぶというものがある。村でのお祭りやパーティーで、くじやゲームをしてパートナーを選ぶのだ。このパートナーは老若男女関係なく、本当の恋人でなくても構わない。
 祭りのゲームや催し物には、このパートナーで参加し楽しむ。また1年の間、このバレンタインパートナーと仲良くすると、いいことがあると言われている。

「パーティではこのパートナーをくじ引きで選んでいただきます。そして二人一組で簡単なゲームをして競い合うのですが、こちらも参加者から募集したいと思うのです」
「ゲーム、ですか?」
 受付係が尋ねた。
「はい、簡単な謎解きや壊れやすい物を持って走るとか、まぁパーティを盛り上げるための余興です」
 条件としては怪我人が出ないようにすること、準備に時間がかからないことなどだろうか。難易度があまりにも高いと場が盛り下がるので考え物だが。
「冒険者の方達なら、他の人とはまた違った個性的なゲームを思いつくんじゃないかと思いまして、招待したいのです」
 もちろん招待するというからには純粋にパーティを楽しんでほしいとも言う。
「‥‥ルーシャス様、そろそろ失礼した方がよろしいのでは?」
 安藤が受付に人が並んでいるのを見て心配そうに声を掛けた。
「えー、もっと受付のお姉さんとお話していたいけど‥‥じゃあ、よろしくお願いしますね」
 ルーシャスはあくまでマイペースである。安藤はため息をついた。

●今回の参加者

 ea7383 フォボス・ギドー(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb0828 ディグニス・ヘリオドール(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1118 キルト・マーガッヅ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 その日、ルーシャスの家ではバレンタインのパーティを開くための準備が着々と進められていた。
 招待された冒険者達がやってきたのはそんな頃。
「バレンタインのパートナーか。この国には面白い風習があるものだ」
 とは、大宗院 奈々(eb0916)の言葉である。そしてナンパ好きの彼女は願わくばこのパーティでいい男に出会えることを期待していた。
「奈々さんですね。はい、番号札をどうぞ」
 受付係をしていたルーシャスが2と書かれた木の板を大宗院に手渡した。
 やがて他の客達も到着し始め、次々に木の板を受け取ってゆく。客の多くはルーシャスの父の知り合い、商人が多いようだ。
「いよいよ抽選だな」
 フォボス・ギドー(ea7383)が庭の一角を見ながら言った。ルーシャスの父が手短に挨拶した後、いよいよパートナーの選出が始まった。
 ルーシャスが袋に入った番号札を取り出して、順に読み上げていった。
「いい男、いい男に当たるように‥‥」
 大宗院がブツブツと願をかけている。はたから見ると呪っているようにしか見えない。
「次は‥‥2番と‥‥おっと3番です!」
「え」
 大宗院はぽかんとした顔でルーシャスを見た。3といえば一緒に来た冒険者のキルト・マーガッヅ(eb1118)である。
 いい男どころか同性である。大宗院はがっくりと肩を落とした。
 しかし、少々天然なところがあるキルトは大宗院が落ち込んでいるにもかかわらず、
「あら、知っている方がパートナーで安心しましたわ。一緒に楽しみましょう」
 と微笑みながら言った。
 そうこうしているうちに、全ての客が組み分けされていった。フォボスはのパートナーは、どういうわけかルーシャスであった。
「よろしくお願いしまーす」
「ああ、よろしく‥‥というか、貴殿も参加するのか?」
「だってせっかくのパーティですもの。僕も楽しみたいです」
 ルーシャスは屈託の無い笑顔で答えた。その後ろに使用人たちに指示を与えているルーシャスの護衛、安藤の姿が見えた。
 安藤はフォボスと目が会うと苦笑いをした。
「すいません、ルーシャス様をよろしくお願いします」
 どうやらフォボスは子守係にされたようだ。

「一つ目のゲームは言葉当てゲームです」
 これはフォボスの提案したものが元となっている。二組が対戦する形式で行う。
 大宗院とキルトは商人らしい男女二人と対戦することになった。
「私達が後攻のようですわよ‥‥大宗院さん?」
 キルトが振り向くと、若い男と親しそうに話している大宗院が見えた。
「大宗院さん!」
「おっと、失礼。で、どんなゲームだったかな?」
 眉を吊り上げながらキルトが説明した。先攻は後攻の組に回答となる「言葉」を見せる(読めない場合は耳打ちする)。
 ただし言葉が見れるのは一人だけである。言葉を見たものはパートナーにヒントを出して時間内にパートナーに回答させなければならないのだ。
「では、はじめ!」
 ルーシャスが水時計に水を注いだ。水が全て落ちるまでに回答しなければならない。
 大宗院が先攻の組から回答を提示された。
「‥‥えーと、戦うことだ! 一対一で、というのが普通だろうか」
 大宗院がキルトにヒントを出す。
「ケンカですか?」
「すこし違う! 申し込んで行われるものだ」
「ああ、果たし合いですね」
「おしい!」
 と、ここで時間切れとなった。答えは「決闘」であった。
 その後、先攻と後攻を入れ替えて同じ事を繰り返す。相手の組も苦戦しており、答えられなかった。
 2巡目、相手の組が時間内に正解を出した。ここで勝負は終了となった。
「残念だったな」
 大宗院がキルトに言った。
「ええ、でもとても面白かったですわ」
 キルトにとって、冒険者となってからはじめて招待されたパーティである。彼女なりに楽しんでいるようだ。

 次のゲームは袋の中に入ったアイテムを当てるゲームである。フォボスとルーシャスも参加するので、安藤が司会を行っている。
 アイテムは見ることは出来ないが、袋の中に手を入れて触ったり、においを嗅いでも良いことになっている。
「では、始めてください」
 フォボスたちの番がやってきた。ルーシャスが袋の中の物を触って難しそうな顔をしている。
「なんだろう? 草みたいですか‥‥」
「貴殿が用意したのではないのか?」
 フォボスがため息をつきながら言った。
「そんな事言われても、たくさんの品物を用意したからどれがどれかなんで分かりませんよう」
 ルーシャスがむっとした顔で反論した。
 仕方なくフォボスがにおいを嗅いでみた。何処かで嗅いだことのあるにおいである。
「どこだ‥‥?」
 フォボスが記憶をめぐらせていると、脳裏に馬小屋の場面が浮かんできた。
「わかった! これは馬のエサだ」
「正解です」
 安藤がそう言って袋を開けた。中には乾燥させた牧草が入っていた。
「すごいですねー、フォボスさん」
 ルーシャスが感心したように言った。
「なに、騎士として馬に関することなら分かって当然だ」
 フォボスは得意げにそう答えたが、結局全部で三回ほどゲームを行って、答えられたのはこの一問のみであった。

 その後もいくつかのゲームが行われ、フォボスたちや、大宗院、キルトらも挑戦した。
「ではこれでゲームは終了です」
 しばらくしてルーシャスが皆に言った。そしてもっとも活躍した組の表彰が行われた。
 それはなんと大宗院とキルトの組であった。二人は言葉当てゲームの後のほとんどのゲームで高い成績を収めていたのである。
「お二人とも、おめでとうございます」
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます」
 大宗院は少々照れている様子である。一方キルトは素直に喜んでいた。別に何か賞品が出るわけではなく、ルーシャスが手作りしたらしい花の冠を載せてもらうだけである。それでも名誉なことには違いない。
 表彰が終わるとあとは自由にパーティを楽しむことになった。

 パーティも終盤に近づいてきた。美しい音楽が奏でられ、人々はダンスを踊ったり料理を味わっている。
「キルトさん、良かったら一緒に踊りませんか?」
「あら、うれしいです。こう見えても私、小さい頃からダンスを嗜んできましたのよ」
 ルーシャスの誘いを受け、キルトは音楽に合わせ踊り始めた。
 大宗院とフォボスは料理を食べながら踊っている二人を眺めていた。
「今回も素敵な殿方に出会えなかったな‥‥中々上手くいかないものだ」
 そう言って大宗院は苦笑いした。
「なぁに、バレンタインといってもただの祭りのひとつだ。別にここで無理に出会う必要は無いと思うが」
 フォボスが大宗院に言った。
「‥‥そうだな。せっかくの祭りだ、楽しまないとな!」
 大宗院はそう言って笑った。
 どうやらパーティは成功だったようだ、客達の様子を見て安藤はほっと胸をなでおろした。